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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

春の夜の夢の浮橋1

 春の夜の夢の浮橋とだえして 峰にわかるる横雲の風  
         
         藤原定家(新古今和歌集 三十八)


第一印象は・・・良くない。

試すような、舐めるような視線。

名刺を受け取る時、わざと俺の指先に触れた。

「山下くん、どう?」って言ったって、もう決めてるクセに・・・滝山信吾が自分の従兄弟だという槇山保憲に紹介された男・秋永克喜。


鋭い眼差しは蛇のようだ・・・「吟味されている」と思った。

・・・イケスカナイヤツ・・・


 滝山信吾は「じゃあ、明後日から三木くんが来るから、一緒に動いてもらって。配属は、あとで決めるか」と、いとも簡単に決定を下した。ほぼ「採用決定」だ。

「はい、それがよろしいかと」

「良かった。今住んでいる所もこのままでは家賃が払えなくなるから、出ないといけないと思ってたんですよ。よろしくお願いします」


そう言って微笑んだ秋永克喜の綻んだ表情に惹かれた・・・似てたんだ、アイツに。



 2月18日。

「アキはまだアイツと付き合ってるの?」

遠慮会釈なくオカマの華恵が尋ねた。少しは遠慮して欲しいよな。

「あ・・・うん」

「いい加減にしとけって言っても、聞きやしない」

高田くんまで・・・放っておいて下さい。


俺の勝手だろ?


「そんな、俺の自由だろ。ヒロには迷惑掛けてない」

「まあね!じゃあ、俺は先に帰るよ。真樹が待ってる」


ヒロが立ち上がった。恋人の花岡真樹と一緒に住み始めて一週間か・・・。蜜月ってヤツ?背中に「充実してます」って、書いてあります。


「あのヒロが、『真樹が待ってる』だなんて・・・信ちゃんといい、ヒロといい、圭介さんといい、丸くなったわねえ、あの人たち」

「悪かったね、まだ丸くなくて」

「アキは昔から、丸いからいいのよっ!」

バンバン肩を叩かれて・・・絶対、そこ腫れてる。

「ところで、信ちゃんが秘書を雇ったらしいじゃない!?どんな男?イイオトコなんでしょ?当然よね!早く会いたいわ!」

「まだ、『決定』じゃないよ。今は試用期間・・・得体のしれないヤツを簡単に本丸に踏み込ませられるか?だったら、三木くんに秘書をやってもらって、俺が統括に回る」

「そうなの!?信ちゃんと三木くんと3人で回ってるんでしょう?早く会いたいわ!嘉美ちゃんに言って《イゾルデ》に来たら呼んでもらおうっと!」

「確かに、イイオトコだけどね。俺は苦手」

「ふうん。アキがそんな言い方するなんて・・・珍しいわね。もしかして・・・気になるんだ?」

「まさか!」

「良い事だわ!その方が良いわよ!ねっ!?」


信吾さんがよく言っていたな『オカマの勘はよく当たる』・・・まさにそのとおり。あまり良いものではなかった第一印象だったが、何度も重ねて会ううちにその印象はコロコロ変わる。

正月4日に《シェーナ》で初めて会ってから、2度3度と顔を合わせるうちに、秋永という男の印象が変わってきた。第一印象を覆すという事は・・・相当だ。


実は愛想が良い。当然だろうな・・・今まで営業だったんだからな。

最初に感じた「蛇のような」眼差しは見なくなった・・・気の所為だったのか?

そして、アイツに似ている・・・雰囲気というか。笑った感じが、良く似ていた。


「はあっ・・・おっと、メールだ」

携帯を開き受信メールをチェックすると、そこにはアイツの名前。

『明日の予約確認、お願いします。午前11時・2名』

「なあに?イヤラシイわねえ・・・おデート?」


ホント、無駄に勘だけは良いんだから・・・華恵。


「違うよ!予約確認のメール」


誰に覗かれても、いつ他人に携帯を開かれても構わないように、簡単な暗号だ。

午前11時は午後11時、2名は「アキの部屋に来るよ」という意味。


「変ねえ!予約の確認を個人の携帯で受けるなんて!」

わかってて言ってる華恵は、勘が良くて、意地が悪い。

「個人的な友人だから」

「ふうん」


アイツは妻子持ち。

俺がヒロに誘われて『S-five』の立ち上げに参加した頃からの付き合いだから、もう10年になるかな・・・。その間に何一つ変わらない俺を余所目に、アイツは普通に結婚して子どもが生まれて、夫婦で《イゾルデ》にも《シェーナ》にもやって来た。

もちろんアイツの家に呼ばれる事もある。子どもが生まれれば「お祝い」を持って参上する。

当然だ、周囲の者は俺たちが『親友』だと思っている関係・・・。ベッドも共にする密接な『親友』。しかもアイツの嫁は《白夜》の隣の店で働いていたキャバ嬢だったんだからな・・・当然、顔見知り。


華恵の憐れみとも付かない眼差しはグサグサと心に突き刺さり、なにをしているんだと俺を責め立てる。

「俺も帰ろうかな」

「じゃあ、私も!圭介さん!また、明日ね!」

大袈裟に手を振る華恵に、奥から圭介くんが「二度と来るな!」と大声で返事をした。2人の遣り取りは午前0時過ぎの《SUZAKU》の名物だ。それを聞いて店内がドッと沸く。

「いやあん!」と、しなを作る華恵を余所目に「テンちゃん、お願い!」と伝票を渡し「華恵にツケといて!」と、店を後にした。


もう2月も半ば・・・桜が咲くまであと、1ヶ月半ってところかな。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごし下さいませ!

S-five最後のオトコ、山下明利(アキトシ)登場です。

空行く月のめぐり逢うまで11話で、秋永は初出しております。

   日高千湖

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春の夜の夢の浮橋2

 1月5日、約束の時間より5分早く秋永克喜は《シェーナ》にやって来た。

「おはようございます!」

さすが、元営業。素晴らしい挨拶じゃないか・・・。

「おはようございます。じゃあ、今日は一日寒いけどドアマンとして外でお客さまのお出迎えをお願いします」


ここでの人事や職務内容は全て俺の采配だ。社長の親戚の紹介だろうがなんだろうが、まずはこの仕事から、だ。ロッカーの中から彼の体格に合いそうなサイズの黒いスーツを取り出し、「これを着てみてください」と渡した。


秋永克喜、35歳、独身。W大学卒業、身長180あるかな?近くに行くと、僅かに俺よりも背が高い。


パーテーションを指差し「あの裏で着替えて下さい。シャツは白ですから、今着ている物で良いでしょう」と指示すると、彼は素直に従った。


「山下常務」

着替えながら、秋永が話し掛けてくる。

「店長です」

「山下店長は、ここ、長いんですか?」

「私ですか?この会社にってこと?この店にってこと?」

「・・・どちらも」


ごそごそと動く気配がして、彼が服を着替えている様子だけが伝わってくる。パソコンに向かいメールをチェックして、三木くんからの「今から東京に戻ります」のメールに秋永の事を報告がてら返信し、念の為に共用パソコンのパスワードを変更した。


