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Happy forever【後編】~『朧月夜にしくものぞなき』番外編

 リムジンは深紅の絨毯の手前に停車した。夕陽が白い車体に反射して煌く。茜色に変化した水面と巨大なビル群を背景に停車したリムジン。最高のシュチエーションだな。

 俺は恭しく腰を折って2人を迎え、ドアを開いた。

「いらっしゃいませ」

信吾さんが、「ありがとう」と労いながら先に降りる。そして怜二くんに手を差し出した。周囲の景色の美しさと桟橋の様子に目を瞠った怜二くんは、俺に「三木店長、こんばんは」と挨拶した。

「こんばんは、怜二くん」

「これ・・・どうしたの?」

信吾さんと俺の顔を交互に見比べ、桟橋に設置されている『Happy birthday Reiji!!』の文字と赤とピンクのハート型の風船で飾られているゲートを見て、「はぁっ」と息を吐いた。

「これ・・・もしかして、僕の為に?」

「ああ」

信吾さんが胸を張る。

「ありがとう!」

「これから海に出るぞ。さあ、乗船しよう」

「うん」

怜二くんと彼をエスコートした信吾さんが絨毯の上を歩き出すと、デッキでスタンバイしていたバイオリニストがお馴染みの「Happy Birthday to You」を演奏し始めた。クルーザーのスタッフがデッキに並び、恭しく彼らを出迎える。

「いいの?」

「ああ、君の為に準備したんだ。楽しもう」

「ありがとう!」

怜二くんの瞳には涙が滲む。『Happy Birthday to You』を聴きながら、タラップを上る彼らの後ろから、俺もクルーザーに乗り込んだ。全員が乗り込んだ事を確認して、クルーザーはゆっくりと桟橋を離れていく。


 クルーザーの中も船体と同じく白で統一されているが、今日は壁を赤とピンクの薔薇のコサージュで飾ってある。豪華な料理の数々、ワインやシャンパン。驚いた怜二くんは、口元を押さえた。

「うわっ・・・素敵」

「だろ?」

奥に控えていたジャズバンドが、『Happy Birthday to You』をバイオリンから引き継いで演奏し始めた。1回目の演奏が終わると大貴くんたちが一人、また一人と現れて、2回目の演奏は皆で合唱する手筈になっている。そして、歌い終えると皆でクラッカーを鳴らす。

最初は、怜二くんが来たらすぐにクラッカーをパン!の予定だったが、井上くんが「隠れているのならこの方がいい」と言い出して変更になったのだ。まあちゃんがタイミングを忘れずにいるかが、唯一の問題点だ。

俺は少々ドキドキしながら1回目の演奏を聴き、それが無事に終わりホッとしている。

2回目の演奏が始まり、隠れていたゲストが歌いながら一人ずつ現れるのだが、現れたまあちゃんはクラッカーの紐をしっかりと握り今にもパンッとやってしまいそうだ。隣にいる薫が小声で「まだだよ」と注意しているが、それを見つめる怜二くんの瞳から涙が零れ落ちた。

「Happy Birthday to You、怜二、おめでとう!」

パンッとクラッカーが一斉に鳴り、信吾さんが怜二くんを抱き締める。大ちゃんたちが2人の周囲に集まってきた。泣きながら「ありがとう」と繰り返す怜二くんを、ゲストが代わる代わるにハグする。

それを見て、なぜか泣き出すまあちゃん。だが、大きなバースデーケーキを見たら笑顔に変わるだろう。

 特注のバースデーケーキは井上くんからのプレゼントだ。丸く大きなケーキの表面は苺で埋め尽くされている。そしてケーキの周囲には薔薇があしらわれていて、食べるのが勿体無いくらい華やかだ。ケーキの上には「HAPPY BIRTHDAY 」のロウソク。それを一気に吹き消した怜二くんは最高の笑顔だった。

そして、それぞれが持参したプレゼントを披露しながら渡すから、涙腺が緩んでいる怜二くんの瞳が乾く暇はない。

「みんな、ありがとう!」とお礼を言った後、また泣き出した怜二くん。また、まあちゃんがもらい泣きして、それを大ちゃんが茶化す。

「まあちゃんの誕生日には俺がクルーザー借りてやるからな?泣くな」

「ホント?約束だからね?」

大ちゃん、気軽に言っちゃうと大変だよ?まあちゃんは本気だからね?

