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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

Love me do・1

『今、なにしてるんだ?』

「暇してる。今は暇だよ。ずっと、こうだといいなあ」


・・・なんてね。



「おはようございます」

「兄さん、おはよう!」

「おはよう、航。ご飯は?」

身支度を整えてリビングに行くと、僕の姿を見つけた母が後ろから付き纏う。

2日振りかな、家族と顔を合わせるのは。リビングにはテレビの音が響き、大きく開けた窓からは陽光が降り注ぐ。こんなありふれた日常が、懐かしいとさえ思えてしまう。つい2年前までは、『僕』もここにいた。

「いらない」

振り返りもせずに言った僕に、母は母親っぽいことを聞く。

「ちゃんと食べてるの?」

「食べてるよ」

「なにを食べてるの?」

どうでもいいじゃん?

「パンとかコンビニ弁当とか、適当に」


今更、心配しないでよ。この2年間、家ではほとんど食事してないけど、ちゃんと生きてるだろう?

母の気持ちを慮って、僕の席に準備されたスクランブルエッグの隣に添えられたハムを指で摘んだ。一口食べれば、急に食欲が湧く。漂ってくる味噌汁の香りに鼻腔を擽られ、久々に人間らしい『欲』を感じて、ハムの隣のミニトマトも口に入れた。


「お行儀が悪いわよ」

ツンと尖った声、聞きたくない。

「ごめんなさい」

弟の湊が、笑いながらティッシュを一枚取って差し出した。

「ありがとう」

ティッシュで指を拭く僕に、再び母の質問が始まる。

「昨日は何時に帰って来たの?」

「1時半」

「そう・・・お母さんはあなたが身体を壊さないか、心配なのよ。大丈夫?」


病気になったとしても、病院代くらい自分で出せますから。それに、家で食べたからといって病気にならないわけではない。


「大丈夫ですから」

抑揚なく答えた僕に、母は「ちゃんと歯磨きしなさいよ」、なんてどうでもいい事を言った。

「してるよ」


幼稚園児じゃあるまいし・・・いい加減にわかれよ。


「もう出掛けるの?」

「うん、行ってきます」

「いってらっしゃい、気を付けてね」


 母との会話は、いつも同じような内容・・・変わり映えしないから、もう話なんかしなくてもいいと思う。

これ以上の会話が必要だとは思わない。父との会話はほぼないに等しい。『ない』というよりも、落ちこぼれの僕の事は、透明人間が居候しているとでも思っているんだ。

父には「おはようございます」とか、「行ってきます」とか、普通の挨拶さえ無視される事もあるからね。


要するに、僕なんかいない事にしたいんだ。

わかってるさ。


 玄関に向かう僕の背後で、母と弟の会話が聞こえてきた。

「放課後は塾で自習してから帰るから」

「今夜は母さんが迎えに行くから、お夕飯は一緒にお寿司でも食べましょうよ?」

「お寿司」と聞いて湊の声が弾んだ。

「いいね!母さん、満里奈も一緒に良い?」

「ええ、良いわよ。パパは今夜から出張なのよ」

「じゃあ、8時まで自習するから。よろしく!」


 湊も学校に出掛ける時間だ。母の「気を付けていってらっしゃい」が聞こえた。その声は、僕の時よりも華やいで聞こえた。今夜は湊と、湊の彼女と、3人で夕飯か。

僕が靴を履いていると、湊が追い付いて「兄さんも寿司には来るだろ?」、と聞いた。

「呼ばれてもいないのに行けるかよ」

ぶっきらぼうにそう答えると、湊は慌てた。気にしてくれてるんだな・・・この家の中で、湊だけが僕の事を理解しようとしてくれる。


「そんな事ないよ!兄さんも来いよ。満里奈も来るし」

楽しいのは、お前たちだけだろ。それに、僕が行けば空気が悪くなるよ。

「僕、バイトだし。働かないと携帯代も払えないからさ」

気にするな、とばかりに僕は出来るだけ優しい声で言った。

「そっか。じゃ、お土産に寿司を買って来るよ。兄さんは帰って来てから食べろよ」

「いらない。今夜、家に帰るか決めてないし」

僕の返事を聞いた湊が眉を寄せた。

「兄さん!」

「湊も、早くしないと電車に乗り遅れるよ」

「・・・うん」


 僕の方が先に玄関を出たのに、湊はあっという間に僕に追い付き隣に並んだ。紺色のジャケットに落ち着いた緑色のネクタイ、ブルー系のチェックのズボン・・・秀藤(しゅうどう)学院の制服、懐かしいな。

3年前までは僕も着ていた中高一貫校の制服は、水色のシャツが爽やかだ。毎年30人程が東大に合格する名門校は、僕にとっては牢獄のような場所だった。

父に良く似た面立ちで長身、イケメンの弟と、母親似で身長もそれほど高くない僕。並んで歩く弟との身長差は15センチ程。それは偏差値の差だったりする。

本当は弟の隣を歩きたくない。ご近所さんが見て、「可哀想なお兄さん」なんて言ってるのを知ってるから・・・。湊とは一緒に歩きたくないのに、湊は僕の気持ちを計る事無く今朝の星占いの結果を教えてくれた。

「兄さん、今日の双子座は2位だったよ」

「そう?」

特に嬉しくはないけれど、湊の気持ちも汲んで僕は嬉しそうなフリをして笑った。

「俺は5位だったんだ」


お前にやるよ、今日の2位。


「弟です」と言っても、「逆だと思った」なんて言われることもある。

秀藤学院で常にトップクラスの成績を修めて、「現役東大合格間違いなし」、と先生方が太鼓判を押すG組の湊と、万年ビリが当たり前だった僕。僕の脳ミソに詰まるはずだった出来の良い部分は母親のお腹に置いてきたらしい。それを全部、湊が吸収して生まれて来たに違いない。


湊の成績なら半年後に控えたセンター試験も楽勝だ。そして僕はこの家から更にはみ出す。

少し前を歩く湊の背中が眩しくて、眩暈を覚えた僕は、「ごめん、忘れ物した」と言って立ち止まった。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

五月病の日高です。なんとなく、なんとなく、なんとなく、無謀にも新連載始めてみました(笑)しばらくの間は『末摘む花の色に出でなむ』と交互にUPする事になります。よろしくお願い致します♪

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Love me do・2

 僕のバイト先は、自宅から数駅先にある小さな書店だ。『アルバイト』というだけで、僕はちゃんと生きている。存在している。


 弟のように優秀ではなかった僕は、中学受験に掛かった費用や塾代、それに予備校代を無駄にしたから、毎月3万円ずつ親に返済している。それとは別に生活費として3万円を母に渡している。携帯代も自分で払ってるし、積み立て貯金だってしている。自動車免許も自分で貯めた金で取得した。

これまでの事は別として、今は特に親に迷惑を掛けているつもりはない。


大学受験に失敗した時から、僕と家族の間には境界線がある・・・それを引いたのは僕。

家族からはみ出したのは僕、戻らないのも僕。


 「はあっ」と大きな溜息を吐きながら、スッと背筋を伸ばして駅に向かう湊の背中を見つめて、僕はそれに背を向けた。回り道になるけれど、弟とは違う道を選び駅に向かって歩き出す。電車が一本遅れたって構いやしない。すぐに次のがやって来るから。

僕の上空には、みんなと等しく空が広がっているのに、僕には青い空はない。


 満員電車から吐き出され、新鮮な空気を胸に取り込んだ。

バイト先までは、駅から歩いて約5分。駅から真っ直ぐに伸びた商店街の外れにある、『ひいらぎ書店』は本当に小さな店だ。

3階建てのビルの1階が店舗で、2階が事務所兼倉庫、3階に店主の平木さんが住んでいる。隣の衣料品店との間の狭い通路を通って通用口のインターフォンを鳴らすと、いつものように『はーい』と、マイク越しに平木さんの声が聞こえた。

「おはようございます。鹿之江です」

『おはよう』

平木さんが3階から降りて来るまで、約3分。

今年72歳の平木さんは膝が痛むから、階段の上り下りに時間が掛かるのだ。建物と建物の間の狭い場所から上を見上げれば、空に出来た青い道。切り取られた空を見上げて、僕はホッとした。

ガシャッと音がして、ドアが開く。入り口に山積みにされているのは、仕入れた駄菓子や文房具が入った段ボール箱。それらは、所狭しと高く積み重ねられていた。

「おはよう」

「おはようございます」

平木さんの優しい笑みに安堵しながら、ドアの横にあるタイムカードを押した。

狭いこの店には更衣室なんてない。以前は2階の事務所に事務と経理を担当してくれる人と営業さんが勤務していたらしいけれど、今はいない。従業員もいなくなり、2階にあるロッカーは物置に変わったそうだ。大型書店やネット販売に圧されて、街の小さな本屋さんはどこも苦戦している。

「じゃあ、掃除をよろしくね」

「はい」

平木さんは再び痛む膝を擦りながら、狭い階段を上り3階に戻って行く。最近取り付けた手すりのおかげで、元々狭かった階段はますます狭くなった。その所為で2階の倉庫に持ち込む事が出来なくなった物が、1階の通用口付近に山積みにされているのだ。


 僕はレジの後ろの籠に入れてある紺色のエプロンを取り、代わりに私物を入れた。

小さな書店には文房具や駄菓子も売っている。貧弱なラインナップの文庫本よりも、子ども相手に置いている駄菓子の方が主力商品となっているこの店は、平木さんの地道な営業で支えられている。

僕の勤務時間は朝9時から夕方5時まで。

9時半には平木さんが配達に出て行き、代わりに平木さんの娘さんが出勤して来る。僕はその前に掃除を終わらせればいい。長い柄のはたきとハンディモップで、本棚の上から埃を落として掃除を始めた。その後は、シャッターを開けて箒で綺麗にゴミを掃き出す。

