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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋文・48

 門を閉める国府田さんを残して僕はガレージを目指した。上り坂で停まったらそのまま後ろに下がってしまうのではないか、と思ってドキドキしながらアクセルを踏む。

だが一人で駅まで行って帰ってこられたというだけで、僕の満足感は膨らんでいく。

玄関の前で洋子さんが大きく手を振っている。洋子さんは「文ちゃん!」と、僕を呼びながら近付いてきた。窓を開けると「良かったわ!」とホッとしたように微笑んだ。

「洋子さん!」

「まあ、まあ!無事で良かったわ!お帰りなさい」

「ただいま。ちゃんと帰って来られました」

「ええ。実はね、怜二坊ちゃんから電話があったのよ。短い距離でいいから、文ちゃんが慣れた道を毎日運転した方がいい、とおっしゃったの」

「そうだったんですね」

「怜二坊ちゃんは、信吾坊っちゃんが危ないとおっしゃっても無視して運転しておられたのよ」

「へえ」

「自信が付いたら遠出させてください、とおっしゃっていたわ。さあ、車を置いてらっしゃい」

「はい」

怜二くんの後押しがあったのか。急に「駅まで車で送れ」と言ったわけがわかって腑に落ちた。慎重にバックで車をガレージに入れ、シャッターを閉めて僕の大冒険は終わった。

また一つステップを上がれたような気がして嬉しかった。

 ポケットの中のスマホが震えだした。スマホを見ると、瀬尾さんの名前が光る。

「はい」

『瀬尾です。無事に着きましたか?』

「はい、おかげさまで」

『良かった!これで安心して電車に乗れます』

「えっ?もしかしてまだ駅なんですか?」

スピーカーの向こうからププッとクラクションの音が聞こえた。

『じゃあ、明日』

プッと切れた通話。車を降りてすぐに電車に乗ったと思っていたのに、僕がここに着く時間を見計らって電話をくれた、って事なのかな。

「明日、駅まで迎えに行こうかな?」

怜二くんの言うように、瀬尾さんが来る日は僕が駅まで送迎すればいいんだ。

「うん。そうしよう」

まだ慣れないから交通量の多い道は自信がないけれど、駅までなら平気だ。明日は9時30分にロータリーで待機していよう。


 お夕飯の時の話題は僕の初運転の話しが中心だった。「明日から瀬尾先生を迎えに行きます」と言うと、奥さまがお喜びになった。

「文ちゃんが瀬尾さんの事を気に入らないんじゃないか、と信ちゃんから電話をもらった時はどうなるかと思ったけれど、良かったわ」

迎えに行って思いっきり怖がらせてやろう。なんて、僕は意地の悪い事を考えているのだけれど。ジェットコースター並みに怖かったらしいからね。

「怜二くんの言うとおりに、毎日運転します」

「そうね。私も免許は持っているけれど、ただの身分証明証でしかないのよ。文ちゃんはちゃんと乗れるようになってね?」

「はい。信吾さんの家にも遊びに行きましょうね?」

「ええ。お願いね」

「はい」

養護施設での生活、《SWAN》での生活、河野組での生活、加々見家での生活。

そして、今。

漸く手に入れた「自由」も堅苦しいと感じていたけれど、僕は"自由"なのだ。自分自身で立つ為には、まだ足りないものがある。それを一つ一つ埋めていくには時間が掛かるのだ。

焦ってはいけない。

出来る事から少しずつ、だ。滝山家の人々が見せてくれた世界があって、恭悟が見せてくれた世界がある。そして瀬尾さんが見せてくれる世界がある。僕の再生には多くの人の助けが必要なのだ。


 9時20分にガレージから車を出し、瀬尾さんを迎えに駅まで。今日も国府田さんに見送られて出発した。

昨日よりも今日は余裕がある。黒い犬たちがいつものように門の辺りでウロウロしているのが見えたし、甲高く吠える犬は窓を閉めていても聞こえるくらいに吠えていた。

昨日とは違う景色が見えてくる。スウッと過ぎ去っていく景色が違って見える。もうすぐ恭悟のマンションの前だ。

恭悟が出て来ないかなと思いながらゆっくりとマンションの前を通り過ぎ、恭悟の姿が見当たらない事に少々ガッカリした。

昨日のうちに「車で初めて駅まで行ったよ」とメッセージを送った。恭悟からは「大丈夫だったか」と返事が来た。今日も駅まで行くと知らせておけば良かったな。

 ゆっくりと駅に進入し、改札口の近くでウィンカーを上げて瀬尾さんを待つ。しばらくすると駅舎から出てくる人が増えた。助手席の方に身体を伸ばして瀬尾さんがいないか見ていると、長身の目立つ人が見えた。瀬尾さんだ。

