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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

【11月お題SS】天使の本分

【11月お題SS】天使の本分



「リル、またお前か?」

天帝さまが頭を抱えた。隣に控える大天使ミカエルさまは呆れた顔で僕を見る。

「いくら下界のオトコの精気が美味いからと言って、毎日下界に下りてはならぬと何度も申したであろう?もう容赦はせぬ。罰として翼を折る」

「ええっ!天帝さま、それはあんまりです!確かに僕はミカエルさまの許可なしに下界に行きました。下界のオトコの精気は美味いから、我慢出来なくて。でも、今度からちゃんと許可を頂きますから!お許し下さい!」

叱られたって、美味いもんは美味いんだ・・・僕が誘うとヤツらはみんな悦んで僕のお尻に精気を注いでくれる。だからついつい我慢できなくて、毎日のように下界に下りてオトコを誘っていた僕。

僕は天帝さまの衣の裾に縋ってお願いした。翼を折るなんて、天使にとって一番恥ずかしくて厳しい罰じゃないか。

あんまりだよ!

「冥界に追い遣られたいのか?」

「イヤです!もっとイヤ!」

冥界に追われた天使の運命は聞くのも恐ろしい。それだけは絶対にイヤだ!

「天帝さま、ごめんなさい。もうしません!」

「リル、わかっているだろう?下界のオトコたちの精気はお前たちの栄養にもなるが、同時にその身に俗世の澱を取り込む事になる。澱が溜り浄化出来ずに黒羽の天使に変われば天上界から追放されるのだぞ?」

冥界に追われるのも、天上界から追放されるのもイヤだ!

「お前は天界門を抜ける為に門番を騙し、あろう事か『大天使ミカエルのお使い』と嘘を吐いて下界へと下りた・・・もう、許さん」

「天帝さま!もうしません!お願いです、今回だけは見逃して下さい!今度からミカエルさまの許可を頂いてからしか下界へは参りません」

僕は泣いて懇願したけれど天帝さまのお怒りは解けず・・・。

「リルの翼を折れ」

「イヤだ!お願いします、いい子になりますから!キャーーーッ!」



 こうして僕のご自慢の翼は根元からポッキリと折られ、無情にも地上に落とされてしまった。翼がなくては天上界へは戻れない。

「酷いよ・・・天帝さま」

途方にくれる僕を北風がからかう。

『やーい、翼の折れた天使さま』

『飛んでみせてよ、天使さま』

「煩いっ!黙れっ!」

憎らしい北風を避けようにも今の僕にはなんの力もない。試しに小石を浮かせてみたけれど・・・いつもなら軽々と宙を舞うのに、小石はほんの数センチ上がって空しく落ちた。

「あーあ」

これからどうしたらいいんだろう。

「寒いよぉ」

夜の公園のベンチに座って僕は途方にくれた。冥界の使い魔たちが僕の回りを飛び回り、髪の毛を引っ張ってイタズラしても、払い落とす気力もない。今までも翼を折られて地上に落とされた天使が何人もいたけれど、無事に天上界に戻れた者は2人しかいないって、ミカエルさまがおっしゃっていたなあ。

夜の公園には北風が吹き荒れて、裸の僕の肌を突き刺す。

「あーあ」

ため息を吐く僕の目の前がパアッと明るくなり、大天使ミカエルさまが現れた。

「リル」

「ミカエルさま!どうか、僕を連れて帰って下さい、お願いします!」

ミカエルさまは、綺麗な眉根に皺を寄せた。

「ミカエルさま、お願いします、どうか助けて下さい!」

「私は何度も注意しただろう?」

「ごめんなさい」

「今から、言う事をよく聞け。お前の性根が直らぬのは、前世の恨み辛みが浄化されておらぬからだ」

「前世の恨み辛み?」

「そうだ。天上界に『天使』として転生出来る者は非業の死を遂げた子どものみだと知っておるな?」

「はい」

「前世でお前は侵略してきた敵国の将に親兄弟を殺された。お前は見目が良いから敵国に連れて行かれて男の性奴となり無念のうちに死んだ」

初めて聞いた。僕たちには自分の前世の記憶がない。それは悲しい記憶だから天帝さまが封印なさるのだと聞いた。

「天上界に天使として生まれ変わってくる者は天帝さまの御恵みを受けて、その心に溜まった恨みも憎しみも悲しみも浄化されてしまうのだが、お前はそれが十分ではなかった。良いか、これからここを通る男がお前と家族を殺した敵将の生まれ変わりだ。その者の心を浄化せよ、それがお前が天上界へ戻る唯一の方法だ。期限は3ヶ月、その間に男の心を浄化出来ねば、お前は2度と天上界へは戻れない」

それだけ言うとミカエルさまは消えてしまった。

「ミカエルさまーっ!」


「浄化せよ」って、どうやったらいいんだよ?僕たち天使の役目は下界の人間の心を癒す事。浄化なんて出来ないよ。


そして僕は公園のど真ん中で前世の仇である男に出くわしてしまった。しかも、素っ裸で・・・。


キリッとしたいい男、好みだ。美味そうな精気が股間に漲っているのがわかる。

「なんだ?お前、裸じゃねえか。どうしたんだ?」

「わかりません」

「わからない?追い剥ぎにでも遭ったのか?」

「あ、あのっ」

「なんだ?」

「僕・・・行く所がなくて」

男は僕の身体を嘗め回すように見て、ニヤッと笑う。僕の折れた翼は彼には見えない。

「一緒に来るか?」

「うん」

男は僕に自分のコートを着せて、部屋に連れて行ってくれた。

「お前、名前は?」

「リル」

「女の子みたいな名前だな。ウリ専か?」

「ウリ専?」

「可愛い子だな、今夜は俺が買ってやるよ」

僕をソファーに転がして男が圧し掛かってくる。もちろん大歓迎だ・・・美味そうな精気をくれるオトコは、大好きだ。


男の名は加賀宗春・・・職業・ヤクザ。彼の部屋に転がり込んだ僕は男の心を浄化する方法もわからないまま、毎日加賀の欲情を受け入れた。

加賀の精気は味もパワーも極上で素晴らしく美味い。

僕の身体に取り込んだ澱は天上界にいれば天帝さまのパワーを自然に補給して、一日寝ていれば浄化されるんだけど、天上界に戻れない僕は澱を溜め続けるしかなかった。

1週間、2週間と経つうちに、男の精気はますます美味くなり僕の身体は徐々に弱っていった。


 加賀は優しい。

最初は常に殺気を帯びていて睨まれると怖かったけれど、一緒に住むうちに加賀の心が解れてくるのがわかった。少しずつ、自分の生い立ちや社会への不満を口にするようになり腹いせのように僕を乱暴に抱く事もあった。しばらくすると加賀の僕を呼ぶ声が優しくなり、彼に「リル」と呼ばれただけで僕の身体は蕩けそうになる。

やがて加賀は「好きだよ、リル」と、甘い声で囁くようになった。

だけど加賀の職業はヤクザだ。外で汚ない仕事をして来た時は使い魔が背中に付いてくるから、加賀が外でなにをしてきたのかを僕に教えてくれる。

『今日は2人殺したよ。山に埋めてきたんだよ』

そんな時の加賀は気が立っていて、僕を手荒に扱う。

僕には彼の心が荒れ狂っているのがわかった。僕を抱くことで彼の闇に落ちた心は穏やかに晴れるのだ。荒々しい加賀の精気は最高に美味くて、腹は満たされるが僕は余計に弱ってしまう。


「リル?具合が悪いのか?病院に行こう」

ミカエルさまが言った期限まで、あと1日。衰弱して歩けない僕を加賀がおぶってくれた。病院に行っても僕の身体は良くならない。

「寒くないか?」

「背中、暖かいね」

「リル、ウリ専なんかやめて俺と田舎で暮らさないか?」

「田舎?」

「そうだ、お前といると心が洗われる。今までたくさん悪い事をしてきた俺だが、お前のおかげでこの稼業から足を洗いたいと思うようになったんだ」

「そうだ、ね。いい、ね」

病院の看板が見えてきた。

「もうすぐ着くぞ」

「うん」

加賀の言うように田舎で2人で暮らすなんて、出来やしない。僕は天上界に戻れなければ砂になって消えてしまうんだ。

「加賀ーーっ!」

僕たちの背後から若い男の大声が聞こえた。

「てめえ!どこの組のもんだ!」

「親父さんの仇だ、死ねっ!ワーーーーッ!」

若い男は包丁を手に加賀に向かって走って来る。

「リル、危ないっ!うっ・・・」

僕をおぶっていた加賀は、逃げる事も出来ずに僕を庇って腹を刺された。倒れた加賀にトドメを刺そうと若い男が包丁を降り下ろす。僕は咄嗟に加賀の身体に覆い被さって彼を守り・・・何度も身体に包丁が刺さる。

たくさんの血が流れているのがわかった・・・「リル!リル!」と叫ぶ加賀の声。


もう・・・ダメだ・・・天使の力はもう、残っていない。加賀の傷を癒してやる事も出来ない。

天使、失格だなあ。

好きになった人間の心を浄化してやる事も、傷を癒してやる事も出来ないなんて。


「加賀、さん、好き、だよ・・・無事で、よ、かっ、た」

「リルーーーッ!」


加賀の瞳から溢れた涙がボトボトと僕の身体に落ちかかる。

「・・・さよ、なら」

サラサラと砂になった僕を、北風が泣きながらどこかに運ぶ・・・加賀さん、さよなら。




「ミカエル、リルの卵はこれか?」

「はい、天帝さま」

「そうか。やっと浄化に成功したな」

「はい。何度転生を繰り返しても転生した仇を恨んだリルですが、今度は上手くいったようです」

「これでリルの心も浄化出来た。あの男の心も浄められた」


下界の様子を映し出すモニターには、警察に連行された加賀宗春がこれまでの悪事の数々を自白する様子が映し出されていた。リルを失い打ちひしがれた彼は、涙を流しながら「リルは生きていますか?会わせてください!」と訴える。


「これであの男も、今度生まれ変わる時は真っ当な人生を送れるはずだ」

「はい」

天帝は満足そうに笑いながらリルの卵を撫でた。

「リル、次の転生の時はお前が慕っていたあの男と添わせてやろう」


天帝の声が聞こえたのか、リルの卵が七色に輝いた。



天使の本分は人間の心を癒す事、俗世で汚れた人間の心を浄化して転生させる為に自己犠牲を払う事。


リル、次の転生の時までおやすみ・・・。

*****

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【12月お題SS】豚骨ラーメンの奇跡

12月お題SS・豚骨ラーメンの奇跡


 今夜拾ったオトコは30代後半の自称・証券マン・・・本当か嘘かわからない。お堅い職業だって事はわかるけどね。もしかしたら公務員か、銀行マンってところか。

まあ、コイツの職業がなんだって良い。

エッチは下手じゃない、可も不可もなく70点の容姿に見合ったセックス。適当に感じさせてくれるし、あの店では初めて見た顔だったけどマスターとは知り合いのようだった。

顔が好きだったから一緒に店を出た。男同士でもOKなラブホに入って、脱がせたら意外とだらしなく垂れた尻にガッカリした。

まあ、オトコの後ろに興味ないし。俺が好きなのは前に付いてるモンだからな。前さえちゃんと使えれば良いんだよ、要するに。

で、佐藤と名乗るオトコを押し倒して、上に乗って腰振ってるってワケ。佐藤は恍惚とした表情で俺の腰を持って身体を支えていたが、終わりが近いのか下から突き上げる速度を早めた。

「くっ、あっ・・・あっ」

「イクッ」

「待てよ、もう少し、あっ・・・じぶ、んだけ、ずるいっ、ああっ」

「ダメだ、もたないよ」

俺の中を擦る抽挿が早くなり、佐藤の手は俺のモノを握ると忙しく上下し始めた。

「ああっ」

呆気なく果てやがって・・・足りねえよ。

「俺、もう一回ヤりたい」

「ダメだ、帰らないと。終電に間に合わない」

ムードもへったくれもありゃしない。さっさと起き上がってシャワーを浴びる佐藤の背中・・・もう少し鍛えろよ。っていうか、尻が下がってますけど?

見なかった事にしよう。

シャワーを浴びる彼の後ろから絡んで前に手をやる。萎えたモノを握るとパチンと手を叩きやがった。

「もう、無理だよ」

「つまんない、まだいいだろう?」

「嫁も子供もいんだよ、無理」

「あっそ」

ムカつくから、佐藤の手からシャワーベッドを取り上げた。

「おい、急ぐんだよ」

「ダメ、俺が先」

無視してボディソープの泡で身体中を洗う。

「ああ、もう!」


佐藤はシャワーから出ると携帯番号を書いた紙を俺に渡した。

「また、連絡してくれよ」

「しない」

「また、ヤろうぜ」

「もう、会わない」

無理矢理ポケットに捩じ込まれたメモ用紙は、先に出て行こうとする佐藤の背中に投げ付けた。

「あーあ、なんか足りない」


またさっきの店に戻って新しいオトコ拾うか?

ポケットに手を突っ込んだままラブホを出て、当てもなくブラブラ歩き出した俺。駅まで歩いて、終電に乗れなけりゃファミレスで始発を待つしかないか。


 駅に向かう途中で目に入ったのは博多ラーメンの赤い看板。

「あれ?この店まだあったんだ」

忘れもしない、アイツがこの店の味が好きで2人でよく食べに来た事を。

嫌な事を思い出した・・・忘れてたのに。勝手に海外青年協力隊に応募して俺を置いて行ったオトコ。

留守番電話に入っていた最後のメッセージは「待っててくれよ」。


「アホか」

手紙はおろか電話も寄越さねえ。今の世の中、海外だからって連絡取れなくなるなんてあり得ない。


セネガル?

