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クリームシチューは幸せ色【中編】~『T』番外編

「滝山さん。若から話しは聞いておられましょうが、こちらが武村です。よろしくお願い致します」

座っていた大川が立ち上がって文樹を紹介してくれる。文樹も立ち上がって、頭を下げた。

「武村文樹です。よろしくお願いします」

「滝山」と呼ばれた男性は、「こちらこそ」と言いながらポケットから名刺を取り出した。しなやかな指先と共に、白い名刺が文樹の前に差し出された。

「滝山信吾です。よろしくお願いします」

塚原に教わったのを思い出しながら名刺を両手で頂いた文樹の顔をしげしげと見て、滝山は感心したように言った。

「本当に可愛いね、君」

「あ、ありがとうございます」

見詰められて、こそばゆくなった文樹は俯いた。

文樹と加々見敬治が並んでいれば、人々の視線は敬治の華やかな美貌に惹かれてしまう。隣にいれば自分は霞んでしまうと自覚していた文樹は、敬治の引き立て役のような存在だと思っていた。

彼とは出会った時から「主従」の関係が出来上がっていて、一歩下がって行動する癖が付いていた。敬治が「友だちだからね」と何度言おうと、人前に出る時は文樹は一歩下がって行動してしまう。

面と向かって「可愛いね」と言われる事などない文樹は、滝山の視線に戸惑ってしまった。

「あははっ、ごめん!慣れてくれ。ケーキ、食べてくれよ。美味いから」

「あ、はい」

大川も、「折角だから、遠慮しないで食えよ」と言って勧めてくれた。しかし、にこやかな滝山と緊張している大川の顔を見比べた文樹には、目の前にある美味そうなケーキが最後の晩餐のような気がしてならなかった。

「いただきます」

大川は文樹がフォークを握ったのを確認してから話しを切り出した。持って来た封筒を滝山に差し出して、「お改めください」と言って渡す。

「ああ、ありがとう。河野から中身は聞いてる」

滝山は封筒の中をチラリと見て、内容を確かめる事もなく横に置いた。

「この度はご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします、と若からの伝言です」

「ああ、任せてくれ。武村くんにはマンションを準備しようと思ったんだが、一人では不安だろうからね。預かった以上は悪いようにはしないから心配するなと伝えてくれ」

「ありがとうございます」

滝山の口から「マンション」「一人」「預かった」というワードを聞くと、本当に自分が河野組とは関係のない所で生きていかねばならなくなったのだと痛感する。

 滝山という人物に文樹の素性をどこまで話したのか、を組を出る前に河野から聞いていた。河野は、滝山には文樹が《SWAN》という店の男娼だったという過去は話していない。だが、加々見家と関わりがある「加々見敬治」と行動を共にしていた事は話しをしたと聞いている。

更に文樹は、河野から「《SWAN》の事は決して口に出すな」と厳命されていた。「河野組にいた事」「加々見敬治の事」「加々見家の使用人だった事」など、文樹が口にしてはならない事ばかりだ。それが余計に、文樹の孤独感を増長させていた。

河野組とは一切関りのない人間と思え、と言われて組を出たのだった。もう帰る場所もない。頼れるのは、目の前の滝山という男だけだった。

「・・・ひっ」

小さな嗚咽が漏れる。

「武村?」

「す、すみ、ません。ひっ」

泣き出した文樹に慌てた大川が、「おい」と肘で脇を突く。

「すんません!すぐに泣き止むように言い聞かせますんで!」

「ああ、気にしないでよ。武村くん、大丈夫かい?」

優しい声と共にハンカチが目の前に届く。

「使って」

「すんません。こいつ、泣いてばっかで」

そう言いながら、大川がハンカチを受け取って文樹に握らせた。ふわりと良い香りがするハンカチを目に押し当てて、文樹は涙を堪えようと必死だ。

「そりゃ寂しいさ。本家の親父さんが可愛がってたんじゃないの?」

「あっ、はい。親父さんの身の回りのお世話もやってましたし、結構気の利くヤツですから。簡単な料理も俺が教えました。槌屋補佐からは警棒術も習ってます。優しいヤツなんで親父さんの猫も懐いてました。良い子ですから、よろしくお願い致します」

