『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋文・10

 飯坂さんはつい最近独立して、"飯坂組"という自分の組を構えている。

河野組が経営しているフロント会社から何社か譲り受けて「手切れ金だ」、と若に宣言したそうだ。

飯坂さんの車を運転しているのは若の事務所にいた高井という人で、助手席にいるのは敬ちゃんが攫われた時の救出チームに加わっていた牧野という人だった。牧野さんと高井さんとは何度も本部で会った事があるし、一緒にご飯を食べた事がある。

「滝山さんのお屋敷の近くまで送るよ」

「新宿駅の南口でいいです」

飯坂さんは笑った。

「あははっ。また迷子になりたいわけ?」

「大丈夫です。ちゃんと、ほら!」

僕はポケットから有馬さんが書いてくれたメモ用紙を出して見せた。飯坂さんはそのメモを手に取ってジッと見ている。

「へえ・・・。これ、誰に書いてもらったの?」

「・・・えっと」

「知り合い」ではないんだよね。

「その、『春香堂書店』の、店員さんです」

「書店?へえ・・・お友だち出来たんだ?男?女?」

飯坂さんにしては珍しく興味深そうだ。

「男です。でもお友だちじゃないです」

「そうなの?これ、その男が書いたんだろ?」

飯坂さんの指先でヒラヒラしているメモ用紙。早く返して欲しいんだけど。

「その・・・。僕、迷子になっちゃって」

「ああ、うん。聞いた」

飯坂さんは「話しは簡潔に」と、いつも言っていたな。要点を纏めて報告しないと叱られてしまう。

「乗換えを間違って新宿駅までたどり着けなくて困っていたら、有馬さんが助けてくれたんです」

「有馬さん、ね」

「はい」

「それで?」

「事情を聞いた有馬さんが、バイトが休みだからって、新宿まで連れて来てくれたんです」

「へえ。良かったじゃないか」

飯坂さんはニコリとした。

「はい。助かりました」

声を掛けても誰も止まってくれなくて、僕を避けて行く人もいた。それまでワクワクしていた僕の気持ちは、融けていく雪のように萎んでいった。

今日は運良く有馬さんに会えたけど、帰りはどうなるかわからない。メモを見ながら帰れればいいけど、お夕飯の時間に間に合わないのは困る。奥さまが心配なさる。

「それって、『お友だち』じゃないのか?」

「でも・・・名前しか知らないし、僕は大切なお客さまだ、と言われたんで」

「・・・武村、もしかしてそれを根に持ってる?」

「持ってませんよ!でも、お友だちではないと思います。名前しか知らないんですよ?」

「そうか、あははっ」

やっと飯坂さんがメモを返してくれた。僕はそれを落としたりしないように、大切にポケットの奥に忍び込ませる。

「社長、武村をどこで降ろしますか?」

牧野さんが前の席から振り返って聞いた。

「南口で降ろしてもちゃんと帰れるか保証はないからな。牧野が電車で連れて行くか?」

「それでもいいですけど」

牧野さんは困ったような顔で僕を見た。牧野さんは飯坂さんの護衛が仕事だ、と敬ちゃんに聞いた。牧野さんは飯坂さんの傍を離れるわけにはいかないんだ。

「僕は一人で大丈夫ですから!」

「このまま滝山家の近くまで送ろう」

「わかりました」

「飯坂さん、僕はちゃんと電車で帰れますから」

「バーカ」

「武村」

牧野さんが低い声で言った。

「社長のご厚意を無駄にすんじゃねえ」

「す、すみません」

「牧野。武村は堅気さんなんだよ。そういう物言いは止めろ。俺、いつも言ってるよね?俺の組にいる限りは俺の流儀に慣れろって」

「はい。すみませんでした」

あの大きな牧野さんが小さくなった。

「ごめんね。牧野も高井も若の所にいたから口のきき方がなってなくてね。俺の所は若の所みたいに"いかにも"な事務所じゃないからな。うちが落ち着いたら遊びにおいで」

「あ・・・良いんですか?」

「ああ。今、ビルを改装中なんだ。武村ならOKだよ。遊びに来いよ。はい、これ」

飯坂さんは『幻遥館ビル』入居者募集、というチラシをくれた。最寄り駅からの地図と、QRコードも印刷されている。まるでヨーロッパの街並みに建っているような石造りのビルの完成予定図は、見るからに女性が好きそうな雰囲気だ。

「ここがその、飯坂組の事務所ですか?」

「ああ。一番上ね。下は飲食店とか美容室、フェイシャルサロンにカフェ、イタリアンもあるしスイーツもある。テナントの空きはもう僅かなんだ。人気のある区画はキャンセル待ちも出てる。河野の頭の固いジジイたちは立ち入り禁止だから。気にせずにおいでよ。ただし、来る前に電話しろ。それが条件」

「はいっ!」

嬉しかった。

河野組とは完全に縁を切られたような気がしていたけど、飯坂さんの一言で切れた糸が繋がったのだ。


 飯坂さんの車は、商店街の外れの駐車場で停まった。

「ここでいいか?」

「はい。大丈夫です」

ここからなら商店街から横道に入って大きな通りに出る事が出来る。滝山家までは7、8分で着くだろう。

「これ、俺の会社の名刺だ。電話はここに掛けて、まずは牧野か高井を呼び出してくれ」

「ありがとうございます」

「スマホに登録する時は会社の名前を入れておけよ?俺の名前を登録するな」

「はい。わかりました」

「若と敬治さんには言うなよ?若には武村には関わるなと言われてるんだからな?」

「えっ?」

「俺たちとは関わらない方が良いんだよ。滝山さんから一人で外に出ても良いと言われたからホイホイ歩き回ってるんだろうけど、何でも一拍置けよ?一旦、考えてから行動しろ。今回だって敬治さんに電話してから行けば良かったんだよ」

「言ったんですけど・・・ダメだって」

「ほらね。山猿の方がわかってるじゃないか?」

「すみません」

「武村が普通の生活が出来るようになるまで、まだまだ時間が掛かるだろう。滝山家にもいつまで居られるかわからないからな。何かあったら、いつでも俺を頼って。若よりはまともな答えを出せる」

飯坂さんには滝山家のご夫妻がご高齢である事も、義道会長の周囲の事もわかっているのだと思う。信吾さんが僕を放り出したりしないとは思う。だけど、飯坂さんが僕の処遇に気を配ってくれているのだと思うと嬉しくなる。

「・・・はい」

「泣くな」

「・・・はい」

「もう」

飯坂さんは面倒臭そうに目を窓に向けてしまったが、僕にはほんのりと飯坂さんの気持ちが伝わってきた。

*****

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前話は飯坂効果で拍手もバナーポチも朝からめちゃ頂いてしまった(笑)それとも捨てられた子犬状態だから、頑張れ!の方かな?

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