『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

春うらら、恋うらら・29~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 三木店長が見つけてくれた桜の名所は、ある大学のキャンパス内にある公園だった。『公園』と言っても遊具があるわけではない。戦前はある皇族のお屋敷があったという場所には大学の美術館が建ち、広い庭だけが残っているという。その庭を利用して、学生たちや一般の人が自由に使える公園として開放してあるのだそうだ。

「ここは穴場中の穴場だ」という三木店長の言葉を信じて、俺たちは弁当を持ってやって来たのだった。

「この土地の持ち主だった皇族は、『桜の宮さま』と呼ばれていたらしい」

「へえ。素敵な名前だね」

「桜の研究の第一人者だったそうだよ。隣接する大学に土地を寄付するのに、桜の木だけは残すというのが条件だったそうだ。あっ、これは三木くんの受け売りね」

大学の裏門から入ると、『美馬園美術館』と書かれた看板があった。それを見つけた圭介さんが「あれだ」、と指差し矢印の方向へと歩いて行く。

大学の裏門も通学に使われているから、学生の出入りも多い。俺と圭介さんは授業に向う若い学生の波から外れて、美術館の方へと向った。校舎の方へと急ぐ学生たちと別れると、道はアスファルトではなく砂利道になった。歩く度にジャリ、ジャリと音がする道は日陰になっているから、風が吹くと肌寒いくらいだ。


 俺と圭介さん。通り掛かりの一般人だけど、俺は学生たちとも年齢が近いから学生に見えるだろうか、と思って、ジャリジャリと音を立てて歩きながら聞いた。

「俺、大学生に見える?」

「ああ、そのまま授業に出てもわかんないんじゃないの?」

「そう?こっそり紛れてみようかな?」

そう言うと、圭介さんは黒いキャップの奥の瞳を細めて優しく微笑んだ。

「大学って、憧れるな」

「そうか?」

「うん」

父を早くに亡くした俺は、端から大学進学は諦めていた。まあ、就職か進学かで迷う前に、そういう悩みさえもなくなったけどね。

「薫に誘われて一度だけ学園祭に行ったんだけど、みんな楽しそうだったな。テントの中でたこ焼きとか焼きそばとか売っててさ。あとは薫の卒業式。どっちも行事の時だったから、賑やかだった。普段のキャンパスはこんな感じなんだ。静かだね」

「ああ、普段は静かだぞ。もうすぐ授業が始まるんじゃないか?」

辺りはシンと静まり返っている。遠くから「オーッ」と声がして、野球かサッカーでもやっているようだ。塀の向こうの車の往来の音に交じって聞こえる鳥のさえずりと、ザワザワと木立を吹き抜ける風の音が俺たちを取り巻いている。

「圭介さんも真面目に通ってたんだ?」

「俺?うん、まあ。バイトが忙しかったからな。1、2年の時に目一杯単位を取って、バイトしてたな」

「ふうん」

学生時代の話になると圭介さんの口は重くなった。色々と嫌な事を思い出すのだと察して、俺はそれ以上聞かなかった。


 すれ違う学生の姿もなくなり、辺りには人影はない。ヒヤッとする木陰を歩いていると、背の高い木々に囲まれた古い建物が見えてきた。大学関係者は入館料無料。俺たちは部外者だから300円払って美術館の中に入る。

 受付の女性職員は「午後5時には閉館しますが、5時を過ぎましたら公園だけの利用も出来ます。5時過ぎたら、公園の右手の木戸から学外に出られますのでそちらからお帰りください」と、結構フランクだ。収蔵された美術品を載せたパンフレットや特別展のチラシを渡されて、それを持ったまま中に入った。

「ねえ、お弁当は?外で食べても良いんだよね?」

美術館の荘厳な雰囲気に飲まれて、俺はどこで弁当を広げるのだろうかと不安になった。庭でシートを広げた途端に「禁止です」と注意されるのもね。

「三木くんは飲食可だって言ってたけど。俺が聞いてくる」

圭介さんは踵を返すと、女性職員のいる受付に戻った。俺は美術館の入り口に掲げてある、この美術館の土地を寄付したという皇族の肖像画を見上げた。勲章を付けた立派な髭の宮さまの名前は「美馬宮」とおっしゃるらしい。