「へえ!親父さん、猫を飼ってるの?じゃあ、帰りに猫でも買おうか?」

「えっ・・・?」

あまりの驚きに、文樹の涙も一瞬止まった。滝山は本気らしく、文樹の顔を覗き込むとまるで幼子にキャンディでも与えるかのような優しく甘い声で言った。

「君が泣き止むんだったら、猫くらい俺が買ってあげる」

「良かったな!武村」

それに同意した大川が、泣き続ける文樹に手を焼いているのが伝わってくる。

「えっ?」

「うん、猫はいいよね。うちの怜二も猫が好きなんだよ。家にいる時間が短いから飼わないと言うんだが。よし!猫を買うぞ」

猫で誤魔化されたような気がしないでもなかったが、文樹の落ち込んでいくばかりの気分は滝山という男が醸し出す空気によって和んでいった。


 大川は「元気でな」と文樹の肩を叩いて、先に帰った。大川がいなくなり文樹の寂しさは増していく。懸命に涙を堪えるが、胸の奥が熱くなって壊れた涙腺は言う事を聞かない。

大川との最後の会話が胸に刺さって、文樹は茫然自失の状態だった。

「武村、いいか?こっから先はどこかでお前を見かけても、俺たちの方からお前に声を掛ける事はない。メールも電話も、だ。俺らが用がある時は、必ず滝山さんを通す」

「えっ?じゃあ・・・」

敬治が帰国すれば気軽に会いに行ける、そう思っていた文樹の小さな願いも砕かれてしまった。

「今後一切、お前は河野組とは無縁だ。河野を名乗って声を掛けてきたヤツは偽物だぞ。これだけは、よーく覚えておけよ?」

「そ、そんな!」

「飯坂さんがお前のスマホの履歴もデータも全部消去したから」

「えっ!」

文樹は慌てて自分のスマートフォンを取り出してチェックした。

「悪いが初期状態だ」

「そんな!い、いつの間に!?」

通話やメールの履歴もアドレスの登録も全て抹消されている。敬治と一緒に撮った写真、花子の写真、以前河野組にいた時の写真、加々見家で写した写真、全てが消えていた。

「お前が河野にいた事実はない。親父さんがそうしろとおっしゃったんだ」

「僕、もう・・・敬治くんには、会えない?」

「それは、わからないよ。俺にも」

大川の視線が文樹から逸れていく。気の毒そうに文樹を見た大川の顔を凝視したが、彼はそれ以上は何も答えてはくれなかった。


 大川は、滝山に何度も「よろしくお願い致します」と頭を下げ部屋から出て行った。ドアが閉まる瞬間まで、大川は「武村、頑張れよ」と声を掛けたが、文樹の涙は止まらなかった。

・・・僕はまた捨てられたのかな。

そう思うと、慰めてくれる滝山でさえ疎ましくなる。

「大丈夫かい?」

「僕なんか、放っておいて、ください。ひっ、く」

「泣いてる可愛い子を連れて歩いていた、なんて噂になると困るからね。泣き止んでくれる?」

「・・・」

滝山は文樹が泣き止むまで待つつもりのようだ。彼は紅茶を淹れ「落ち着くよ」と、文樹にも勧める。

「す、すみません。あの・・・ハンカチ」

滝山は微笑みながら文樹の涙が止まるのを待っている。滝山のハンカチは涙でしっとりと濡れていた。

「ああ、気にしないで」

「すみません」

「お茶でも飲んで、涙を拭こうか」

「はい」

いつまでも涙が止まらない文樹に呆れるでもなく、滝山は待ち続けた。夕陽が空を真っ赤に染めながらビルの間に消えて行く頃、文樹はやっと顔を上げた。


 文樹は泣き腫らした目のまま滝山と共に、廊下に出た。来た時と全く同じ場所ではあるが、まるで違う場所のような錯覚を覚えた。

滝山が運転する車の後部座席に座り、文樹は再び泣き出した。滝山も文樹を泣き止ませるのを諦めたらしい。後ろでグズグズと鼻を啜っては俯く文樹に、声を掛けるでもなく黙ってハンドルを握っていた。

文樹には土地勘もなく、道に詳しいわけでもない。前を見ても渋滞する一般道に並んだ赤いランプの列が滲んで見えるだけだった。

 滝山の車は大きな門をくぐった。閑静な高級住宅街の中でも一際大きく立派な門構えの家は「屋敷」という方が正しいだろう。

「ここは俺の実家なんだ」

「実家?」

「そう。ここには両親が住んでいる。君が住み込みで働いてくれれば、両親も喜ぶよ」

「住み込み、ですか?」

「ああ。住み込みと言っても一日中働くわけじゃない。ここには有能な家政婦さんもいるし、庭師も運転手もいるからね」

「僕の、仕事は、何ですか?」

「ええっと・・・癒やし係?」

「・・・?」

「嘘、嘘!万能家政婦さんの補佐だよ、補佐!」

「・・・はい」

仕事の内容はよくわからないが、滝山の実家は相当な金持ちらしい。見るからに立派な日本家屋が見えてくると、加々見家での息の詰まるような生活を思い出して文樹の心は重くなる。

*****

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あれれ?前後編では?すみません、後編が長過ぎたので分けましたwww

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