いつもこのくらいの時間になると、店の奥から平木さんの声が掛かる。

「鹿之江くん、行って来ますよ」

「いってらっしゃい」

「頼んだよ」

「はい」

いつものやり取りを終え、外を掃き、ガラスのドアを拭いたら掃除は終わり。上空に広がる広くて青い空を見上げて、僕は大きく息を吸い込んだ。僕のものではないけれど、ちょっとくらい深呼吸したって罰は当たらないよね。


 仕事は主に店番だ。まあ、開店したってお客さんは多くない。平木さんが出て行く前に準備したお釣りを確認しながらレジの準備をして、雑誌の最新号を並べ、駄菓子を補充する。10時10分前には平木さんの娘さんの敦子さんが来る。

「鹿之江くん、おはようございます」

ふっくらとした頬の敦子さんは、優しい笑顔で人を和ませる。僕は中肉中背だと思うが、本人は「太っている」と気にしている。

「敦子さん、おはようございます」

敦子さんは、中学生と高校生の息子さんたちを学校に送り出してから出勤して来る。彼女はしばらくの間、2階で配達先ごとに雑誌を振り分けたり伝票を書いたりするから、お店には下りて来ない。

「暑いわね」

「まだ5月なのに、今日は日差しが強いですね」

「真夏日になるかもしれないそうよ」

僕には相応しくない晴天だ。

「梅雨になれば車で通勤することになるから、今は節約の為にも自転車で頑張らなきゃね」

「ふふっ」

「食べても太らないなんて、鹿之江くんが羨ましいわ」

自転車で20分掛けて通勤している敦子さんは、「ちっともダイエットにならないのよね」と笑った。黒い帽子を脱いで、首に掛けたタオルで額に浮かぶ汗を拭き、うちわでパタパタ扇ぎながら敦子さんは2階に移動した。


 レジの前に置いた椅子に座って、商店街を歩く人の流れを眺めていると、今の時間にはあまり見かけない制服姿の男子に気が付いた。懐かしい秀藤学院の制服だ。

冬物の制服を着た男子高校生は、生気のない顔で駅とは逆方向に歩いて行く。彼と自分を重ねながら、僕の鼓膜には母の怒鳴り声が響いた。


 高3の1学期の最後に行われる三者面談の席で、母は僕を罵倒した。

「なにをやってたの?」

「勉強してるフリだったの?大嘘吐きね」

「ちゃんと塾にも行かせているのにお金の無駄だわ」

「もう受験なんてしなくてもいいわ。恥をかくだけよ」


担任から、近隣の国公立大学の中で最も難易度が低い大学でさえ、「このままでは難しいでしょう」、と言われてしまったからだ。

次々に母の口から飛び出してくる汚い言葉に、僕は耳を塞ぎたかった。担任は母の剣幕に呆然とし、庇ってもくれなかったしね。定期テストの結果や学期ごとに家に送られてくる成績表を見て、僕の成績不振はわかっていると思っていたのに・・・。

現実を突きつけられて、怒りが爆発したらしい。家に帰っても、母は怒鳴り続けた。

「私立もお母さんのおっしゃるような有名大学は難しいですね」

担任の見放したような言葉は僕の胸に深く、深く、突き刺さり抜けなくなった。母の悲鳴のような言葉が今でも耳に残っている。

「先生、どこなら受かるんですか?」

渋い顔で顔を顰めた担任と、手の中で揉みしだかれてグシャグシャになったハンカチで目頭を押さえた母を、僕は「お気の毒に」と思いながら傍観していた。


この時すでに僕の心は磨り減って、磨り減って・・・もう、どこにも残っていなかったのに。それには誰も気付いていなかった。

『やる気』・・・それ、なんですか?

僕の精神は細く、細くなって千切れかけていたのに、父も母も担任も気が付かなかった。

もちろん僕自身も気付いていなかった。『頑張るのが当たり前』、だなんて思っていたけれど、すでに頑張れなくなっていた。気が付けば僕はなにもする気になれなくて、ただ機械のように学校に行って家に戻る、を繰り返す人形になっていた。

リアクションを起こす事さえ忘れていた。


いつの間にか姿が見えなくなった秀藤の後輩の事情なんか知らないけれど、今の時間に駅とは反対側に進む彼は、間違いなく授業をサボっている。

「ちゃんと勉強しろよ。僕みたいになっちゃうよ」


名も知らぬ後輩に贈る言葉はそれだけだ。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

航くんの事情が、ちょっと出てきましたがwww

明日は20万HITしました時にニアピン踏んでくださった方からのリクエストSSをUPさせて頂きます。タイトルは「《蝶の道》~春の夜の夢の浮橋番外編」です。時間はいつもの時間です♪

   日高千湖

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Love me do・3

 午前中の配達が終わって平木さんが戻って来たら、僕と敦子さんのお昼休みだ。レジを平木さんと代わって、財布を持って通用口から店を出ようとすると、敦子さんが2階から声を掛けてきた。

「鹿之江くん、お弁当?それとも食べに行くの?」

「今から弁当を買って来ようかな、と思って」


いつもは商店街にある安い定食屋や小さな喫茶店でランチを食べたり、2階の事務所で買ってきた弁当を食べる。湊と一緒に歩きたくなくて遠回りしたから、今日はコンビニに寄る時間がなかった。5月だというのに、7月並みの気温まで上昇した今日は、気分を変えてコンビニで冷たい蕎麦か冷麺でも買ってくるつもりだった。


「うちの子のお弁当のおかずの残りなんだけど、持って来たから良かったら食べて。ご飯はないからおにぎりか白飯だけ買ってらっしゃいよ」

「良いんですか?ありがとうございます」

『うちの子のお弁当』と聞き、急に家庭の味が恋しくなった僕は、冷たい麺類をやめて敦子さんのおかずを頂く事にした。


 コンビニでおにぎりを2個と新発売のドーナッツを3個買い、敦子さんと一緒にお昼ご飯だ。

敦子さんのおかずは、昆布と椎茸とこんにゃくのお煮しめ。それに唐揚げと茹でたブロッコリーと甘い卵焼き。「残り物」と言うだけあって卵焼きは端っこの所だ。

「うわあ!」

「ごめんね、マジで残り物ばっかりで」

すまなそうに敦子さんは言ったけれど、僕は大歓迎だ。

「とんでもない!『家庭の味』って感じで、嬉しいです」


実家暮らしなのに『家庭の味が嬉しい』という僕の言葉を聞き、敦子さんは複雑そうな顔をした。


「まだおうちでは食べてないんだ?」

「はい」

「食費とか入れてるんでしょう?」

「ええ、まあ・・・時々は食べてますよ」

『時々は』と言ったけれど、家ではほとんど食べない。自分で目玉焼きを作ったり、カップ麺のお湯を沸かすくらいかな?

「堂々と食べなさいよ」

僕が家で食べていると、母の愚痴攻撃が始まるから家では食べたくない。僕が俯くと、敦子さんは「はあっ」と溜息を吐いた。

「はあっ・・・ごめん、余計な事を言ったね」

敦子さんは、僕の事情をだいたい知っているから気を遣ってくれるのだ。

「いいえ」

「ホントに、ごめん!」

僕の気分がグッと下がったのに気付いた敦子さんは、手を合わせて「ごめん」と謝った。

「気にしないで下さいよ」


・・・慣れてるから。


「なんていうかさあ・・・勿体無いよね」

「えっ?」

「天下の『秀藤』を出てるのに、こんな潰れ掛けた本屋でレジやってるの」

口に入れた椎茸を噛むと出汁がジュワッと口の中で広がって、美味いと感じた瞬間だった。

「・・・」

「受験、したら?」

また、その話か。

「勿体無くなんかないですよ。僕は落ちこぼれですから」

「・・・そっか」

美味いはずのお煮しめが急に苦く感じた。

「あっ!だからここが合ってるって意味じゃないですよ!?すみません」

「いいの、いいの!違うのよ。ちゃんと大学か専門学校を出た方が良いんじゃないかな、ってね!ほら、うちのバカ息子みたいに身体が丈夫で欠席なし。サッカー部で走り回ってるのが楽しくてしょうがないって子がさ、『大学の推薦もらえそう』なんてニコニコしてるんだもん。鹿之江くんの方がずーーーっと賢いのに、勿体無いなあ・・・って。ごめん」

「・・・」

「ごめん、もう言わないから」

「すみません」

敦子さんが、僕の事を心配して言ってくれているのは良くわかる。でも、僕にはその気はない。


ちゃんと、生活してる。

ちゃんと呼吸して、ちゃんと働いてる。

それを認めて欲しいだけ。


「実は・・・この前の日曜日に、お母さんがいらしたのよ」

「・・・母が?」

意外だったけれど、敦子さんや平木さんになにか嫌味な事を言ったのではないかと心配になる。

「ええ」

「なにか、言ってましたか?」

「あなたが働いている店を見たかったんですって。ちょっとガッカリしてたし、ホッとしてた、かな?」

「そうですか」

「安心したって、おっしゃってたわよ」

おかしな店でなくて良かった、って思ったんだろうな。

「・・・」

「『夜遅く帰って来るから、なにをしてるのかわからない』って、お母さんは心配なさったのよ」

母親同士、共感する事も多いのかな?僕の帰宅時間が遅い理由を、敦子さんに聴いてもらおうって魂胆か。

「大丈夫ですから!来年、弟が東大に合格しますから。そしたら、僕の事には関心を持たなくなりますって」

僕が俯いたから、話しは中断した。敦子さんは悪くない。これまで、飲食店に、ファストフード、パチンコ屋・・・いろんなバイトをしたけれど、僕は続かなかった。

バイトを辞める度に母は大きな溜息を吐き、父は眉間に皺を寄せた。バイトすらも満足に続かない、中途半端な存在の僕は、いつまでも両親を失望させ続けた。


「秀藤出てるのに大学も行かずに、どうしてうちでバイトするの?」

面接に行くと必ずそう言われた。

『秀藤』は、卒業しても僕の背後で僕を笑う。「秀藤学院を出てるのに」、「大学行けば?」、そういう言葉を聞くたびに僕の心は小さく縮こまる。

やっと檻から解放されたんだ、「放っておいてくれ」と叫びたかった。


 大学受験に失敗した僕に、母は「こうなると思っていたわ、当然の結果ね」と言った。

「残念だったわね」でもなく、「来年、頑張れば良い」でもなく、父には「今まで掛かった金は働いて返せ」と言われた。

「全部、無駄だった」

父母はそんな言葉で僕を突き放したけれど、本当に突き放したわけではなかった。

父母の束縛は続き、毎日顔を合わせれば「なにをしているの?」、「バカじゃないの」、「いい加減にしなさい」、「勉強しなさい」・・・僕の考えなど全く聞いてもらえないとわかっていたから、それを右から左に聞き流した。その態度が気に入らない父母は、更に声を尖らせて僕を打ちのめした。