「会社は立ち上げから関わってます。店も同じです」

「へえ・・・ここの社長って若いですよね」

「青年実業家なんてものは珍しくもないでしょう?世間にはゴロゴロ、掃いて捨てる程います」

「資産も相当お持ちだとか」

「あなた、銀行に再就職しなさい」

「ぷっ・・・はははっ!」

「なんです?」

「だって・・・」

笑いながらパーテーションから出て来た秋永の姿を見て、俺も思わず噴出した。

「ズボン!もう少し長いのないんですか!?はははっ!」


足が長いのか、それとも俺が見誤ったか。秋永はつんつるてんのズボンを窮屈そうに履いていた。


「はははっ・・・身長は?」と聞きながら、再びロッカーに手を入れた。

「180です」

「じゃあ、こっちで・・・プッ」

秋永が再びパーテーションの後ろに引っ込み、彼が脱いだズボンを受け取って、ジャケットとズボンのサイズが揃っていなかったことに気が付いた。

「あっ、これ上下が揃ってない」

「それで!小さいなあと思って・・・上は大丈夫なのにズボンだけやたらと小さいから」

「すみません。クリーニングから戻ってきた時に上下合わせるんだけど、間違ったみたいだ」

「・・・山下店長って、笑うと可愛いですね」

「・・・」


こういうのは無視するに限る。


「早く着替えて、駐車場と外玄関の清掃をお願いします」

「はい」


着替えて出て来た彼は、黒服も似合ってる。キリッとした顔立ち、上背もあるし『歩く広告塔』としては申し分ないな。駅前でビラでも配らせてやるか?


「今日は外ですから。あなたのコートは?」

「これです」

彼のコートはベージュのいかにもサラリーマンが着ていそうな無難なトレンチコート。

「それでは、ダメだな。ちょっと待ってて」

ロッカーの奥から、去年隼人が着ていた黒いアルスターコートを取り出した。

「これをどうぞ。前に使っていた人と身長は変わらないと思いますから、サイズは大丈夫だと思います」

「質の良い物ですね。サイズも大丈夫です」


見てくれだけは立派なドアマンが出来上がった。今日の担当の守山を呼び、仕事を教えるように指示して箒を握らせた。


「ずっと外ですから、マフラーをしたほうが良いですよ」

「持ってません」

「じゃあ、ちょっと待って下さい。これを」と、俺は自分の机の中から箱を取り出し渡した。


抑え目のオレンジ色のマフラーは去年のクリスマスにアイツと嫁からもらった物だ。

使えるか、こんな物・・・アイツの嫁に首を締められてる気がする。


「それ、差し上げます」

「ええっ!でも、これ高いですよ!?」

そりゃあ、高いだろうさ。誰でも知ってる某有名ブランドのオレンジ色の箱だ。

「差し上げます」


秋永に向かって箱を突き出すと・・・まただ、わざと指先を掠めていく。


「じゃあ、頑張って下さい」

ふいっと向きを変えて、自分も箒を握った。事務所の机の下を掃く俺の背後で、秋永が「ありがとうございました」と丁寧に頭を下げて礼を言うのがわかった。


印象がコロコロ変わる・・・その表情も、時々目が離せなくなる。


この日から秋永は、信吾さんの運転手と《シェーナ》のドアマンを兼任する事になった。

彼の試用期間は今日から、3ヶ月。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごし下さいませ!

山下くんって、「爽やか組」なのに実生活は爽やかでない(笑)ああ、そこは章太郎も同じだろって?はい、おっしゃるとおりでございます。

ちなみに、この2話は空行く月のめぐり逢うまで13話で、三木くんが出勤して来る前の日のお話になります。


   日高千湖

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春の夜の夢の浮橋3

 冬休みが終わり、《シェーナ》にやって来た受付係の怜二くんを見て秋永は息を飲んで固まった。そんな他人の反応には慣れきっている怜二くんは、何事もなかったような顔で「お疲れさまです」と微笑みロッカールームに消えた。


「あの子には、触れたりしないで下さいね。絶対に」

「綺麗な子ですね。そんな事を言うなんて、もしかして山下店長の恋人ですか?」


怜二くんの事を知ってて知らなかったフリか、それとも本当に知らないのか?


「滝山怜二くん。社長のパートナーです。なにかあったら・・・滝山は許しませんよ。まあ、当然私も、ですが」

「それは」

「滝山が本気になったら、あなたはこの世にはいられないかもしれませんよ」

「物騒だなあ」

「試してみたら?」

「結構です。綺麗だけど、子どもには興味はありませんから」

秋永の視線が俺に絡みはじめる。顔から、首へ、そして襟元から侵入してくる。

「そう?良かった。じゃあ、くれぐれも忘れずに」

「俺は・・・あの子よりも、あなたに興味があります」


とまあ、こんな感じで時々しっかりと俺に絡む。こんなのは軽く受け流してしまうのが良いに決まってる。



 『秘書』にと言われて連れて来られたのに、寒空の下笑顔でお客さまのお出迎えが不満なのか、ただの運転手が嫌になったのか、勤務し始めて2週間後、秋永克喜が「あの、私は結局運転手なんでしょうか?それともドアマンなんでしょうか?」と、尋ねた。

「研修でしょう?ご不満ならいつでも辞めて頂いても結構ですが?」

少々キツイ言い方で返答してみる。

「いえ・・・そんなわけでは」


だいたい秘書検定も合格はおろか、受験すらしてないのに・・・。

いくら「運転とスケジュール管理が主だから」と言われたからって、営業職の人間を連れて来て「『秘書』でお願いします」なんて、槇山という信吾さんの従兄弟にも呆れる。常識ってもんがあるだろう?信吾さんだって、「滝山の秘書室長に依頼した」と言っていたのだから、しばらく待てば優秀な秘書を探して連れてきてくれるものを・・・なんでこんなズブの素人なんか。

秋永もそろそろ嫌気がさしたかと思っていたが・・・意外と早かったかな?

根性なしめ。


「今日もここですけど、なにか?」

秋永は「いえ、頑張ります」と、箒を手に玄関へ向かった。毎日『滝山クリーン』が来るわけではないから、落ち葉の多い季節には、朝と昼間2回の駐車場の清掃が欠かせない。それは現在《シェーナ》にいる限りは秋永の仕事だ。

秋永は真面目に職務をこなし他のスタッフとも上手くやっているようだ。俺の目から見ても、しっかりやっているように見える。ここにいるスタッフの中でも料理長を除けば彼が一番年上になるが、そんな素振りも見せずに「一番下」の立場を崩さない。

そんな秋永が時々寄越す熱の籠もった視線・・・執拗に俺の全身に絡むのが気になったが、それくらいの事でオタオタするほど、こっちも子どもではない。適当に受け流して、視線には気付かないフリだ。



 その日は午後から三木くんが来て試食会を行う予定だから、ここからは信吾さんには秋永が付いて行く事になっていた。とはいえ、ただの運転手だけどね。

「山下店長、あなたは仕事が終わった後も『店長』でしょうか?」

「なに?仕事の後、飲みにでも行きますか?」

「良いんですか?」

嬉しそうに秋永が身を乗り出す。

「いいですよ」

「じゃあ、その後は?」

意味深な視線が絡む。

「なに?私を抱きたいんですか?」

「・・・はい、と言ったら?」

「考えておきます」

「それは、YesそれともNo?」

「ふふっ・・・仕事中に堂々とベッドに誘うんですか?」

「店を出れば『店長』ではないですよね」

そう食い下がる秋永の視線を振り払い、目の前の3月の新メニュー案に集中した・・・したんじゃない「したフリ」だ。

「午後からは、あなたが出るんでしょう?着替えて、準備をお願いします。もうすぐ社長が到着しますよ」

「はい・・・すみません」


 こんな事は始めてだった。

アイツ以外と身体を合わせてもいいなんて、考えた事はなかったのに・・・。もちろん、酔った勢いで他のオトコを拾った事もあるが全て「成り行きで」、だ。


アイツと約束していたのにドタキャンだ。子どもがインフルエンザ、だと?こんな事くらいでイライラする自分にイライラする。しょうがないじゃないか、子どもの病気に文句を言ったって始まらない。


