『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

T・24

★多少痛いシーンがございますので、苦手な方は回れ右でお願いします!!




 河野の手足の拘束が解かれる事はなかったが、「丹田」と名乗った男は10分程して再び河野の元へと戻って来た。その手にはコーヒーカップとファイルが握られていた。ふわりと、コーヒーの香りが河野の鼻にも届く。

「警視庁」だというのが本当か嘘かわからないが、近くに人の気配はある。ドアが閉まる音や靴音が微かに聞こえてくるからだ。

「さて、話してもらおうか?」

コツコツと靴音を響かせながら、丹田は部屋の中を歩き回る。猿のように落ち着きのない野郎だ、と嫌味でもぶつけてやろうかと思ったが、河野はそれには触れないことにした。

「話す事など、何もない」

部屋には丹田が持って来たコーヒーの香りが漂っている。その香りを嗅ぎ、河野は大川の淹れたコーヒーを飲みたいと思う。

大川は板前修業していただけあって、食には煩い。集中すると「食事」を忘れてしまう飯坂に「腹が減った」と言わせるのも、すぐにカップ麺に手を伸ばしていた若い衆に、「何か作ってくれ」と言わせるのも大川だ。

 事務所でコーヒーを飲む習慣があるとわかると、大川は専門店に行き豆を仕入れてきた。喫茶店でコーヒーの淹れ方講座をやっていると聞くと張り切って出掛け、今では「コーヒーなら若の事務所が一番」と言われるまでになった。最近は自分で豆を引き、ネルドリップでコーヒーを淹れる。

 河野たちが事務所を出た時は、事務所はちょうど昼飯時で、大川が作ったオムライスを組の者たちが食べていた。飯坂とはいつものように「行ってくる」、と言って別れた。

全てが「いつもの」行動だったが、今日は少し違った。本部に出向くついでに、他の組や自分が経営する店や会社に足を伸ばす予定がなかったのだ。

いつもなら警護担当の者を乗せた車に先導させて2台で移動するが、「槌屋と大川だけでいい」と言ったのは今朝だった。という事は、計画的な犯行だが「今日実行」と前々から決めていたわけではない、という事。

河野の行動を常に監視し、準備だけは怠らずに警護の人数が少ない日を狙っていたわけだ。


 河野は津田と昼食を食べる予定にしていたので、大川が淹れたコーヒーを飲んだだけだった。

「腹が減った」

「昼飯は食っていないのか?」

「そこまでは調べていなかったか?」

「ああ。それは悪かったな。もう少し我慢してもらおう」

 部屋に時計はなく、時間の経過がわからない。殴られた後、どれくらい意識を失っていたのか見当も付かない。

槌屋と大川が「死んでいない」という丹田の言葉が、どこまで信用出来るかわからないが、ここは都合良く信じておく。彼らがあのまま道路に放置されていたとしても、組の者がそのうち気付いて病院に運んでくれただろう。

・・・今頃、大騒ぎになってるだろうな。

気の荒い連中が、右往左往しているところを想像して河野は唇を噛み締めた。


「俺は腹が減ると、機嫌が悪くなるんだぜ?」

「話してくれれば、すぐにでも食わせてやる」

「それよりも、縄を解け」

「それは無理だな」

「弁護士を呼びたい」

「まだわからないのか?」

「任意同行でも正式な逮捕でもないから、弁護士は呼べない、か?」

「ああ」

「誘拐だからな」

丹田はニヤッと笑った。

「その通り」

「いいのか?警察官が誘拐なんかして」

「いいんじゃないのか?」

「バレなければ、か?」

「ああ。お前らのお家芸だろう?」

丹田は不敵な笑みを浮かべた。高い鼻、鋭い眼差し。唇が薄く、口角を上げて笑うと酷薄な印象になる。

「『T』はどこだ?」

「T?アルファベットのTか?それとも紅茶のteaか?」

「惚けるな。お前は《SWAN》に行き『T』を落札した。そして『T』の部屋から『T』を連れて逃げた。違うか?」

「何度も言ったが、俺のシマにはスワンなんて店はない。『落札』、とは何の話しだ?飯坂に指示して、ネットで競売に出された土地の入札に参加させた事はある」

丹田はイライラしたように瞼をピクピクさせているが、粘り強く話しを続ける。そして、机の上に置いていたファイルを持ってきた。

「『T』のその後の足取りが掴めない。お前たちは加々見敏治の下に送り届けたんだろう?2週間前、加々見敏治の秘書と小柄な青年。この2人と会ったな?」

丹田は、塚原と顔を隠した敬冶の姿を捉えた写真を取り出し河野に見せた。黒いジャケットを着た敬冶の顔は俯いていて「誰」と判別は付かない。おそらく、敬冶は塚原に言われて顔を上げなかったのだろう。それを見て、河野はホッとしていた。