アフリカ大陸のどこだよ。あそこら辺はエジプトしかわからねえよ。


あれから三年か・・・。アイツが帰って来た時に連絡出来ねえと困ると思って携帯の番号も、メールアドレスも変えてない。

もちろんアパートも変わってない。

変わったのは仕事かな?ていうか・・・本当にセネガルに行ったかどうかも怪しいもんだ。


それ程良い想い出ではないが、アイツの香り残る店がまだ頑張って営業していた事が嬉しくて、俺は吸い込まれるように破れた赤い暖簾をくぐった。

「いらっしゃい!」

「ラーメン一つ」

見覚えのある店主の顔。客は誰もいない。

汚いカウンター、座る所が破れて剥がれかかった赤くて丸い椅子。カウンターだけの細長い店は8席しかない。壁には、いつ貼られたのか想像も付かないくらい古い売れない演歌歌手のポスターや、遥か昔に見た記憶があるビキニのお姉ちゃんの焼けた肌。何年も前のビールのポスター、カレンダーは世界遺産で12月は雪景色の白川郷だ。手書きのお品書きは剥がれかけてる。油で汚れたそれらで、壁は埋め尽くされていた。


「変わらないなあ」

「ははっ」

店主が笑う。

「ずいぶん前に通って頂いてましたよね?」

「覚えてましたか?」

ちょっと、嬉しい。

「ええ、覚えてますよ。背が高い男性といつも一緒でしたよね?」

「・・・ええ、まあ」


博多ラーメンの名に恥じない、コッテコテの豚骨スープはアイツの好みで、俺は好きではなかった。豚骨独特の臭みが苦手で、アイツに合わせて「美味い!」って無理して食ってたなあ。

「はい、お待たせしました!」

半分に切ったゆで卵に紅生姜、ねぎは自分で好きなだけ入れて良し。胡麻と胡椒とこの店の特製のニンニクが効いた大辛のタレ。それと油で炒めた高菜漬けをドッサリ。アイツがトッピングしていた物を思い出して全部のせた。

麺を持ち上げてフーフーしながら、一口目を頬張った。


濃い。


油で汚れたテレビからはアナウンサーがサッカーの試合の結果を早口でまくし立て、店の中には俺の麺を啜る音だけが響く。


アイツ・・・どうしてるかなあ。

サッカー好きだったよな。サッカーボール持って行きやがった。


俺の好みの味ではない辛くて濃厚な豚骨ラーメンをスープまで飲み干して、身体は暖まった。心はますます冷えたけどね。

綺麗に飲み干したどんぶりの底に豚骨スープの証のようなザラザラした粒が残る。ここのスープを飲み干したのは初めてだ。

「ご馳走様でした!いくら?」

カラリと扉が開く。

「いらっしゃい!」

暖簾をかき分けて入って来た人物に俺は固まった。胃に収まったラーメンが逆流しそうだ。

「しょう、じ?」

暖簾をくぐって現れたのは、3年もの間音信不通の恋人・尚治だった。

どこの誰だかわからない黒人の横顔がプリントされた粗悪な生地のTシャツにダウンジャケット、汚いジーンズに大きなスーツケース。日本にいた頃は普通のサラリーマンだったのに・・・すっかりカジュアルダウンしてカラフルな帽子を被った男は、顔中を口にして笑う。

「聡!」

尚治の驚きは喜びに代わり、両手を広げ「会いたかった!」と叫び俺を抱き締めた。声のボリュームもセネガル仕様に変わったか?

「うわっ、なんだよ!放せっ!」

「ここに寄って良かった!さっき帰国したばかりなんだ」

「帰国早々にラーメンかよ?・・・俺に会いに来るとか、電話するとか、ないのかよ!」

「ごめん、ごめん!腹が減ってさ、まずは腹ごしらえしてからお前に会いに行こうと思って。このラーメン屋まだあったんだな!オヤジさん!久し振り!」


終電終わってんのに、その言い訳酷過ぎねえ?


「なんだ?お前のTシャツ」

「あっ、これ!セネガルの英雄と呼ばれてる人なんだ。俺が持っていった服は全部現地の人にあげてきたんだ」

「物々交換か?」

「まあね!」

「ラーメン!大盛りで」と注文するセネガル帰りを無視して、怒りに押された俺は店を出た。

「待てよ!聡!」

「待たねえよ!ラーメン食ってろ!ついでに俺の分も払っとけ!」

「酷いなあ、俺、金持ってねえんだよ!」

「じゃあ、ラーメンなんか食うな!」

尚治は俺の腕を掴んで放さない。セネガル行って馬鹿力も増したか?

「会いたかったよ、聡」

「ばあか!3年も音信不通で会いたかったもへったくれもあるか!アフリカで脳みそ溶けたんだろ?」

「溶けてないよ!ラーメンを食べ終わるまで待っててくれよ。ついでにラーメン代は自分で払えよ。俺、マジで金持ってないぜ?」

「やだよ」

「いいじゃないか!お前だってここのラーメンが好きだから来たんだろ?」

「ばあか!俺はな、こんなコッテコテの豚骨ラーメンなんか、大っ嫌いなんだよ!俺はあっさりした醤油ラーメンが好きなんだ!」

「知ってた・・・ついでに、お前どこのラブホに行ったんだ?」

「はあ?」

髪の匂いをクンクン嗅いだセネガル帰り。セネガル行ったら嗅覚が発達すんのか!?

「俺は俺の好きな物を聡にも好きになって欲しかったんだ。ここのラーメン美味いだろ?」

「アホか!?この自己中ヤロウ!俺はもう2度と豚骨ラーメンは食わねえよ!」


ヤツの手を振り払って、俺は駅に向かって走り出した。

アイツは追って来ない。そのかわり、大きな声で叫びやがった。


「部屋で待っててくれよ!ラーメン出来ちゃったから!」

「クッソーーーッ!」

豚骨ラーメンにも劣る俺の事なんか眼中にねえ!


「セネガルでライオンに食われて死んじまえば良かったんだ!」

「良い子で待ってろよ!」


暖簾の向こうに消えたバカの笑顔を思い出したら、3年に渡る放置プレイの不満なんか飛んじまった。

どうすりゃいいんだよ、俺。

アイツ帰国したばかりで金がないって言ったよな。俺のアパートまでどうやって来るつもりだ?


「クソッ」

Uターンしてラーメン屋の汚ったねえ暖簾を跳ね除けた。

「おらっ!戻ってきてやったぞ!」

大盛りラーメンの湯気の下、ニカッと笑うアイツ。


「3年も待てたんだから、10分なんてあっという間だろう?」

「・・・食い逃げで警察のお世話になりたくねえからだよ!」


すっかりセネガル時間が染み付いた尚治の横顔を見ながら、ヤり足りねえと思っていた事を思い出した。

明日は仕事も休みだ。


「もうなにも出ねえ」って言うまで、3年分絞り出してやるから、覚悟しろ!

*****

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【1月お題SS】早緑月に咲く

【1月お題SS】早緑月に咲く


 高校を卒業して10年目の節目の年。同窓会の案内状が届いたのは10月の初めだった。期日は年が明けて1月2日、午後5時から。正月休みに帰省してくる連中に合わせて同窓会を開催する事になったようだ。

『尚、準備の都合上12月10日までに出席・欠席に関わらず返信葉書をご返送下さいますようにお願い申し上げます』

紋切り型の文章の下の直筆のメッセージに俺の心は揺さ振られた。何気ない一言が往復葉書の上で躍る。


『元気ですか?絶対に顔を出して下さい。早緑A』


「どうすっかなあ・・・」


 『早緑A』は俺が好きだったオトコ。

 3年間密かに思い続けて、告白も出来ずに卒業を迎えた。高校を卒業して東京の情報系専門学校に進学しそのまま東京で就職した俺と、地元の信用金庫に就職した『早緑A』は卒業後なんの接触もなく10年の月日が過ぎた。

俺たちはそれ程仲が良いわけでもなかったが、片想いの神様は俺に3年間『早緑A』と同じクラス、という幸運をくれた。今でも大切にしているクラス写真を見ると俺の隣には必ず『早緑A』がいる。

俺たち2人は名字が『早緑』。読みも漢字も全く同じ『早緑(サミドリ)』。

珍名辞典に載ってそうな名字だから初対面のヤツには必ず「芸能人みたいな名前だな」と言われる。珍しい名字というのも良し悪しで、小学生の時は『佐藤』とか『鈴木』とかありふれた名字に憧れたものだ。

そんな珍しい名字のヤツがクラスに2人もいて、出席番号が必ず並ぶわけだ。新学期、担任の第一声は「お前ら親戚か?」だ。それもちょっと嬉しかった青春時代。「早緑!」と呼ばれて2人とも返事をするわけだから、1年の時の担任が付けたあだ名が『早緑A』と『早緑B』。それ以来俺たちはAとBで区別されていた。

全くの赤の他人、偶然の賜。父や本家のばあちゃんにも確認したが、「●△町の早緑さんなんぞ、親戚にはいない」と言われたっけ。当時は遠い昔のご先祖様が兄弟だったんじゃないか、とかロマンチックな想像をしたものだ。


早緑春喜(サミドリハルキ)・・・「早緑月に春を喜ぶ」なんて、あいつにはピッタリな名前だったなあ。3月生まれの彼。日焼けするとすぐに真っ赤になる白い肌、長い睫毛、小柄な彼には「美少年」という言葉がピッタリだった。


入学式が終わって教室に戻る途中で、隣を並んで歩く彼が言った。

「早緑月って1月の事だって、知ってた?」

歌うように教えてくれる彼を直視出来なくて、ぶっきらぼうに「当たり前だろ?」と言ったよな。それ以来、彼とは話し辛くなった。自分の性癖に気が付いていた俺は、彼を組み敷いて犯す夢を見ていたから。

『早緑A』に恋した俺は何度も何度も「早緑」という名字に感謝した。同じクラスになれば最初の席替えまで彼の後ろの席に座る事になる。白いうなじにドキドキし、プリントを回す彼の指に触れては良からぬ想像をしたっけ。


今では、夢のなかでも会う事はないが、甘酸っぱい想いは10年経った今でも埋火のようにチリチリと燃え続ける。


 2,3年前に同窓生から『早緑A』がまだ信用金庫に勤務していると聞いた。

もう結婚しただろうか?

父は5年前に退職した。転勤族で家も賃貸だったから、母が亡くなった後に俺が住んでいる社宅に移り住んだ。同窓会に行くとなればホテルの手配をしなければならない。

「メンドクサイ」

同窓会の葉書はテレビが置かれたキャビネットの上に放置され、忘れ去られた。頭の隅で鮮やかに生きていた『早緑A』の事も、忙しい日々に紛れて忘れていた。いや、叶わぬ想いに見切りをつけて故意に忘れていたのかもしれない。


「光秋、早緑くんから電話があったぞ」

「えっ?」

仕事から帰った俺に、食事の準備をしながら父が言った。

「高校の同窓会の出欠の返事が来てないって言っていたぞ。お前、まだ出していないんだろう?」

「あっ!しまった。忘れてた」

「早緑Aくんか・・・懐かしいなあ。よく『間違い電話が掛かってくる』って、母さんが言ってたなあ」

今日は12月15日だ。

「確かキャビネットの上に置いたはずだけど・・・あった!10日までに返送って書いてある」

少々埃を被った往復葉書。

「幹事はそれが来ないと困るんだよ。早く出して来い」

「欠席って言ってもらえば良かったなあ。電話番号は聞いてくれた?」

「聞いてないぞ」

聞いてくれれば良いのに。

「あっそ」


葉書には同窓会事務局のメールアドレスが書かれていた。その夜、考えた挙句に送信したのは『今回は残念ながら欠席させて頂きます』という欠席の返事だ。

今更、好きだったオトコに会ってどうする?「結婚しました」なんて幸せ全開の『早緑A』を想像して虚しくなった。


 翌日、出勤して会社でパソコンを開くと同窓会事務局からの返信が来ていた。送信者は残念な事に同じサッカー部だった古賀だ。

『早緑B!テメエ、俺が幹事やってるのに欠席なんて許さねえぞ!』

なんて乱暴な幹事さまだ。

『ごめん!親父も今はこっちに住んでるから、ホテルの手配とか面倒でさ』

古賀だから砕けた感じで送信した。するとすぐに返信が来た。


『早緑Bくんへ、ホテルの手配とか全部任せてください。早緑A』


『早緑A』だ。「どうすっかなあ」と、呟きながら俺の心は決まった。『出席』に丸印を付けて、昼飯のついでに郵便局まで歩いた。

せっかく誘ってくれてるんだ・・・『早緑A』の幸せそうな姿でも拝んでくるか。

「さぶっ」

そういえば、「今冬、最も強い寒波が日本列島を覆っています」と、ニュースキャスターが言ってたな。郵便局までは徒歩5分。ビル風が吹き抜ける大通りを避けて路地裏を抜ければあっという間だ。赤いポストの横には「年賀状はお早めに」と訴えるポスター。

今年の年賀状のキャンペーンの若い女優の横顔が『早緑A』に似ていたんだよな。

「年賀状も準備しないとな」

母親が亡くなってから、父も俺も適当になった。

クリスマスもなし、お節料理もなし。鏡餅もしめ飾りも飾らない。年賀状は大晦日に準備する。周囲は「早く嫁さんもらえ」と煩いが、そんなものオンナに興味がない俺には無用の長物だ。親父と2人の生活は味気ないが自由気儘。

昼飯に暖かいうどん定食を食べながら10年振りに再会する『早緑A』を想う。

結婚したのだろうか。早いヤツは18、9で結婚して子どもは3人なんてツワモノもいる。高卒で信用金庫に勤務なら、可愛い嫁さんもらってガキの1人くらいいたっておかしくないよな。

熱々のうどんを食べながら、早く正月が来ないかなあなんて考えてる能天気な俺がいた。


 翌日から『早緑A』からメールが来るようになった。

『同窓会の会場のホテルを抑えました』『煙草は吸いますか?』『携帯のメルアド教えてくれますか?』


もしかして、『早緑A』も俺との再会を楽しみにしてくれているのだろうか?

