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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋文・112

 玄関の横の応接室に案内すると、津枝さんは部屋を見回して落ち着かない様子で座った。持ってきたタオルを渡すとネクタイを引き抜き、襟元を緩めてタオルでガシガシと首を拭きはじめる。

「どうぞ」とアイスコーヒーとお菓子をテーブルに置くと、津枝さんはやっと調子が戻ったようだ。

「武村もここに住んでるのか?」

「はい」

「すっげえ家だな!時代劇に出てきそうだ!」

津枝さんは興奮気味に庭を指差した。

残念ながら、滝山家の庭の真骨頂はそこじゃないです。応接室から見える庭も確かに立派で、小さな池の周りには石灯篭があり水琴窟を仕込んだ手洗い場まである。

「へーっ!本部の庭も広いし立派だけど、ここはもっと凄いなあ!」

津枝さんはソファーの革を何度も撫で、正面の壁のマントルピースの上に飾られている風景画を見て「へえーっ」と感嘆の声を上げた。

「高そう」

「高いです」

「そんなこたわかってるよ!」

大きな声を出した津枝さんは、親父さんの顔でも思い出したのか声も身体も急に小さくなった。そしてタオルで顔を拭き、「ごめん」と小さく謝った。

急に借りてきた猫のように大人しくなった津枝さん。親父さんや敬ちゃんに報告されては困る、とでも思ったのかな?

「僕は向こうに呼ばれてるんですよ。テーブルの横のマガジンラックに雑誌がありますから、どうぞ」

「いいよ。どうせ漫画は置いてないんだろ?」

チラッとマガジンラックを見た津枝さんはムスッとして、スマホを取り出すとソファーに深く沈んだ。

 
 リビングに行くと、その場に居た人たちの視線が僕に集まった。

「文ちゃんも座りなさい」

「はい」

ソファーの隅に僕が座ると親父さんが改まった感じで立ち上がり、「この度はご迷惑をお掛けしました」と頭を下げた。それは深く長い謝罪だった。

「河野さん、頭を上げてください」

「この度の不始末は全て、この私の不徳の致す所でございます。改めてお詫び申し上げます」

親父さんがこうして謝罪の為に頭を下げるのを見たのは初めてだった。

 
「武村、怪我の具合はどうだ?」

旦那さまや奥さまに何度も促されて漸く頭を上げた親父さんは苦りきった表情だったが、洋子さんがお茶を勧め奥さまが他愛もない話しをされてやっと場が和んできた。

「はい。まだ少し引き攣った感じで痛みますが、大丈夫です」

「そうか。養生してくれ」

「ありがとうございます」

親父さんは目を細めて僕をご覧になる。以前と変わらず優しい笑みだ。

今日は護衛もなく、津枝さんだけを連れて謝罪に訪れた親父さん。それは誰に責任を押し付けるで無く、自らが責を負うという意思の表れだ。

僕には親父さんがどうしてそこまでして頭を下げなければならないのか、全く訳がわからなかった。

「すでにニュースでご存知かと思いますが、こちらに侵入した不心得者たちは逮捕されました」

「文ちゃんの家庭教師をしていた瀬尾という学生はどうなりましたか?」

いつもお優しい奥さまが、瀬尾さんの名前を出す時は厳しい表情をされた。

「彼の事はニュースでご覧になったでしょう。彼についてですが、うちの飯坂が調べましたところ、星望学園大に入学した直後から半グレ集団に属していたようです。あの男は家庭教師派遣センターに所属していました。星望出身の子弟や医者、弁護士、会社経営者宅など裕福な家庭を選んで派遣されていたそうです。そして派遣先の資産状況や日頃からどこに現金や貴金属類が置いてあるか、絵画がどこにあるか。警備体制を下見していたのです」

「まさか・・・。では、うちもそうなの?」

奥さまが驚きの声を上げた。

一流大学の学生が犯罪に手を染めるなど、奥さまには信じられないのだろう。いや、"星望"ブランドを纏った者が犯罪者として逮捕されるなんて、奥さまにとっては前代未聞だ。

「彼は"星望"を利用して盗みを働いていたんですよ」

「許せませんな」

「信じられないわ。とても気さくで明るい良い方だと思っていたのに・・・」

「それが彼の狙いです。顔良し、頭良し、人当たりも良い一流大学の学生。どこからどう見ても文句の付けようのない彼を、誰が犯罪組織の一員だと疑いますか?」

「そうね。騙されたわ!」

奥さまは手をギュッと握っておられた。その手が白くなるくらい。

「彼の所為で文ちゃんが怪我をしたんですよ!絶対に許せないわ!ねえ、あなた?」

洋子さんが奥さまの手を包むようにして優しく撫でている。

「ああ」

「私も同じ気持ちです。私も長いこと武村を傍に置いておりましたが、性根の真っ直ぐな良い子でした。瀬尾には、全く同情の余地もありません」

「ええ!そうですとも!うちの文ちゃんに怪我をさせておいて、しゃあしゃあとうちにやって来たんですよ!彼は!」

「それは2度目の犯行の下見でしょう。こちらの刀剣コレクションが目的だったようです」

旦那さまが厳重に鍵をかけて保管している日本刀のコレクションは、普段は人目に付かないようにしてある。「危ないから」とおっしゃって、掃除の時もその部屋だけは「しなくていい」と決まっている。