「お疲れさま!」と、賑々しく事務所に現れた社長は怜二くんを見つけて早速ハグして・・・「食べてしまいたい」というくらいの愛情が零れ出て、見ちゃいられない。

「三木くん、これがメニュー案だけど」

俺と三木くんは2人のイチャイチャを無視して、料理長とスタッフと共に新作メニューの試食会だ。信吾さんはこれから《花宴》、《イゾルデ》、《トリスタン》と回り《SUZAKU》から、《白夜》に回る。

慌しく「いってらっしゃい」と信吾さんと秋永を送り出し、「下のちびちゃんがインフルエンザに罹っちゃってさ、今日は早く帰らなきゃ」と言うマイホームパパ三木くんにアイツの姿が重なる。

また、『インフルエンザ』だ。


「そうか、大変だね!三木くんが移らないでよ!?」

「大丈夫!予防接種もしたし、インフルエンザに効くっていうヨーグルトも飲んでるしね」

「なにそれ?」

「山下くんも飲んだら!?明日持って来るよ」

「ありがとう」


ポケットの中の携帯が振動しメールの着信を知らせる。

アイツだ。


「ごめん!」

三木くんに断ってから携帯を開いた。

『明後日の予約確認をお願いします。午前11時、2名でお願いします』と書かれた画面を見ても、トキメクものはない。嬉しいとか待っていたとか、そんな感情でもない。ドタキャンが気に入らないのであって、特に「逢いたい」という感情が生まれるわけでもない。


そろそろ潮時なのかもしれない。

秋永のアプローチを心地好く思えるというのは、そういう事なのかもしれない。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごし下さいませ!

山下くん・・・秋永のラブコールに応えるのか!?

空行く月のめぐり逢うまで16話で三木くんが信ちゃんに調べた事を「ご報告」するちょっと前の話です。

   日高千湖

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春の夜の夢の浮橋4

「どう?家のほうは」

「子どもたちがインフルエンザに罹患してさ。俺だけは違う部屋で寝てたから無事だったんだけど、とうとう嫁さんに移っちまって。嫁が妊娠中だから嫁の実家の母親が来ることになって・・・。俺に『あなたはしばらくホテルにでも泊まって下さい』だってさ!だから、『金が勿体無いからアキの部屋に泊まる』って言って出てきたんだ」

「ふうん、今日来たんだ。お義母さん」

「いや、昨日。本当は昨日から世話になりたかったけど、近くのスーパーとか、洗濯機の使い方とか掛かり付けの病院とか・・・いろいろ教えなくちゃならなくてさ。会いたかったよ!アキ!」

「ああ、だから『明後日』だったのか」


ギュッと抱き締めてくれたり、優しく背を往復する手にときめかなくなって、もう何年だろう。

嫌悪感はないけれど、コイツと別れないのはただの意地みたいなモンだったのかもしれない。馴れ合いの関係、倦怠期真っ只中の夫婦みたいな感情。ボロボロの毛布が捨てられない子どもみたいな俺は、ただ周囲に目を向けられなかっただけかもしれない。


「ああ、俺も」

「ホントに、ごめんな!ドタキャンなんて、ホントに悪かったよ!」


『予約のキャンセルをお願いします』、そんなメール一通で俺を放り出す事の出来るお前。

『契約は破棄させて頂きます』それが『別れ』の合図にしようと言い出したのは俺だった。あくまでも業務連絡のように・・・。


 午後23時、部屋に戻った俺を待っていたアイツは、缶ビールを片手にすでにほろ酔いだった。

「子どもたちが高熱でウンウン言ってるのに、俺がビール飲むわけにはいかないだろ?その上嫁が機嫌悪くてさ!看病と寝不足でストレスかなあ・・・。子どもたちが良くなった頃には自分が移っちゃってさ!」

別に、嫁の精神状態なんてどうだっていいし・・・聞きたくもない。

「そう、大変だね」

ジャケットを脱がせようとボタンを外し始めたアイツの手を掴んだ。

「いい、自分で脱ぐから。皺になるだろ?」

自分でジャケットを脱ぎネクタイを引き抜いて、ハンガーに掛けてからシャツのボタンに手を掛けると、後ろから腕が回ってきた。


「俺が脱がせたい、いいだろ?」

「いいよ、自分で・・・風呂入るから、離せ」

「一緒に入りたい」

「1人で入りたい」

「いいじゃないか・・・アキの身体、洗いたい」

「嫁の身体でも洗ってろ」

「子どもたちと入るから、そんな楽しみもないんだよ!いいだろ?」


俺は・・・お前のなんだ?

嫁に出来ない事を俺でするわけ?

ただのオモチャか?


「ふざけんな!離れろ!お前がここに泊まるのは仕方ないが、向こうの部屋で布団を敷いて寝てくれよ。俺、今忙しくて、お前の相手なんてする暇はないから!」

「アキ・・・アキ、愛してるんだよ?信じて?」

「嫁に言え」

「そんなにドタキャンに怒ってるんだ?」

「怒ってない」


俺はなんに怒ってるんだ?

コイツのムカつく言動にか?

それとも、ドタキャンに腹を立てているのか?

わからない・・・わからない・・・。


 結局、風呂まで付いて来たアイツに、今はいいようにされている。

「ああっ・・・んっ・・・くっ・・・」

「アキの身体、最高にエロいね・・・こんなにエロい身体がスーツの下に隠れてることを誰も知らないなんて・・・ふふっ。店に来る女たちがアキを見て『カッコいい』なんて、きゃあきゃあ言ってるけど・・・夜は・・・ははっ、俺に突っ込まれて歓んでるなんて・・・ふふっ、知らないんだよねえ・・・ふふっ」

「ああっ!ソコッ!もっと!」

「どこ?どこがいいの?アキ?」


長年馴染んだ身体は、俺に全てを晒して、全てを捧げよと命じる。

それに応じる俺は・・・なんだ?このオトコの愛人・・・そんな言葉でしか言い表せない、陳腐な存在だ。

嫁にはとっくにバレてる。

嫁は言わないだけだ。


事実に目を瞑り、笑って「アキちゃん、いつもうちの人がお世話になっちゃって、ありがとう」と言ってみせる・・・。たいした嫁だよ。中堅の印刷会社に勤めるコイツの営業成績に、『S-five』が発注する仕事が大きく寄与しているとわかってるんだな。

それとも・・・女と浮気してゴチャゴチャするよりも、いっそオトコの俺の方が安心だって事?妊娠もしないしね、ゴムだけは忘れずにねって感じ?