そんな楽しい想像を繰り返していたからだろうか。同窓会の前夜、夢を見た。

夢のなかの『早緑A』は学ラン姿のままで「おかえり」と笑った。俺は彼を抱き締めて「ただいま」なんて言う。そのまま2人で体育館の道具入れのマットに横たわり、俺は彼の学ランを乱暴に脱がせた。

「うっわ・・・」

何年振りだろう・・・夢精なんて。


心も身体も成長したが、俺の『早緑A』に抱いた想いは高校時代のままだった。


 ホテルのエントランスでタクシーを降りた俺を見付けたのは幹事の古賀だ。

「早緑B!久し振り!あけましておめでとう!」

「古賀!あけましておめでとう!」

駆け寄って来た古賀は「相変わらずカッコ良いなあ、お前」と背中を叩く。

「女子にお前がまだ独身だって言っちまったから、狙われてるぞ」

「そう?嬉しいね」

迷惑だけどね。しかし自分の性癖は誰にもカミングアウトしていないから、ここは嬉しそうにしないとな。

「女子の3分の2がまだ独身なんだ。お前の宿泊先がここだって言ったから、女子はみんな二次会に参加するって言ってる。二次会も頼むぞ」

余計な事を・・・。


受付には着飾った女子が2人。彼女たちは俺を見て嬉しそうに微笑み空気をざわつかせた。

「早緑Aは?」

「Aくんは中にいると思うわ」

「ありがとう」

「Bくん、名刺ちょうだいよ」

上目遣いで甘えた声。

「ごめん、今日は持って来てないんだ」

化粧臭い女子に用はない。俺は『早緑A』に会いに来たんだ。

会場に入って『早緑A』を探した。キョロキョロする俺に一番近いテーブルの女子から「ここ、空いてるわよ」と声が掛かる。

「ありがとう」

「早緑Bくん」

聞き覚えのある声。振り返った先にいたのは『早緑A』こと早緑春喜、間違いなく彼だ。俺は前日彼で夢精した事など包み隠して笑った。


「よう!いろいろ手配してくれて、ありがとう!」

「早緑光秋くん、おかえり」


昨夜の夢を思い出した。学ランではなく、スーツだ。髪型も夢のなかとは違う。しかし彼は「おかえり」と笑った。俺は思い切って一歩前に踏み出し、彼をハグした。


「ただいま」


周囲の女子が「きゃあ!」と声を上げ、『早緑A』は頬を赤らめた。


 最後に撮影した集合写真にも当然のように俺たちは並んで収まった。2週間後、郵送で届いた写真には晴れやかに微笑む『早緑A』と並んだ俺。そこだけが輝いて見える。


「また、会いたいな」


並んで座った『早緑AとB』。添えられたメッセージカードに俺のちっぽけな恋心は振り回される。


『来週、出張でそちらに行きます。会えないかな? 春喜』

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【2月お題SS】鬼は内

【2月お題SS参加作品】鬼は内


 昼食中、テレビを点けるとニュースキャスターが有名私立大学の入学試験が始まったと原稿を読んでいる。やがて画面が切り替わり、袴姿の芸能人が豆を撒いていた。

それを見た年老いた母は、遣る瀬無い目をして立ち上がった。


 母も思い出したのだ。

 毎年この時期になると思い出す・・・鬼は内。



「なっ、遥十(はると)」

「ダメだよ、兄さんがいる」

小声で制止するけれど秀一は手を止めない。口では「ダメだよ」と抗いながらも、心深くに孕んだ背徳感に圧されるように僕の身体は昂っていく。

「清五さん、怖えーもんなあ」

そう言いながら秀一は僕の制服を剥ぎ取ろうとする。

「兄さんは、怖くないよ・・・ダメだよ、あんっ・・・優しい、んだ」

 高3の兄・清五(せいご)の部屋と高1の僕の部屋は襖一枚で隔てられただけだ。6畳と4畳に分けられた畳の部屋は襖を取り外せば一つの部屋になる。兄が中学に上がる時に2人の部屋は襖で隔てられてしまったが、それまでは一つの布団で仲良く寝ていた。

「声、抑えろよ」

「無理・・・やっ」

兄に聞こえる、それが余計に僕の淫らな本性に火をつける。秀一は素早く僕を畳の上に押し倒し、腰の下に座布団を入れた。

「やっ、なんて余計にクるんだよな」

秀一の唇は胸の尖りをしゃぶり始めた。ここを刺激されると僕が堪らなくなって、彼の背中に縋り付いてしまう事もお見通しだ。

「あっ・・・ねっ、ダメっ・・・声、聞こえちゃう」

「『聞こえちゃう』なんて、可愛いなあ、そんなところも余計にクるんだよな。甘えん坊のは・る・と・くん」

秀一はピチャッと音をたてながら僕の弱いところを左右交互に責め続ける。

「やあっ!」

喉を反らせて声を上げてしまった僕に、秀一は唇に人差し指を押し当てて「シーーッ」と注意する。

「隣に声、聞こえるぞ」

秀一のアソコはすでに固くなっていた。

「や、だ・・・ねっ、も、今日はダメだよ」

秀一はテーブルの上のテレビのリモコンを手探りで取りスイッチを押した。そして、音量を次第に大きくしていく。


  聞こえても良いのに・・・聞こえれば良いのに。


放送中の番組は激しいカーアクションが売りの三流映画だ。クラッシュ音が真っ昼間の刺激的な行為を相殺してくれる。僕に圧し掛かっていた秀一は膝立ちになり自分の大きくなったモノを見せつけるように何度も擦って、「欲しいんだろう?」と聞いた。

「早く」

あれが僕のお尻の中を行ったり来たりするの、好き。秀一に「淫乱」と言われようが、構わないんだ。


  だって、僕は・・・。


 秀一の腰の動きが速くなり、興奮した顔で僕を見下ろす。

「ああっ・・・あんっ、んっ・・・ぐっ」

「ああ、堪らないな・・・遙十ん中、ギュウギュウ締めてくる・・・くっ」

「もっ、ダメッ」

秀一は僕のモノを握って激しく上下させた。

「ああっ、ん・・・やあっ」


もう、イく・・・あと、少し・・・その時だ。


ガガッと音がして兄の部屋と僕の部屋を隔てていた襖が開いた。

「うわっ!」

秀一が慌てて僕の中を激しく行き来していたモノを引き抜く。僕は突然の事に何が起きたのかわからないまま、中途半端に脱がされたシャツの合間から貧相な胸と先走りでヌメヌメと光る屹立を晒した。

「す、すみませんっ!清五さん!」

秀一は慌ててファスナーを上げてアソコを挟んだのか「痛てぇ!」と、叫んだ。痛みに顔を歪ませたまま、周囲に散らばった自分の制服を掻き集め、通学鞄を掴むと秀一は部屋から飛び出す。「お邪魔しました!」と階下で聞こえたけれど、僕はあまりの出来事に茫然自失。

「あ、の・・・兄さ」

自分の顔を直視出来ない僕に向かって兄は叫ぶように言った。

「みっともない!」

「兄さん・・・ごめんなさい」

今まで聞いた事のないような大声だった。温厚な兄から怒鳴られた事など一度もなかった。優しい大好きな兄だった。兄は足をダンダンと踏み鳴らし、襖の隙間から憎しみの籠もった目で僕を見下ろした。

「兄さん、ごめんなさい!」

「バカヤロウ」

静かな声がまるで審判のように下された。僕は兄の怒りに沸騰した目が怖くて、目を合わせられない。『みっともない』僕は、優秀な兄に見捨てられると思った。その瞳の奥に光るのは蔑みであり、失望であり、怒りだった。

「ごめんなさい」

哀れな者に送る瞳は怒りに滾っていた。

「ごめんなさい!勉強の邪魔をして、ごめんなさい!」

半泣きの僕を見て瞳は襖と共に静かに閉じられた。

「兄さん、ごめんなさい!もうしません!勉強の邪魔はもうしません!」

「バカヤロウ」

兄が怒ったのは受験勉強を邪魔したからだ。


センター試験が終わって、大学受験もいよいよ本番。有名な中高一貫校に通う優等生の兄は父の跡を継いで医者になる、みんながそう信じていた。

兄の部屋の明かりが僅かに差し込む襖の隙間を見ながら兄に嫌われてしまった事を呪い、僕は乱れた制服を整えた。

 
 その日を境に、兄は僕とは口をきかなくなった。兄がいるとわかっているのに部屋で秀一とSEXした僕に兄は怒っているのだ。勉強の邪魔をした出来の悪い弟を嫌悪しているに違いなかった。


 塾は夜9時まで。家から塾までは、自転車で約10分の距離だ。落ちこぼれの僕は週3回塾に通っていた。塾の帰りに神社で兄の合格を祈願する事が、僕が出来る唯一の罪滅ぼしだった。

古い鬼面を祀った小さな神社は百段程の石階段を上った先にある。

夜は階段に小さな外灯が灯り境内にも赤い提灯が灯されるが、夜にここを訪れる人はまずいない。夕方、野球部が階段をトレーニングに利用するくらいだ。以前、中学生が境内でたむろしてタバコを吸いボヤを出した事があったから、防犯の為に外灯が設置された。

階段の下で自転車を停め、階段を駆け上った。赤い提灯が灯る境内の奥にある本殿の前に立ち、お賽銭の5円玉を放り込んで手を合わせる。

「清五兄さんが医学部に合格しますように」

お参りを終えて本殿に尻を向けた時だ。後ろからタオルのような物で口を塞がれた。


殺される・・・恐怖が全身を支配した。

最近、この界隈では変質者が出ると噂になっていたのを忘れていた。


しまった!


口を塞がれたまま羽交い絞めにされ、僕は本殿の中に引きずり込まれた。あっという間に埃臭い本殿の冷たい床に押し倒されて男に組み敷かれる。

赤い提灯の灯りが僅かに届く薄暗い本殿の中、神社のご神体・鬼面を被った男が見えた。

「わあーっ!」

鬼面の男は恐怖の叫びをあげる僕の口にタオルを押し込んで塞ぎ、腕をガムテープで一纏めにして抵抗出来なくする。死の恐怖と戦いながら抗う僕の制服のズボンは乱暴に剥ぎ取られた。

「んんっ、んっ」


僕は殺されるんだ・・・まだ高校生なのに・・・恐怖に包まれ、涙が止まらない。


鬼面の男は脱がしたズボンを僕の顔に被せて、低い声で言った。

「大人しくしろ。殺したりしないから」

抵抗したら、殺されるかもしれない・・・鬼面の男の言葉を信じて、僕は全身の力を抜いた。鬼面の男は僕の身体を赤い提灯の光の差し込む中、乱暴に犯した。


 鬼は誰だったのだろう。

乱暴に扱われたようで、ヤった後は丁寧に身体を拭われていた。寒い、寒い冬の夜。気を失った僕を置いて、いつの間にか鬼は本殿から消えていた。


 僕は鬼の事を誰にも言わなかった。男が男にヤられたなんて、騒ぎになっても困るしね。ましてや、この田舎町では少々名の知れた診療所の息子の僕は、中学受験に失敗しただけで『出来損ない』のレッテルを貼られたくらいだから。

鬼の正体がわからないまま、塾に行こうとした僕は神社の前で鬼面の男に再び遭遇する。

「おい」

「・・・っ!」

神社の石段下の植え込みの中、鬼面が見え隠れする。鬼面の男は隠れていた植え込みの中から低い声で「殺されたくなければ、帰りに本殿に来い」と言って消えた。それからは塾の帰りには必ず神社に寄って、本殿の中で鬼面の男に抱かれた。

鬼面の男は一言も言葉を発しない。でも、わかるんだ・・・頂点に達した時の喘ぎ、息遣い、匂い・・・僕は知っている。


 その日は節分だった。

隣家の幼い姉妹が楽しそうに豆まきする声が聞こえてきた。幼い頃は毎年兄が鬼になり、僕が豆を撒いて・・・節分の日は楽しかったなあ。

僕が中学生になってから豆まきもしなくなった。

「鬼は外、鬼は外」と、幼い日を思い出し1人で豆まきの真似事をする僕を、兄が襖の隙間から見ている気配を感じた。


 その日の夜。

鬼面の男はいつもより荒々しく、何度も僕の身体を求めた。僕は何度も達しては意識を手放し、鬼面の男から開放されても直ぐには立ち上がれないほどに疲れ果てていた。


身体付き、匂い、息遣い・・・間違いない。


「兄さん・・・兄さんだよね?」


鬼面の男は僕の問いに答えずに衣服を整え、ご神体の鬼面を戻すと本殿を出て行った・・・その後ろ姿は確かに兄だった。

「兄さんっ、好きだ!」

そう叫んだ僕の声は本殿の中で空しく響き、ご神体の鬼面に吸い込まれていく。


僕は兄の事が好きだった・・・『兄』としてではなく『1人の男』として。

その後、鬼面の男は2度と現れる事はなかった。塾の帰りに神社に行き、本殿の扉を開けようとしたがそこはしっかりと施錠されていて中には入れなかった。薄暗い格子戸の向こうには、ご神体の鬼面が垣間見えるだけだった。


 国立大学の前期試験の日の朝、試験会場に向かう兄に恐々と声を掛けた。

「兄さん、頑張ってね」

「ありがとう・・・遥十、あのな」

やっと言葉を交わす事を許してくれた兄。僕の心臓は嬉しさに飛び出しそうだった。僕は震える声で「なに?兄さん」と必死の笑顔で返事をした。

「いや、いい」

僕を見て兄の顔は曇る。

「いってらっしゃい」

何か言いたそうに口元を動かした兄は、なにも言わずに玄関を閉めた・・・それが最後に見た兄の姿だった。


 試験が終わっても、兄は帰って来なかった。

家出か、事故か、事件に巻き込まれたのか・・・5日後、警察に捜索願が出されて捜査が始まったが、兄は見つからなかった。最寄り駅で電車に乗った後の行方は全く掴めなかったが、警察も両親も兄の突然の失踪の訳を「受験が思うようにいかなかったからだろう」と結論付けて「事件性なし」として処理された。