丹田はまだ、写真の青年が「加々見敬冶」であると確認してはいないのだ。《SWAN》には『T』の顔写真は残っていないはず。だが、一目見れば忘れられない彼の美貌は人々の記憶に残っているに違いない。

「・・・さあ?知らねえな。2人とも見覚えはねえ」

「この1ヵ月間、お前の行動を監視し続けた。この日、お前もこのホテルにいたな?」

「さあ・・・覚えちゃいねえな。2日前の事も忘れちまってるんでね。悪いな」

丹田は「チッ」と舌打ちした。

「それよりもあんた、俺が極道だとしてもだ、いくらなんでもやり過ぎじゃねえのか?」

「・・・ふん」

「俺が、このまま黙っているとでも思ってんのか?」

「丁重に扱えって事か?」

「だな」

「ははっ、丁重に、ね」

丹田はファイルを机に投げ付けた。ダンッと大きな音を立てて、机を叩く。

「煩いぞ」

「河野の若頭が、何程のもんだ!」

「大声を出すなよ。俺は腹が減ってイライラしてんだよ!タバコ、吸いてえんだよ!」

「星望のヤツらは皆、こうだ!何かといえば、星望出身を傘に着て威張りやがる!あの尊大な態度、反吐が出る」

「なんだ、学歴コンプレックスか?警視庁にも星望出身が多かったな。あんたは星望ではない、ってわけか」

「ああ、そうだ」

「そうか。それじゃ、なかなか出世コースには乗れねえだろうな」

その言葉は丹田の忌諱に触れたようだ。丹田は瞳に怒りを漲らせて、河野に近付きその頬に平手打ちを食らわせた。

「・・・っ」

「俺も暇ではないんだ。さっさと話してもらおうか?」

口の中に血の匂いが広がり、丹田への嫌悪感が増していく。河野は口の中に溜まった血液を丹田の足元に吐き捨てた。丹田はそれを忌々しそうに踏み躙る。

「俺が何か知っていると、どうして思うんだ?」

「お前の風貌と良く似た人物が《SWAN》にやって来た。一緒に来た2人も飯坂と槌屋の特徴と合う」

「それで?どうして俺だと特定した?」

「・・・残念ながら、その日の《SWAN》の監視カメラの映像は全て消されていた。『T』と男2人が出て行った非常口のパスワードは勝手に変更されていた。駐車場に停められていた全ての車の防犯システムが一斉に作動した。こんな事を一度にやってのけるのは『voyager』、つまり飯坂智也くらいのもんだろ?」

「飯坂以外にも、ハッカーはいる。何でも極道の仕業にしてえだけだろ?」

「本当に、知らないんだな?」

「ああ」

「《SWAN》の従業員に面通しさせるが、いいのか?」

「やればいい。ご自由に。俺はスワンというショーパブは知らない。それで?そのスワンに行ったのが、俺じゃなかったらどうするんだ?」

「間違いなくお前だ!」

「俺はご存知のとおり、星望出身だ。ここのお偉いさんの中には先輩方がたくさんいるんだよ。それだけは忘れるなよ。あんたは無抵抗の槌屋と大川に怪我を負わせた。俺も後頭部を殴られて、今でもズキズキ痛む。その上俺は、あんたに正当な治療さえも受けられずにこうして拘束されているわけだ。ここが警視庁だというのが本当かわからないが、あんたのやってる事はまともじゃない。離れ小島の交番に飛ばしてやるから、覚悟しな」

「減らず口を叩くな!」

丹田は激高し、手を振り上げ河野の頬をはった。

「・・・っ。気が済むまで殴ればいいさ。拷問でもなんでもやればいい。俺は何も知らないから、話す事はない」

丹田は肩で大きく息をしながら、後ろを向いた。河野はその背に向って、口の中に溜まった血を吐き捨てた。

「話さない、か。では、質問を変えよう。お前は《SWAN》がどういう店か、知っているな?」

「ショーパブ」

「そうだ」

「お前さんがそう教えてくれたからな」

「お前は今、政府を敵に回しているんだぞ?」

「それ、平常運転だ。ははっ」

「バカにしてるのか?」

「ははっ」

「チッ」

丹田は河野が座っている木製の椅子を蹴った。ガッと椅子の足が音を立てる。

「《SWAN》は非合法だが、あの店はお前らのような悪の芽を多少なりとも摘んでいるんだぞ」

「・・・スワンが非合法?知らねえな。ただのショーパブだろ?どうして非合法なんだ?」

「いいか?施設を出ても碌な仕事にも就けずに、路頭に迷うヤツらがいるんだよ!《SWAN》に入りさえすれば、一生面倒を見てくれる。《SWAN》の売り上げは店で働けなくなった者たちの生活費になる」