なにもかもが忌々しい、なにもかもが腹立たしい。なにもかも・・・突き崩してしまいたい・・・俺を揺さぶる秋永も・・・なにもかも。


「アキ・・・綺麗だ・・・嬉しいよ。今日から一週間ずっと一緒にいられる」

腕枕して後ろから抱き締めて、常に身体を弄り回すから寝ようにも寝られやしない。

「離してくれない?もう、眠いんだ」

「いいだろ?明日は俺、休みなんだ!アキも休めよ!」

「だから・・・!俺は忙しいって言っただろう?向こうの部屋に行ってくれ」

「イヤだ。アキと一緒のベッドで眠りたい」

「じゃあ、身体に触るな」

「はい」

大人しく手を引っ込めたが、今度はアイツの息が首筋に掛かる。


「あのさあ・・・悪いけど、ホテル代は俺が払うから、明日からホテルに泊まってくれない?」

「勿体無い!ここでいいよ!」

「本当に忙しいんだよ。仕事が増えてさ・・・寝かせてくれる?」

「はい」

起き上がりアイツの身体を乱暴に押して、ベッドの端の方に押しやった。ベッドの真ん中にクッションを縦に並べて置いて「ここから入るな」と境界線を引き「ここから入ったら、即刻出て行かせる。嫁に電話して引き取らせるから」と、言い放った。

「アキ、可愛いね!こんな子どもっぽい事してさ!アキのこういうところがお茶目で好きなんだよね」

「好きでなくても、いいから。おやすみ」


華恵もヒロも「別れたほうがいい」としか言わない。

そんなのわかってる・・・俺が一番わかってる。

臆病者の俺は、いつまでもこの居心地の良い巣から飛び立てないまま『予約確認』のメールを待つのだ。


*****

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山下店長・・・まさかの受け(笑)アイツは名前もないです。勿論、嫁も(笑)

   日高千湖

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春の夜の夢の浮橋5

 アイツが俺の部屋に転がり込んだ。部屋に帰ればアイツがいる。

寒い部屋に戻るのに慣れていた俺は、暖かい明るい部屋に戻る心地良さを再確認した。「結婚も良いもんだよ」と言うマイホームパパ・三木くんの言葉が理解出来る。


「ただいま」

「お帰り!アキ!会いたかった!」

「ああ、俺も」

単調に言いながらも、いてくれて嬉しかったりもする。

「家にも顔を出せよ」

喜びを隠してぶっきらぼうに「家に顔を出せ」なんて・・・俺も、嘘吐きだな。

「いいよ!お義母さんが付きっきりだし。どうせならお義母さんまでインフルエンザが移れば良いのに!もっと、長くここにいられるよ」

「はあ?そしたら誰が子どもたちを面倒見るんだよ」

「ああ、そうか・・・まあ、その時はお義母さんにはお帰り願うけどね!」


この能天気め・・・。

ひょんな事からアイツが嫁公認で俺の部屋に居候を始めてから、俺も仕事を早めに切り上げて帰宅する事が多くなった。三木くんの家族もコイツと同じような状況で、インフルエンザの大流行は止まる事を知らない。三木くんの所も子どもたちの幼稚園と小学校がそれぞれ時期をずらして学級閉鎖となり、彼を早めに帰宅させている状況だ。

その分、珍しく圭介くんとヒロが出張ってきた。2人とも秋永の事を信用していないからだ。おかげで俺は余裕が出来ていた。


「山下店長・・・今晩一杯、どうですか?」

閉店後、秋永が誘ってきた。

「・・・良いですよ」

「俺、良い店を知ってますから!ご一緒しましょう!」


三木くんがいないから誘い易いのかな。嬉しそうに笑うその顔、やっぱりアイツに似ている。


「店を出ても『店長』でしょうか?」と言う秋永の言葉に「私を抱きたいんですか?」と軽口を叩いたからか、秋永のアプローチは日毎に回数が増していた。


秋永への興味、そして時々浮かぶ疑念、部屋で待つアイツ。

俺の中の違和感を、見極めたい。



 そこは繁華街の地下2階。マホガニー製の大きな手摺がある赤絨毯の敷かれた階段を下りると別世界が待っていた。

「へえ・・・こんな所に」

会員制のバーは『店』という感じがしない。絨毯が敷き詰められた店内は革張りの重々しい肘掛け椅子が壁に沿って並び、暖炉には薪が赤く燃える。まるでイギリス貴族の屋敷にでも足を踏み入れたような雰囲気で、落ち着く。


「いいでしょう?」

「ええ、こんな店は初めてです」

「いらっしゃいませ」

席に着くとロマンスグレーの紳士が跪き、メニューを差し出す。

「なにがお好きですか?山下さん」


『店長』ではなくなった。


「ヘネシーのパラディーをロックで。クラッシュアイスでお願いします」

「じゃあ、同じ物を」

「畏まりました」


店内は客層も良い。値段の表示がないメニューには葉巻の種類まで書かれていた。尻の青いガキはお断りって感じ?

どうして、こんな会員制高級クラブに秋永が入れるんだ?


「秋永さんって、こんな高級な店に出入り出来るほどの稼ぎがあるんですか?俺の記憶が正しければ、そうではないはずですが?」

「ははっ!とんでもない!あなたを連れて来る為に、特別に準備しました」

「槇山さん・・・ですか?」

「ええ。彼に電話を入れてもらいました」

「そう」


どうりでね・・・メニューには一杯で何万もするワインやブランデーの名前が並んでいた。


「無理してませんか?」

「してます・・・あなたに恋して欲しいから」

「恋?」

「今、お付き合いしている人っていますか?」

「・・・ええ」

「俺の事、どう思います?」

「どうって・・・」

「失礼します」


黒服が、注文した酒を運んできて会話が中断した。バカラのカットグラスの中の琥珀色の滑らかな輝きの液体が、芳醇な香りを放つ。


「山下さん・・・俺はあなたが好きです」

「そう・・・だから?」

「今晩、最後まで付き合って下さい、と言ったら?」

「・・・」


無視してグラスを口に運んだ。


部屋にはアイツが待っている。

俺の帰りを今か、今かと・・・。昨日もお預け食らって、朝から「今夜は良いだろ?」とサカリの付いた雄犬のように首に絡まってきたっけ。

馴れ合って何年になる?

他のオトコに見向きもせずに、操を立ててきたわけではないが・・・俺はこの十数年をアイツと過ごしたんだ。

その見返りが、これだ・・・ただの都合のいいオトコ。


妊娠もしない。文句も言わない。

メール一つで好きなだけ抱けるオトコ。


愛情なんてとうの昔にどこかへ消えた・・・今あるのは、ただの意地だ。

それと、新しい恋を探そうなんて意欲がない事。


華恵は「アキなら、もっとイイオトコがいるでしょう?」と言った。

ヒロは「いい加減にしないと、自分が擦り切れてしまうぞ」と言った。


そのとおりだった。


でも・・・俺はそれでも良かったんだ。こんな不毛な愛しか生み出せない俺には分相応だって・・・思ってた。


「良いですよ」


秋永の顔も見ずにそう言うと、秋永は俺の手の甲に指を這わせた。

「本当に?」

「ええ」

「じゃあ、『アキ』と呼んでも?」


『アキ』と呼ばれて、ハッとした。

俺が『アキ』と呼ばれている事を、どこで知ったんだ?

偶然か、それとも・・・。


「これ、飲んだら出ましょうか?」

「ああ」


秋永の返事が途端に砕けた調子になる。

俺が落ちたと思ったら、大間違いだよ。


*****

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山下くん、複雑な子・・・(;;)

   日高千湖

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春の夜の夢の浮橋6

 ★今回18禁です。年齢に達しない方、表現がお嫌いな方は回避願います!



