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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

さやさやと流るるが如く・25






 鎌倉は明治から昭和初期に掛けて別荘地として発展した。今では人気の観光地となり、シーズンともなれば江ノ電は満員。道路は車で溢れ渋滞が深刻な問題になっている。

政財界の重鎮や文化人が好んだ街には自ずと品格が備わり、人を惹き付けて止まない。

 水内叶多の母・江原寿美子が住む家は、江ノ電沿線の昔ながらの住宅街の中にあった。家は古いがセンス良く住み暮らしている、といった風情だ。

北野さんはシャツとスラックスにジャケットを羽織っているが、俺は完全にカジュアルな格好だった。こんな服装で良いのか、と抵抗したが張本さんは許してくれなかった。

 片開きの木製の門扉に、表札は『江原』。表札の横のインターフォンを鳴らすと、すぐに女性の声で返事があった。

『はい』

若くはないが、声には張りがあって品が良い。耳を澄ませた俺は、その声に叶多との共通点を探していた。

叶多から返信はなかった。『来ないでくれ』という要請もなかったから黙って北野さんに付いて来たわけだが、俺がインターフォンを鳴らしたわけではない、と心の中で言い訳をしながら、彼との縁もこれまでかと覚悟を決めた。

「すみませーん!夜分遅くに申し訳ございません。私、『下津浦物産』の北野と申しますが。『江原商店』さんの事で伺いたい事がありまして」

『お待ちください』

落ち着いた対応だ。

ここにはすでに『江原商店』の営業さんが訪問済みだから、寿美子も事情を飲み込んでいるとみえる。夜間の訪問は迷惑だとは思うが、ここで押し問答すれば隣近所にも迷惑になる。体裁を重んじるならば、嫌でも俺らを中に入れるしかない。

しばらくすると玄関ドアが開き、上品な顔立ちの女性がドアから顔を出し「中にお入りください」と言った。

「行くぞ」

「はい」

手土産もなく心苦しいが、それは俺が叶多と知り合いだから感じるもの。ここは開き直って「こんばんは」と言うしかない。

 門から玄関までのアプローチは長くはないが、平らな石を敷き詰めた趣きある設えとなっている。左右に植えられたヤツデやツツジの根元にLED照明が置かれていて足元は明るい。

昭和の時代に建てられた家には、広くはないが庭があり、手入れも行き届いていた。垣根の向こうから着物姿の女性が現れても不思議ではない。

「どうぞ」

玄関ドアを大きく開け放って、江原寿美子は俺たちを招き入れた。

「この度は兄がご迷惑をお掛けしまして」

俺たちは無言で頷き、玄関の中に入らせてもらった。

 色とりどりの角のないタイルを敷き詰めた玄関土間には、男性用のスニーカーと雪駄が一足ずつ。白いスニーカーは叶多の物だろうか。

「どうぞ、お上がりください」

「いいえ!ここで結構です」

北野さんが断ると、元々家に上げる気などなかっただろう寿美子は、自分だけ玄関に上がるとその場で正座した。

「兄の会社の方に知っている事をお話しましたが」

我々を見上げる形で話す江原寿美子は、叶多の母親だけあって美人だ。年の頃は40前後にしか見えない。ここは照明が暗くはっきりとはわからないが、顔立ちは整っていて若々しい。

白いシャツに赤いカーディガンとチェックのスカート、と至って普通の服装だ。

「その方から話しは伺いました。今夜伺ったのは、江原社長の奥さんが通っていたというサロンの事をご存知でしたら教えて頂きたかったのです。それと、ご報告がございまして」

北野さんはチラリと俺を見た。

「サロン?何の事かしら?義姉とはもうかれこれ10年は会っておりませんのよ」

「ご存知ありませんか?」

「ええ、存じません。父の葬儀でお会いしたのが最後ですから」

「そうですか」

寿美子は、我々には用はないとでも言わんばかりに『江原商店』の営業さんに言った事と同じ内容を話し始めた。その声には棘がある。

「兄がご迷惑をお掛けしているのは申し訳ないと思っております。私は父の遺産として僅かばかりの土地をもらいました。5年程前でしたか、急に兄が訪ねて参りましてね。事業が上手くいかなくなったから、土地を返して欲しいと頼まれたんです。私としては納得いきませんでしたよ。一度やった物を返せ、だなんて、ねえ?その土地はコインパーキングにして毎月収入もあったんですよ。でも私が土地を手放さなかったから、先祖代々続いた商売を畳まなければならなくなった、なんて言われるのは癪でしょう?ですから、熨斗を付けて兄に返ししましたわ」