「医学部には浪人がゴロゴロいるんだ。一浪、二浪は珍しくない。1度の失敗で家出するなんて」と父は憤慨し、母は泣き暮らした。

「これを、見て」

差し出された紙切れを見て僕は愕然とした。滑り止めに受けた私立の医大は三校とも不合格だった。国立の医学部など、とてもじゃないが合格は望めない程に兄の成績は下がりきっていたのだ。

医大どころではない。国立の理系も危うい成績だった。

「私たちが追い詰めたのよ」


父の診療所を継ぐ為に、「医者になる」という目標を掲げて小学生の時から受験戦争に身を投じた兄。

兄の通う中学を受験して失敗し公立の中学へ進学、更に高校受験にも失敗して三流高校に通う僕。

両親の期待は、当然兄に集中していた。


「私たちが、悪かったのよ」


  そうじゃない。そうじゃない。

  兄がいなくなったのは僕の所為だ。

  あの鬼面の男は兄だった、間違いなく兄だった。

  「鬼は外」と僕が言ったから。

  僕が、鬼の正体を知ったから。

  僕が「好きだ」と言ったから。


僕は毎年「鬼は内」と言いながら豆を撒く。兄が帰って来られるように。



「山戸秀一さん」と名前を呼ぶと、作業着姿の秀一が診察室に現れた。

「久し振りだな」

そう言われて、カルテの日付を確認した。前回の診察日は平成25年2月3日。

「1年振りだな。たまには風邪でも引いてくれよ」

「ははっ、酷い医者だなあ!確かに、風邪でも引かなきゃ、お前には会いに来ないもんな」

「僕には会わない方がいいんだけどね。で、熱があるのか?」

「ああ」

辛そうな顔で、秀一はオデコを擦ってみせる。

「いつから?」

「昨日。娘がインフルエンザに罹ってる」

熱は38.5℃、家族からインフルエンザに罹患の疑い有り。

「はい、胸を出して」

ズボンからシャツを引っ張り出す秀一を見て、僕は高校時代の秀一の身体を思い出した。20年も経てば腹部にタップリと脂肪が蔓延り、結構イケメンだった秀一も三段腹のオジサンになっていた。

父が急死し、勤めていた大学病院を辞めてこの診療所を継いだのは一昨年の事だ。僕の机の上に飾られている古い家族写真を見た秀一が聞いた。

「お前の兄貴がいなくなって何年だ?」

「もう、20年かな。はい、吸って・・・吐いて・・・」

「医学部、良く頑張ったな」

「ありがとう・・・インフルエンザの検査をしよう」


僕はあれから猛勉強してニ浪したが医学部に進学した。何故かって?僕が医学部に進学したとわかったら、兄が帰って来てくれるかもしれないと思ったから。


秀一のインフルエンザの検査結果が出るまでの間、僕は過去に記憶を飛ばした。


  鬼は内。

  鬼は内。

  「鬼は外」なんて言っちゃいけない。


「残念!インフルエンザだね」

「やっぱりな。じゃあ、嫁もヤバイかな?」

「奥さんも発熱したらすぐに来て。夜中でも電話してくれれば大丈夫だから」

秀一にはその場でタミフルを渡して飲ませ、診療所の玄関まで見送る。

「遙十」

「なに?」

秀一は周囲に誰もいないのを確認して小声で言った。

「俺は知っていたんだよ。俺たちが部屋でヤってると、お前の兄貴がいつも襖の隙間から覗いていた事を。気配を感じて襖の方を見ると鬼のような顔で俺を睨んでいるんだ。俺は優越感に浸れた」

「えっ?」

「知らなかったのか?」

「・・・」

「お前の兄貴、お前の事が好きだったんじゃないか?」

「まさか」


嘘だ・・・僕も気が付いていた。襖の向こうから感じる荒い息遣いを、熱い視線を。僕は「気が付かない」フリをしていただけだ。


優しい兄が帰って来てくれるんじゃないかと期待込めて、節分には豆を撒く。

  
  鬼は内。

  鬼は内。


僕の掛け声は何年経っても変わらない、「鬼は内」。


「鬼面神社に浮浪者が住み付いたんだけど・・・清五さんに、ちょっとだけ似てたぞ」

「えっ?」


鬼は内。

*****

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ありがとうございました!

【3月お題SS】春宵一刻値千金

皆さま、こんにちは♪久々の午後1時更新ですwww

お引越し作業に手を取られて、なかなかお題SSに着手出来なかった日高です(笑)なんとか、駆け込みセーフ?ギリでUPさせて頂きます!

今月の幹事さまは牛野若丸小説館の牛野若丸さまです。お世話になります!ピチピチの学生さんです←羨ましいですwww

今月のお題は「桃」「白」「笛」の3つを必ず入れる事。今月も立ちはだかる4000文字の壁。

なにかしら「ジャンル」を付けて欲しいとの事でしたが、思い浮かびませんwww

「シリアス」?違うなあ・・・「悲恋」?かもね!「年下攻め」?(すみませんっ、サウさんっ!パス!!)


では、どうぞ♪


【3月お題SS】春宵一刻値千金


「桃缶、食う?」

「いらない」


桃缶食ってる気分じゃない。


もうすぐお前ともお別れだ・・・俺は布団の中から、桃缶を開けるお前の背中をジッと見ていた。今日、研修先から帰って来たお前は、2週間で少し痩せて少し大人びていた。

大きな背中。白いTシャツの襟から伸びる首は、俺の両手でも届かないくらい太くて日に焼けてる。長袖Tとか着古したシャツとかしか着なかったお前が、スーツを着た社会人1年生に変身した。

内定をもらって、スーツを買いに行った紳士服の量販店で「お兄さまですか?」と聞かれて、胸がギュッと鳴ったなあ。

明日の卒業式が終わればお前は、すぐに新幹線に乗って研修先に逆戻り。


俺はここに取り残されて・・・。

出会いと別れを繰り返し、人間は成長するものだ。そんな事はわかってるけれど、俺にとってお前は最後の「出会い」だったんだと思う。


だから、俺は笑顔でお前を送り出す。


なんてね・・・強がってても仕方がない。せめて最後の時だけは、笑顔で「じゃあな!出張とかでこっちに来る時は連絡しろよ」って、大人の台詞を準備している俺に、ちょっとだけ時間をくれ。


 お前の荷物が消えたこの部屋とも、もうすぐお別れ。2LDKのマンションは取り残される俺には不釣合いだから。この部屋も今月一杯で契約解除して、俺は6畳一間のワンルームにお引越し。


「この部屋とも、お別れだな」

「遊びに来いよ。俺は、ずっとここに住んでるから」

「うん。俺も、こっちに出張とか、転勤とかあるかなあ?」

あるわけないだろう?

「だな」

「土日は休みだから、会いに来るよ」

そう言ってくれるだけでも、マジで涙が溢れそうだ。

お前の輝く未来に、こんな田舎町は似合わない

「仕事初めてしばらくは、こっちに来る余裕なんてねえよ。とにかく早く仕事を覚えて一人前にならないと」

そう言うと、僅かにあいつの背中が揺らいだ。少しだけ後ろに首を回して聞いた。

「なあ・・・卒業式には、来てくれるよな?」

「・・・行くよ」

行くわけないだろう?卒業生代表として挨拶なんかしちゃうお前を穢すようで・・・そんな事は俺には出来ねえよ。


 もう春だというのに肌寒い。

お前の部屋だった場所には、研修先に持って行くキャリーケース一つしか残ってない。タンスも机もベッドも全部リサイクルショップで処分して「3千円にしかならなかった」と笑ったお前。

共同で使っていた家電は俺が「そのまま使う」と言って引き取った。

俺はお前が処分したタンスと机とベッドがどうしても欲しくて、それを買いに行ったんだよ。引越し先に入れて、お前の家具と一緒に新生活を始めるつもりだ。本当はお前の布団も毛布も枕も、全部、全部・・・俺が引き取りたかった。勝手に捨てやがって・・・バカ。


「寒い」

「うん、桃缶冷たかった」

お前が大好きな桃缶も、もう二度と買わないだろう。まだ残ってた買い置きの桃缶もお前の荷物の中に紛れ込ませたから、あれが最後の桃缶だ。


俺はもう、一生桃缶は食わない。


 ゴソゴソと布団に潜り込んでくる冷たくなったお前の肌が愛おしい。伸びてきた冷たい手が俺をギュッと抱きしめて「愛してる」と囁くのを聞くのも、今夜で最後だな。

楽しかった2年の月日はあっという間に過ぎて、新しい日々は俺からお前を奪っていく。俺が着ているジャージを引き剥がすあいつの手が冷たくて・・・俺はこの冷たい手を一生忘れられないだろうなと自嘲気味に笑った。

「なあ、程々にしてくれよ。明日の卒業式に、俺、行けなくなるだろ?」

「そっか」

嘘だ・・・本当は、朝までずっとお前の昂ぶりを俺の中に感じていたいと思ってる。

孕めるものならば孕みたい。

額にチュッと音をたてて落とされたキス。そう、お前はいつもそこから始める。額から、鼻先に右の頬、そして左の頬、最後に唇にやってくるはずの柔らかい唇は予想した場所には下りてこない。


「でもさあ・・・俺、2週間研修所に缶詰状態で溜まってんだよね」

「ヌかなかったのか?」

「毎晩、淳の事を考えてヌいてた」

「そっか」

嬉しい事を言うじゃないか。

「ねっ?2回までなら良い?」

「そうだなあ・・・あっ」

俺の返事も聞かずに、あいつの唇が俺の全身に降ってくる。首筋に噛み付いたあいつの歯型が一生消えませんようになんて・・・そんな願いも空しい。

それは一週間もしたら消えてなくなり、俺の首筋には違うオトコが付けた赤い痕が付くんだ。



「じゃあ、ちゃんと保護者席にいてくれよ?」

卒業生代表の栄誉を射止めたあいつは、他の者より少し早い時間に大学の講堂に向かう。

「ああ、わかってるよ。それと、俺はさっき会社から呼び出しがあったんだ。だから、少し早めに会場を出るからな」

「ええっ!新幹線まで見送ってくれるんじゃなかったのか!?休みだって言ったじゃないか!?」

「悪いな」

「何時までいられる?」

「そうだなあ・・・11時くらいまでなら」

「そうか・・・じゃあ、ここで。しばらくの間、お別れだね」

あいつはガックリと肩を落とした。

「卒業、おめでとう」

「ありがとう。行って来るよ。それと、毎日連絡してくれよ?俺も毎日メールするからな」

「わかった」

「来週の土曜日は、必ず会いに来るからな」

「わかったって!遅れるぞ」

「愛してる」

「俺も」


躊躇なく、言えたか?

あいつが不審に思わないくらいに、普通に言えたか?

誰か、教えてくれ。


キャリーケースを引きながらあいつは卒業式に向かった。マンションのベランダから、イマイチしっくりこないスーツ姿の背中を見送って愛しいオトコの未来を祝う。


「さてと・・・」


乱れたシーツを外し布団を畳む。あいつにはわからないように準備を続けていた引越しを敢行すべく、少々無理した身体を叱咤する。

俺の荷物は今から運び出す。


30分後、引越し業者がやって来て、あっという間に俺の荷物を梱包して運び出していく。

部屋の隅々に残った塵や埃の塊の一つ一つさえも惜しくて・・・。あいつの部屋に落ちている髪の毛やチリッとなった陰毛・・・全部、全部掻き集めてビニール袋に入れてしまいたかった。

ガランとした部屋の真ん中で、世界一の孤独を抱え込む。


携帯電話を買い換えた。番号を変え、メールアドレスも変えた。もちろんパソコンのアドレスも変えた。

勤務先に問い合わせれば俺の住所なんかすぐに割り出せるから、仕事も替えた。前の会社より給与も条件も悪いが、運良く社宅が2月初めに空きが出ると言うのでそこに決めた。俺が3ヶ月も前に仕事を替えたなんてあいつは知らない。

俺が与えられた社宅の部屋に、少しずつ自分の荷物を運んでいた事もあいつは気が付いていない。


本当の事を知ったら、驚くだろうか?

呆れるだろうか?

俺を捜すだろうか?


それとも、都合が良かったと思うだろうか?

それが良い、それが一番良いんだよ。


泣くだろうか?

