『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

半夏生・22

「三木くん、お疲れ。今日はもう落ち着いたみたいだから。ありがとう、助かったよ」

「そう?」

店内の客も疎らになった。

「うん」

圭介くんはカウンターの客に飲ませてもらってほろ酔いだ。目元に朱を刷いたように赤くしてこちらを見ているが、相当色っぽい。

「大丈夫?飲み過ぎないでよ?」

「大丈夫。俺、店にベッド持ってるし」

「ああ、そうだったね」

俺は事務所の隅にドーンと置いてある彼のベッドを思い出しながら笑った。

「ははっ」

彼がここにオトコを引っ張り込んでいる事は皆が知っているが、信吾さんが何も言わないから誰も何も言わない。

「あれ、便利なんだよ。飲み過ぎて部屋に帰れない時なんか、そのまま泊れるし」

「そうだね。信吾さんも《銀香》の事務所を家みたいにしてるしね」

「あれは本格的過ぎる」

「あははっ」

「三木くんこそ、大丈夫なの?」

圭介くんは楽しそうに聞いた。

「俺?」

「うん。さっきの客」

圭介くんの意味深な視線が彼らが座っていた席で止まる。


 宮嶋と禅堂は、シャンパンを一本飲んで帰った。近い席の接客の時には彼らの会話が耳に入った。彼らは特に盛り上がる事もなく、静かにグラスを傾けていた。

社長と社員か、それとも「恋人同士」なのか。

彼らが恋人同士であったとしても、俺には関係ない。と、しか言えないよな。俺はすでに結婚して子どもも生まれた。宮嶋との関係は終わったのだ。勝手に出て行った宮嶋はそれに文句を言う筋合いもなく、俺も同じだ。

彼と禅堂の関係にとやかく言わない、言えない。


「ああ、彼らね。若い方の彼は学生の時の知り合いだったんだ」

「ふうん。同業者だっただろ?」

なかなか鋭い圭介くんは、俺に嘘は許さない。

「ああ」

隠す必要もないしね。そう思って、俺は禅堂と宮嶋の名刺をポケットから取り出した。圭介くんは名刺を手に取り、クルリと回した。銀色の文字がくるくると回って軌跡を描く。

「へえ・・・こういう色物の名刺もいいね。うちのって、超シンプルだもんね」

「まあ、そうだけど。あれで良いんじゃないの?こういうの目立つけど、俺は好きじゃない」

この名刺が宮嶋を導いたのだ。あの時、宮嶋が禅堂と知り合わなかったら、俺と宮嶋はどうなっていただろうか?

「・・・」

圭介くんは、俺をジッと見つめる。トロンとした瞳が聞きたがっていた。

「なに?」

「珍しいね。はい」

圭介くんは人差し指と中指で名刺を挟んで俺に寄越した。

「そう?何が珍しいの?」

「だってさ、三木くんって貪欲だろ?」

「そうかな?」

「うん。向学心に燃えてるっていうか、何でも吸収してやろうって気持ちが強いよね」

「そう、だね・・・うん」

「こういうの、すぐに食い付くかと思った」

「そうかな?」

「うん。俺も綺麗なブルーで名刺作ろうかな?それともブラック、かな?」

「うーん。圭介くんなら深いブルーがいいかもね」

「それ、俺のイメージ?」

「ああ」

「じゃ、そうする」

「・・・うん」

圭介くんの指がすっと伸びてきて、俺の頬に触れた。

「ふふっ。お疲れさまでした。ありがとうございました」

彼の冷たい指先は、俺に冷静になる時間をくれる。

「じゃあ、お先に」

「奥さんによろしくね」

「ああ、ありがとう」


 《SUZAKU》を出たのは23時だった。車を取りに《銀香》まで戻る。ロータリーを抜け、駅前通りを歩きながら熱気の去らない歩道を恨めしく踏みしめる。

 宮嶋は変わらない笑顔だった。以前よりも、表情が明るくなった。以前よりも大人しめの髪色、髪型。節約の為にカットモデルをしていた宮嶋は、派手な髪色をしていたっけ。月日が彼を大人にしていた。美しい顔立ちは、更にシャープになったような気がした。