 引き寄せる腕が違う、アイツはこんなに荒々しい事はしない・・・やっぱり、アイツとは違う人間だ・・・。


「はあっ・・・うっ・・」

「アキ、ギュウギュウ締め付けて・・・いいのか?」

「はあっ・・・ああ、ソコッ!」



秋永の誘いに乗ったのは、アイツの態度が気に入らなかったから。

ただ、それだけの事だ。

違う、気に入らないんじゃなくて・・・そう、清算したかっただけだ。

これまでアイツ1人に捉われて、乙女じゃあるまいし。


そして・・・秋永に対して抱いた疑問。それを解決したかっただけだ。


ホテルに入ると秋永は獣に変わった・・・あの目だ。

一番最初に出会った時に感じた、鋭い眼差し・・・射るような視線だ。

俺は狩られた可愛いウサギちゃんだ。


乱暴に服を脱がすと「シャワーを浴びたい」と言っても聞き入れずに、全裸の俺をベッドに組み敷いた。

「アキ、綺麗だ・・・出会ってからずっと、欲しかったんだ。アキが」

「・・・」


唇を重ねて貪るように吸われる舌を絡ませて、自分の下肢が反応し始めるのがわかった。秋永のモノはとうに熱り立ち、俺の太腿に擦り付けてはその存在を示す。


「ああっ・・・」

胸の尖りを軽く甘噛みされて声が漏れる。

「綺麗な身体だ・・・全身に噛み付きたい」

「勘弁、してよ・・・んっ・・・あっ・・・痛いのは、イヤ、ですよ」

「わかってるよ・・・でも、これ・・・彼氏が付けたのかな?」

そう言いながら、秋永は皮膚を吸い上げては征服の証を執拗に刻んでいく。アイツが付けた痕を、秋永が更に濃くしているのだ。

「ああっ!」

変化した俺の雄の部分に舌を這わせて吸い付く。

「そんな事するのなら、シャワー・・・浴びま、しょ・・う」

「アキの匂いを感じたい」

「変態」

やっと身体を押しやって「シャワー浴びます」と、バスルームに向かった。


 シャワーを済ませて部屋に戻ると秋永は、窓際でタバコを燻らせていた。

「あれ・・・タバコ、吸うんだ」

「嫌いなのか?」

「別に・・・知らなかった。店では吸わないね」

「ああ」

ベッドに腰掛けると軽いキスを寄越して「俺もシャワー浴びてくる」とバスルームに消えた。

「はあ・・・っ」

脱がされたスーツを拾い、タバコの匂いが付くのはイヤだったからタンスに入れた。ポケットの中の携帯が震える。


・・・アイツだ。

いくつもの着信、何通ものメール。


着信音は『お掛けになった電話は・・・』とアナウンスが入るまでしつこく鳴り続け、留守電に切り替わると「アキ?今どこ?早く帰って来いよ。俺、待ってるから」とアイツの声が聞こえてきた。


これは、裏切りか?

アイツは嫁を裏切って、俺はアイツを裏切るのか・・・いや、違う。

こんな事は初めてじゃない・・・これまでもあった事だ。

でも・・・。


「なんだ?オトコから電話?」

「ええ」

「一緒に住んでるのか?」


俺はもう『山下店長』ではなくなったらしい。


「いや」

「そう」

鍛え上げた上半身を見せ付けるように、バスタオルを腰に巻いた秋永が俺の前に立ち、長い指で顎をすくい上げた。

「キス、したいな?」

「どうぞ」


ベッドに押し倒されて、激しい口付けに酔わされる。

バスローブの袷から忍び込む手はしっとりとした感触。

全てが、アイツとは違うんだと教えてくれる。

わかってる、わかってる・・・慣れ親しんだ身体と新しい身体は違うんだと、秋永は刻むように俺に教えた。


「ああ・・・も、ダメ・・・欲しい」

「まだだ」

「明日、休みじゃ、ない」

「わかってるさ・・・いいだろう?好きだ、アキ」

「うっ・・・あっ・・・」

俺の言葉なんて聞いてやしない、秋永は潤滑剤を纏った指で徐々に俺を暴いていく。身体を反転させて、俺の腰を持ち上げると秋永は尻を撫で回し、何度も口付けた。

「好きだ」

「はあっ」

舌を尖らせて後孔を刺激し、前に回した手は立ち上がり触れて欲しくて堪らないモノを弄ぶ。容易く進入を許した俺の後孔は、秋永の指を悦んで迎え絡み付く。

「ああっ!」

何度も何度も行き来する指はイイトコロを掠め、緩急を付けて強い刺激を与えては俺にあられもない声を上げさせた。


いつも優しく、俺の望むように抱くアイツとは違う。

秋永は明日の事など関係ないとばかりに滾ったモノを押し当てて俺の中へと押し入った。


「ああっ!」

一気に奥を犯されて、息が止まる。

「う、うっ・・はあっ・・・ああっ・・あっ、あっ、あぁぁぁ」

「アキの中、気持ちいい」

何度も往復させて、俺を絶頂に誘う。


「ああっ!」

「アキ・・・俺だけにしろよ」

「んっ・・・もっと、ソコ・・・」

「返事は?」

「わから、ない」

「あんなオトコ捨ててしまえよ?」


どこかで、クリアになる意識・・・『あんなオトコ』って言ったよな・・・秋永はアイツを知っているのか?


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごし下さいませ!

アキちゃん、浮気中(笑)次話でこの話が一段落して話は「空行く月のめぐり逢うまで」17話へと進みます。

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春の夜の夢の浮橋7

「アキ・・・俺、何度も電話したんだぞ」

「おはよう」

「アキ・・・昨日は、どこに泊まったんだ?」

「ホテル」

「・・・誰と?・・・誰といたんだ?」


アイツの顔は青ざめて、寝ていないのか目の下には隈が浮かぶ。自分が待っているのにまさか朝帰りなんて、って顔してる。俺は一切を無視して時間を確認し、脱いだジャケットをクリーニング用の袋に入れた。しつこく「誰といたんだい?」と食い下がるアイツを無視してシャツを脱ぐと、首筋に着けられた赤い痕跡が露わになる。


「こんな・・・誰が・・・俺のアキに。会社のヤツか?」

俺の?いつから?

「関係ないだろ?」


アンダーシャツを脱げば秋永の痕跡は、ますます「コイツは俺のものだ」と主張するから、一応アイツの気持ちを慮ってバスルームへと向かった。

アイツは俺をしつこく追い回して、鍵を閉めてもなおドアを叩き、ドア越しに「アキ、ごめん!いろいろ聞いて・・・ごめん!」と、声を掛ける。それには返事をせずに下着を替えて、新しいシャツに袖を通し襟元まできっちりと止めた。

人の事言えない・・・俺も目の下には隈、鏡を見ながら髪を整えてパウダールームから出ると、アイツはそこにはいなかった。

クローゼットに向かいスーツを取り出して、着替える俺の背中にアイツの声が届く。


「アキ・・・俺の事、もう愛してないのか?」

「愛してるとか、愛してないとか、そんな関係ではない・・・としか言えないな」

「そんな・・・じゃあ俺、離婚するよ」と言いながらアイツが近付いてくる。

「バカ」

「俺、アキの事が・・・アキの事を」


・・・その後に続く言葉は『愛してる』だ。

それは罪な言葉。

その言葉で、お前は俺にも嫁にも矢を射掛け続けるんだ。

自分の真っ当な生活、社会的な地位の安定の為に俺を日陰に隠してしまったこのオトコには、その言葉は似合わない。


「お前は嫁と子どもと仲良く暮らせ。俺の事は忘れてくれていいから」

今にも泣き出しそうなアイツの声。

「アキ・・・アキ」

床に座り込み、足元に縋る。

「そんなふうに縋られても・・・俺にはどうする事も出来ないだろう?お前は、妻子ある身だ。嫁は3人目を身籠ってる。離婚したって子どもたちの父親だって事は変わらないしさ・・・俺は都合の良いだけの存在だ。今のままでいいわけない」

「アキ」

「俺、仕事だから。お前もだろ?準備しろよ」

「『愛してる』」

「・・・嫁に言え。子どもたちが可哀相だろう?親父がオトコと浮気してるなんて知ったら・・・。それにお前が離婚となれば、俺は嫁に訴えられる可能性だってあるんだ。それだけはご勘弁願いたいね」

「3人目が出来たから怒ってるのか?」

「夫婦なら問題ないだろ?おめでとう。お祝いは品物じゃなくて現金にするよ」

手早くネクタイを選び、結んだ。

「アキ」

捨てられた犬のような顔で俺を見上げて・・・こんなに情けないオトコだったか?