旦那さま以外は部屋には入れないのだ。

ご自分で手入れをなさる時は必ず内から鍵をするし、専門業者をお呼びになる時も人任せにはせずに部屋から離れる事はない。

どんな物をお持ちなのか僕には全くわからないが、刀剣類は滝山家が大名に用立てた金のお礼として拝領した品や、生活に困窮した旧華族から買った物がほとんどらしい。

「そういえば瀬尾先生に、刀のコレクションを見せてくれないか?と言われた事があったわ!」と、思い出したように洋子さんが言った。

「そうだったわ!奥さまが怜二坊っちゃんの為に有川先生の絵を集めておられるのは有名ですから、ご存知の方も多いですが。ご先代さまの刀のコレクションの事は、世間さまにお話しする事はございませんでしょう?どうして瀬尾さんがご存知なのか不思議だったんですよ。そんな物はないわよ、と答えたのですが・・・」

「彼のグループが滝山家に侵入したと聞きつけた日本刀のコレクターが、勝川というオークション主催者に依頼したそうです。その者も後日逮捕されるでしょう」

「まあ・・・。ではあの絵もそうなの?」

「はい。あの絵も客からのオーダーだったそうです。まず瀬尾が家庭教師として下見をし、オーダーに添う品を見つける。ターゲットが決まれば勝川が犯行を指示するのです」

「まあ・・・。絵は戻ってくるのかしら?」

「ええ。すでに警察に保管してあります。明日にでも警視総監から連絡があると思いますよ」

「まあ、良かった」

盗まれた品は無事に戻ってくるだろう、と親父さんは請け負った。


「しかし、瀬尾を弁護する先生は大変だ。星望同窓会を敵に回す事になる」

「全くです。だが弁護士も星望出身ばかりではありませんからね。星望出を快く思っていない方々だっておられるわけですから」

「そうですな。検察も裁判官も星望卒で固めなければなりませんな」

奥さまは親父さんに、「懲らしめてやってください!」とおっしゃった。その後は旦那さまたちは同窓会の対応がどうのとか、臨時理事会を招集するとか、星望学園への対応を話し合われた。


「実は困った事になりましてね」

一通り話が済むと、親父さんが言った。それを合図に旦那さまは、奥さまと洋子さんに「ここはいいから。今夜はもう遅い。部屋に引き取りなさい」とおっしゃって、2人はリビングから出て行かれた。僕はテーブルの上を片付け、「おやすみなさい」を言ってリビングを出て行こうとするのを親父さんが止めた。

「武村は聞きなさい」

「僕がですか?」

奥さまたちには聞かせられないような話なのに?

「ああ。武村にも関わりがあるからね。座りなさい」

「はい」

僕が座ると親父さんは、「本当に申し訳ございませんでした」と再び頭を下げた。

「実はオークションを運営していた勝川という男の後ろには、うちの河辺組の三村と申す者がおりました」

「河野さんの所の?」

河辺組という名前は聞いた事がある。時々親父さんと碁を打っている松岡組長さんの組だ。

「はい。警察には三村の名前やうちの名は漏れてはおりません。逮捕された者たちは三村の報復を恐れていますので、三村の名前は出さないでしょう。ここは私の顔を立てて、三村の処分をお任せ願いたいのですが」

親父さんはまた頭を下げた。

そうか。河野組の関係先が半グレ集団の後ろにいたから、飯坂さんは警察には「何でもない」と言わせたのか。瀬尾さんたちが車でここに向かっているとわかってるんだったら、110番すれば良いだけ。わざわざ恭悟を行かせる必要はなかった。

河野組の傘下にあたる組の構成員が背後にいたとわかれば、警察は河野組総本部に踏み込むに違いない。三村の背後に河野組があると疑うのは当然だ。

「文ちゃん、いいね?」

「はい。お任せします」

「ありがとう。この事は口外しないようにね」

「もちろんです」

「武村には申し訳ない。本来ならば三村にも刑を受けさせるべきなのだが」

「いいえ」

三村という人の処分は親父さんにお任せする。

親父さんの知らない所で半グレ集団を使って裕福な家から物を盗ませて、盗品オークションで稼いでいた三村という人には、逮捕されるよりも厳しい処分が待っているに違いない。

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あ~忘れてたwww平成は4月まででしたね。←今頃

気が付かなければスルーしてたんですけど、平成最後の投票所開設しちゃう?←はい?

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