携帯電話を持っていなかった宮嶋。持っていなかったスーツ、洒落たネクタイ。

俺が彼に与えられなかった全てを、禅堂は与えられたのだ。専門学校に行く為に金を貯めると瞳を輝かせていた宮嶋は、禅堂の元で働いていたのだろうか。

 過去の宮嶋を思い出して、俺は目を瞑った。ギュッと瞼を強く塞いで、俺はあの頃の宮嶋周を鮮明に思い出す。すると、深い所に置いていた記憶が浮上してくる。

他の男が付けた赤い痕と、甘い声を上げて喘ぐ宮嶋の白い喉元を思い出した俺は、沈ませていた感情が湧き上がるのを感じた。


 翌日、仕事は手に付かずミスが多かった。圭介くんが『ZENパークコーポレーション』の名刺の件を信吾さんに報告したかはわからない。

「三木くん、お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」

スーツに着替えて帰る俺を見た信吾さんは、少し驚いたような顔だ。

「スーツ?」

「ええ、知り合いと飯を食うんで。車は置いて帰ります」

「へえ。愛妻家の三木くんが珍しいね」

仕事で《白夜》や《SUZAKU》に行って飲む事はあっても、個人的に飲みに行く事は滅多にないからな。

「大学時代の友人なんです」

「そう。楽しんできてね」

「ありがとうございます」

笑顔で見送ってくれる信吾さんに笑顔を返して、俺は重い足を前に運ぶ。

 
 宮嶋と禅堂に指定された寿司屋は、下町の古い家屋を改修して造られている。看板もなく、一般的な「寿司屋」の造りではない。知る人ぞ知る「隠れ家」という雰囲気だ。

「三木くん!」

案内された部屋の襖が開くと、宮嶋が満面の笑みで俺を迎えた。

「こんばんは」

「こんばんは、来てくれてありがとう」

「ああ。一人?」

「僕だけだよ」

禅堂が来ないなら気負ってスーツを着る必要はなかったな。年上だからスーツが適当だと思ったのだ。

「そうなんだ」

「なに?禅堂社長に興味があるの?」

「いや、別に。昨日の感じでは彼も一緒かなと思ったんだ」

「社長が2人で話しなさい、ってさ」

「そう」

今更、何を話すのだろう。過去へは戻れないというのに。

「失礼します」

中年の仲居さんが襖を開けた。

「いらっしゃいませ。お料理をお持ちしてもよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「お飲み物はいかが致しますか?」

宮嶋は俺の顔を覗き込むようにして聞いた。

「三木くんは?」

「じゃあ、お勧めの日本酒を」

「それでお願いします」

「はい、かしこまりました」

仲居さんは本日のお品書きを置くと出て行った。

「この店のご主人は、以前は銀座に店を出していたんだ」

「そう」

「店は弟子に譲って、自宅を改装してこの店を出してるんだよ。完全予約制なんだ。全てお任せするのが一番なんだよね」

「ふうん」

「その時期の一番美味い物と酒が出てくる」

「へえ」

部屋の設えはシンプルだが、客に料理に集中して欲しいという心意気が伝わってくる。

「俺も勉強不足だな。この店は知らなかったよ」

『S-five』は今後、2年のうちに3店舗を出店予定だ。都内の飲食店を全て回れるわけではないが、俺たちは評判の良い店を手分けして回り報告しあっている。俺たちのリストに、この店はない。

「そう?美味しいんだよ。三木くんもきっと気に入ると思う」

「そうか」

「うん」

満足そうな宮嶋を見ながら、俺は彼の真意を計りかねている。彼はどうして俺の前に現れたのだろうか。

*****

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