いい女見つけて普通のお父さんになってくれ。


もう二度と会う事のないあいつを想って、俺はあいつのベッドに突っ伏して泣いた。


2年分の愛をありがとう。


解約した携帯電話には、あいつとの思い出が溢れんばかりに詰まってて、俺はそれを見たくても携帯電話を開くことすら出来ないでいた。


 あれから、1年。

毎日、あいつの事を思い出しては空しい日々は過ぎていく。すぐに忘れられると思っていたのにな。バーで知り合ったオトコと、あいつのベッドで寝た。

あいつの匂いが残っているマットレスの上で、あいつの声が残っている耳を塞ぎ、あいつの手の感触を憶えている身体を引き裂いて欲しかった。


キスを比べた。

身体を比べた。

何もかもが違うオトコは、機械仕掛けの人形にしか思えなかった。俺の上で腰を振っていた人形は、俺に熱を持たせることも出来ずに吐き出すだけ吐き出して去って行った。


あいつの肌を覚えてる。

あいつのキスを覚えてる。

いっその事、俺の記憶を全て奪って欲しい。布団の中で丸くなって、膝を抱えて毎晩あいつの名前を呼んでいる俺は、抜け殻でしかない。


寂しい俺は、今日もコンビニ弁当を片手に社宅に戻ってきた。

夜空には綺麗な朧月。公園から道路にはみ出た桜の枝には、開きかけの薄桃色の花が3分咲きだ。誰もいない公園のブランコが外灯に照らされて、独りの俺を嘲笑う。


「春宵一刻値千金、花有清香月在陰」


突然思い出した七言絶句の漢詩はどこで習ったかも忘れた。その先も忘れた。

まさに値千金だったあいつとの最後の夜をまた思い出す。中途半端に思い出した漢詩を何度も繰り返しながら、カンカンと靴音を鳴らし社宅の階段を上りきった。


突然食べたくなった桃缶の味を思い出した瞬間、俺の独りの世界が停止した。


「ただいま、淳」

「・・・」

「帰って来るのに1年掛かっちゃった!ごめん!」


春の宵は値千金。


春宵一刻値千金(春の夜は僅かな時間でもその値は千金である) 

花有清香月在陰(花に清らかな香り有り、ボンヤリと霞む朧月夜の美しさ)

歌管楼台声細細(楼台からは歌声と笛の音が微かに聞こえる)

鞦韆院落夜沈沈(屋敷の中庭でブランコが揺れ、夜は深々と更けていく)


★3620文字

*****

ご訪問ありがとうございます!久しぶりの午後1時更新でした。

春夜(蘇軾作)という漢詩です。

「春宵一刻値千金」という初めの句が妙に頭に残ってました。生きてて「値千金」と思える状況ってなかなかありませんよね。それは、やはり大事な人との時間だったりするのでしょうか?ウン十年生きてる日高ですが、まだ「値千金」と思える一瞬は訪れません。


春の宵、花の香りに誘われて庭に出てみれば、夜空には朧月。遠くの高殿では管弦の宴がたけなわ。微かに聞こえる音曲・・・昔の人の優雅なお花見が浮かんできます(宋代です、ピンと来ませんが平清盛がやってたのが日宋貿易でしたっけ?←調べろ!)
ここから先の解釈って、どうなんでしょうねえ?「鞦韆」とはブランコの事だそうです。「院」は屋敷、夜は深々と更けていく。うーーーん???庭に出たら好きな人がブランコでゆらゆらしてたとか?庭のブランコでゆらゆらしながら、余所の花見の音楽聴いてる感じ?なかなかロマンチックですが、ブランコの解釈がよくわからない日高でしたwww←じゃあ、使うな!


3月の幹事さま、牛野若丸さまお世話になりました~~ありがとうございました!

   日高千湖
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ありがとうございました!

【6月お題SS】ブラックスピネル

皆さま、こんにちは~穴掘って隠れたい日高です。

恥ずかしげもなく【6月のお題SS】に参加させて頂きました!今月の幹事さまは江成ゆうさまです。とても素敵なしっとりとしたエロいお話をお書きになりますwww

今月のお題は『雨の交差点シーンから書き始める』・・・皆さん同じシーンから始まるSSという事で、今回は参加しない方向で逃げて考えておりましたが、頑張ってみました。規定は4000文字でしたが、すみません少々オーバーです。

4315文字(ごめんなさい)

では、どうぞ!


【6月お題SS・ブラックスピネル】


 なんだ、その笑顔は。

俺が初めて見る顔。まるで梅雨が明けた後の抜けるような青空を見たような気がした。

白い横線が等間隔で並ぶ横断歩道の向こう側には、華やかな傘の花。透明のビニール傘の下、オトコ2人で相合い傘をするその姿に俺の思考は止まる。


幸せそうな笑顔。


傘の中の2人は俺に気が付く事もなく楽しそうに笑いあった。その姿を見ているのが辛くて、俺はクルリと後ろを向いた。数人の人を押し退けて、チッと舌打ちを受けながら無理矢理開いた道を進む。

パラパラと傘を打つ雨が恨めしい。

雨さえ降らなければ、道を変える事もなかったのに・・・。


 ここはとある宝石店。この商店街が出来た頃からここで商売させてもらってると聞いた。目の前で接客中の店長・松石は、ガラスのショーケースに前のめりになって彼の手元を見る男性に最高の笑顔を見せていた。

俺が拭き上げて顔が映るくらいにピカピカにしたショーケースが、彼の指紋で台無しだ。

高校時代の同級生だという男性は色白で華奢な印象の男だった。口角の上がった華やかな顔立ちの色男。

松石と「同級生」と言うからには、今年30歳・・・のはずだが、平日の午後2時という時間に彼はスーツを着るでもなく、派手なボタニカル柄のシャツにダメージジーンズ。足元はスニーカー・・・髪も明るい茶色。

明らかに普通のサラリーマンではない、水商売か?それとも販売員か?

「斉田にはこれくらいのがちょうど良いと思うぞ」

そう言って松石が取り出したのはテニスブレスレット。18金、ダイヤモンドは全部で2カラット。男性用というには少し細すぎるそれは、「斉田」と呼ばれた男性の手首にはピッタリだった。

「昔から、細いよなあ!」

「まあね」

松石が「斉田」の右腕にブレスレットを巻き付ける。斉田の手に触れる瞬間の松石の目の輝き。


ありゃ、惚れてるな。


「うわぁ、素敵だね」

斉田は照明に手をかざして、ダイヤモンドの輝きを瞳に受ける。

「これ、いくら?」

「こちらは39万8千円でございます」

ちょっと自慢げな松石の声。

「うっわー!無理無理!俺の安月給じゃ、3万円がやっとだよ」

斉田は慌ててブレスレットを外そうとする。

「分割でも良いぞ」

ちょっと楽しそうな松石の声。

「60回無金利でどうだ?」


出たよ・・・60回無金利。それは特別な上得意客や展示会場とかでしか提供しないはずだろう?自分の紹介の客とはいえ、良いのか?店長。

そいつ、分割でも払えるのかよ?


「月々いくら?」

聞かれて電卓を叩く松石の横顔に、俺は涙が出そうになる。

「ええっと・・・6千6百円くらいかな?」

「へえ・・・!それくらいなら俺でも払えるかも」

嬉しそうな斉田の頬が薔薇色に輝く・・・不思議な男だ。松石と同級生にはとても見えない。彼の方が4,5歳若く見える。スーツ姿の松石とカジュアルな服装の斉田では、見た目も印象も違うのかもしれないが、それを差し引いても斉田という男は若く見えた。

俺の僻みかもしれないが・・・。


 松石は俺の方をチラッと見て様子を伺うような仕草をしたが、電卓を叩き小声で斉田に耳打ちした。

「お前だから、特別に29万7千円で良いよ」

マジか?

「ホント!?」

「ああ、お勉強させてもらうよ」

なんと松石は、上得意客並みの値引き額を提示した。その上60回無金利・・・松石の今月の売り上げはそんなに悪かったか?毎月最低1千万円は売上げてるはずだが・・・。

「それだと、月々5千円くらいだよ」

「そうだなあ」

斉田の視線が他の商品にも移る。値引きしてもらえるとわかり、物欲に火が点いたか?

「ネックレスもいいなあ」と、ショーケースを指でトントンと叩き、ブラックダイヤモンドのネックレスを指差した。

「これは、カットが良いぞ」

松石が手にしたブラックダイヤモンドのネックレスは、安価な代用品とは格が違う。

「うわぁ、綺麗だなあ」

「だろう?そこら辺の安物とは、輝きが違うだろう?」

「・・・違いなんてわからないよ。でも、この前違う店で見たら1万円くらいだったんだよな」

それを聞いて松石は楽しそうに答える。

「1万円?そりゃ、本物のブラックダイヤじゃない。ヘマタイトかブラックスピネルだよ」

「ふうん、本物じゃないのか。ところで、これはいくらだ?」

「これは25万だ」

ショーケースから取り出されたネックレスは、松石が自慢するだけあってカットも良い。

「ダメだ・・・俺はブラックスピネルの1万円で我慢するよ」

「まあまあ、そう言わずに」と、松石は手招きする。斉田は素直に身を乗り出し、松石は嬉々として斉田の首にネックレスを掛けてやる。自分の首にネックレスを着けてもらった斉田は派手なシャツの首元のボタンを一つ外して大きく開く。

白い肌が露になり、松石の目に欲が灯るのを俺は見逃さなかった。

「似合う?」

「ああ、似合うよ・・・綺麗だ」

「マジで、欲しくなるなあ!」

松石が鏡を見せる。

斉田は鏡に映った自分の姿に惚れ惚れとした表情で、顔の角度を何度も変えてまるでモデルのように顔の表情も決めてみせる。

「似合うよ」

「そう?これは、いくらになる?」

再び電卓を取り出した松石の手元に、俺の視線は集中した。

「18万7千5百円だ」

値段を聞いても斉田は現実に引き戻されるどころか、自分の姿にご満悦だ。その隙に電卓を叩く松石。

「毎月3千円とちょっとで手に入るぞ」

「マジ?」

鏡から目を離さない斉田の頬に、松石の手が伸びる。

「なあ、今晩飲みに行かないか?」

「OK」

「これを、着けて来て欲しいな」

「そうだなあ」

「なっ?」

「どうすっかなあ」

「外してくれない?」と、松石の視線は首を突き出す斉田の白い首筋から胸元に移動し離れない。松石の手が斉田の首に伸びる。松石の手が斉田の後頭部に回り引き寄せた。松石と斉田の顔は急接近。


「なあ、晩飯付き合えよ」

「いいよ」

そんな会話が交わされた後、松石がネックレスとブレスレットを持って奥にいた俺の所に来た。

「これ、掛けで頼む」

「はい」

クレジット会社を通すのかと思ったが、松石は自分の売掛金として処理するように指示した。そいつ、回収出来るのかよ・・・?


 結局、ブラックダイヤのネックレスとブレスレットが入った紙袋を抱えた斉田を松石は笑顔で見送った。どうやら松石が自分で払う気らしいな。そう考えて俺は売掛伝票を切り松石に渡した。

絶対に騙されるパターンだよなあ。

「さてと・・・6時か。そろそろ店を閉めるか」

おいおい!そんなに早く閉めたら社長にドヤされるぞ?良いのか?

「はい、わかりました」

松石に俺の心の声は届かない。

俺はこれまでの鬱憤を晴らすかのように思いっきりシャッターを閉め店内に戻ると、ショーケースに鍵を掛ける作業をしていた松石がふと視線を上げた。俺の股間に目を向けて、呟く。


「あいつにも同じもん、付いてるんだけどね」


恋する視線はもう周囲が見えていない。

松石は俺の恋心なんかには気付かない、斉田には適わない。


「なんすか?変な店長」

「ははっ、気にするな。早く店を閉めようぜ」

「はい」


 社長の許可なく18時半には店を閉めて、松石は斉田との待ち合わせの場所にいそいそと出掛けていった。その後の2人がどうなったかは、翌日の松石の様子を見ればわかる。

その後も、斉田は時々店にやって来ては「これ、素敵だね。欲しいな」の一言で舶来高級腕時計や指輪を手に入れた。松石の売掛金は増える一方だ。とうとう社長に気付かれて、松石はお灸をすえられた。

金の切れ目が縁の切れ目とは、よく言ったもので・・・松石がもう売掛出来ないとわかると斉田は店には来なくなった。

「最近、斉田さん来ませんね」

「ああ」

沈んだ松石の声。

俺の中で「今が、チャンス」と声がする。

「店長、飲みに行きませんか?」

「お前と?」

「ええ」

「まあ、いいけど。俺、金はねえぞ」

「大丈夫です、ワリカンで!」

「じゃあ」

安くて、小汚い居酒屋で酔った松石は斉田の事を語りだした。

「あいつ、売掛にして一回も払わなかったんだぜ?全部、俺が払ってんだよ。なのにさ・・・『もう、会えない』なんて、酷えよなあ?」

「店長、お気の毒」

「だろ?」


 散々飲ませて、松石を誘惑した俺はとうとう松石と一つになった。夢のような時間だった。俺の腰を掴んで何度も打ち付ける松石の猛りが少々荒くねじ込まれた事も、キスが一回だけだった事も、ラブホ代を俺が払った事も・・・全部、松石が俺だけのものになるって思えたから・・・。

翌日から、俺たちは『恋人同士』になったが、有頂天の俺は松石の心に踏み込めなかったんだ。


俺は所詮、代用品だった。

安価なブラックスピネルだった。


ある日ふらりと店に現れた斉田が「ごめん」と笑うと、松石はブラックスピネルを必要とはしなくなった。俺は店に居辛くなって、辞めた。



 前から押し寄せてくる傘の花に逆らいながら、俺は傘を畳んで走り続けた。幸せそうな松石と斉田の笑顔なんか見たくなかった。交差点で鉢合わせなんか真っ平だ。

「お前は本物のブラックダイヤにはなれないんだ」と、横断歩道の向こうの斉田が笑っていた。彼らの笑顔から逃げるように走り続けて、もう走れないと思って立ち止まった誰もいない公園。葉が茂った藤棚の下で、涙か雨粒かわからない物をスーツの袖で拭く。

「まっ、てくれって、はっ、はっ、言ってんのに、はっ、はっ・・・おいっ!」

突然声を掛けられて、自分への呼びかけとは理解出来ない俺の目の前に走りこんで来たのは転職先の上岡だった。

「上岡」

上岡もびしょ濡れ。

「なに、やってんだよ!横断歩道で俺が手を振ってんのに、無視しやがって!」

近付いて来た上岡が俺の濡れた頭をバチンと叩く。

「痛っ!」

横断歩道の向こうには松石と斉田しか見えていなかった。

「もっ、走るの早ぇえよ!いきなり俺の顔見て走り出して、逃げんなよ!」

「逃げる?」

俺が逃げたのは、上岡からではないのに。

「腹立つなあ!」

手に持った傘をブンブン振って、雨水を切る上岡の姿に俺の頭は疑問符だらけになる。

「どうして、傘を差さなかったんだ?」

「お前が逃げるからだ!」

「逃げて、ない」

「はあ?」

「ごめん・・・上岡の勘違いだ。俺は上岡から逃げたんじゃないよ」

「じゃあ、どうして走り出したんだよ?」

「・・・」

俺を捨てたオトコに会いたくなくて逃げました、なんて言えない。

「泣いてるし」

「・・・」

上岡の手が伸びてきた。

「俺、ずっと・・・お前の事を見てたんだぜ」

冷たくなった頬に、上岡の指が触れた。

「・・・?」

「お前が中途入社してから、ずっと・・・好きだったんだ。だから、追い掛けた」

「・・・」

「心配じゃん?俺が手を振ってんのにいきなり走りだしてさ」

「・・・嘘」

「なあ、俺の事を見てくれないか?」


ブラックスピネルは本物のブラックダイヤになれるのかなあ。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごし下さいませ!

