『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

T・23

「警視庁だと!?」

津田の怒号に近い声が庭に響く。その声に驚いた花子が政重の膝から飛び降りて、部屋の隅に置いてある衝立の後ろに隠れてしまった。

「源、声が大きい。花子が怖がるじゃないか」

「申し訳ありません、親父さん」

津田がシュンとなって頭を下げたのは一瞬の事だった。すぐに気を持ち直して飯坂に食って掛かる。

「飯坂!適当な事、言ってんじゃねえぞ!」

「本当です。拉致されてすぐに、若の2台のスマホの電源は切られていますから、GPSでの追跡は出来ません。勿論、ここから動いている可能性はあります。再び車を替えて運転手を替えた可能性はありますが、一旦、警視庁に入ったのは間違いありません」

「そうか・・・桜田門か。あちらさんもやるじゃないか?なあ、飯坂」

政重の穏やかな声は、花子に対する声と同じだ。

「しかし、どうして警視庁が?いや、多少の心当たりは若にもあるだろうが、攫うか?しかも河野組本部の目と鼻の先で、だぞ?いつものように適当に難癖付けて、任意で引っ張れば済む事だろうが!」

津田は口を開く度に音量が上がっていく。

「源、声を抑えろ。外の連中に聞こえるぞ」

「すんません」

津田を注意して、政重は立ち上がった。衝立の裏に隠れてしまった花子に近付き、優しい声で呼び掛ける。その声の調子は関東一円を牛耳る河野組を束ねる男とは、とても思えないくらい優しく、甘い。

「花子、おいで」

花子はニャーと泣きながら衝立の横からこちらを窺い、甘えたように政重の手に顔を擦り付けながら出てきた。

「親父さん、理由は・・・心当たりは、ありますよね?若の居場所は警視庁で間違いありません」

飯坂の確信の籠もった言葉を聞き、政重は納得したように頷いた。そして衝立の裏から出てこない花子を漸く捉まえ、抱えて戻ってくる。

「公安か?」

「部署まではわかりませんが、これをご覧ください。正門の前のカメラが捉えた運転手の顔です。お二人には見覚えはないですか?」

画像は最新の解析技術で処理されているが、何しろ画像が荒く運転している人物の顔ははっきりしない。

「知らねえな。源はどうだ?」

「私も見覚えはないですね」

「以前、警視庁からホワイトハットを依頼された時に、ちょっとだけ頂いてきたファイルがあるんですが・・・これです」

飯坂はポケットからUSBを取り出し差し込んだ。

「それはなんだ?」

「警視庁に勤務している者の個人情報ファイルです。これは2年前のものですから最新ではありません。ですが、食堂のおばさんから清掃会社や出入りの業者まで、ここに入っています」

「お前、公安に侵入したのか?」

「ははっ、ご想像にお任せします」

軽やかに動く指が、警視庁で働く者たちの個人情報を表示していく。ここまでくると飯坂の厳しかった表情も緩み、笑みも漏れてくる。

「これです。新谷哲平。運転している男の顔と見比べてください」

「・・・似てるな」

新谷の顔は特にこれといった特徴もなく、1度会っただけではすぐに忘れてしまうような印象の薄い顔だ。特に美形でも醜いわけでもなく、「こういう顔だ」と人には伝えづらい顔だった。全体の印象がボンヤリとして、捉え所のない表情は眠そうに見える。写真の彼が制服を着ていなければ、警察官とは思えないくらいだ。

「彼で間違いないと思います。新谷は公安ではなく、組織犯罪対策部に所属しています。若はおそらくそこだと思われます。新谷の直属の上司は丹田久繁、キャリア組です。この男に見覚えは?」

「知らねえな、源は、どうだ?」

「俺も知りません」

2人はパソコンを観ながら、「丹田久繁」という美形の男のプロフィールを読んでいる。

「親父さん、お聞きしておきたいんですが津田顧問は2ヶ月前の件はご存知ですか?」

「ああ、津田には話してある」

「そうですか。藤中さんには申し訳ないのですが、人払いをお願いします」

津田は自分の腹心の部下である藤中を追い出させる飯坂を睨んだが、政重が頷いたのを見て渋々指示した。

「藤中、人が来ないように外で見張ってろ」

「・・・わかりました」

藤中は、面白くなさそうに飯坂を睨んでから部屋を出て行く。同時に津田は縁側から部屋の中に移動し、飯坂は縁側のサッシを閉め、廊下の襖も閉めた。


「加々見か?」

声を潜めた政重が聞いた。

「ええ。この丹田という男は、加々見家とは縁続きのようです。どうやら、敬冶くんを《SWAN》に売るように白瀬高江を唆したのは、この丹田という男のようです。敬冶くんの足取りを探る為に我々が集めた情報の中に、丹田の名前がありました。丹田は白瀬が働くスナックに足繁く通っていましたが、ある日突然来なくなった、とママが話してくれた男でした」

数年前に「白瀬高江」を追っていた時の資料の中から、古い写真を取り出した。カラー写真だが、ずいぶんと色褪せた写真には小さなスナックのカウンターをバックに女性と男が肩を組んだ様子が写っている。2人の奥に小さく写り込んでいるのが「丹田です」と言って、飯坂は指差した。