・・・いい加減にしてくれないか。

うんざりだ、うんざりだ。


僕は家から離れたかった。「一人暮らしがしたい」と言ったけれど、認めてもらえるはずがない。泣きながら「予備校に行ってちょうだい」と訴える母に、仕方なく「はい」と返事をしたのは4月の終わりだった。

強制的に入れられた予備校はみんなヤル気満々で、授業も熱くて・・・それが僕を熱くするかと言えばそうではなくて、逆に僕を小さく、小さく、冷たくした。

そこでも、『秀藤』はついて来た。

小さく、小さく、身体を丸めた僕は、予備校からも逃げ出した。


 予備校から呼び出しを食らった母に告げられたのは、「他の学生に迷惑ですから、辞めて下さい」という、予備校の校長の勧告だった。

予備校も僕の居場所ではなかった。

予備校の机の上でボンヤリと過ごし、暗い顔をしている僕を友だちにしたい人なんかいないよね。近くの席の数人が何度か昼飯に誘ってくれたけれど、一緒に食べている時も彼らの話題は「高校はどこ?」から始まり、「第一志望はどこ?」と続く。

誰か、そんな話題が出ない世界に連れて行って欲しかった。

それでもなんとか椅子に座って、苦行のような時間を消化していたっけ。

やがて、僕は弁当を持って家から出掛け、毎日予備校が見える公園で弁当を食べ、リストラされたおじさんと仲良く栄養ドリンクを飲む日々を送るようになった。公園で一日過ごして、勉強したフリをして家に帰るんだ。

「お兄ちゃんも、大変だね。まだ若いし、やり直す事が出来るさ」

「うん。おじさんも、頑張ってくださいね」

「おう」

青空はどこまでも続いていたけれど、時々飛行機雲が白い線を引いて僕と家族を分けるんだ。


「敦子さん、ドーナッツ食べて下さい」

コンビニで買ってきたドーナッツの袋を差し出すと、敦子さんはニンマリと笑った。

「良いの?これ、テレビでコマーシャルしてたヤツ?」

「そうですよ。新発売のヤツ」

「ありがとう!」


敦子さんは今朝のダイエット発言を忘れて、甘いドーナッツを手に取った。嬉しそうな笑顔、敦子さんみたいな大らかな人が母親だったら良かったのに・・・なんてね。僕は陽気に笑う優しい『母親』の影に、全く別の顔が隠されている事を知っている。

母親なんて見栄の塊。50点の答案用紙よりも、100点の答案用紙が好きに決まってる。

敦子さんも、同じ穴の狢なんだよ・・・きっとね。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

★拍手コメ・れいさま「末摘花の色に出でなむ」83話のコメント欄にて、拍手鍵コメ・Uさま、「《蝶の道》~春の夜の夢の浮橋番外編」のコメント欄にてお返事書かせて頂きました。ご確認くださいませ!

   日高千湖

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Love me do・4

 敦子さんと2人で昼食を食べ終えると、1時間の休憩時間のうち半分が終わる。

「じゃあ、買い物に行きます」

「いってらっしゃい」

敦子さんは毎日、昼食後は商店街に買い物に行く。敦子さんは、一人暮らしの平木さんの夕食を準備してから自宅に帰るのだ。敦子さんが買い物に立ち寄った商店から、文具や雑誌の注文を受けてくる事もあるから、商店街での商売は「持ちつ持たれつ」だ。

 一人になった僕は残りの休憩時間を、返品処理が終わって版元に送り返す本や雑誌を借りて読んだり、テーブルに突っ伏して仮眠をとって過ごす。

窓からは爽やかな風が吹き込んできて、お腹いっぱいになった僕の眠気を誘う。こんな日は、予備校の前の公園を思い出す。

「あのおじさん、就職先は見つかったかな?」

予備校の前の公園で仲良くなったおじさんの事を思い出した。雨が降れば公園にいられなくて、一緒にコンビニで雨宿りしたなあ。


 父母は、僕が真面目に予備校で学んでいるとばかり思っていたらしい。

怒った父は「勝手にしろ」と言い、僕は予備校から解放された。その代わり、僕は再び居場所を無くした。上手くやれば良かったんだよね。家に連絡がいかない程度にサボってれば良かったんだ。

無機質な机は冷たくて、僕の全身は冷えていた。血の通った身体だと認識したくて、公園で太陽を浴びていたっけ。

予備校を辞めた翌日から、アルバイト探しの日々が始まった。両親に「進学しません。生活費は自分で稼ぎますから」と宣言したからだ。一日も早く自立したかった。


「あの『秀藤学院』を卒業して、大学も行かずになにしてるの?」

「東大じゃないんだ?」

「バイトよりも、勉強した方が良いんじゃないのか?」

「予備校を辞めた?バイトじゃなくて別の予備校を探したら?」


どこに面接に行っても、言われる言葉は同じような内容だった。その言葉がグサグサと僕を突き刺し、予備校を辞めても僕は苦しかった。どこまでも付いて来る『秀藤』から逃れるには地方に住むのが一番だ、と考えていたよな、この頃は。

毎晩のように、父母に「これからどうするつもりだ?」と詰問されて、僕の心はますます小さくなっていく。

父母は僕に、『勉強して大学を目指します』と、言わせたかったんだと思う。僕が『自主的に大学進学を目指す』それが、両親の目指すところだったんじゃないかな?


 バイト先が決まっても、同じ事だった。上司からも、バイト仲間からも同じ事を言われ、「秀藤で問題を起こしたらしいよ」と、変な噂が一人歩きしてバイト先に居辛くなる。一週間で辞めた事もある。

そんな僕に、父は「不良品」のシールを貼ったが、母は諦めなかった。

インターネットで大学の資料を取り寄せては、「ここなら大丈夫なんじゃないの?」と、名前も聞いた事がないような地方の私立大学を受験するように勧めるのだ。

「お願いだから受験してちょうだい」

母の熱意に負けて「受験させて下さい」と父に頭を下げたのは、翌年の1月だったかな?大学偏差値ランキングにも載っていないような、小さな大学の受験を決めたのは。

赤本もない大学。高校1、2年生レベルの学力があれば合格出来るような大学だった。合格通知と共に届いた『特待生』の採用通知に、母がようやく笑顔になった。久しぶりに母の笑顔を見て、僕はそれなりに嬉しかったよな。自分で母を笑顔に出来た事に、僕は満足していた。


やっと居場所を見つけた。


そう思えたのに、現実は甘くない。

「どこの高校だったの?」

そんな質問が僕を突き刺す。

尖ったナイフは、どこにでもあるんだ。


 大学の入学式の時に渡された名簿の自分の名前の横に、『秀藤学院』の名前を見て身体が固まった。名簿に『出身校』の欄があったのだ。それを見たクラスの連中がざわざわして、僕は一瞬にして浮いた存在になってしまった。

「秀藤のヤツがいるぞ」

「マジ?おちこぼれ?」


・・・隠していたかったのに。


結局、家から2時間ほど掛けて通う大学にも、通う『フリ』を続けた。親に準備してもらった定期券を使って大学の近くのファミレスに行き、バイトして一日を過ごした。

この頃は「親が悪い」なんて思っていたけどね。


悪いのは僕。

我慢して通うべきだったんだよね。そうしていれば、僕は両親が引いたボーダーラインからはみ出る事なく、今でも家族の端くれだったかもしれない。

ゆっくりと流れるひつじ雲の動きを眺めながら、群れから外れた寂しさを噛み締めた。


「ただいま」

「お帰りなさい」

ボーッと空を眺めていた僕は、敦子さんが帰って来たのにも気付かなかった。

「はい、これ!」

「えっ?」

「ドーナッツのお礼よ」

敦子さんが笑顔で紙袋をくれた。受け取って、カサッという音に戸惑う。

「・・・ありがとう、ございます」

「開けてみて」

袋を開けると、中からTシャツが出てきた。今日の青空のような色。胸のところには『I can fly』。その文字を見て、僕は噴出した。

「プッ」

「変?ごめんね、おばさんセレクトで!鹿之江くんって黒とかグレーしか着ないでしょう?こんな明るい色の方が似合うわよ」


服は出来るだけ目立たないように、地味な色しか選ばない。僕がご近所さんに見られるのも、母が嫌がってるのを知っているから。


「すみません!変じゃないです。綺麗な色です。ありがとうございました」

「じゃあ、なによ?」

「『I can fly』って書いてあるから・・・僕は飛べない」

「ああ、それ!ピッタリじゃない!でも屋根から飛んじゃダメよ?」

「はい」

「将来、大きく羽ばたいてちょうだい、って意味よ。月曜日に着てらっしゃいよ?」

「・・・はい」

「命令だからね。私、ここの次期社長なんだから!」

敦子さんが胸を反らした。

「わかりました、次期社長」

「よろしい!綺麗な顔してるのに、勿体無いわよ!あなた、頭も顔も良いのに、ホント勿体無いわよ!」

「すみません」


さっき「もう言わない」って言ったのに、また言ってる。本人は気が付いていないらしいな。


「謝らないの!これ着て、彼女でも作るといいわよ」

そう言いながら、敦子さんは僕の手からTシャツを取り、僕の胸元に当てた。

「彼女なんて出来ませんよ」

「やっぱり!似合うわよ」

聞いてないな。

「そうですか?」


僕は知っている。母に似て女顔の僕は、明るい色が似合うって事。


「真面目過ぎるわよ!これ着てナンパしてらっしゃい!」

「あははっ」


僕は真面目なんかじゃない。

僕のもう一つの顔を、あなたは知らない。


 大学を辞めたのは、『学業不振の為、後期から特待生としての採用は見送らせて頂きます』という通知が届いたからだ。

両親は僕が真面目に大学で学んでいる、と信じていたのかな?