「今日から、家に帰れ」

「少し、距離をおこう?そしたら、アキも冷静になれるよね?」


 十分冷静な俺は、当分冷静にはなれそうもないアイツのキーリングから俺の部屋の鍵を取り上げ、一週間分の荷物と共に部屋から追い出しタクシーに乗り込んだ。出勤時間には少し早いが、仕方がない。ボストンバックとガーメントバッグを手に呆然とタクシーを見送るアイツの姿が遠ざかる。


長い、永い、時間を共に過ごしたアイツの事を嫌いになったわけじゃない。嫌いなら抱かれたりしない・・・このままでも良かったんだ、だけど。

このまま前に進めない事は、人生を無駄にしているも同じだ。



「おはようございます・・・店長、お早いですね」

「おはようございます、今日もよろしくお願いします。料理長」

「あれ、目の下、隈が出来てますよ?」


曖昧に笑ってそれには答えなかった。なんとなく覚ってくれた料理長はニヤニヤしながらロッカールームに消えた。彼は誰よりも早く出勤し、厨房で仕事に取り掛かる。それに倣って若い料理人も早くから仕事に取り掛かり、《シェーナ》の厨房はいつも活気に満ちている。


時刻は午前9時。

そろそろ秋永が出勤する時間だ。


「おはよう!山下くん!」

「三木くん、おはよう・・・どう?インフルエンザは?」

「大丈夫!ちびちゃんが今日から登園し始めたけど、今度は上の子の学校が閉鎖になっただろ?もう散々だよ。幸い我が家はちびちゃん以外無事さ。ついでに幼稚園でランチの予約もらったから、よろしくね」

「朝から営業?心強いなあ・・・さすがは、三木くん・・・なに?」


俺の顔を覗き込んだ三木くんが「なんか、今朝は色っぽいですね。山下店長」とからかう。


「ふふっ」

「触れなば落ちん、って風情ですよ?」

「ふふっ」

「高田くんが心配してたよ?」

「ありがとう」

マイホームパパに昨日の報告書を渡すと「助かるよ」と笑った。裏口のインターフォンが鳴り、出勤してきた者を知らせる。

「三木くん、ごめん。鍵、開けてくれる?」

三木くんが裏口に向かい、俺はパソコンに向かった。現在、3月の新メニューを検討中だ。先日の試食会で出た意見を参考に更に検討を重ねる。

卒業、入学に合わせて家族や仲間でディナー、送別会等の予約もぼちぼち入り始めていた。大きなものでは星望学園大の学生サークルの卒業パーティーが貸切で3件・・・こんな時にケータリング部門が機能していると、便利だ。


「おはようございます、『山下店長』」

「おはようございます、秋永さん」


秋永の意味深な挨拶を受けて顔を上げると、彼はスッと目を細めた。目が合った俺は目を反らす・・・三木くんが覚るように。


*****

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山下くん、なにやら・・・画策してます。

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春の夜の夢の浮橋8

「じゃあ、アキ、またね」

オカマの華恵は大男だ。化粧を取れば超イケメンなのに・・・信吾さんが「華恵が化粧しなけりゃ即、『S-five』に来いって言うのにな」と笑った。

日本人成人男子の平均身長より高い178センチの俺が見上げるくらいデカイ・・・。しかも「襲われた時の為に!」なんてクネクネしながら、ボクシングジムに通うから腕はムキムキ、肩幅ガッチリの、絶対に誰にも襲われないであろうオカマになってしまった。


強盗だって華恵を見たら走って逃げるさ・・・。

いや、むしろ「圭介を襲う時の為に鍛えてる、が正しいだろ?」というヒロの言葉は正しい。

そんな華恵が「アキ!愛してる!」と言いながら、全力で俺をハグする。


「ぐっ・・・華恵、離せ!苦しいよ!」

「あ~ら、ごめんなさい!アキがあんまり色っぽいから!私が言ったとおりでしょう?他にもイイ男はたくさんいるんだから!アイツなんかさっさと捨てちゃいなさいよ!」

「わかってるよ・・・痛いって、もう・・・」

少々酒が入っているから、手加減が出来なくなってやがる。

「じゃあ、ここで!またね!お先に~!」

手をヒラヒラさせ、赤いドレスの裾を靡かせて華恵は駅前のロータリーからタクシーに乗った。ちょうど空車がいなくなり、方向が違う俺は華恵を先に送り出した。運転手には「『S-five』です、一台お願いします」と頼んだから、すぐに来るはずだ。


冷たい風が酒で火照った身体を程よく醒ましてくれる。駅前広場のベンチに座り、冷たく追い出したアイツの事を思い出す。


嫌いじゃない・・・好きでもない・・・たぶん。

もう会わなくても、寂しくない・・・たぶん。

「愛してる」は嫁に言うべきだ。俺に言うのなら、嫁と別れるべきだ・・・その気はないクセに、平気で嘘を吐く。

アイツは「便利なアキ」が好きなんだ。

『契約破棄させて頂きます』とメールする事を躊躇う必要はあるのか?そう考えて、携帯を取り出しメールの画面を開いた時だった。


「アキ」

背後から「アキ」と呼ばれて、背筋にひんやりとしたものが走る・・・。取り出した携帯を再びポケットへと入れた。

「こんばんは」

「どうしてここに?」


俺の方が聞きたいよ・・・秋永。


「《SUZAKU》で飲んでました」

「へえ・・・そう」

「あなたこそ、どうしてここに?」

秋永は俺の隣に座りタバコに火を点けると大きく吸い込んで、煙を吐き出した。彼も飲んでいるようだ。

「社長が『自宅近くの駅から帰宅していい』って言ったからここで別れて、久しぶりに友人の部屋に寄ったんだ」

「『友人の部屋』、ね。どこですか?」

「あそこ」

指差す先は駅の向こう側、『滝山コート』2号館・・・薫くんたちが住んでいるマンションだ。

「あの、左側の?」

「ああ」

「なんていうマンション?」

「さあ、覚えてない」

「そう」


そこは、アンタのボスの持ち物だよ。エントランスの看板を見なかったのか?