「指きりげんまんしよう!」と言われて、大ちゃんは調子良く小指を出した。彼はこれから数ヶ月間、まあちゃんの「忘れてないよね?」に悩まされるに違いない。

それを彰彦くんと井上くんが温かい目で見守っている。端から見ているだけでも、心洗われるような場面じゃないか。なんて思っていたら、洗われない人が約1名。信吾さんが、「真似されたくないんだが」と隣でブツクサ言い出した。

「はい、はい!信吾さん、乾杯しましょう!」

「大貴には釘を刺しておかないと」

「はい、はい!前に出て、乾杯のご発声をお願いしますよ!」

ブツブツ言いながらも、信吾さんは立派なご挨拶を決めた。こういうの、慣れてるしね。乾杯の後はお食事タイム。お世話係の俺も一休みだ。ゲストたちは皆、口が肥えているから心配だったが、「美味い」の声が聞こえてくる。

ああ、頑張った甲斐があったよ。可愛い笑顔が最高の労いだね。

 暦の上では立冬を迎え、日が傾き始めれば、あっという間に夕闇に包まれる。クルーザーは街の瞬きとネオンサインとに彩られた隅田川を下っていく。

ジャズの音色に、楽しそうな笑い声。クルーザーは永代橋、勝鬨橋をくぐり、レインボーブリッジを目指す。

クルーザーから見る夜景は、地上からの眺めとは全く違う。後部デッキでホットコーヒーを飲みながら風に吹かれている俺は、中の様子を見ながら感慨に耽っていた。

学生時代は毎日のように会っていた彼らも、社会人となり集まる回数も減っているようだ。椅子を移動させて怜二くんを中心に集まった彼らの、楽しいおしゃべりが続いている。

 初めて怜二くんに会った時は、その美しさに息を飲んだ。肌理の細かい肌の美しさもさることながら、伏し目がちな切れ長の目の語り掛けるような輝きが印象的だったな。

あの頃は自分に自信のない様子だったが、最近は生き生きとしている。まだまだ仕事に付いていくので必死なようだが、物事を静かに見て仕事をこなしていく姿勢には好感を持たれるのだろう。勤務先の女社長にも気に入られているようで、海外出張や視察にも同行させてもらっている。

成長したなあ・・・なんて、まるで自分が親にでもなったような気分で怜二くんの笑顔を見守っている俺。信吾さんの事を「じいちゃん」なんてバカには出来ないな。

「三木くん!」

信吾さんが、ワイングラスを片手にデッキに出てきた。このクルーザーの後部はソファーになっていて、俺はそこから夜景を眺めていたわけだ。

「怜二くんの隣にいなくてもいいんですか?」

「ああ。ここにいるメンバーなら安心だからね」

「そうですか?学生の頃は井上くんと仲が良いから、ヤキモチを妬いていたじゃないですか?」

「そうだったかな?」

バツが悪そうな信吾さん。

「誤魔化すな」

「あははっ」

皆に囲まれて、幸せそうな笑顔で寿司を頬張る怜二くんがこちらに気付いて手を振る。それに気付いた薫くんも手を振る。

「綺麗ですね、怜二くん」

「ああ」

「俺は彼が《銀香》でアルバイトしていた頃の事を、思い出しましたよ」

「うん・・・」

「明るくなりましたね」

「ああ」

彼の成長を一番身近で感じているのは信吾さんだよな。

「ますます綺麗になったし」

「心配だ」

「今更」

「ははっ。いつまでも学生じゃないからな」

信吾さんは指で四角いフレームを作って怜二くんを見ている。

「本当は家の中に閉じ込めておきたいでしょう?」

「当然じゃないか」

「変態」

「違うよ!それは章太郎だ」

「いや、どっちもどっち」

「失礼な」

レインボーブリッジが近くなり、スタッフが「記念撮影しませんか」と声を掛けてくれている。船内から皆が出てきて、船首に並んで記念撮影だ。その後、クルーザーを飾っていたハートの風船を皆で持ち、一斉に空に飛ばす。ハート型の風船は上空で割れるか萎めばやがて土に還るタイプだ。

そして、メインイベント。

『滝山産業』のマンション建設予定地が近くなり、信吾さんがソワソワし始めた。タイミングが合えば良いが、と心配してるんだな。皆はレインボーブリッジの明かりを見て、感動の声を上げている。