後になって思えば、僕を大学に行かせたかったのは人から「上のお兄ちゃんはどうしてらっしゃるの?」と、聞かれて「大学に通ってましたけど、本人が『もっと上を目指す』と申しまして辞めたんですよ。『特待生』だったんですけどねえ」と、答える為だったのかもね。


虚栄心を満たしたいだけだろ?

親の心なんて推し量れない僕には、そんな穿ったものの見方しか出来なくなっていた。

『特待生』でもなくなった僕は、退学届けを出した。清々した。


父の無機質な声に震えていた僕も、もういない。良い子のフリするのは、もう止めたんだ。


 何通も履歴書を書き、いくつも面接を受けて、ようやく『ひいらぎ書店』に出会った。以前は従業員もいて、それなりに繁盛していたこの店も、大型店やネット販売、中古市場の拡大に圧されて次第に業務縮小していったそうだ。

平木さんは面接の時に『秀藤』には一言も触れなかった。後で、どうして僕を採用したのか理由を聞くと、こう言った。

「『秀藤』出ていようが、中卒だろうが俺が気に入ればそんなものはどうだって良いんだよ」


だから、時給が安くても僕はこの店を辞めない。


*****

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Love me do・5

 午後5時。

小学校の方角から鐘の音が聞こえてくる。風向きによってはっきりと聞こえる日もあれば、微かにしか聞こえない日もある。今日は天気が良くて、西よりの風だから鐘の音ははっきりと聞こえた。

 小学校の授業が終わると、子どもたちが小銭を持ってやって来る。10円から30円くらいの駄菓子や、消しゴムや可愛らしいメモ帳、小学生向けの雑誌がポツポツと売れる。

子どもたちの相手をするのは結構楽しい。消費税が上がった事に文句言う子や「ポイントカードはないんですか?」と、生意気な事を言う子にイラッとしながらも、塾通いが忙しくて友だちと駄菓子を買って食べた記憶なんか、数えるほどしかない自分を憐れに思う。


 同級生の中には受験をする子が多かった。受験しなくてもみんな塾には行っていたし、習い事と掛け持ちの子も大勢いた。僕も当然のように塾に通って、成績が良いと母が喜ぶから頑張っていたっけ。

スイミングに空手、ピアノに英会話。幼稚園の頃から一通りやったけどなに一つ身に付かなかったな。唯一、「点数」「順位」としてはっきりと努力が目に見える『勉強』だけが、母の喜びの対象になっていた。

「今日、スイミングのクラスが一つ上がったよ」と報告しても、母は「良かったわね」とは言うが、他の子の母親のように喜んではくれなかった。

「スイミングなんて、将来役に立つのかしら?受験には必要ないわよね?」、と言って幼稚園から続けていたスイミングを辞めさせられて、塾に通い始めたよな。

秀藤の同窓会には行かなかった。成人式にも行かなかった。同級生に会いたくないわけではないけれど、「今、なにしてるの?」、「どこの大学に行ってるの?」、と聞かれることに嫌気が差しているから。


 敦子さんが2階から下りて来てレジを代わり、「お疲れさま」を言えば僕の仕事は終わりだ。

「お疲れさまでした」

「明日はおやすみだね」

「はい。Tシャツ、ありがとうございました」

「月曜日に着てらっしゃいよ?」


敦子さんがニヤッと笑いながら言った。

『I can fly』・・・僕は飛べない。僕は飛ばない。


 平木さんは外回りからまだ戻っていなかった。ネットで注文したら、翌日には商品が届く時代だ。平木さんの「こんにちは」から始まる地味な営業は、時間も手間も掛かるのだ。

「この店も父さんの代で終わりかな?」と、寂しそうに言う敦子さんの顔を思い出して、胸の奥がツキンとなった。


タイムカードを押して通用口から出ると、上にはまだまだ青い道が続いていた。

これから、僕のもう一つの世界が始まる。


 金曜日の夜。

『ひいらぎ書店』でのバイトを終えてから、週3、4回繁華街の中ほどにあるビルに僕はいる。『ピタゴラス』の「ツバサ」それが、僕の夜の名前だ。

カウンターに座るのは男性客のみ。カウンターの中のスタッフも男性のみ。ここは男性客専門のボーイズバーだ。興味本位で来る客もいれば、カウンターの中の男の子が目的で来店する客もいる。

まあ、ほとんどがその手のオトコなんだけどね。

この店は好みのタイプの男の子を選んで外出も出来るけど、スタッフは素人っぽい子が多い。店長とバーテンダー以外のスタッフは大学生かフリーターだから都合の良い日にシフトを入れる。15人ほどが所属しているけど、毎日ここで働いている者はいないしノルマもない。売り上げが上がれば時給が上がり、ボーナスも出る。

平日は5、6人、週末は7、8人が店にいるが服装は自由だ。クリスマスや誕生日イベントがある日はスーツで店に出たりもするけれど、普段はみんなカジュアルな服装だ。

ここでは普段は着ない明るい色を選んで着るようにしている。更衣室のロッカーには、家のクローゼットにはないようなカラフルな服が並んでいるから、敦子さんが見たら驚くだろうな。後ろめたい気がして、重い気分でロッカーの奥にバッグと敦子さんにもらったTシャツの袋を押し込んだ。


 昼間の自分を脱ぎ捨てて、今日の青空に負けないようなコバルトブルーと白の細いボーダーのTシャツに、オフホワイトのジャケットを羽織れば『ツバサ』が出来上がる。


「ツバサくんって、ホント可愛いよね」

いつも『ツバサ』を指名してくれる志賀さんが、カウンターの向こうから微笑む。

「ありがとうございます」

女顔の僕は、ここではなぜか人気者だ。鏡を見れば、母に良く似た顔が映る。大嫌いだ、この顔。


 最初は教えられたとおりに作り笑顔で接客していたけれど、いつの間にか「可愛いね」、「綺麗だね」、と誉められるのが嬉しくなった僕は、店を辞められなくなってしまった。今では指名も増えて、『ツバサ』の売り上げは常に3位内にランクインしている。

大学生という『設定』だ。ここに体験入店した時は本当にそうだったから、満更嘘でもない。もちろん『秀藤学院』を卒業したなんて客には話さないし、話す必要もない。客は『ツバサ』に興味があるのだから。


「今日みたいな青を着ると、『綺麗』って言った方が合うな」

「そうですか?」

青を着ると、顔が青白く見えるからかな?

「色白で、冷たい感じがするんだよな」

「そう?じゃあ、止めたほうがいいかな?」

僕の隣に立っていた『ヒカル』が「もう少し薄い青の方が似合うよ」と口を挟んだ。あのTシャツみたいな色って事か。

「俺はツンとした女王さまタイプも好きなんだよな!」

「ツンデレが好きなんですか?」

『ヒカル』は上手く会話を続けてくれるから助かる。

「そうなんだよな~ツバサくん、店が終わったらラーメンでもどう?」


志賀さんは大きな目と濃い眉毛が印象的な、なかなかのイケメンだ。「鹿児島出身」って言ってたけど、なるほど南国系の顔だ。僕の出勤日には必ず来てくれるわけだけど、高い酒を入れてくれるわけでもないし、シャンパンなんか絶対に注文してくれない。チャージ料に含まれているナッツとかの乾き物をツマミに、ビール2本で2時間くらい居座るから、正直言ってありがたい客じゃない。


「うーん、どうしようかな?ラーメン食べてたら終電なくなっちゃうし」

「タクシー代くらいあげるよ。なっ?いいだろ?」

しみったれたアフターのお誘いはお断りだ。

「今日は止めときます。ごめんなさい!」

大袈裟なくらいに両手を合わせて「ごめんね!」と繰り返すと、志賀さんは口を尖らせた。可愛くないよ、あんたがやったって。

「今夜『は』って言うけど、今夜『も』だろ?」

拗ねたような言い方。わかってるなら、聞くなよ。

「僕、実家から通ってるって知ってますよね?昨日も遅かったから、母が煩くて。だから、ごめんね!」

『ヒカル』が「ツバサくんはお坊ちゃまなんです」と、からかうように言う。

「じゃあ、俺の誕生日くらいは付き合ってよ!?」

誕生日なら、僕の方が驕る事になるだろ?