目の前にタクシーが『予約車』のランプを点しながら滑り込んできた。


「じゃあ、おやすみなさい」

「待てよ」

秋永が手首を掴み離さない。

「なんです?終電も終わってるから、『友人の部屋』に泊めてもらえばいいでしょう?」

「アキの部屋に泊めてくれないか?」

「イヤです」

「冷たいなあ」

そう言いながら、秋永は俺の身体をタクシーまで押し、強引にタクシーに乗り込んだ。


「こんばんは、山下店長。お久しぶりですね」

運転手が振り返って俺に声を掛けた。秋永は不思議そうな顔をして俺と運転手を交互に見る。

「こんばんは、お久しぶりです」

「ちょうど《白夜》のマサキくんを送って来たところでした。『S-five』の方が呼んでると聞いて、今の時間どなたかと思ったら、山下店長でしたか。お元気そうでなによりです」


 運転手は『S-five』の専属で配車される人だった。人当たりが良く、機転が利く、その上口が堅い。信吾さんが気に入っていつもこの人を呼んでいるうちに、いつの間にか『S-five』の専属になってしまった。
幹部の部屋の場所は全て頭に入っているから、どんなに酔ってても、寝ていても部屋まで辿り着くことが出来る。《イゾルデ》にいた頃は顧客を見送りにここまで降りて来ていたから、毎日のように顔を合わせていたが《シェーナ》は少し離れているから、滅多に顔を合わせる事はなくなっていた。


「今日は《SUZAKU》で飲んでました。車は店に置いてきたので」

「そうでしたか、ご自宅でよろしいですか?」

顔馴染みの運転手はバックミラー越しに俺に目配せした。少しだけ眉を顰めてみせる。

「ええ・・・途中でコンビニに寄ってもらえますか?」

「はい、承知しました」


俺の表情が読み取れただろうか。


途中のコンビニで俺が降りると、秋永も一緒に付いて降りた。俺はウーロン茶の500mlのペットボトルを3本手に取り、秋永はなぜかコンドームを手に取る。

「トイレに行って来ます。他にも買いたい物があるから、これを持っててくれますか?」

「ああ」

秋永にペットボトルを渡し、トイレに入ってタクシーの運転手に電話を掛けた。


「すみません、連れの男をここに置いて行きますから。俺が乗ったらすぐに出して下さい」

『わかりました』


店内は、夜中にも関わらず客も多い。トイレを出ると、秋永が入り口から一番遠いアルコールのコーナーにいるのを確認した。俺がトイレから出て来た事には気付いていない。ゆっくりと雑誌コーナーの横を通り過ぎて素早くドアを押し店外へ出た。タクシーはすでに出入り口に一番近い場所に移動して、ドアを開けて待っていた。

「出しますよ!」

「すみません」

タクシーが車道に出てから振り返ると、コンビニのドアの前に立つ秋永が見えた。

「ふうぅ」

「おかしな感じでしたね」

「ええ、ちょっとね・・・すみません。変な事に巻き込んでしまって」

「いいえ、ご自宅へ?」

「そうだな・・・」

時計を見ると午前2時。まあちゃんがタクシーで部屋に帰ったという事は、ヒロはまだ店だな・・・。

「じゃあ《白夜》までお願いします」


ヒロに話さなければならない事が、いくつかある。


*****

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空行く月のめぐり逢うまで17話で《SUZAKU》で華恵ちゃんと飲んだ帰りの出来事です。結構、日高的には重要な回・・・かな。

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春の夜の夢の浮橋9

 2月3日深夜


「で?なにかわかったのか?」

「秋永は『あんなオトコ捨ててしまえ』って言ったんだ。アイツの事、話した事はないのに」

「それから?」

「まあちゃんたちが住んでるマンションに友人が住んでいると言った・・・。念の為に、明日防犯カメラで秋永が『行った』というのが本当か、確認してくれない?俺が怜二くんに『《SUZAKU》まで送って欲しい』と言うのを聞いていた者は、誰もいないんだ。怜二くんは信吾さんにメールで知らせたけど、信吾さんが『疑わしい人物』の前で、夜間の怜二くんの行動を話すはずがない」

「ああ・・・ついでに圭介が住んでる1号館の方も調べよう。それから、三木くんが『滝山クリーン』と一緒に業者を入れて、《シェーナ》の事務所に盗聴器がないか調べるから。同じやり方で全店、俺たちの部屋も『清掃』という名目で盗聴バスターを入れるよ。ここには幸いなかったんだ。考えてみたら、ここに三木くんや信吾が来るのは時間的に遅いから、秋永は先に帰すだろ?事務所に入った事はないんだよ。今夜、信吾は確かに1人でここに来たよ。秋永とは《SUZAKU》の駐車場で別れたって言った」

「そうか・・・どうしても、俺が《SUZAKU》にいたと知ってたとしか思えないタイミングだった・・・。偶然にしては・・・」

「アキ」

ヒロが俯いた俺の顔を上げさせる。

「お前、身体張ったのか?」

心配そうなヒロの眼差し。俺が嫌々秋永と寝たのではないかと心配してくれている。

「そういうわけじゃない。嫁公認でうちに転がり込んで、平気な顔してるアイツにムカついたんだ・・・だから、誘いに乗っただけ」

「そう?少しでも秋永に興味があって抱かれたんなら、それでいいけど・・・会社の為にとか、止めとけよ」

「興味は・・・あったね。それに半信半疑だったんだ。でも知るはずのないアイツの事を秋永が知ってて・・・一気に冷めたかな」

「華恵には?」

「うん、頼んだよ。秋永の事・・・。本当にゲイなら、その筋で情報はすぐに集まるだろうね。華恵には明日、明後日中には・・・時間を置いてもう一度《SUZAKU》で会うよ。その時は店の事務所からヒロに電話するから」

「俺も、行こう。その頃には盗聴器の検査も終わってるだろうから。盗聴器が出て来たら場所だけ知らせる、外さずにそのままにして、重要な事は話さないように。10日が薫の合格発表だからその後に彼ら3人が住んでるマンションは引き払う。それまでに俺の部屋と章太郎の部屋は調査を終わらせて欲しいと頼んでる」

「わかった」

「尻尾を掴んでから一気に潰す、いいな?秋永に気持ちを残すな。それから槇山保憲って、信吾の従兄弟も胡散臭いからな。なにを企んでるのか・・・」


もし本当に秋永が盗聴器を使って俺たちの会話を盗み聞き、情報を引き出す為のターゲットとして俺を選んだのであれば、ヒロは秋永を許さないだろう。

コンビニに置き去りにした秋永からは、何度も電話が鳴り面倒になって電源を切っていた。


「今日は、うちに来ないか?スーツなら替えが店のロッカーにあるだろう?」

「いいのか?」

「ああ、これから帰ってアイツが部屋で待ってても洒落にならん」


 閉店後、久しぶりにヒロの部屋に泊まった。

まあちゃんこと花岡真樹と知り合ってから、ヒロは丸くなった。

花岡真樹と清川薫、福原輝也は「信吾さんが拾ってきた」としか聞かされていないが、揃いも揃って可愛らしい。どこから来たのかわからないから「どこから連れて来たんですか?」と聞いた事があるが、信吾さんは「聞かないでくれ」と頭を下げた。余程の理由があるらしいから、俺もあえて聞きはしない。


「まあちゃんに、ヤキモチ妬かれるかもなあ!」

「ははっ、泊まったって言うなよ?」

ウィンクしてみせるヒロは、幸せそうだ。


 翌日出勤した秋永は笑いながら事務所のドアを開けた。

「おはようございます」

「おはようございます」

紋切り型の挨拶の後、事務所に他の者がいない事を確認した秋永は、俺の手を掴んだ。

「放して下さい」

「昨日は、酷いよなあ」

「そうですか?」

「泊めてくれると思ってたのに」

「泊めるとは、言ってませんよ?」

秋永はねっとりとした視線で、俺を裸にする。

「朝から、空気が濃いですよ?放して下さい」

「アキが好きなんだ・・・今晩、どう?」

「俺、あまり寝てませんから。今夜は大人しく独りで寝ます」

「残念・・・あまり寝てないって、オトコ?」

「ご想像にオマカセします」

「俺はあれから歩いて帰ったんだぞ?おかげで足は肉刺だらけだ」

「そう・・・じゃあ、今日はここでドアマンをお願いします」

そう言うと秋永は、背に手を回して俺を抱き締めた。

「少しだけ」

「・・・」


秋永の目的はなんだ?