その時だ。ドーンと大きな花火が上がった。

「うっわあ!花火だ!」

まあちゃんが大きな声を上げた。その声につられて皆が花火の上がった夜空を見上げた。続けて2発、3発と打ち上がり夜空に大輪の花が広がった。クルーザーは花火の真下を流れるように進んでいく。

「素敵!ねえ!もしかして、これもなの!?社長!」

まあちゃん、君のバースデーじゃないけどね。

「そうだよ。怜二の誕生日だからね。年に一度しかないからな。派手にいこうと思ってさ」

「凄い!社長!さすがだね!」

まあちゃんは信吾さんの隣にいた怜二くんを押し退け、興奮して信吾さんの腕を掴んでブンブン振っている。

「・・・ああ、ありがとう」

信吾さんが困っているのに気付いた薫くんが、まあちゃんの腕を引いて連れて行く。井上くんが怜二くんの背中を押して、2人が並んだ。

夜空に豪華なプレゼントの花が開く。花火が上がる度に、スタッフがゲストと花火を写真に収めていく。カメラに笑顔を向ける彼らは、まさに人生の花を咲かせようとしているのだ。

 皆が花火に夢中になっている間に、2人はどちらからともなく手を出して、そっと手を繋いだ。2人の間に流れる穏やかな空気に、彼らの歩んできた道が見えてくる。

俺はこの幸せが永遠に続くように祈りながら、足音を立てないようにゆっくりと彼らの傍を離れた。


 約2時間のクルーズが終わり、クルーザーは桟橋に停泊した。信吾さんと怜二くんは、迎えに来たリムジンでホテルへと移動する。ゲストたちは、別のリムジンで二次会に移動した。

そして、俺は・・・。

「パパ!」

「待たせたね、チビちゃんたち!」

「うん!お腹空いた~!」

愛する子どもたちが駆けてくる。俺の足元にしがみ付いたのは次男だ。彼を抱き上げ、長女と手を繋ぐ。

「さあ、お船に乗ろうね。楽しいよ」

「はーい!」

俺はこれから呼んでおいた家族を乗せて、来たコースを逆走するのだ。

「まあ、素敵なクルーザーだわ。怜二くんに感謝しなくちゃ」

「そうだね。料理もバーベキューのお肉もたくさん残ってるぞ」

「楽しみだね、パパ!」

家族で過ごす時間は大切だからね。怜二くんのバースデーに便乗して、今夜は家族サービスだ。ついでに花火も上げてもらうしね。

勿論、支払いは信吾さんだ。彼は請求書の細かい所は見やしないからね。クルーザーが往復してるなんて気が付くはずがない。

では、皆さん。May happiness last forever.

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

ちゃっかり者の三木店長♪これから家族サービスでーす!

オマケコーナー♪

彰彦「今日のクルーズ、良かったな」

井上「ああ。俺も来月、小型を借りようかな?」

彰彦「倉和さんとか?」

井上「ああ。クリスマス前に一時帰国するんだ」

彰彦「俺も大貴と乗りたいな」

井上「お前は、大貴"に"乗りたい、じゃないのか?」

彰彦「井上くん、下世話ですな」

井上「あははっ。では、予約して帰りますか?」

彰彦「だな」

というわけで、怜二くんのお誕生日なのにメインは三木店長という11月11日SSでした~♪信吾と怜二くんの甘~いSSは現在準備中でーす!お待ちを!!

   日高千湖

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コメント
拍手鍵コメ・Rさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・Rさま~いらっしゃいませ♪

薫ちゃん、しっかり者なので任されてしまいますの。

三木店長はちゃっかりとクルーザーを往復させます(笑)料理も余っていることだし!だって、今日集まったメンバーって、バイキングだからってがっつかないでしょ?

捨てるのは勿体無いですからね!全て三木家で片付けさせていただきます!!

ついでに家族サービスしてしまう、出来る男です。

そうでしたね!11日が初日でしたね!!盛り上がったようで、羨ましい~♪今朝、テレビで観ましたよ~!ドラゴンボールのような衣装で何を歌ったんでしょう?ふふふっ

楽しみです~♪

拍手&コメントありがとうございました!
2017/11/13(月) 22:47 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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