「いつですか?」

「明後日」

「すみません、明後日は休みなんです」

「はあっ」

「ツンだけでデレがないぞ?ツバサ」

『ヒカル』が肘で僕の脇を突く。

「今度ね」

ニコッと笑ってみせると、志賀さんは「ツバサくん、可愛い」と僕の手を握った。


 この店にいる間だけは、僕は違う人間になれた気がするのだ。みんなに「可愛い」と褒められて、好かれて、『ツバサ』は今月の売り上げトップだ。

 ドアが開き、新しい客が入ってきた。「いらっしゃいませ!」と、スタッフの元気の良い声が店内に響く。

「ツバサくん、ご指名です」

「ありがとうございます!」

志賀さんががっかりした顔で僕を睨む。睨んでも始まらないよ。握られた手をそっと引き剥がして、志賀さんには笑顔をあげる。それから襟を正して、指名してくれた田代さんの席の前に向かった。


「田代さん!お待ちしてました!」

「ツバサくん、こんばんは」

田代さんは『TASHIRO』という、有名なバッグと靴のメーカーの次期社長だ。スーツ姿も決まってる。ピカピカの革靴、手入れされた指先の先端には小さな紙袋がぶら下がっていた。

「はい、これ」

10センチ四方のお洒落な紙袋の中には、小さな箱が入っていた。

「ありがとうございます。これ、なんですか?」

「君に似合いそうだったから。ピアスだよ」

「僕、ピアスは空けてないんです」

カウンターに乗り上げるようにして身体を前に倒し、穴の空いていない耳朶を田代さんに見せると、田代さんは耳朶を優しく摘んで揉む。


「空けておいでよ」

ぷにぷにと耳朶を弄る指先は長くて冷たい。

「どうしようかな?」


彼と出会ったのは2ヶ月前。

あの日は今年最後の雪が降っていたっけ・・・。


*****

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Love me do・6

 田代さんは、『TASHIRO』という有名なバッグと靴のメーカーに勤めている。「勤めている」というよりも、彼は『TASHIRO』の三代目だ。昭和初期に創業したという会社は銀座の一等地に本店を構え、今では全国に支店を持つ。職人が一つ一つ手作りで仕上げていくバッグのファンは多い。

いつもパリッとしたスーツを着こなしている田代さん。今日は春らしいグレーのスーツに明るいベージュのネクタイ。ネクタイはベージュ一色に見えたけど、近くで見るとゴールドとベージュの細かいチェック柄だとわかった。薄いブルーのシャツは、彼の品の良い顔立ちを引き立たせる。


「ピアス、空けてみたいって言ってたよね?」

「ええ」


ピアス穴を空けると人生が変わる、って聞いた事があるから。


自分の人生を変えたかった。軌道修正したかった頃もあったしね。これでも、自力で大学進学を目指した事もあった。だけど・・・母の眉間の皺を見ると、そんな『やる気』も消し飛んでいく。


「その気になったら言ってくれ。俺の知り合いの皮膚科に行くと良いよ」

「ありがとうございます」

田代さんは今夜もドンペリを注文してくれた。


 田代さんと出会ったのは2ヶ月前。あの日は雪が降っていた。大雪警報が出ていたその夜も、僕は午前0時まで『ピタゴラス』にいた。雪の降りしきる中、いつものように急いで駅に向かったけれど、酔いが回って思ったように走れなかった。その日は常連客の誕生日で、「お祝いに」と景気良く振舞ってくれる人がいて、いつもより飲んでいたんだよな。

終電に乗り損ねるのは珍しい事じゃないから、特に問題なし。ネットカフェで時間を潰して、始発で家に帰って、いつもの時間に『ひいらぎ書店』に出勤すれば良いだけだ。

母の機嫌が少々悪いけどね、気にしない。いつもの事だしね。


「はあっ、熱っ」

走ったことで息が上がり、体温も上がる。首に巻いたマフラーが暑くて、トートバッグに放り込んだ。途端にキンキンに冷えた空気が襲ってきたけれど、酔っている僕にはちょうど良かった。

タクシーを使ってまで帰りたい家じゃない。そう考えて、いつものようにネットカフェに向かおうとした時だ。スマホが鳴り出した・・・きっと、母だ。

母は僕の帰宅が午前0時を過ぎると、何度も電話してくるのだ。メールは何通も未読のまま。どうせメールの内容は同じだから返信の必要はなし、即削除あるのみ。『雪が降るから、早く帰ってきなさい』ってね。

ポケットからスマホを取り出してみると、思ったとおり『母』が「早く出ろ」と光って催促する。

・・・メンドクサイなあ。

鳴り終えたら電源を切ろう、そう思った時だ。


「うあっ!」

前から歩いてきた男にぶつかってしまった。拙い・・・その筋の人だったらどうしよう、と焦って身体を立て直そうとしたが、大きく体勢を崩した僕の腕をぶつかった相手が掴んでいた。

「すみません!」

「大丈夫かい?」

「すみません!」

「倒れなくて良かったな」

優しく声を掛けられて恐る恐る顔を上げると、端正な顔立ちの品の良い男性が顔を覗き込んでいた。20代後半かな?良かった、チンピラじゃなくて。でも、安心は出来ない。

「すみません!」

今時のヤクザは服装もきちんとしてて、一目見ただけでは「それ」とはわからない。

「すみませんでした!」

僕は相手の出方を見ながら頭を下げた。危ない人なら走って逃げるしかない。

「怪我はないかい?」

優しい声。

「大丈夫です、すみません!」

「終電に乗れなかったのか?」

「えっ?あの・・・そうです」

「どうするの?」


『どうするの?』って、あんたに関係ないだろう?

キョトンとする僕の顔を覗き込みながら、もう一度男が聞いた。


「家に帰れないだろう?どうするの?」

「えっ?っと・・・友だちの部屋に・・・泊まります」

今日は休みだったけど、ヒカルの部屋はここから歩いて15分。電話したら泊めてもらえると思う。

「そうか。友だちの部屋は近いのか?」

「・・・ええ。あの、手、放してください」

「ああ、悪い」


男が握っていた所が、急に寂しくなった。

ちょっとガッカリした表情を見せた若い男は長身のイケメンだ。スッとした印象の二重瞼の瞳に高い鼻。口元に湛えた笑みにクラクラする女性は多いだろうな。コートもマフラーも、3千円で2時間粘るそんじょそこらのサラリーマンではないとわかるくらい上等だ。


「君、『ピタゴラス』に勤めてるだろう?」

漸く僕の腕を放した男の口から『ピタゴラス』の名前が出て慌てた。自分を指名してくれた客の名前と顔はだいたい覚えている。今日来た客の中にもこんなイケメンはいなかったはず・・・。記憶を過去に遡るけれど、こんなイケメンはなかなかいないから一度だけの来店でも忘れないと思う。

『ピタゴラス』の客じゃない。

「・・・はい」

怪訝そうな僕に、男は名刺をくれた。


【『TASHIRO』商品開発部部長 田代晃次郎】

『TASHIRO』といえば、有名な会社じゃないか。女性物のバッグを中心とした老舗のメーカーだ。銀座のど真ん中にある本店で「バッグをオーダーしてみたいわ」と、ファッション誌を見ながら敦子さんが言ったのを思い出した。


「怪しい人じゃないから、安心してくれ」

安心?名刺なんかどこででも手に入れることが出来る。他人の名刺を「自分のだ」と言って渡すくらいの事、誰だって出来るんだからな。

「・・・」


この時の僕の警戒心はMAXだったと思う。

でも、不思議な事に彼の事は「嫌い」じゃなかった。顔を見ただけで生理的に『嫌だ』と感じる人がいるけど、彼にはそんなふうに感じる事もなく嫌悪感はない。悪い人には見えないけれど、「簡単に信じちゃいけない」と、幼い頃母に言われた言葉が脳裏を過ぎる。

『知らない人に声を掛けられても無視しなさい』

こんな時だけ、皮肉だな。


「ごめん!君が働いている店の前にね、俺の行きつけの店があるんだ。窓側の席で飲んでたら君が駅の方に走って行くのが見えてさ」


いつも見ていたということか?それとも、今夜たまたま見かけて追い掛けて来たのか?

僕はちょっと照れ臭そうな彼を睨みながら、声を尖らせて言った。


「もしかして、追い掛けて来たんですか?」

「追い掛けて来たわけじゃないよ。俺のマンションはこっちだからね」

「・・・」

「不審者扱いは仕方がないか。なあ、これから一杯付き合わないか?」

「・・・」

「俺の部屋で」


ますます怪しい。


「君ともっと話しがしてみたい」

「・・・良いですよ」


どうして「良いですよ」なんて言ってしまったのか、自分でもよくわからない。多分、同じ匂いがしたからだ。それに、母の言葉が耳から離れなかったからね・・・。


*****

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Love me do・7

 最近の天気予報は良く当たる。

『明日の朝は、山沿いで10センチ、平野部でも5センチの積雪のおそれがあります』、なんて言っていたけど、今のところ雪は降り止む様子はない。隣を歩く田代さんが、はらはらと落ちてくる雪を見ながら言った。

「降り止みそうにないな。明日の始発は遅れるかもしれないな」

「困る」


『君ともっと話しをしてみたい』、なんて言われて、本当は嬉しかったんだ。

彼になにかを話したいわけじゃない。両親の事、学校の事、今の自分・・・そんなことを話したいわけじゃない。『ピタゴラス』の「ツバサ」でもなく、『鹿之江航』でもない、まっさらな僕しか知らない人と話しをしたかった。


 昨日と同じ服装で『ひいらぎ書店』に行けば、敦子さんが騒ぐに決まってる。24時間営業の店で、セーターかカーディガンだけでも買って着替えようと考えながら、田代さんと肩を並べて歩く。

10分ほど歩いたかな。酔いが醒めてきたのか、マフラーを外した襟元が急に寒くなった。

「あっ・・・マフラー忘れてた」

深々と雪が降る夜だった。雪は降ったり止んだりを繰り返し、街路樹の葉は雪を抱えて春が間近なのにまるでクリスマスツリーのようだ。バッグの中からマフラーを取り出して巻こうとすると、田代さんが「ここだ。マフラーはもういらないよ」と、大きなマンションを指差した。高層マンションではないけれど、重厚な佇まいは高級感が漂う。

「うわっ」

僕が漏らした感嘆に、田代さんは笑顔を見せた。

「どうぞ」

ホテルのような広くて煌びやかなエントランス。「お帰りなさいませ」と、受付にいた男の人が頭を下げる。自動ドアの先は程よく暖房が効いていて、エントランスの真ん中には噴水があり、静かな水音を響かせていた。

「ただいま。今夜は冷えるね。風邪に気を付けて」

「ありがとうございます」

優雅に頭を下げる男の人に軽く会釈して、その前を通り過ぎる。

「田代さんって、お金持ちなんですね」

「まあ、困らないくらいにはね」


『有り余ってる』の間違いでしょう?