戦後、皇族の多くは皇籍離脱して平民になった。この人もその中の一人らしい。なかなかの美丈夫で、軍服姿の凛々しい中年男性だ。

「輝也、公園の中ならOKだってさ。さすが、三木くん」

「そう、良かった!」

この美術館は絵画や陶器といった屋内の展示品の他に、庭に大きな彫刻や現代アートを展示してある。パンフレットによれば大学の美術学部の卒業生や縁の人々の作品らしい。

「学生もよくここで弁当を食べてるそうだよ」

「へえ!」

庭に出ると、一番先に目に付いたのは赤いジャングルジムのような物。三角や四角を組み合わせて作られた前衛的なフォルムは、何を表現しているかわからない。

「タイトルは、『島』」

「俺には理解出来ないから、パス」

圭介さんは『島』には一瞥をくれただけで素通りした。俺にも理解は出来ないし、どう見たって島には見えない代物だ。子どもの遊具にでもなりそうな芸術品は凡人の理解を越えていた。

「あっ!あそこ!」

ギリシャ神話に出てくるような胸も露わな女神の指差す先に、濃いピンク色の花がまるで手鞠のようにかたまって咲いた桜の木が見える。

「うわっ!綺麗」

「あの木の近くにシートを広げようか?」

「うん!」

桜の品種はわからないが、一般的なソメイヨシノよりも花びらの色が濃い。そして八重咲きの桜はちょうど手の平に乗るくらいの大きさで手鞠のように群れて咲いている。鶴橋さんの言っていた桜と同じだ。

 圭介さんはいつものようにつばの広いキャップを被り、首元には黒いストールだ。日陰に入ってもキャップは脱がない。木の下は半木陰になって、吹き抜ける風が心地よいから、俺は帽子を脱いだ。

「うわっ・・・気持ちいい」

「うん・・・春だな。鬱陶しいんだよな、紫外線が」

紫外線に弱い圭介さんは、太陽を見上げて恨めしそうに睨む。

「新緑が綺麗だね」

「瑞々しい、という言葉が一番合うな」

「そうだね」

庭全体に配置されている作品を見て回るのも楽しそうだ。そして庭には桜の他にも、あじさいやツツジが植えられているのに気が付いた。庭に常に花が咲くように工夫されているようだ。

ソメイヨシノはすでに葉桜。僅かな花の残骸を残している木もあるが、花が咲いているのはその木だけだ。桜の下にシートを敷き、持って来たランチボックスを広げた。

「ご飯はいなり寿司と巻き寿司にしました」

自慢げに蓋を開けた俺は、圭介さんの反応が見たくて顔を覗き込む。

「うわっ、美味そう」

「ちらし寿司にしようかと思ったんだけど、食べ易さを重視しました」

「うん」

「はい、おしぼり」

「ありがと」

圭介さんは俺が渡したおしぼりで手を拭くと、いなり寿司を手で掴んで口に運んだ。

「あっ、まだ箸を出してない」

「早く出せ」

慌ててプラスティックの小皿と箸を出して渡すと、圭介さんはモグモグしながら受け取った。その間におかずの蓋を「ジャジャン!」と開けてみせる。

「卵焼きとから揚げ、筍の煮たのと海老フライに鰤大根、それからポテトサラダでしょう。このミニトマト、美味いんだよ?甘みが強くてフルーツ感覚で食べられるんだ。それから、海鮮チヂミでしょ。こっちの肉団子には蓮根を入れてみました!」