この話、4月のお題SSの参加作品として書いていたのですが・・・間に合わず(笑)5月に書き直して出そうとして、再び挫折www本当にギリギリなんですが、書き直して【6月お題SS】としてUPさせて頂きました~!

6月の幹事さま、江成ゆう師匠~遅くなって申し訳ございませんっ!江成さまの情報満載の素敵ブログはこちらから→えなりの

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ありがとうございました!

【7月お題SS】七夕のお願い

★皆さま~ご訪問ありがとうございます。今月もお題SSに参加させて頂きました。

すみません、朝から頭痛が酷くて「或いは、不埒な熱情」48話の推敲が進んでません。申し訳ないんですがこちらをUPです。


今月の幹事さまは牛野若丸小説館の牛野若丸さまです。

今月の試練お題は「風、魚、熱、切れ、勉強」の5つを全部使う事(詳しくは牛若さんのブログでご確認くださいね♪日高のオバサン脳には「魚=サザエさん」「勉強=カツオ」しか浮かびませんでした(笑)それでコレ?

牛若さん、素敵なお題をありがとうございます。無理矢理ぶっこむところが見たいんですよね( ̄∀+ ̄)キラッ

今回、ちょっぴり不思議系なのです。テーマはズバリ『ケモ耳』。では、どうぞ!!

★4424文字。すみません、オーバーしました!


【7月お題SS】七夕のお願い


 毎年7月になると、駅前の商店街では夜市が開かれる。

立派なアーケードがあるこの商店街は30年程前までは街の中心として賑わっていたが、郊外に大きなシネコンを併設した商業施設が出来てからはすっかり寂れてしまったそうだ。

今ではアーケード内のテナントの3分の1が空き店舗という惨状だ。よくあるシャッター通りってヤツ。それを打破する為に考えられたのが「7月夜市」だ。いつもなら19時に閉まってしまう店が22時まで開いてる。その上、各店はワゴンセールを開催して空き店舗の前には露店が並ぶ。

7月は毎週土曜日の夕方になると、浴衣を着た若者や親子連れが商店街を闊歩する。普段は閑散とした商店街に、7月の土曜日だけは人が集まって来てお祭り騒ぎとなり、この街の風物詩となっている。


 今、俺が手を引いているのはユータ。

ユータは慣れない下駄に苦労しているが、商店街に着く前からそわそわ、キョロキョロ。その仕草が可愛すぎて、俺の心をギューーーッと掴んで離さない。

「ねえ、ねえ、ゴンちゃん、金魚すくいしたい」

舌ったらずな話し方。はぐれないように手を繋いでいるのに、それでも不安なのか反対の手で俺のTシャツの裾をギュッと掴んでいた。

「ああ、いいぞ」

ユータは丸い目をクルクルさせながら、カラコロと軽快な下駄の音を響かせた。

「それから、それから、りんご飴食べたい。いか焼き、食べたい。たこ焼き、食べたい」

「いいけど。去年はたこ焼きが熱くて舌を火傷しただろう?気を付けろよ?」

「うん!だいじょぶ。ふーふーする。えっと・・・犬の風船、買ってもいい?」

去年は金が足りなくなって、犬の風船を買ってあげられなかった。

「もちろんだ」

俺は3ヶ月分のバイト代が入った財布を自慢げに見せて胸を叩く。

「ゴンちゃん、大好き」

「おう!任せとけ」

破壊的に愛らしい笑顔にクラクラしながら、俺たちは商店街へと急いだ。


 この日の為にバイトを頑張った。

ユータが着ている浴衣は、ユータが大好きな赤い金魚柄。藍地に赤い金魚の絵柄がユータに似合いそうだと思って、1年前のユータの可愛らしい姿を思い出しながら買った。お揃いの赤い金魚の団扇も買ったし、角帯も赤。歩きにくそうだけど下駄の鼻緒も赤だし。

 今日は一年に一度だけ、猫のユータが人間の姿に変身出来る日なんだ。ユータは不思議な事に毎年、7月の第一土曜日だけ人間の姿に変身出来るのだ。

どうして猫のユータが人間の姿になれるのかなんて理屈は俺にはわからない。きっとNASAでも解明出来ないような超常現象だ。

ユータは推定年齢・3才。

キジ猫のユータはある日ふらりとうちの庭に現れた。その時のユータは俺の両手に乗るくらいの小さな小さな子猫だった。ほわほわの産毛のような毛が生えた耳、ちょっとだけ切れたヒゲ。可愛らしい顔をブンブン振って、雨粒を飛ばしていたっけ。

ユータはいつの間にかうちの庭に住み着き、追い出しても追い出してもやって来て、とうとう人間の方が根負けした。野良猫だったユータに餌をやってるわけでもないのに、ご近所さんからは「野良猫に餌をやってる」と白い目で見られて、とうとう父さんが保健所に電話した。

保健所のおじさんに捕まって、にゃあにゃあ鳴いてるユータを見た母さんが「飼って良い」と許可してくれた時は飛び上がって喜んださ。

つぶらな瞳は、ビー玉のような綺麗な薄緑色。赤い首輪に小さな鈴を付けて、名前は『ユータ』に決めた。


 そりゃ、ユータが人間の姿になれると知った時は、顎が外れるかと思うくらい驚いたさ。

3年前の7月の第一土曜日、部活から帰ると俺のベッドがこんもりと盛り上がっていた。そこはユータの昼寝スポットだが、ユータにしては大き過ぎる。不思議に思って掛け布団を引っ剥いで、ビックリ仰天。素っ裸の少年が夏用の布団の中で丸くなって寝ていたのだ。

「・・・誰?」

小学6年生くらいの可愛らしい面立ちの少年、しかも素っ裸。

「にゃ・・・ゴン、ちゃ、ユ、タ」

「ユータ?嘘だろう?」

眠そうな表情の少年は確かに「ユ、タ」と言った。丸い瞳をパチパチと何度も瞬きして、右手で顔をゴシゴシする姿はなんとも可愛らしくて・・・。

「ユ、タ」

目を擦る「自称・ユータ」の頭には、ユータと同じキジ猫の猫耳がピコンと付いていた。ついでにお尻の尾骶骨辺りからは長いシッポが生えている。

「マジか?」

「ユ、タ・・・べんきょ、した」

「勉強?したら人間になれるのか?」

「した、べんきょ」

「そうか・・・マジか?」

俺は猫が人間に変身するなんて信じられずに、自称・ユータの耳をグイッと力任せに引っ張った。


いったいどんな勉強したら猫が人間になれんだよ?


「にゃっ」

「本物だ」

「ユ、タ、痛い」

「ごめん」

「ユ、タ、よいち、いく」

「えっ?」


そうだった・・・友だちが部屋に遊びに来た時に「彼女と行くなんて、羨ましいよなあ!」と夜市の話題で盛り上がったんだ。その時、俺は確かに言った。彼女がいない俺は、『ユータでも連れて行くかな?』って・・・。


「もしかして、俺と夜市に行きたくて人間になったのか?」

「にゃっ」

丸い目が思いっきり細くなり、笑うと赤い唇の合間から尖った犬歯が露になる。可愛い耳がピクピクッと動いて、真っ直ぐに伸びた尻尾がヒョイヒョイと左右に動く・・・そういうとこだけホントに猫だ。


 それから毎年、ユータは7月の第一土曜日だけは人間の姿に変身するようになった。ただ、尻尾と耳はどうしても隠せない。ユータによれば「べんきょ、してない」らしい。尻尾は服を着れば誤魔化せるし、耳は中折れ帽を被せれば隠せる。こうして3年前から、ユータを連れて夜市に行くのが俺の楽しみとなった。


 アーケードの中はすでに大勢の人で賑わっていた。

「ユータ、手を離すなよ」

「うん」

商店街についてすぐに、高校の同じクラスの女子に掴まった。

「ゴンちゃん!」

「坂田」

大きな朝顔柄の浴衣を着た坂田より、ユータの方が可愛い。坂田はユータを見て、不思議そうな顔で聞いた。

「見かけない子ね」

「親戚の子なんだ」

「ふうん。あっ、この浴衣。どう?」

「うん、似合ってるよ。可愛いね」

「これ、家庭科クラブで作ったのよ」

「自分で縫ったのか?」

「そうよ」

坂田は自慢気にクルリと回って見せた。

「中央の舞台で、家庭科クラブ全員で浴衣をお披露目して踊るから、見に来てね」

「おう!」

坂田に手を振っていると、ユータがTシャツの裾を引っ張る。

「どうした?ユータ」

「ゴンちゃん、ユータ、可愛い?」

「うん!可愛いぞ!」

「うん!」

マジ、可愛い。

「金魚すくい、する」

「よし!行こう!」


 水が苦手なユータはビクビクしながら、必死で金魚を追い掛ける。金魚が掬えないとユータは手を突っ込んで金魚を掴んでしまうから、俺は気が抜けない。何枚もポイをダメにして、ようやく掬えた赤い金魚を袋に入れてもらい、大きなスーパーボールを買った。

「これ、遊ぶ」

「家に帰ったらな。ここで遊んだらなくなるから、ダメだぞ」

「うん」

赤い金魚が入った袋を突っつきながら、ユータが笑う。

「金魚、美味しい?」

「食べちゃダメだ。『可愛い』、だろう?」

「うん、可愛い」

金魚より他の浴衣の女子より、ユータが一番可愛い。


 アーケードの中央にある舞台の前のベンチに座ったユータは、たこ焼きといか焼きをふーふーしながらペロリと平らげた。

「ゴンちゃん、足、痛い」

「えっ?見せてみろ」

下駄に慣れていないから、鼻緒があたる部分が赤く腫れている。

「俺、薬局に行って絆創膏を買ってくるから、ユータはここでりんご飴を舐めてろ。迷子になるから、ここから離れるなよ?」

「うん!」

ユータを一人にするのは不安だったが、薬局は目の前だった。薬局に駆け込み、絆創膏を探してレジに並ぶ。特売の虫よけスプレーを買う人が4、5人列を作っていた。ユータの事が心配で、ソワソワしながら待つ事5分。舞台の方から『恋するフォーチュンクッキー』が聞こえてきた。坂田が言ってた家庭科クラブの奴らだな。

やっと支払いを終えて、走ってユータの待つベンチに戻ったが、肝心のユータがいない。

「ユータ?」

ユータが座っていたベンチの下には赤い鼻緒の下駄が置き去り。

「ユータ?」

もしかして、猫に戻っちゃった?去年まで、午前0時までは大丈夫だったじゃないか!?

「ユータ!」

周囲の人の視線は舞台に集中している。

「ユータ!どこに行ったんだよ!」

「ゴンちゃん」

隣のクラスの安藤が声を掛けてきた。

「なあ!金魚の模様の浴衣を着た可愛い男の子、見なかったか!?」

「ああ、その子なら、あそこ!」

「えっ?」

安藤が指差す先には舞台。浴衣姿の坂田たち、家庭科クラブの連中が『恋するフォーチュンクッキー』を踊っていた。

「ユータ!」


舞台の真ん中で『恋するフォーチュンクッキー』踊ってんじゃねえよ!いつの間に覚えたんだよ!?完璧な振り付けに呆れながらもユータのキレッキレのダンスに感心した。


「男の子よね?」

「そうだよ」

ダンスに夢中になるあまりに、ユータの帽子がコロリと落ちた。

「ねえ!猫耳付けてる、可愛いーっ!」

興奮気味に俺の肩を叩く、安藤。猫耳カチューシャと勘違いしてくれて良かったよ。


 曲が終わって、裸足のユータは帽子を手で押さえながら走って俺の所に戻ってきた。

「ユータ、心配したんだぞ。ここにいろって言っただろう?」

額から流れる汗を吹いてやりながら、俺は少し怒った声で言った。

「ゴンちゃん、ごめん。ユータ、踊った」

「帽子、脱げてたじゃないか」

「ごめん」

「足、出して」

足の親指と人差し指の間に絆創膏を貼ってやる。俺が怒っていると思ったユータの瞳から、大きな涙がポロリと落ちた。

「怒ってないよ。ダンス、上手いな」

「うん、テレビ観た。べんきょ、した」

「そっか。犬の風船買って、帰ろう」

「うん!」

犬の風船と七夕飾りのセットを買って家に帰る途中で、肉刺が潰れ痛くて歩けなくなったユータは下駄を手に持って裸足で歩く。

俺が買った七夕飾りのセットを指差してユータが聞いた。

「これ、食べる?」

「これは、食べないよ。ユータ、短冊には願い事を書くんだぞ」

赤や青のカラフルな色の短冊を見たユータが、首を傾げながら目を丸くして聞く。

「ねがいごと?」

「願い事って言うのは、例えば母さんがお刺身くれますようにとか、ユータがこうなったら良いなって思う事だ。なんて書く?」

「早く、人間に、なりたい」

「そっか!」


 夜市の翌日、猫の姿に戻ったユータは犬の風船を猫パンチで攻撃してボロボロにした。水槽の中で赤い金魚がヒラヒラ泳いでいるのをじっと見ていたが、我慢出来ずに食べちゃうし。特大のスーパーボールを追い掛け回して母さんに叱られた。笹がなかったからリビングの観葉植物に飾った短冊も、風でヒラヒラする度にじゃれて破いてしまったのは言うまでもない。

今年も夜市、楽しかったなあ。ユータは来年も人間になれるかなあ・・・なんて思いながら、俺はユータを膝に抱き上げた。


「なあ、ユータ。来年も夜市に行こうな?」

「にゃーーぁ」


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごし下さいませ!