田代さんはエレベーターのコントロールパネルにカードをタッチして、エレベーターのドアを開けた。

「さあ、どうぞ」

そっと背を押されて、ちょっとだけ躊躇した。初対面の人なのに、ここまで付いて来て・・・今更だけど、後悔している自分がバカみたいだった。バカみたいだけど、『直感』って正しい事の方が多い。


それに、僕がここで殺されようが、酷い目に遭おうが、自己責任。思い切ってエレベーターの中に足を踏み入れた。


*****

「ツバサくん?」

「はい?」

店長がセレクトしたガチャガチャした洋楽が耳障りだった。

「考え事?」

2ヶ月前の事を思い出して、ちょっとだけセンチメンタルな気分だったのにスピーカーから流れてくる英語にムカつく。だけど『ツバサ』は笑顔を忘れずに・・・。

「田代さんと初めて会った日の事を思い出してました」

「ははっ」

ヒカルが興味津々な表情で、「どこで知り合ったの?」と会話に入ってくる。

「秘密」

「もったいぶるなよ!教えろよ!」

「俺たちだけの秘密なんだ。なあ、ツバサくん」

「うん」


 ヒカルはいつも楽しそうだ。明るい性格は誰からも好かれる。顔立ちも可愛らしくて、性格は温厚で優しい。時々、上客の取り合いみたいな場面になっても、ヒカルはすぐに譲る。ガツガツしていなくて、箸の使い方や物腰には育ちの良さを感じる。

彼がどこの大学に通ってて、どこが地元なのか、本名も知らない。

ここではみんな、自分の事を詳しくは語らない。スタッフ同士の個人情報の遣り取りは、客に余計な個人情報を与える事になるからだ。だから、僕たちはお互いの電話番号もメールアドレスも知らない。

それが僕には却って都合が良かった。『秀藤』から逃れられる場所だ。

ヒカルとは、入店以来妙に馬が合って、携帯の番号とアドレスだけは交換した。この店で一番親しい間柄だ。


「ツバサくん、お腹空かないか?」

「あーっ、空きました」

夕方、ロッカールームでおにぎりを一つ食べただけだった。胃の辺りがキューッとなって、急にお腹が空いてくる。

「蕎麦でもどうだい?ヒカルくんもおいで」

「やった!ありがとうございます!」


 田代さんが僕たち2人を連れ出すには、店にいくらか支払うシステムだ。それがいくらなのか、僕たちは教えてもらえないけれど、僕たちにはちゃんとその分の給与が支給される。

そのままホテルに消える場合もあれば、食事やカラオケだけで終わる事もあるらしい。他の子には「あれから、どうしたの?」とは聞かないから、知らない。この店にはウリ専もいるからね。


 田代さんに連れられて昭和初期の雰囲気が漂う蕎麦屋に行き、軽く冷酒を飲んだ。ヒカルは日本酒には弱いから、小さな江戸切子のグラスに1杯飲んだら眠くなる。

「ヒカル、大丈夫?」

「うん」

目がトロンとして、口数が少なくなったヒカル。

「そろそろ、切り上げようか?」

田代さんが支払っている間にも、ヒカルは店の前の坪庭の石垣に座り込んだ。

「大丈夫?」

「うん、平気」

ふにゃっと笑うヒカルは本当に可愛らしい。

ふらふらしているヒカルを支えてタクシーを拾った。「田代さん、ご馳走さまでした!」と、陽気に手を振るヒカルを見送って、田代さんは自宅マンションの方に歩き出した。終電の時間には十分間に合う時間だったけど、今夜は家には帰りたくない。

田代さんに付いて行くか、それとも「ご馳走さまでした」と言うのか、田代さんは僕の選択を待っていた。

「来るかい?」

振り返った田代さんが、笑顔で聞いた。

「はい」

少し後ろから、田代さんに付いて歩く。ここから彼のマンションまで歩いて5、6分の距離だ。僕たちを追い越していく車のライトに照らされた、田代さんの背中は逞しい。

「泊まる?」

「・・・ええ」

「良かった」


家には帰りたくない。弟と弟の彼女と3人で、『楽しい外食』を済ませた母の気分を邪魔してやりたかった。湊は優しいから、母を責めるだろう。

「兄さんにもっと優しくしろよ」ってね。


 田代さんのマンションに来るのは、何度目かな?

知り合ってから2ヶ月。週に1、2回『ピタゴラス』に来て、僕の売り上げに貢献してくれる田代さんとの関係は微妙だ。


*****


「言っときますけど、僕はウリ専じゃないですよ」

初めて彼のマンションに行って、玄関で靴を脱ぐことなく僕はそう言った。それを聞き、田代さんはプッと噴出した。

「見かけによらず、気が強いんだな。知ってるよ。あの店でウリやってる子は、閉店時間まで店にいないからね。君が男と出て行く時は必ずもう一人一緒だからな」

「・・・どうして知ってるんですか?」

アフターに誘われたら、必ずヒカルと一緒に行くようにしていた。そして、遅くなったらヒカルの部屋に泊めてもらう。

「いつも、君を見ていた」

「向かいの店から、ですか?」

「そうだ」

「ストーカー?」

「かもね」

「・・・」

「大丈夫、俺にも一応『社会的立場』ってものがあるから!安心してくれ」

「・・・」


『安心』したから、ここまで来たんだよな。

それとも、同じ匂いがする彼に惹かれたのかな?


優しい笑みで僕が部屋に入るのを待っていてくれる田代さん。帰ろうと思えば、このまま走って帰ることは出来る。でも、僕は彼に導かれるように靴を脱いで、玄関に敷かれた高級そうな丸いペルシャ絨毯を踏んだ。

その瞬間、違う世界の扉が開いたような気がしたんだ。


*****

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大変申し訳ないのですが、2、3日更新をお休みさせて頂く事にしました。月末から月初めに掛けて、家の中の改修工事をします。無理言って土日にやってもらうのでPCが弄れません(涙)早ければ6月2日(火)には更新出来るかな?スマホでちょこちょこやれば良いんですが、以前保存した時に記事が消えたことがありまして・・・。すみません!!

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Love me do・8

 田代さんの部屋は5階建てマンションの5階だ。5階にある4部屋は全て田代さんの名義で、他の部屋は賃貸していると聞いた。3LDKのゆったりとした間取り。いつ来ても、ドラマの中のセレブの部屋のように綺麗に片付いているこの部屋は、田代さんの雰囲気そのままのシックなインテリアに囲まれていて素敵だ。彼はここに一人で住んでいる。

今年28歳になると言っていたけれど、この広い部屋に以前は「家族」がいたのか、それとも「新たに迎える家族の為」のものなのかはわからない。お互いに自分の事を詳しく話したりはしないから・・・。

僕は『ツバサ』という源氏名と本当の年齢だけを教えた。彼は『TASHIRO』の名刺と年齢。彼が『TASHIRO』の跡取り息子だというのは、後から店長に聞いてわかった事だったりする。たまたま、彼が載った雑誌を店長が持っていたから。


「シャワーを浴びたら?」

「田代さん、お先にどうぞ」

「そう?じゃあ、冷蔵庫の中にいろいろあるから好きなものを飲んでてくれ」

「うん」

僕がテレビを点けて、冷蔵庫から黒ビールの缶を選んで取り出すと、田代さんはネクタイを引き抜きながらバスルームに向かった。僕はそれを確認してから、イタリア製の革張りのソファーに座って背を預ける。

「座り心地、最高」

硬過ぎず柔らか過ぎないソファーにゆったりと座り、苦味の強い黒ビールの缶を開けた。一口、口に含んで人生の苦さを知った、なんてね。この部屋には何度も来ているけれど、僕が使うのはバスルームとリビング、それとゲストルームだけ。他の部屋に入った事はない。冷蔵庫の中の物は、勝手に飲んだり食べたりして良い事になっている。


田代さんの部屋には週に2回、通いの家政婦さんがやって来て掃除をしてくれるそうだ。

食事は外食が中心で「作らない」と言っていたけれど、僕がここに来る時は、卵やハム、サラダ用の野菜とパンが買って置いてある。翌朝は、田代さんが必ず朝食を作ってくれるからだ。

確認した事はないけれど、田代さんが『ピタゴラス』に来る日は必ず僕を部屋に誘うから、食料は僕の為に買ってあるんだと思う。初めてここに泊まった日は、冷蔵庫には見事なくらいに酒類とつまみになりそうなチーズとか生ハムしか入っていなかったからね。

缶ビールを一本空にして、2本目を取りにキッチンに行き戻って来たところに、田代さんが髪を拭きながらリビングに入ってきた。

「頂いてます」

「どうぞ」

長身の田代さんは、黒いバスローブがよく似合う。軽く前で結んだ紐でさえ、お洒落な気がする。バスローブが嫌味な感じがしないのは、彼が着慣れているからだ。普通の日本人が着ればだらしない感じがするのに、長身の田代さんには似合ってしまう。

八頭身と言うのかな?まるでモデルのような体格は、日本人男子の平均身長に満たない僕には羨ましい限りだ。


「どうした?」

つい見惚れてしまって、口がポカンと開いていた。

「えっ・・・あっ・・・カッコいいなあと、思って」

「ありがとう」


照れる事もなく、「ありがとう」なんて・・・。「カッコいい」なんて、彼は言われ慣れてるんだろうな。女性が放っておかないと思うんだけど、彼はオトコにしか興味がないんだそうだ。


「言われ慣れてる?」

「ああ」

他の人が言ったら反感を買いそうな返事だけど、彼なら頷ける。

「ツバサくんにそう言われると勘違いしてしまうよ」

「勘違い?」

「ああ。風呂に入れば?」

「これ、飲んだら入ります」

缶を掲げて見せると、田代さんの手が伸びて来て僕から缶を奪う。ふわっと、良い香りがした。ウッド系の爽やかな香りは、彼がいつも着ている服からも香る。

「これは俺が飲むから、入りなさい」

「・・・はーい」

僕が飲みすぎていると思ったのかな?