「小さ過ぎてわからんぞ」

「すみません、これしかないものですから」

政重は写真を手に取って熱心に見ていたが、ポンとテーブルに放った。

「丹田、か。知らねえね。源は、どうだ?」

「俺も見覚えはありませんね」

神経質そうな目が印象的な男だ。美形揃いの加々見家と縁続き、と言うだけあって丹田という男も美形だった。警視庁のファイルの中の丹田とスナックの写真の丹田が同一人物である、と断言は出来ないがスナックの男も整った顔をしているのは間違いない。

「つまり、大成が《SWAN》を襲った報復か?」

「いいえ。報復ならあの場で若を殺ってしまうと思います。槌屋補佐は刺されてるんですよ?本部の鼻先で若が殺られたとなれば、組へのいい見せしめになりますからね。ですが、わざわざ手の込んだやり方で警視庁へ連れて行った」

「大成に聞きたい事がある、内密で、って事だな?」

「はい」

「そうか・・・よし。源、出掛けようじゃないか。飯坂も付いて来い」

「はい」

河野政重は膝の上の花子を座布団に移して立ち上がった。


 河野組の協力者は警視庁にもいる。また、大掛かりなサイバー攻撃に対抗する為に飯坂のような腕の良いハッカーを招聘する事もあり、飯坂は警視庁には顔が利く。

警視庁に到着した河野政重は、堂々と真正面に車を停めさせ本丸に乗り込んだ。その顔を知る者は息を飲み、上層部に知らせようと駆け出したが、政重はゆっくりとした歩調でエントランスホールを横切り受付係の前に立った。

「お嬢さん。辰川副総監に河野が来たと、伝えてくださらんか」

サンドベージュのスリーピーススーツにストライプのシャツ。派手なブルーのネクタイ。胸にはポケットチーフを添えた政重は、自らの身分を偽る気などない。派手な出で立ちで現れたのは、己の意思を貫き通すという意思表示に他ならない。

「河野さまでございますね。失礼ですが、どちらの河野さまとお伝えすればよろしいでしょうか?」

「おいっ!こらっ!」

警視庁に足を踏み入れる前から殺気立っていた津田が、受付嬢に凄んでみせる。

「ひっ」

「津田。騒ぎを起こすのなら、車で待機してろ」

「親父!」

「飯坂と俺だけで話しを付ける。2人で十分だ」

「すんません!お供させてください!」

「ああ、もう。お前は声がでか過ぎるんだよ。とにかく、黙ってろ」

「はい」

「お嬢さん、急いで頼みますよ」

「は、はい。少々お待ちくださいませ」

政重の迫力に圧されて、受付嬢は慌てて内線電話を掴んだ。


「河野、久し振りだな」

「ああ、元気だったか?副総監、就任おめでとうございます」

政重は勧められたソファーに座り、津田と飯坂はその背後に立って控えている。

「わざわざ祝辞を言いに来たのか?」

「ははっ、まさか」

「困るよ。正面から訪ねてくるなんて」

「じゃあ、裏からコソコソ来れば良かったのか?それとも呼び出せば良かったのか?どこがいい?お前さんの行きつけの神楽坂の料亭か?お気に入りの若い娘がいる銀座のクラブか?」

「ははっ、相変わらずだな」

「おかげさまで」

「ところで、用件は?ここに来るって事は、急ぎの用なんだろう?」

「先に、就任祝いを。飯坂」

「はい」

副総監は「飯坂」と聞き、「大成のところの」と頷いた。

「飯坂智也です。よろしくお願い致します」

「名前は聞いているが、若いな。確か、一昨年、大手企業を狙ったサイバー攻撃が相次いだ時も助けてもらったな」

「覚えていてくださって、ありがとうございます」

辰川は、飯坂がテーブルの上に置いた菓子箱を引き寄せて、「で、ご用件は?」と聞いた。

「単刀直入に聞こう。ここに大成がいるな?」

「ここに?」

辰川は落ち着いた声で聞き返した。

「ああ」

「俺は聞いてないな。公安か?公安ならすぐに返すのは厳しいぞ」

「お前さんが聞いていないのは、俺との繋がりがバレてるからだろうが」

「・・・」

「公安だろうが何だろうが、すぐに返せ。あいつが戻らなければ、うちは必ず内紛になるぞ。跡目争いは、余所の組との抗争よりも厄介だからな。わかっているだろう?」

辰川の顔色が変わった。

「俺が大人しくここに座っている間に、大成の居所を探し出せ。それが出来なければ、あんたが副総監の椅子に座ってる意味はないと思え」

「待ってくれ。私は、本当に何も知らないんだ。すぐに調べる」

辰川はアタフタと立ち上がり、テーブルの上の菓子折りを自分の机の引き出しの中に入れた。
 
*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

すみません。楽しくて書き足してるうちに長くなりましたwww今回も河野さん出てきませんでしたね。お父ちゃんで我慢してください(笑)

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