「施設?何のことだかさっぱりわからんな」

「《SWAN》は必要悪なんだ」

「必要悪?」

「『T』を返せとは言わない。加々見敏治が保護したと思って間違いないのだ。手の出しようがない」

「わけがわからない事ばかり言いやがって。俺は『加々見』は知っている。あの一族は皆、星望だからな。あんたが望んでも手に入らない、『星望ブランド』、だ」

激高した丹田は右手を大きく振り上げて、河野の頬を拳で殴りつけた。

*****

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コメント
おやおや・・・
なんだかこの、丹田ってやつの私怨から全て始まってる感じですかね?
加々見家に恨みがある、妬んでいる・・・的な?
だからといってこんな無茶なことしたら、自分の身の破滅なのにね。
よほど強い情念があるんでしょうか。

今ごろ敬治君はどうしているのでしょう。
河野さんがこんな目に合っているなんて、思ってもみないでしょうね。
彼は自分の足で歩き始めた。
一人前になるべく、努力しているんですよね。

はぁ~~~なんだか切ないわぁ。
河野さんと敬治君、運命の出会いだと思ったけどなぁ。
どうにかならないのかしら。

もんもんとしつつ、寝ることにします~(^ ^;)
2017/06/18(日) 01:53 | URL | にゃあ #mig06/e.[ 編集]
No title
底が割れましたね、丹田ドノ。
もうちょーっと腹黒く賢い男・・かと思ってましたけど。

あからさまに暴力をふるった痕を残すなんて、ねえ?
飯坂さんがすぐさま写真撮って弁護士サンとともに訴えてきますわよ。ヲッホッホ (ナゼ上から目線)

敬冶母(一応)を唆して云々にしたって・・・。
どうせなら敬冶くんが自分だけを信頼するように仕向けてから、色々画策すればいいのに。
そうすれば加々見家ではアナタを重用せざるを得ない。
つまり、未来はウハウハだった。


ケーサツも極道も、学閥・・OB?繋がりって凄いのね!
星望包囲網からどうやって逃げるつもりか、じっくり見させてもらいましょう。
あ、丹田、居たんだ(い丹田)ってならないようにねー( ´艸`)

2017/06/18(日) 20:49 | URL | ますみ #-[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
申し訳ございませんっ!!お返事が遅くなりました!!

> なんだかこの、丹田ってやつの私怨から全て始まってる感じですかね?
> 加々見家に恨みがある、妬んでいる・・・的な?
> だからといってこんな無茶なことしたら、自分の身の破滅なのにね。
> よほど強い情念があるんでしょうか。

そうですよね~丹田、アホなんじゃないかと・・・。
これくらいは大丈夫、だという自信があるんでしょうね。

> 今ごろ敬治君はどうしているのでしょう。
> 河野さんがこんな目に合っているなんて、思ってもみないでしょうね。
> 彼は自分の足で歩き始めた。
> 一人前になるべく、努力しているんですよね。

敬冶くんは何してるんですかね?頑張ってお上品のお勉強でもしてるんじゃないですかね?
ほーっほほほっ、と高笑いの練習とか(笑)

> はぁ~~~なんだか切ないわぁ。
> 河野さんと敬治君、運命の出会いだと思ったけどなぁ。
> どうにかならないのかしら。

すみませんっ!!なんとか、どうにかなるんじゃないかとwww
運命の出会いなんでしょうか!?って感じでダラッと続いてますが、よろしくお付き合いくださいませ!!

レスが遅くて申し訳ないです。もう、週末が忙しくて。昨日も帰りが遅くてですね。言い訳ばかりですみませんっ<(_ _)>

コメントありがとうございました!
2017/06/20(火) 07:12 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
Re: ますみさま~いらっしゃいませ♪
ますみさま、コメントのお返事が遅くなり申し訳ございませんっ<(_ _)>

> 底が割れましたね、丹田ドノ。
> もうちょーっと腹黒く賢い男・・かと思ってましたけど。

あははっ。丹田くん、浅かったですwww

> あからさまに暴力をふるった痕を残すなんて、ねえ?
> 飯坂さんがすぐさま写真撮って弁護士サンとともに訴えてきますわよ。ヲッホッホ (ナゼ上から目線)

ですよね~まあ、目的がイマイチはっきりしてませんからね(笑)

> 敬冶母(一応)を唆して云々にしたって・・・。
> どうせなら敬冶くんが自分だけを信頼するように仕向けてから、色々画策すればいいのに。
> そうすれば加々見家ではアナタを重用せざるを得ない。
> つまり、未来はウハウハだった。

おおっ!!その手があったか!!さすがは、ますみさまっ!!

> ケーサツも極道も、学閥・・OB?繋がりって凄いのね!
> 星望包囲網からどうやって逃げるつもりか、じっくり見させてもらいましょう。
> あ、丹田、居たんだ(い丹田)ってならないようにねー( ´艸`)

もっ、ますみさまっ!!「い丹田」って!!ヾ(´∀`)ノ上手い!!
えーっと、もうちょっとで話しは展開しますから!お待ちを!!

レスが遅れて申し訳ございませんでした!!コメントありがとうございました!
2017/06/20(火) 07:22 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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