『ピタゴラス』ではドンペリを2杯だった。お蕎麦屋さんで日本酒をグラスに1杯。ヒカルよりは飲めるけれど、僕もそれ程酒に強い方じゃない。缶ビールを一本飲んで、顔が赤くなっているのがわかった。


 シャワーを浴びてリビングに戻ると、田代さんはノートパソコンを弄りながらビールを飲んでいた。

この部屋のバスルームの籠の中には、僕の部屋着と下着、靴下が準備してある。それは田代さんが勝手に買って来て置いてある物だ。それを着てリビングに入ると、田代さんはパソコンを閉じた。

2ヶ月前に出会った彼とは微妙な関係が続いている。それは他人には理解出来ない関係かもしれない。


「おいでよ」

「うん」

隣に座ると、田代さんは僕が着ている部屋着を見て嬉しそうに笑う。新しく準備されていたのは、赤いTシャツとチェックの短パン。

「似合うね」

「そうかな?」

「似合うよ」


母も赤が似合うんだよね。だから、本当は赤なんか着たくない。鏡に映った自分の姿が母と重なるから・・・思い出したくもないけれど、母はいつも傍にいる。


「ありがとうございます。いつもすみません。この前のがあるからそれで十分なんですよ?ちゃんと洗濯もして下さってるし」

「良いじゃないか。似合いそうだったからさ」

ここで着た物を持って帰ったりはしないから、部屋着と下着は少しずつ増えている。一度、「持って帰れば良いのに」と言われたけれど、「また来ますから」と断った。

田代さんの手が後頭部に伸びて来て、僕の髪にそっと触れた。髪に手が触れた瞬間、僕がピクリと身体を動かしたからか、田代さんは慌てて手を浮かせた。

「あの・・・触っても、大丈夫ですから」

「そう?」


田代さんは嬉しそうに笑うと、ゆっくりと髪に触れて頭を撫でる。優しい、優しい手だ。

こんなふうに、母にされた記憶がない。3つ違いの弟が生まれた時に、あの手は弟のものになったんだ。


 手が頭から頬に移動して、田代さんはいつものように聞いた。

「キス、しても良いかい?」

「・・・良いですよ」


田代さんは『キスしても良いかい?』と、必ず聞く。それに僕は『良いですよ』と、答える。『儀式』のような遣り取りをしても、雰囲気が壊れることはない。


 『ピタゴラス』に勤める子のうち何人かが「ウリ」をしているのは、入店してすぐに教えられた。

『ツバサくんもやる?』と店長に軽い感じで聞かれて、焦って「しません」と答えたが、客には誘われる事もある。それはキッパリと断っても良いのが店のルールだ。田代さんは『ピタゴラス』に来た事はなかったけれど、店の事情は知っていたようだ。だから、終電に乗り損ねた僕を誘ったんだろうけどね・・・。


後頭部に添えられた手に力が籠もる。そっと目を瞑ると、田代さんの形の良い唇が遠慮がちに僕の唇に触れた。


 僕の初めてキスの相手は田代さんだった。初めてキスしたのは、田代さんが初めて『ピタゴラス』に来た日だったな。

オトコとキスする事に嫌悪感はなかった。嫌悪感どころか、田代さんの慣れたキスが気持ち良かったし、気分は高揚した。キスの間に僕の雄は軽く勃起して、僕は「やっぱり」と自分の性癖を自覚した。


 考えてみれば、小学生の時も、中学生の時も、高校生の時も、彼女が欲しいなんて思った事は一度もなかった。『秀藤』は共学だから、当然カップルが出来始める。可愛い女の子を見ても、僕がトキメク事はなかった。その頃は母があんなふうだから、自分は「女性恐怖症かもしれない」なんて都合良く考えていたけれど、『ピタゴラス』で働き始めてからはっきりした。

僕は女の人には興味が持てない。

*****

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Love me do・9

★今回18禁とさせて頂きます。軽いですから期待しないで下さい(笑)15禁でもいいかもですwww年齢に達しない方、表現がお嫌いな方回れ右でお願いします!!



 田代さんのキスは、とても優しい。とは言え、他の人とはキスしたことがないから比べようもないけどね。唇を重ねると、いつも夢中にさせられてしまう。軽く勃ち上がる雄が恥ずかしいけれど、僕はそれを否定出来ない。田代さんはそれに気が付くと、自分の昂ぶりを僕の身体に押し付けてみせる。

「・・・んっ」

鼻に抜ける甘い声が出て、思わず彼の背中に縋りつく。

「んっ・・・ふっ」

「大丈夫かい?」

「・・・うん」

額に、鼻先に唇が落ちてきて、頬にもキス。耳朶を唇で挟まれ、ふーっと息を吹き掛けられて、田代さんの手が徐々に僕の股間に移動していることに気が付いた。

「やだ」

それは、怖い。田代さんの雄は大きくて、僕の身体に擦り付けられる熱は気持ち良いんだけど・・・怖い。

「怖い?」

「うん」

怖い時は素直に『怖い』と伝える。田代さんは無理強いしたりはしないから、僕は安心しきっている。けれど、今日は違った。彼の手の平はTシャツの中に入り僕の腹をゆっくりと撫で、その手は股間を避けて太腿に触れた。

「あっ」

僕の肌の感覚を確かめるように優しく動く手の動きと、耳元で感じる彼の熱い吐息が僕を興奮させる。

「嫌かい?」

「あっ・・・大丈夫、だと・・・思う」


嫌じゃない。怖いだけ・・・変っていくのは怖い。でも、僕は変化を求めている。


太腿を何度も撫でられて、僕の雄は少しずつ硬くなる。最初は短パンの上から太腿を撫でていた田代さんの手が、気が付けば短パンの裾から潜り込んできて素手で触れられていた。『嫌だ』と言えば止めてくれると思うんだけど、僕は『嫌だ』と言えなかった。

気持ち良かったから。

僕は我慢出来ずに、彼の身体にギュッと抱き付き自分の雄を擦り付けてしまった。


「ツバサくん」

「な、に?」

背中に回した腕がきつかったかな・・・そう思ったけれど、僕は腕の力を弱める事が出来なかった。

「顔を見せてくれ」

彼の言葉とは逆に、肩に乗せていた顔を隠した。

「・・・やだ」

「どうして?」


田代さんは笑っている。余裕だよなあ・・・。

きっと、物欲しそうな顔をしている。オトコに身体を触れられて、嫌がるどころか悦んで、勃起した雄を擦り付けている・・・そんな淫らな顔を見られたくない。


「・・・恥ずかしいから」

「初心だなあ。余計に見たくなるだろ?」

「ダメ」

『ダメ』と言ったのに、田代さんはあっという間に僕の身体をソファーに転がした。

「うわっ」

「嫌かい?」

「・・・嫌だ」

真上から見下ろす田代さんの顔がカッコ良くて、僕は目を逸らした。


 今更、『嫌だ』もないよな。ここに来るようになって、もう2ヶ月。僕が「『ウリ専』ではない」と宣言した時、田代さんは笑った。「じゃあ、俺と恋愛しよう」と言われて、今度は僕が笑った。

「男の人と恋愛なんて、しませんよ」、ってね。

それから、何日かして田代さんが『ピタゴラス』に来店した。

その夜、初めてキスをした。僕は『恋愛』なんかする気はなかったけれど、田代さんは大真面目な顔をして「好きになってくれ」と言ってキスをした。その時のキスは軽い触れるだけのキスだったけれど、何度もここに泊まるうちに徐々に深いものに変わっていき、今は身体にも触れられる。それは、嫌ではなかったから拒否しなかった。


 ソファーに転がされて、上から圧し掛かられて・・・今までは、「それ以上は嫌だ」と言って拒否してきた。僕はここで『帰る』と言わなくてはならない。

でも、僕は言わなかった。


嫌じゃなかったから。


僕は、田代さんの身体に興奮していた。逞しい胸や腕に抱かれて心地良かったし、自分がオトコの雄に貫かれて喜ぶ人間だと確信して、小気味良かった。母に似たこの顔が苦痛に歪み、オトコの雄に貫かれて悦ぶ瞬間を、母に見せてやりたいとすら思ったんだ。

今ここで『帰らない』事が、両親に対する最大の裏切りだったのかもしれない。外は雨が降り出した・・・ひつじ雲は雨の前触れだからね。


*****


 一浪して大学に通い始めた。家から約2時間掛けて通う大学は、決して居心地の良い場所ではなかった。

 ゴールデンウィーク明けには大学に通うのを止め、大学の近くにあるファミレスでアルバイトを始めた。親が買ってくれた定期券で2時間掛けてアルバイトに通ってる感じ。家の近くの店では、母たちにすぐにバレてしまうからね。「バイト代で定期券代を返せば良い」、なんて考えていた。