サバサバとした口調の寿美子は、土地には執着などないと言いたげだった。

「兄は遺産として頂いた現金も返して欲しい、と申しましてね。でも、それはあんまりでしょう?それはダメだと断りました。でも帰りませんのよ。ですから、私、500万円を兄に貸しました。借用書もございますが、一円も返済されてはいません。だから、それは手切れ金のようなものです」

兄との縁はスッパリと切れた、と言って退けた。これ以上は関わりたくない、という事だな。

「そうですか」

「これで最後にしてくださいね」

寿美子の背後には階段があり、廊下がある。廊下に部屋の明かりが映っている所があり、そこが居間のようだ。居間からはテレビの音がする。

そして、人の気配もする。

「承知しました。それから、ご報告があります」

「ああ、そうでしたね。何でしょうか?」

北野さんは言い難そうに俺を見た。

「それが・・・江原社長から京都にいる息子さんに電話があり、青木ヶ原の樹海に入るとおっしゃったらしいのです」

「青木ヶ原?樹海?つまり?」

「自殺をほのめかしたそうです」

寿美子の背後の居間にいる人は叶多だろうか。明らかにそこからカタリと物音がした。

「まさか!自殺するような人ではありませんよ、兄は」

寿美子は一笑した。

「しかし」

「ほら!樹海には隠れた宗教団体がいくつもあるって、噂を聞いた事がありませんか?義姉が通っていた"サロン"というのがそこにあるのではないかしら?兄たちはそこに隠れているんですよ、きっと!」

「その場所がわからないから、こうしてお尋ねしてるんですよ。息子さんには『悪かった、幸せになってくれ』というような事をおっしゃったらしいのです」

「まあ・・・。困った事になったわね」

「社長の足取りは掴めていません。息子さんは明日、樹海に入って社長を捜すそうです」

「まあ」

寿美子はよく出来たお人形のような顔を曇らせた。眉間に皺を寄せているが、兄の生死がわからないと聞いても慌てる様子はない。それだけ馴染みの少ない兄妹、という事か。

「そうですか」

コインパーキングとして運用していた財産を奪った兄に対する、複雑な感情が見え隠れする。

「ちょっとお待ちくださいね」

寿美子は立ち上がって、俺が居間だろうと考えていた部屋へと消えた。話し声が聞こえる。低くコソコソと話す声は、男だか女だかわからないが、居間にいるのは一人のようだ。

「旦那さんかな?」

北野さんが俺に耳打ちした。

「でしょうね」

「表札は"江原"だったよな?」

「ええ」

「じゃあ、この家はあの人のなんだな。ほら、内縁関係だって言ってただろう?」

「さあ?どうでしょう」

北野さんは玄関を見回した。右側が棚になっていて、棚の上の茶色い花瓶に桃の花が活けられている。壁にはどこだかわからないが断崖絶壁と荒れた海の風景画だ。

「ここ5千万はするよな?」

「そんなに高いんですか?」

「江ノ電沿線で駅から徒歩10分圏内だ。高いぞ」

不動産には詳しくないから、北野さんの予想に頷くしかない。

「へえ」

俺らのコソコソ話が聞こえていたかはわからないが、「お待たせしました」と戻ってきた寿美子の後から、水内叶多が現れた。

*****

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昨日からお友だちのイヌ吉さまのお宅にうちのまあちゃんがお邪魔しております♪6周年をお祝いして拙作を押し付けてしまいました。

そしたらですよ、日高の駄文にイヌ吉大先生が、な、な、なんと、挿絵を描いてくださったのです!!ちーーーっちゃい海老で鯛を釣っちゃった~~!!

こちらで可愛いまあちゃんとヒロオミさん(今回は可愛いよ!)がお待ちしておりま~す♪→真昼の月・イヌ吉さま(こちらのSSはイヌ吉さまへの贈り物ですので、当ブログでの掲載はありません)イヌ吉さま、ありがとうございました!!

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