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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

合縁奇縁・25

 空回りしている。

いや、空回りじゃない。

周囲の人々が"僕"を回している。


 《銀香》のガラス越しに僕を見付けた清家先生は、爽やかな笑顔で手を振った。カウンターにいる服部くんもこちらを見て手を振っている。

清家先生とは手を振り返すほどの仲でもない。そう思った僕は、その場で先生に軽く頭を下げた。

 成り行きとはいえ、今夜も一緒に食事する事になってしまった。不本意ながら開けた《銀香》のドアベルのカランという音でさえも忌々しい。それを押し隠して、僕は営業用の笑みを頬に張り付けた。

「先生、お待たせしました」

「稲村さん!お疲れさまでした」

「お疲れさまです」

「服部くん、お疲れさまです」

「何か飲まれますか?」

「いえ」

先生の前には半分になったコーヒーカップと社長のお土産のケーキだ。

「服部くんにケーキを頂いたんですよ」

「社長のお土産です。稲村さんは召し上がりましたか?」

「いいえ。上で食べるようにとおっしゃったんですが」

「あっ、食べますか?まだありますよ?」

服部くんは冷蔵庫を指さした。

「大丈夫ですよ。それは服部くんが召し上がってください」

「えーっ。俺、太っちゃいますよ。社長でしょ、三木店長でしょ、山下店長でしょ。マジでお土産が多くて」

「大丈夫ですよ。あなたは朝から晩までよく働くから、消化してます」

「そうかな?」

服部くんは脇腹の辺りが気になるのか抓んでいる。

「社長はケーキがお好きなんですか?」

「一緒に暮らしておられる怜二さんがお好きなので、新しい店を見かけると立ち寄って購入されます。ここには不動産会社や清掃会社もありますから、そこの社員への土産としてもお買いになりますね」

「へえ!優しいんですね。そしてイケメンですよね。《花信風》を紹介してくださった岩清水先生のパーティーでお見かけした事があります」

「そうですか」

「そうだ!これを」

清家先生はポケットから封筒を取り出した。

「この前の写真が出来たのでお渡ししようと思って」

「《花信風》で写した写真ですね?」

「ええ、そうです」

封筒の中から取り出した透明のビニール袋は思っていたよりも分厚かった。一番上にあるのは山下常務の写真だ。これだけの厚み。一体、何枚撮影したのだろうか。

「こちらは山下さんに。こっちは稲村さん」

ビニール袋は2つ。そのうち1つを僕にくれた。

「えっ?僕にですか?」

「勝手に撮影しちゃいました!ごめんなさい!」

僕に、と手渡された袋は山下常務の分よりも厚い。

「こんなにたくさんですか?」

先生は申し訳なさそうに肩をすくめた。

「すみません。あなたの表情が気になって」

「・・・そうですか」

「素人なので良い写真、というわけじゃないんですが」

自分の写真と聞いて悪い気はしなかった。あの時、撮影許可を取ったのは山下常務だけだったはずだ。

いつの間に僕を撮影したのだろう。いや「僕を」ではなく山下常務の横や端っこに写り込んでいるだけだ。

「ありがとうございます。この歳になりますと自分が写った写真は社員旅行とか店の開店記念写真くらいしかございませんので、嬉しいです」

「良かった!勝手に撮影したから怒るかと思っていたんだ」

全部で30枚くらいだろうか。案外、重い。

写真の中の僕は自然な表情だった。カメラ目線は一枚もない。空を見上げていたり、木を見ていたり。《花信風》の方を見ていたり。横顔だったり、後姿だったり。

笑っていたり、微妙な表情のもある。山下常務の奥にいる僕にピントが合っている写真もあって驚いた。どうして僕にピントを合わせたのだろうか。

「この写真が一番好きです」

先生の手がその中の一枚を引っ張り出した。

「これ!良いでしょう?服部くん、どう思う?」

「どれどれ?」

服部くんが身を乗り出して先生の手元の写真を見た。

「へえ!素敵だなあ!風に吹かれる旅人、って感じだ」

「そうそう!大自然の中を、ね?」

「スーツですけど」

「あははっ」

ビオトープの淵に立ちジッと何かを見ている僕。笑顔ではなく、物憂げな顔だ。僕は何を見ているのだろうか?

「悩める旅人、ですね」

「そう!そんな感じだよね。そう思いませんか?稲村さん」

「えっ?」

「横顔、綺麗ですよ!」

服部くんがその写真を僕に突き付ける。その写真を見て、僕は気が付いた。僕は先生の被写体になった山下常務を見ているのだ。

"旅人"などではない。僕は山下常務の美しさに嫉妬しているのだ。

「そんなことはありませんよ」

「稲村さんって儚げな少女みたいなところあるじゃないですか。そういう感じがこの写真に出てますよ?」

「少女?僕が?」

「うん。いい感じ!そうだ、山下店長の写真を見てもいいですか?」

「どうぞ」

山下常務の写真の束を受け取った服部くんは、一枚一枚丁寧に見ている。

「うーん」

「どうですか?服部先生」

清家先生に"先生"と呼ばれて、服部くんはますます真面目な顔になる。

「そうですね。山下店長はこの危うげな写真がいいですよ」

その中の一枚をカウンターに置いた。カメラ目線の写真の中の山下常務は、挑むような視線を向け笑っている。こんな表情をするのは珍しいな。

「危うげ、か」

「そう!落ちそうで落ちない感じで触れたくなるんだ、って言ってました」

「誰が?」

「昔、山下店長に惚れていた人です」

「へえ・・・。服部くん、ここを辞めてもすぐに評論家になれるよ」

「そうですか!?」

「ええ。俺が太鼓判を押します」

「清家先生の太鼓判ならすぐに仕事がきますね」

「ええ」

いつの間にか親しげな2人。あははっ、と笑い合って楽しげだ。楽しそうではないのは写真の中の僕とここにいる僕。どうして山下常務のように綺麗に笑えないのだろう。

*****

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