今年の7月7日は土曜日じゃないだろうがっ!?ってツッコミはご容赦願います(笑)

すみません、頭が痛くて・・・こっちの方が推敲が出来てたので、予告なしで「或いは、不埒な熱情」お休みです。

★拍手鍵コメ・fさま、ゆりさま~「或いは、不埒な熱情」47話のコメント欄にて、拍手コメ・蝶丸さま~「待つ夜ながらの有明の月」79話のコメント欄にてお返事書かせて頂きました!ご確認くださいませ!

   日高千湖

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ありがとうございました!

【7月お題SS】七夕のお願い、一年後

こんにちは~日高です。

先日、「【7月お題SS】七夕のお願い」をUPしましたが、続きを書きたくなって、お調子者なので書いてしまいました。すみません。お題SSの規定は前作と同じ「風、魚、熱、切れ、勉強」の5つを全部使う事です。幹事の牛野若丸さま、ギリギリでUPしてすみませんwww


【7月お題SS】七夕のお願い、一年後

★一応18禁かと思われます。年齢に達しない方、表現がお嫌いな方は回れ右でお願いします!




 明日は7月の第一土曜日。

 1年振りにユータに会える。去年の可愛らしいユータの姿を思い出しながら、俺はベッドに入った。

そういえば、今までは昼過ぎに部活を終えて家に戻るとユータは人間の姿に変身して待っていた。4年目の今年・・・俺は大学受験を控えて部活は卒業した。3年間部活を続けて、たいした実績もなかったが、雨の日も風の日も風邪の日も休まずに学校に通ったから、担任からは「推薦出来るだろう」と言われて、ホッと一息。


 明日を思ってワクワクしながら目を瞑ったが、眠れない。

「ユータ」

「にゃ」

俺の足元で丸くなっていたユータが顔を上げた。我が家に来て4年目のユータはすっかり大人になり、近所でも有名な美猫に成長した。

「明日、変身するんだろう?」

「にゃ」

「大丈夫か?お前」

寝ていたユータを無理矢理抱き上げて、寝ぼけ眼の間抜け顔の頬をムニュと摘む。

「にゃあ」

迷惑そうな顔で繰り出す猫パンチはヘナヘナで当たらない。

「おやすみ」

ユータの顔にチュッとキスしてから横になった。

「早く、明日にならないかなあ」

「にゃ」

「おやすみ」


 夢を見ていた・・・俺はすっごい美人に成長したユータとデートしている。ユータは雄のはずなのに、なぜか今年はFカップのダイナマイトバディのお姉さんに変身してくれた。美人のお姉さんに変身したユータは赤い金魚の浴衣の裾を捲くって俺をベッドに誘う。

俺に異存があるわけがない。当然「お願いします!」とベッドに飛び込んだ。

「ひひひっ」

「おい!」

「あはははっ、ユータ」

「ミノル!」

「ユータ・・・あっ、そんなとこ・・・あっ・・・」

「ゴン、起きろ!」

「わっ!」


父さん?

部屋は真っ暗だ。

カーテンの隙間から外灯の灯りが差し込んで、俺は自分を起こしたのが父ではないと知る。


「誰?」

薄明かりの中、ベッドで寝ている俺の目の前には、瞳が異様にキラキラと光るイケメンのお兄さん。

「俺だよ、俺。ユータ」

「ユータ?」

「そう」

まさか、去年までのユータじゃない。声が違う。去年のユータはもっと可愛らしくて舌足らずだった。しかし俺の目の前にいるのは、どう見ても俺より年上の超イケメン。キリッとつり上がった大きな瞳が光を反射して不気味な輝きを放つ。

「ユータ?違う、だろ?」

俺は慌てて、隣で寝ていたはずのユータを手探りで探した。

「ユータ?」

「俺が、ユータだよ。おまえ、猫の4歳って人間で言うと何歳かわかってるのか?」

そういえば、聞いた事がある。実年齢の何倍って言ってたっけ?

「何歳?」

「男盛りの28~32ってところかな?」

「ふうん・・・って、どうして今年はこれ?」

「だから!去年の俺にはあれが限界だったんだよ」

限界って。確かにユータは『べんきょ、した』って言ってたけど。じゃあ、ちゃんと勉強してたら人間の年齢相応に変身してたって事か?

「ええーーっ!俺、可愛いユータが良かったんだけど」

「ブツクサ言うなっ!近所の雌猫はみんな俺から声を掛けられるのを待ってるんだぜ?」

そういえば、雌猫がサカリ期に入ると家に集まってきて煩いって、母さんが言ってたな。

「今年からはちゃんとこれだから、心配すんなよ」

「心配って。ねっ、前のユータになってよ」

「バーカ、そっちの方が難しいよ」

自称・ユータが長い足で俺に蹴りを入れる・・・こんなやさぐれたユータはユータじゃない!それに、あと4、5年もしたらおじいさんじゃん!?

「マジで?」

「マジで!諦めろ」

自称・ユータが俺の鼻を思いっきり摘む。

「痛っ!じゃあ、金魚の浴衣は?」

自称・ユータは鼻で笑った。

「はん!あんなもん、着られるか!お前、なにか服を買って来いよ」

「猫耳が可愛かったのに」と言うと、自称・ユータは頭からピコンと立派な猫耳を生やしてみせた。

「ほら、ご希望通りに耳だけ残してやるよ」


なんだ、その不遜な態度は?俺の可愛いユータを返せ!

しかも・・・例によって素っ裸だし!自称・ユータの股間には立派な雄の印が付いていた。去年までのユータのはこんなに大きくて立派じゃなかった。しかも、自称・ユータは股間に付いてる立派なイチモツをおっ勃てて俺の身体に摺り寄せる。


「どけよ!」

「チッ、可愛くねえな。ゴンのクセに」


うちに遊びに来る友だちの真似をして、可愛らしく舌足らずに「ゴンちゃん」って、呼んでたのに。


「だいたい、どうして猫が人間になれんだよ!」

「お前、町名の由来を知らないのか?」

「知ってるよ、それくらい!」


 昔から語り継がれている『猫姫さま伝説』。

昔々、この地方を治めていた領主の娘・松姫が恋をした。若者が松姫の元に通うようになって、松姫は赤ちゃんを産んだ。しかし生まれた赤ちゃんはキジ猫3匹。お殿さまは怒って若者を捕らえ牢屋に閉じ込めたが、なんと若者は化け猫だったのだ。化け猫は牢の隙間から逃げ出して、生まれた子猫を咥えて山に逃げてったってお伽噺。


「もしかして・・・そのお姫さまの?」

「そっ。あの話に出てくる若者は俺みたいに人間に変身した猫だったんだ。この町のキジ猫はみんな、お姫さまが産んだ子猫の子孫なんだぜ」

「へえ!」

って、感心してる場合じゃない!

「どうして去年までは小学生だったんだよ?」

「勉強不足ってやつ」

ユータはペロリと舌を出して見せた。

「勉強不足のままで良かったよ」

「バーカ!この俺さまがわざわざ人間に変身してやってんだぞ。ありがたく思えよ」

「生意気だぞ!ユータのクセに!」

「なんだと?」

自称・ユータはキラリと光る瞳を細くして、舌で赤い唇をグルリと舐めた。その表情は思わず息を呑むくらいエロくて、俺は生唾をゴクンと飲み込んだ。

「強気のゴンちゃんも可愛いね」

「はあ?」

飼い猫から『可愛い』なんて言われる筋合いはない。

「明日から、ユータの餌は安いのにする」

「はあ?だいたいあの、カリカリしたやつは美味くねえんだよ。あんな物食わせるくらいなら、ご飯に味噌汁ぶっ掛けてくれって、ママさんに言っとけ。2丁目の永田さんちは高級なツナ入り缶詰だぜ?」

「永田さん?ああ、永田御殿か?」

「そう」


俺は町で一番大きくて豪華な家の門扉を思い出した。門の向こうに広がる芝生の庭には大きな犬が3匹も放し飼いにされてるセレブなお家。


「なあ・・・もしかして、永田さんちの血統書付きマンチカンが生んだ足が長いマンチカンって・・・もしかして」

「そっ!俺の子」

あっけらかんと白状した自称・ユータ。

「う、嘘?」

「ホント。なあ、ミノル。永田さんちの子猫はどうでもいいだろ?」

「なっ、なんだよ」

「俺さあ、ミノルの事が大好きなんだぜ。毎年、お前の為に変身してたんだぜ」

「あ、ありがと。来年から、もう猫のままで良いかな?」

「ふざけんな!俺は七夕のお願いしたんだからな!」

去年のユータのお願いは『早く、人間に、なりたい』、確かにそう言った。

「あれは『早く自由に人間になれるようになりたい』って言ったんだぜ?」

「はあ?」

勉強不足だな、完全に。要するに人間の言葉を上手く操れずに言葉が切れ切れになったって事か?

「俺はミノルとエッチな事したくて、人間に変身する術を覚えたんだからな」

「ええっ?」

ユータは一気に間合いを詰めて、俺の身体を押し倒した。

「うわっ」

ユータは赤い舌をペロリと出して見せて、「ミノルのアソコ、舐めたい」と笑う。薄緑色の瞳が野生のトラのように輝いて、真っ赤な舌が俺の頬をベロッと舐める。

「わあっ、止めろ!ユータ!」

ザラザラした舌は猫特有のものだ。

「止めない」

「嫌だよ!」

俺の「嫌だよ」なんかユータは聞いてなかった。あっという間にTシャツを脱がされて、赤い舌が身体を這う。

「わあっ」

「ミノル、色気ないなあ。彼女も出来ねえもんなあ」

「放っておいてよ!」

俺は可愛いユータで満足なんだよ!

ベロリベロリとユータの舌が俺の身体を舐めまくる。胸の左右についてる小さな粒をユータの尖らせた舌でツンツンされて、俺は・・・。

「うわあっ・・・ああっ」

「やっと色っぽい声が出るようになったな」

「なに言ってんだよ。止めてくれよ!」

「止めない。俺は、ミノルとこうするのが夢だったんだ」

「はあ?」

「本当は七夕のお願いにそう書いて欲しかったんだけど」

「なんだよ!」

「長い文章を言葉に出来なかったんだよ」


言葉の勉強はぜんぜん出来なかったユータだったが、こっちの方は出来過ぎで、気が付けば俺は丸裸にされてユータの絶妙な舌技に翻弄されていた。

ユータの指が、後孔に侵入してきてピチャピチャと卑猥な音と共に俺の耳をも犯す。


「ユータ、あっ、ああっ」

「ミノル、挿れて良い?」

大きく成長したユータの凶器が俺の太股にグリグリと押し当てられる。

「ダ、メ」

「ダメって言っても、挿れるし」

ニヤッと笑ったユータは俺の足を大きく開かせて、自分のモノを後孔に押し付けた。

「やめろっ。近所の、雌猫が待ってんだろっ!わっ・・・ユータ」

先端がグッと押し入ってきて、ユータの超絶舌技で緩んだトコロに猛りがめり込んでくる。

「ああっ」

「うわっ、狭い」

ユータは俺の胸の赤い粒を指で捏ねて、もう片手で天を向いた俺のモノを握った。

「わっ・・・触るなっ、あっ、ああっ」

少しずつ中に入ってくるユータの猛りは太くて、熱くて・・・ヒリヒリとした痛みさえも伴っていた。

「ユータ、痛いよ」

半泣きになって手を伸ばすと、汗ばんだユータの頬が手に触れた。

「ごめんな、ミノル。でも、俺はずっとミノルに恋してたんだぜ?」

「マジ?」

「うん」

ユータの唇が優しく俺の唇を覆う。初めてのキスだった。それを猫ごときに奪われ、いやそれどころじゃない。お尻の貞操も奪われて、情けなくて涙が出てくる。

「どうして泣くんだよ」

ユータがザラザラの舌で涙を舐め取った。

「情けないからだよ」

「なんで?」

猫だから、理解出来ないのか?

「俺、男なのに」

「あのなあ!俺はミノルのことが大好きなの。わかる?人間って、頭が悪いな」

「はあ?」

「好きだから、男だからとか関係ないじゃん?」

「節操なさ過ぎ!永田さんちの子猫のパパなんだろう?」

「俺の子猫なら他にもいるぜ?」

「ええっ?」

「でも、人間はミノルだけだからな」

「はあ?」

ニヤッと笑ったユータは俺の腰を掴んで、勢い良く腰を打ち付け始めた。

「うわっ」

俺はこんなの初めての経験ですっかり動転してしまっていた。「止めろ」と抵抗しながらも、ユータの猛りがあたるとスッゴク気持ちイイ場所がある。

「ああっ」

「おっ、ここだな」

ユータにはソコがなんなのかわかっているようだ。

「3丁目のアパートの男がヤってんの見てたんだよね。ちょっと角度を変えてやると相手の男がスッゲエ感じて、あんあん言うんだよ」

なに覗き見してんだよ、ユータ!そういう勉強はしなくてもいいんだよ!

「どうせなら、ミノルを気持ちよくさせなきゃなあ」

「うあっ、あっ」

「どう?」

「バカ、エロ猫」

「イイんだな?」

「ああっ・・・もっ・・・やあっ」

「気持ちいいだろ?素直になれよ、ミノル。愛してるぜ」


「ミノル、起きなさい」

母さんの声だ。

「はいっ!」

拙い。大人版ユータが見つかっちゃう!

「ユータ」

「にゃっ」

枕元で丸くなっていたユータが、ピンと真っ直ぐに伸びた尻尾で俺の顔を撫でる。

「あれ?お前・・・元に戻ったのか?ああ、良かった!」

「ミノル!早く起きなさい!」

「わかってるよ!」

猫に戻ったユータを見て安心した。昨夜の出来事は夢だったんだ。

「夢か!ああ、良かった」

ホッと胸を撫で下ろした瞬間、ユータがニヤッと笑った。

「バーカ、夢なんかじゃねえよ」

ユータは自分の身体でドアを押し開けて、不味いカリカリの餌をもらいに階下に消えた。

「えっ?」


ベッドの下に散らばった白いティッシュの残骸が、吹き込んで来た風に揺れて俺の鼻に覚えのある臭いを運んだ。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごし下さいませ!