圭介さんはたくさん並んだおかずを見て嬉しそうに笑った。

「2人では全部食べられないよ」

「大丈夫だよ、外は気持ち良いからね!たくさん食べてよ」

「ああ」

渋々頷く圭介さん。箸を持つと肉団子とチヂミを皿に取った。

「それから・・・」

俺はデザートの白玉あんみつを取り出そうと、クーラーボックスの中に手を入れた。

「輝也」

「なに?何か欲しいのある?お茶?」

慌ててポットに手を伸ばした時だ。圭介さんの手が俺の手を止めた。

「時間、あるからさ。ゆっくり食べよう?輝也も食え」

「・・・ああ、うん。でも、スープもあるんだ!コーンポタージュ」

「うん、全部食うから。落ち着け」

「・・・ごめん」

つい嬉しくて、あれもこれもと取り出して見せようとしたが、急ぎ過ぎたみたい。

「ここから30分もあれば店に戻れるだろ。4時まではノンビリしていける。おやつも食べて、昼寝も出来そうだ」

「ああ、うん」

いくらなんでも、昼寝は無理だよ圭介さん。

「遅れても猪俣は文句は言わない」

「遅れたくない。俺は遅れないからね」

「わかった、食え。美味いから」

「うん」

コーンポタージュをカップに注いで渡し、俺は深呼吸した。そうだ、焦っても同じ。時間が勿体無いような気がして気が急いていた。早く店に戻らないと、と思ってたし。

「でも、今のは圭介さんに早く食べて欲しくて言ったんだからね?」

「わかってるって!俺の口は一つだろ?一辺に口には入らないよ。フレンチも頃合を見計らって料理が出てくるだろ?俺もテルの渾身の花見弁当を楽しみにしてたよ。だから、ゆっくり食わせろ」

「うん、わかった。でも遅刻はしないからね?」

「チッ」

小さな舌打ちが聞こえた。

「えっ?」

「帰りにホテルでも寄ろうかな~なんて思ってたのに」

キャップの下の妖艶な眼差しが俺を誘っている。

「絶対にダメだからね!山下店長に俺が叱られるじゃないか!?」

「冗談だよ」

今の、半分本気だったな。

「冗談だけど、ホテルに行っちゃったらテル『も』悪いよな?」

悪い笑みを浮かべた圭介さんは、半分以上本気のようだ。俺の手を引き寄せて、手で抓んでいたミニトマトを俺の指ごとパクッと口に入れた。舌でミニトマトを絡めとって、舌先で指を吸う。

「・・・っ」

「弁当のお礼」

「・・・ありがと」

「どう致しまして」

ホテルは本気だ。この人、時々思い切った行動に出るから用心しないとね。

*****

不定期更新中にもかかわらず、ご訪問ありがとうございます!

花見に来て花はほとんど見ていない輝也www

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コメント
拍手鍵コメ・aさま~いらっしゃいませ♪
aさま、いらっしゃいませ♪記念のコメありがとうございます(笑)

レスが遅れております~申し訳ないです!!

というわけで~テルのテルはホテルのテル~♪その通りです(笑)圭ちゃんの計略にはまったんでしょうか?ふふふっ。

なにせ「この人」呼ばわりですから!偉くなったなあ~♪店長だし!!

ああ、ここで書いてはいけないのであったwww今夜をお待ちくださいませ!!オマケつきです♪

オマケを書いてたら時間がなくなって←はあ?

紫外線が怖い時期が来ましたね。まあ、圭ちゃんは一年中黒衣の貴婦人ですから、万全です。

いつもコメントありがとうございます!!仕事も落ち着いたんですが、家人の病院に付き合ってまして、なかなか自分の時間がないんですよ。でも、ボチボチ更新しておりますから、よろしくお付き合いくださいませ!!

拍手&コメントありがとうございました!
2017/05/20(土) 07:26 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
拍手鍵コメ・Sさま~いらっしゃいませ♪
きゃーーーーーっ!!Sさまっ!!お久し振りです~~~!!メチャ、嬉しいv-10

お忙しかったんですね、お元気でしたか?日高はまあ、寄る年波には勝てませず、ボチボチ更新を続けておりますwwwまあ、元気ですよ←大丈夫か?

テル、出世しました!!黒川も異動しまして、色々変わっております。

過去記事巡って来て下さいね~♪

猪俣にもそのうち頑張ってもらいましょう。そしてブラコン枝野ちゃん(笑)←まさかの

お顔出してくださって、嬉しいです~♪また、よろしくお付き合いくださいませ!!

拍手&コメントありがとうございました!
2017/05/20(土) 07:33 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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