母は毎日律儀に弁当を作ってくれて、それを食べたくない僕は弁当の中身をゴミ箱に捨てる。「ご馳走さま」と言えば、母は疑いもしない。

大学から家に連絡がいかない程度に、サボっていれば良かったんだけどね。「『秀藤学院』=秀才」という図式が世間には浸透しているから、僕が教室にいるとあちらこちらから聞こえてくるんだ。『秀藤』の名前が。

大学の先生方からは過分な期待を掛けられ、母には「お友だちは出来たの?」なんて聞かれて、僕は苦笑いするしかなかった。


 いつものようにファミレスでのアルバイトを終えて、重い足で電車に乗った。しかし、その日は事故があって乗り換えの電車が停まっていた。母からは『何時に家に着くの?』『事故ですってね?』と、煩いくらいにメールが届き、僕は辟易しながら乗り換えの駅で電車を待っていた。

電車を待つ人が溢れるホームで、レールの上に出来た青い空の道をボーッと見上げ、炭酸飲料のペットボトルを空にした時だ。

「こんにちは」

後ろから見知らぬ男性が、肩を叩く。

「・・・」

チャラい。

「君、アルバイトしない?」

「いきなりですか?」


結構気に入った。大学はもうすぐ夏休みに入る。アルバイトを増やしても良いなあなんて軽く考えたけれど、派手なボタニカル柄のシャツの男はいまいち胡散臭い。そこが結構気に入った。


「どうせ電車は来ないんだから、コーヒーでも飲みながら話そうよ」

僕の顔を覗き込んで、馴れ馴れしく話し掛ける男が『ピタゴラス』の店長だった。

「君、いつもこの駅で乗換えだろう?ホームにいるのを何度か見かけたんだ。うちで働いてみないか?」

「・・・」

「履歴書も要らない。体験入店だけでも良いからさ!」


返事をしない僕に、男は名刺を握らせた。『履歴書も要らない』って所が、すごく気に入った。


「今すぐでなくても良いからさ!気が向いたら電話してくれ。待ってるよ!」

そう言って僕の手に名刺を握らせ、背中をパンパンと叩くと男は人々を縫うように避けながら去って行った。

「なんだ?これ」

派手な銀色の名刺は、水商売だとすぐにわかる。【『ボーイズバー・ピタゴラス』店長・町田勝俊】、夜の商売の人から「働かないか?」と声を掛けられたのは初めてだった。

「ボーイズバー?ホストかな?」


名刺をバッグのポケットに入れて、僕はその存在すら忘れていた。それを思い出させたのは、母だった。


*****

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ありがとうございました!
★「《夜明け前・8》~黒川嘉美の午前4時」までUPしました!!すみませんっ!《夜明け前》は番外編を含んで32話あるんですが、まだ全部UP出来ていません。明日、20万HIT頂きました時のリクエストSSをUPしますが、これまでのお話を全部お読み頂けないです。大変心苦しいのですが、ボチボチUPしていきますのでwww→ここから目次に飛べます。

Love me do・10

★今回18禁です。年齢に達しない方、表現がお嫌いな方は回れ右でお願いします!




 田代さんの唇が、頬に触れ、顎に触れた。ちゃんと目を合わせて、田代さんは濁りのない瞳で言った。

「ツバサくん、好きだよ」

正直に答えなくてはならない。僕の気持ちは、『恋愛』まで進んではいないって事を。

「田代さん・・・僕も、好きなんですけど」

「好きなんですけど?」


笑ってる。

この状況で、まだジタバタしようとしている僕を笑っている。

仕方がないだろう?怖いんだから。すぐに乗り越えられた『キス』とは違う。

自分の身体の中に、熱した棒のようなモノが入ってくると思うと、覚悟がいるんだよ。太腿に感じる熱が身を焼くと思うと、胸の奥がギュッと捉まれたように縮む。それはもしかしたら『期待』かもしれないけどね。

ネットで何度もオトコ同士のセックスを確認した。それを観て、下半身がキュウッとなる・・・嫌悪感なんかない。それを観ている僕は確かに、画面の中で喘ぎ声を発しながら、後ろから尻を掴まれて激しいピストン運動に酔い痴れている若いオトコになりたかったんだ。


「すみません」

「嫌なんだね」

「嫌っていうか・・・」

「君のココはこんなになってるのに?」

「あっ」

田代さんは短パンの中で太腿を撫でていた手を、グッと中に押し入れて僕の雄に触れた。

「やっ」

裾の部分から入り込んできた手が、僕の雄を掴む。それだけで全身が緊張して、僕の意識は下半身に集中した。

「ひっ」

初めて人に触られた雄は、ますます硬くなる。ドクドクと音をたてて、全身の血が雄に集中して張り裂けそうだ。

「た、しろさん」

「なんだい?」

「怖い」

「怖くないよ」


怖くないはずがないだろう?本来、そういうふうに使うトコロじゃないって、わかってるよね?田代さんの手が僕の雄の先端をかすめた瞬間、背中から首筋に掛けてズーンとなにかが突き抜けた。


「君は気付いているよね?君は女の子の身体を見て、ココがこんなふうになったことがあるのかい?」

田代さんの手はイジワルだ。雄を握った手を何度も上下させて、僕を弄ぶ。

「あっ・・・ない、です」


だから怖いのかもしれない。家族との溝がますます深くなる。性癖を両親に知られたら、家を追い出されるかもしれない。そんな事になったら僕は2度と『家族』に戻れないじゃないか・・・。

違う。


それを望んでいるのは、僕じゃないか。


単純な事だった。家族に一線を引いて離れてしまった僕が、なにをしようが彼らに関係があるだろうか?犯罪さえ犯さなければ、警察沙汰さえ起こさなければ、僕は自由だ。

そう考えた瞬間、強張っていた身体から一気に力が抜けた。可笑しくなった。『家族』にしがみ付いている自分が可笑しかった。


「僕は、田代さんのこと・・・『好き』だけど、『恋愛』とは程遠いんです。正直言って、『売り上げに貢献してくれる良いお客さん』止まりかもしれません。それでも、良いんですか?」

田代さんは苦笑いした。

「身も蓋もないなあ」

「ごめんなさい」

『恋愛』とかには未熟な僕は、そんなことしか言えないんだよ。

「可愛いね、ツバサくん。大丈夫、きっと俺と『恋愛』してくれるよ」

「そう、かな?」

「俺を見て」


田代さんの手が短パンの中で窮屈そうに動く。彼の大きな手に収まっている雄が、ビクビクと動くのがわかる。やわやわと動く手が根元から先端まで優しく這って・・・僕はそれだけでもイきそうなる。

前で結んでいた短パンの紐を、僕は自分で緩めた。田代さんが、全てから開放してくれる。


「まだ『恋』でも『愛』でもないけど、田代さんなら良いかな」

田代さんの手が止まった。

「ツバサくん?自棄になってるのか?」

「そうじゃないです。そうじゃない・・・『キス』も最初は上手に出来なかったけど、ちゃんと出来るようになったし」

短パンの裾から田代さんの手がいなくなった。田代さんは僕が履いていた短パンとボクサーブリーフを一緒に太腿まで引き下ろした。すでに勃ちきっていた僕自身が、勢い良く跳ねる。

「見ないでよ」

手で隠そうとしたけれど、手を掴まれた。

「これから全部見るのに、今更恥ずかしがるなよ」

「でも」


いつも優しい田代さんが、急に怖くなった。


 股の間でジュルッと音をたてて、僕の雄をしゃぶる田代さんが見える。田代さんの長い指は、僕の後孔に入って抜き差しを繰り返していた。最初は異物感しか感じなかったけど、指にローションを足して抜き差しを繰り返されるうちに、なにか物足りなくなってきた。

「・・・あっ・・・そ、それ・・・嫌、です」

「ここ、気持ち良いよね?嫌じゃないだろう?」

気持ち良いというか、なんだろう・・・気が付けば後孔で暴れる指は増えていて、バラバラに動く指が触れると声を抑えられないトコロがある。田代さんはそこを意図して擦り、僕の口からははしたない声が洩れる。

「ああっ・・・っ」

前の昂ぶりと、後ろの感じるトコロを同時に責められて、僕は一たまりもない。

「あっ・・・ああっ・・・」

小刻みに腰を動かして、呆気なく田代さんの口の中に白濁を零してしまった僕は、思わず顔を両手で覆った。

「・・・ごめんなさい」

ゴクッと飲み込む音がした。

「あの・・・」

「大丈夫、ツバサくんのだから」

手で口を拭う田代さんが、とてもイヤラシイ顔をしていた。人の口の中に放ってしまって、居た堪れなくて、もう一度小さな声で「ごめんなさい」と言うと、田代さんが顔を近付けて来る。

「キス、しても良いかな?」

「はい」

顔を覆った手を優しく外した田代さんは、いつもの優しい田代さんだった。唇が重なると、苦い味がした。


 胸の尖りを弄られるのも初めてだった。硬くなってツンと上を向いた赤い尖りは、田代さんに舐められ転がされて痛いくらいなのに、僕はもっとシて欲しくなる。『もっと』と言えないけれど、もっとたくさん舐めて舌で転がして、噛んで、揉んで欲しい。

「・・・っと」

「なんだい?」

「もっ・・・と」

「もっと?」

「・・・もっと、気持ち良くして」

僕がそう言うと、田代さんは嬉しそうに僕の後孔を指でノックした。トントンと軽く触れただけでも、指がのめり込んでしまいそうだ。

「ココに入りたい」

田代さんは自分の雄を僕の太腿の辺りで擦り付けた。それが僕の中で行き来するのが容易に想像出来るように、田代さんは腰を振る。

「うん・・・良いよ」

田代さんは僕の身体にキスを繰り返しながらうつ伏せにすると、腰を高く持ち上げた。


*****

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なんか、お久しぶりの『Love me do』ですwww次回もR付いてます♪

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