ネットの書き込みと関連があるか?

それとも・・・。

盗聴器を仕掛けなければならないほどの悪事を企んでいるのか?

それにしては、稚拙すぎないか?

仕掛けた人物の真の狙いは、なんだ?


「秋永さん・・・明後日なら、大丈夫ですよ?」

秋永は背から手を離してニヤリと笑い、俺の頬を撫でた。

「アキに話したい事があるんだ」

「・・・では、明後日。部屋にどうぞ」


ポケットの携帯が震えた。秋永を押しやって通話ボタンを押す。空虚な俺の、空虚な心に住み続けたアイツからだった。


「はい」

『アキ・・・』

「仕事中だ、夜10時過ぎに頼む」

『アキ!』


ピッと通話を終了させて、電源を落とした。個人の携帯だ、問題はない。

ちょうど「山下店長、厨房にお願いします」と、厨房のスタッフが呼びに来た。「はい、行きます」と返事をし、携帯を机の中に仕舞ったところで秋永がロッカールームへと姿を消した。それを横目で見ながら俺は厨房に向かった。


*****

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山下くん、なにか考えがあるような、ないような・・・。

   日高千湖

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春の夜の夢の浮橋10

 あれから秋永は時々俺の部屋に泊まるようになった。

馴れ合いの関係が続いていたアイツからは毎日のように『予約確認をお願いします』というメールが来たが、全て『大変申し訳ありませんが、満席でございます。またのご来店をお待ち致しております』と返信する。


それは『都合が悪いから会えない』という暗号、『さようなら』じゃない。

本当に俺を「愛してる」のなら、どうして部屋に来ない?

俺が『契約破棄させて頂きます』とメールを打つ日を待っているのか?

まあ、部屋の前で待たれても困るけどね・・・来ないアイツと来るかもしれないアイツに、諦めと期待を抱く俺は秋永の腕に救いを求めていたのかもしれない。


秋永に抱かれるたびに確認する。

『アイツでなくてもいいじゃないか』と・・・。


「店で馴れ馴れしい態度はごめんだ」と言ったから、秋永は仕事中は一定の距離を置き、俺を抱きたければメールを寄越す。

これじゃ、アイツと変わらないなと可笑しくなった。


 ヒロに「俺が《SUZAKU》に行く事は、俺と怜二くんしか知らない事なのに秋永が知っていたようだ」と知らせたから、以前から盗聴器が仕掛けられているんじゃないかと疑っていた三木くんはそれを聞いて、早速調査を依頼した。『滝山クリーン』が清掃に入る日に盗聴器バスターを同時に入れて、清掃員を装って検査をさせた。

《シェーナ》にはソファーの下とコンセント型の物が2個。


「これじゃ、筒抜けだな」

「ああ」

「このまま放置するから、《シェーナ》で重要な話は一切しないようにしよう。泳がせて、一気に叩くから。華恵ちゃんはなにかわかったって?」

「秋永がいつも行く店のマスターが、突然仕事を辞めた事を不思議に思って『この不景気に大変だな?』と聞いたら『もう決まってるから、心配ない』って言ったそうだよ。うちに決まる前だ」

「そうか・・・ねえ山下くん、秋永がなにか企んでいるんじゃないかと疑ってて、どうして・・・その」

「部屋に入れたかって?」

「うん」

三木くんは心配そうに俺を見つめた。

「高田くんが、心配してたよ」

「大丈夫。情が湧いて離れられません、なんて言わないから」


アイツの薄っぺらな愛情が欲しかったわけじゃない。

俺は寂しかっただけだ。

自分のものだったアイツを奪われて、悔しかっただけだ。


「多分、俺の部屋にも盗聴器を仕掛けたはずだ。確かめるために、部屋から電話を掛けてもう一度華恵と《SUZAKU》で会うよ。今度はヒロも来る」

「いつ?」

「18日」

「わかった」


 2月18日《SUZAKU》

「20日から店の慰安旅行だから、後は頼んだよ」

「いいなあ!社長賞は最後の最後で持っていかれたからな」

「うちはスタッフ少ないからね!《シェーナ》よりも経費が掛かんないだろ?ごめんね!」

圭介くんは20日から一週間《SUZAKU》を閉めて、アルバイトも含めたスタッフ4名と恋人の福原輝也を連れて慰安旅行だ。


「こんな時に悪いね」

「いいよ、大丈夫。むしろ、行ってくれた方が暢気に見えていいかもしれない」

「そう?俺だけ悪いなあと思って」

「キャンセルする気もないんだろ?」

「まあね!だって、テルが楽しみにしてるもん」

って、その笑顔。綺麗に弧を描く唇は罪作りだ。俺の隣で常連の檜山さんが、圭ちゃんに舐めるような視線を送る。

「これ、輝也くんにお餞別。渡しといてくれる?」

「ありがとう!喜ぶよ!」



「アキ・・・本当に大丈夫?秋永ってオトコを部屋に入れてるんでしょう?」

片手を上げて帰るヒロの背中を見ながら華恵が声を潜めた。

「ああ」

「心配だわ」

「華恵ちゃん、俺、子どもじゃありません」

「でも」

華恵は気付いている・・・俺の目的に。オカマの勘は侮りがたし、だ。

「大丈夫・・・アイツとは手を切るよ。明日・・・会うからね」


 《SUZAKU》を出ると深々と冷えた空気が、ジャケットを通して肌に突き刺さる。酒も過ぎるほどは飲んではいないから、暖かい所から出れば震えがくるほどだ。タクシー乗り場でタクシーに乗り込もうとして、「こんばんは」と背後から声を掛けられて「やはり」と思いながら振り返った。

「秋永さん」

「やあ!」

「また『ご友人の部屋』ですか?」

「ああ、偶然だね。《SUZAKU》で飲んでたのか?」

「ええ」

「一緒にいいかい?」

「ええ、どうぞ」


嘘だ。

ヒロの報告は、秋永の嘘を明らかにした。

秋永が『友人の部屋』があると言ったマンション、滝山コート2号館のエントランスの防犯カメラに秋永の姿は映ってはいなかった。駐車場のエレベーターの防犯カメラにも勿論映ってはいない。念の為に圭介くんが住む1号館も確認したが、その姿は確認出来なかった。

「ご友人も人が悪いですね。終電の時間がわかっているのに、あなたに教えないなんて。それとも、あなたを帰したくない、から?」

「はははっ、そんな『友人』じゃないよ、アキ」

「ふふっ」


俺は「ここに来ない」秋永を期待し、「ここに来る秋永」を確信していた。


「話があるんだ」

「部屋で聞きましょう」


俺は秋永の張った罠に掛かる。

秋永は、俺の張った罠に掛かる。


ウサギちゃんにも、意地がある。

しかもウサギちゃんは、けっこう腹黒だ。


*****

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山下くん、身体張ります!頑張るなあ・・・!って、やっと第1話(2月18日)に話が戻ってきました!

   日高千湖

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本文中にある圭介と輝也のラブラブ旅行はこちら→Stop the season in the sun
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