助手席の窓を開けて「瀬尾さーん!」と呼び掛けると、瀬尾さんは驚いて立ち止まった。そして僕だと確認して手を振る。周囲にいた人が、瀬尾さんに気が付き振り返って見ている。

「文ちゃん!迎えにきてくれたの?」

「うん。怖がらせようと思って!」

「そこは、喜ばせようと思って、じゃないの?」

「違うよ。ジェットコースター並みだって言ったじゃないか?」

「何だよ?それ」

「早く乗ってください!」

「えーっ!怖いから歩くよ」

「ダメだよ!乗ってください」

「えーっ」

瀬尾さんは口では「えーっ」と言いながら笑っていた。本当は嬉しかったのかな?

「シートベルトしてください」

「はい、教官」

「右よし、左よし!」

「教官」と呼ばれた僕は調子に乗って、前後左右を指差し確認。教習所でやっていたように、ミラーと目視で安全確認した。

「はい、よく出来ました!」

「では、出発しまーす!」

「はーい!」

車を発進させると『春香堂書店』が見えた。開店前の準備中なのか、外を掃いている人がいる。

「恭悟?」

「えっ?」

「うん、友だちなんだ」

ゆっくりと走らせて左にウィンカーを上げ車を停めた。

 助手席の窓を大きく開けて、僕は大声で叫んだ。

「恭悟!」

下を向いていた恭悟が顔を上げこちらを見る。

「文樹!」

箒を持ったままで恭悟がこちらへ歩いて来た。

「おはよう!」

「おはよう!」

恭悟は助手席に座っている瀬尾さんにペコッと頭を下げた。

「運転してるんだ?」

「うん!練習だよ、練習。もっと上手くなったらドライブ行こうね!」

「ああ、うん」

頷く恭悟に満足して「じゃあね!」と手を振った。

「うん、またな!」

「うん、バイト頑張ってね!」

「おう!」

恭悟は持っていた箒を大きく左右に振って僕たちを見送った。

「今のが柴田さんが言っていた、キョウゴ?」

「うん。そうだよ」

「キョウゴとドライブに行くの?」

「うん」

「俺とは駅とお屋敷の往復だけなのに?」

「・・・まあ、うん」

「どこか行こうよ」

「あ、うん。いいよ」

授業が終わってからかな?「どこか」と言われても困るレベルの運転技術なんだけど。

「では、今日の勉強は図書館でしまーす!」

「ええっ?」

「早く、ウィンカー上げて!右だよ、右!」

「えっ、えっ!み、右っ?」

急に言われて、慌てて右にウィンカーを上げながら後ろを確認して車線変更をした。信号で停車して瀬尾さんを見ると、「前を見てくださーい」と微笑む。

「本当に図書館ですか?」

「そうだよ」

「どうして急に?」

「楽しいでしょ?」

「まあ」

道もわかるし、大丈夫。瀬尾さんは自分のスマホを取り出して、滝山家に電話をした。

「おはようございます、瀬尾です。文ちゃんが図書館で勉強したいと言いますので、はい。はい、お昼までには戻りますから。はい。失礼します」

「ちょっと!僕は言ってない!」

「俺が行きたいの。それに、場所を変えると気分も変わるでしょう?ねっ?」

「うん」

「信号、青だよ」

「はい」

瀬尾さんはニコリとした。僕の運転で怖くないのかなあ、と考えながら何度も左右を確認してハンドルを右に切った。
 
*****

不定期更新中にもかかわらず、ご訪問ありがとうございます!

仲良くしてくださっている真昼の月イヌ吉さんとBL-R18+ひかるさんが、10月21日Jガーデン(於:池袋サンシャインシティ)に参加決定!!

サークル名は『ももシロップ』さんです。J庭参戦予定の方、是非お立ち寄りくださいませね♪可愛いイヌ吉さんとウサギなひかるさんにお会いできるかと思います。

スペースナンバーは「く-13b」4階のBホールです!!

「日高の代わりに参りましたっ!」とおっしゃって頂けたら、きっと熱烈歓迎。イヌ吉さんは尻尾が切れるくらいブンブン振り、ひかるさんのお耳はピュンピュン回ります。お二方ともキュンキュンと懐いて放してくれないかと思われます(笑)

いえ、もちろん「声を掛けるのは恥ずかしいの」とおっしゃる方は、日高の代わりに遠くから見つめて念を送ってくださいませっ!よろしくお願い致しま~す♪

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