いつの間にか、妖猫話になってしまった(笑)

★4712文字です。かなりのオーバーでしたwwwすみません!

   日高千湖

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ありがとうございました!

【11月お題SS】永生の街

★こんばんは~日高千湖です。深夜にゴソゴソUPしましたwww

11月の幹事さまStage Direction甘楽さま、お世話になります。以下は参加条件ですが、今回はAパターンを選びましたがBでも良かったのかな???

以前、旧ブログで公開していましたので、以前から遊びに来て下さっている方はすでにお読みになっておられるかと思います。

内容はほとんど変わりないのですが、削ってます。

【11月のお題】(甘楽さまのお宅からのコピペです、すみませんっ!)

 (A) 5つのワードから、3つ選んでストーリーを作って下さい。

  「浅い」 「塩」 「嘘」 「道」 「紺」
 
  (Aの補足)
  浅いは”い”を取って別の語句と合わせて熟語として用いても構いません。

 (B) 童話、戯曲、小説、名言を引用あるいはモチーフにして、ストーリーを作ってください。
    なお、使用する題材は著作権切れの作品にしてください。

  (Bの補足)
  お話の流れをそのままBLにあてはめてもOK、言葉や作品タイトルを引用してもOKです。
  使用した作品のタイトル、著作名は入れておきましょう。著者不明な場合は不要です。
  また、そもそもの童話を作っちゃいましたというツワモノがいらっしゃったら素敵です。


【11月お題SS】永生の街


《永生》 よう‐しょう ・・・永遠に滅しない事。涅槃(ねはん)の 事。


「急いで!急いで!」

「各国の王候貴族を袖にした、噂の吟遊詩人が王城前の広場にいるよ!」

「それはそれは綺麗な男たちなんだってね!是非とも顔を拝まなくては」

「歌声を聞けば寿命が10年延びるらしいよ!早く!早く!」

市井の人々は以前から耳にしていた吟遊詩人の噂を口々に言い合いながら、冥土の土産とばかりに走り出す。評判の吟遊詩人の容姿を拝む為に、天の恵と讃えられる歌声を聞く為に、広場へと急げや、急げ。

ある者は夕飯の支度を放り出し、ある者は赤子を抱えて。

老いも若きも走れや、走れ。

その容姿と実力は大陸一との呼び声高い吟遊詩人サルーとノルディスの到来を耳にした市井の人々は、興奮気味に財布を握って王城前の広場を目指した。市場の商人も宿屋の女主人も、遊廓の遊び女までもが仕事を放り出し広場へと続く道を急いだ。

彼らの商売敵である吟遊詩人や旅芸人たちは、名高い2人の実力を計らんと広場に集まってきた。

王城から駆け付けた女官や騎士の姿も見える。高貴な貴族たちでさえも広場の隅に立派な馬車を停めて、彼らの唄が始まるのを待つ。王城の主は后に請われて「城の全ての窓を開けよ」と、命じた。


「さあさあお立ち会い!これから失われし砂漠の国ヘネマンの王子サリオンとヨウショウの王子ルノーの物語をお聞かせ致しましょう」

「我らは吟遊詩人のサルーとノルディス。お代は見てのお帰りに、お気に召す事請け合いだ」

そう言ってリュートの入っていた箱を石畳に置いたサルーの顔を見た女たちは、先を争って小銭を投げ入れる。

「ありがとうございます」

微笑みながら優雅に礼を言うサルーを見て、女たちは更に小銭を投げ入れた。サルーの逞しい四肢と彫刻のごとく整った顔は、浅黒く日焼けして異国の風を感じる。遥か遠くから、長い長いを旅してこの国にやって来た彼らの服装は、美しい薄絹を組紐で縛った優雅で艶かしいもの。


「ノルディス、準備は良いかい?」

「はい、サルー」


ノルディスと呼ばれた男は、どこぞの王からの贈り物であろう高価な七色の薄絹を東の国の姫君のようにクルクルと身体に巻き付けていた。薄絹から滑らかな背中と細くて長い手足を惜しげもなく覗かせた姿は、天上の女神のように神々しく、目の色の変わった男たちに小銭を投げさせる。

リュートを小脇に抱えたサルーはノルディスの前に華やかな花鳥文様の織物を敷いて座り、鮮やかな指使いで音を紡ぎ始めた。サルーの奏でる巧みなリュートの音色にノルディスの美しい歌声が乗れば、それは神の愛でる唄となり広場中に響き渡る。

物悲しいリュートのリズムが紡ぐのは、遥か彼方東にあったという砂漠の国の王子サリオンとルノーの恋の物語。


 海の向こうの大陸に、女だけが住む事を許された小さな国があったと言う。その国の名は、ヨウショウ。女王の国。

その国に至るにはグムの大砂漠を渡り、青々とした湖を湛えるフェファのオアシスを探さねばならぬ。

その国に住まう女たちは、大工仕事も畑仕事も自らが行い、戦が始まればその細腕で剣を取り、矢を射掛けて国を守る逞しい女戦士たち。

美しい女王は、年に数回、女たちが子を宿せるように見目麗しく逞しい男たちをフェファのオアシスに招く。近くを通るキャラバンから人品卑しからぬ見目良き男を誘い込み、女たちは子孫を得る為にその日ばかりは日頃の男勝りを忘れて、一夜の快楽に酔う。

産まれた子どもが女ならば国に留め置き、男ならば秘かに人買いに売られる。ヨウショウの子は見目麗しく高値で取引されるのだ。


女たちは口々に言う。

「この国に男はいらぬ、無益な戦を好む男はいらぬ」

女王の産んだ一人子は、蒼い眸に透けるような栗色の髪の耀くばかりに美しい男の子。女王は愛する男から授かった赤子を捨てる事を拒んだ。

禁忌を侵して王子は王女として育てられた、その名はルノー。


 この国の女たちは皆、剣を奮い、矢を射る男勝りの戦士。王女として育てられたルノーは、女王譲りの美貌と細い身体。美しい栗色の髪が少年の身体を覆い隠した。

 やがてルノーも子を生さねばならぬ15の年を迎えた。偽りの王女・ルノーの為にフェファのオアシスに導かれたのは、狩りの途中で道を見失ったヘネマンの王子サリオン。

太陽神のごとく逞しく凛々しい王子サリオンと、子を生せぬ偽りの王女・ルノーはフェファのオアシスで恋に落ちた。若い2人の睦みあう姿を見たヨウショウの女王は、王子サリオンに伏して願う。

「この子は男ゆえにこの国にいてはならぬ者。私は愛する男の子どもを捨てられずに、ルノーを王女と偽って育てました。ルノーもすでに15歳。この国の女たちは15になれば男と睦んで子を産まねばなりませぬ。もう、嘘は吐き通せぬ。どうか、ルノーを連れて逃げてください。この子の父はハラウェイクの第3王子シエラミッド 。どうか、ルノーを父の元へ」

大国ハラウェイクの王子・シエラミッドの息子である証の紅玉の指環を受け取った2人は、闇に紛れてヨウショウを逃げ出した。女たちの追手を逃れたサリオンとルノーは、シエラミッドの庇護を求めてハラウェイクの紅玉の都を目指す。

7つの谷を抜け、2つの川を渡り、辿り着いた大国ハラウェイク。8つの月を見た2人は、漸くハラウェイクの紅玉の都へ足を踏み入れる。

しかし、女王の想い人王子シエラミッドは先の戦にて、還らぬ人と成り果てぬ。サリオンはルノーを連れヘネマンの美しの都に帰り来たれり。


 平和なヘネマンの美しの都で、サリオンとルノーは美しい番いの鳥の如く愛を紡ぐ。

サリオンのリュートとルノーの唄声は、ヘネマンの栄華の象徴となり臣民の敬愛の的と成る。しかし平和な時は永くは続かない。


 戦好きのハラウェイクの王は、全ての王子とその御子たちまでもを戦で亡くす。絶望した王に、耳打ちするは第3王子シエラミッドの近習。

「シエラミッド王子の隠された御子が、砂漠の女たちの国にあり」

シエラミッドの父王は世継ぎの御子たるルノーを取り返さんと、ヨウショウに攻め入った。ハラウェイク王の出陣を聞いたヘネマンの王は王子サリオンに告ぐ。

「大国ハラウェイクにルノーを渡せ。我は王なれば、我が民をハラウェイクの兵から守らねばならぬ」

ルノーは愛するサリオンの元を去る決意をする。

「戦になる前に、どうか私をハラウェイクの王に差し出して下さいませ」

冷たい床にうち伏して、哀しみにくれながら別れの唄を唄うルノー。

「王子サリオンは全てを捨てて、 ルノーへの愛を貫く」

サリオンとルノーは再びグムの大砂漠へと旅立った。


 ヘネマン王の追手を逃れてフェファのオアシスに辿り着いた2人は、ヨウショウの都から立ち上る炎を見た。

オアシスの木々に繋がれたヨウショウの女たち。鎖に繋がれた美しき女王。女王はハラウェイクの王の元に引き立てられるが、女王の誇りを失わず、母の心を失わず。

「隠された御子ルノーは砂漠で行方知れずとなりました」

悪賢い女王の小間使いは、ハラウェイク王の足に口付けて自らの命乞いをした。

「隠された御子ルノーはヘネマンの王子サリオンと恋に落ち、美しの都で愛の唄を紡いでおりまする」

女たちは口々に小間使いの女を罵り石を投げた。


「ハラウェイクの世継ぎの御子を取り返せ!ヘネマンの都に攻め上れ!」

ヘネマンの美しの都にハラウェイクの大軍が襲いかかる。

ヘネマン兵の善戦も虚しく、ヘネマン王も、臣民も捕らえられサリオンとルノーの行方を問われるが、その行方は誰も知らない。ハラウェイクの王は怒り狂い、砂漠の華と謳われた美しの都は焦土となり果てた。


 国を亡くし、家族を亡くした民の悲しみの詠唱が砂漠を渡り、サリオンとルノーの耳にも届く。2人はハラウェイク王の暴挙を嘆き、死した者たちへの鎮魂歌を涙の海に溺れながら唄う。

ハラウェイク王の怒りは収まらず、隠された御子の行方を追って砂漠の小さな街も焼き尽くす。


 天は人々の哀しみの声を聞き給えり。

国を空け、御子を探して砂漠を駆け回り、多くの国々を滅ぼしたハラウェイクの王に天は鉄槌を下す。

我こそは砂漠の覇者と慢心したハラウェイクに侵略の手を伸ばせしは、火器を使う西の大国。

王が不在の紅玉の都に襲いかかった大砲は、一昼夜のうちに都を瓦礫の街へと変えた。王の帰りを待つ後宮の美女500人は連れ去られ、帰る都を亡くした王はグムの大砂漠を彷徨い歩く。

憐れな王の姿を見た人々は、「ごらん!戦好きの王さまは、王子たちだけではなくとうとう国を失したよ」と石を投げた。

平和な砂漠の国々を砂に戻したハラウェイクの王は、水を求めて一人砂漠を彷徨い、無益な戦によって水が渇れたオアシスで息絶えた。


 ルノーとサリオンは、闇に紛れて囚われの女王を助け出す。

「砂漠を越えて逃げよ、私の事は捨て置くがよい。国も身分もなく生きよ。自由を求めて海を越えるがよい」

女王は懐かしいフェファのオアシスの畔で息絶える。女王の愛し子は、湖深く母の亡骸を沈めた。すると不思議な事に、どこからか女王の愛馬が現れた。2人を背に乗せるとグムの大砂漠を駆け抜け海へと導いた。

初めて海を見たサリオンとルノーは、恐れる事なく青い青い大海原へと小舟を漕ぎ出した。


 広場に集まった人々は、涙を拭く事すら忘れてそれに聞き入った。リュートが鳴り終えて2人が深々と礼をしても、人々の啜り泣きと感嘆の声は鳴り止まず。


「さあさあ、お代はこの箱に入れておくれよ。お嬢さん、おかみさん、旦那さん」

「サルーとノルディスは明日もここで唄をお聞かせします。どうか、明日もこの時間に王城前の広場にお集まりください」

「明日は珍しい砂漠の国の踊りも披露致します」

サルーとノルディスのお代を求める声が広場に響き渡って、未だ見ぬ砂漠を旅する人々の魂は漸く現へと戻ってきた。爆発したように拍手が鳴り響き、賛辞の言葉と共に投げられる小銭の音。

2人は優雅に礼をして石畳に転がった対価を拾い上げた。


 唄が終われば、人々は四方へ散って行く。

ある者は不幸にもこの場に居合わせなかった家族に砂漠の王子の恋物語を語って聞かせようと足早に家路を急ぎ、ある者は興奮して聞き覚えたメロディーを口ずさみながら。彼らの素晴らしい唄を褒め合いながら、それぞれの在るべき場所へと戻って行く。


「今日はたくさんのお代を頂いたね」

「たくさんのお代を頂けたから、今夜は良い宿屋に泊まって暖かい寝床でノルディスを可愛いがってあげるよ」


「もうし、もうし、お尋ね申します」

仲睦まじい2人に片足の萎えた奴隷女が声を掛けた。

「お婆さん、なんのご用でしょう?」

「もしや私を覚えてはおられませぬか。ヨウショウの美しき女王の小間使いだった者でございます。ルノーさま」

「さあ、私は吟遊詩人ノルディス。吟遊詩人サルーの想い人、ただびとのノルディスでございます」

「さあ、行こうノルディス」

「お婆さん、お元気で」

汚ならしい奴隷女は、口元を歪めて美しい番いの鳥を見送った。

「2人の指にはめられた紅玉の指環は、ヨウショウの女王の美しい指を飾っていた紅玉の指環に間違いないさ。あたしゃ、女王のお側で仕えていたんだからね」

奴隷女は彼らの去った後に落ちていた小銭を拾い集め、足を引き摺りながら主の元へと戻って行った。夕闇に包まれた王城前の広場はいつもの静けさを取り戻し、王都の賑わいは酒場の辺りへと移って行った。

★4648文字

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