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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋文・1

★時期としましては2月の初めとなります。すでに夏なのに、すみません。武村文樹の「それから」、です。投票では思わぬ数の票を頂いて、あら、ビックリ(笑)




 公園の植え込みの根元には、一昨日降った雪がまだ残っていた。吹き抜ける冷たい風さえも新鮮で、まるで僕を歓迎しているかのようだ。

 いつもなら洋子さんと一緒に運転手付きの車で出掛けるけれど、今日は旦那さまも奥さまもお出掛けで僕は歩いて駅まで行く事になった。

本当は僕が使える車がない日を狙って、「本を買いに行きます」と言ったんだけどね。

 日本列島をすっぽりと覆った寒気は、今日も冷たい風に白い雪を乗せて散らしていたが、漸く自由を得た僕にとっては冷たい空気ですら気持ちが良い。外の世界は刺激に満ちていて、横を走り去る車のナンバープレートの数字を読むだけで僕の気持ちは変化していく。

でも車で通り過ぎるだけの景色を肉眼で確認しながら歩くのは、新鮮で怖いのだ。

 立派なお屋敷の赤レンガの塀の上から、白い花が咲いているのは車の中から見つけていた。

その花の名前が気になっていたが今日は立ち止まって花の写真を撮り、ネットでそれが「椿」であると確認した。車の中からではわからない事がたくさんあるのだ。

 例えば、滝山家のある地域は有名な高級住宅街で、大きなお屋敷が建ち並んでいる。

僕の足音が聞こえたのか高い塀の向こうからは大きな犬が吠えるし、5軒先のお屋敷の門の前にいる黒い犬はすばしっこくて、3匹とも赤い首輪をしている。その子たちは僕を見ても吠えないが目が合った。吠えられるかと思ったけど、3匹はジッとこちらを見ているだけだ。

僕は「怖くない、怖くない」と自分に言い聞かせながら、犬と合った目を逸らさずに門の前を通り過ぎた。

下校中の赤いランドセルを背負った小学生はすれ違う時に「こんにちは」と声を掛けてくれたが、オレンジ色のランドセルの子は「こんにちは」と声を掛けると走って逃げた。

一人で駅前まで行き参考書を買う、たったそれだけの事だけれど僕には大冒険だったのだ。


 周囲をキョロキョロしながら駅前まで歩いているけれど、車の中から見ていた景色の記憶だけが頼りの僕。どの角を曲がればいいのかわかっているつもりだったけれど、いざ歩いて行くと目印にしていたはずの角の家が違って見える。

そうか、目線の高さが違うのか。

留守番に残った庭師の国府田さんが、「迷ったらタクシーに乗って『滝山』と言えば着きますからね」と笑って見送ってくれたけれど、僕は頑張って自力で往復するつもりだった。

駅までは歩いて10分足らずで着くはず。念の為に、スマホで駅までのルートを設定しておいたので、時々スマホの画面を確認しながら僕は駅へと向かった。


 駅前にある大きな本屋さんに足を踏み入れるのは、これで3度目だ。

このお店は本の他に、DVD、CD、コミックスのレンタルコーナーもあって、入ってすぐのカフェコーナーでは視聴も出来る。カフェコーナーには自動販売機が並んでいて、いつも大音量で映画の予告が流れていたり、ミュージックビデオが流れている。

派手な『MIT-3』のポスターを横目で見ながら、僕は真っ直ぐに書籍コーナーへと向かった。

 いつもなら家政婦の洋子さんと一緒だからドキドキしないけど、今日は一人だ。肩に掛けたトートバッグの持ち手をギュッと握って、僕は真っ直ぐに目的の場所を目指した。

緊張しながら参考書コーナーに行き、欲しかった本を探す。

「本を買いに行きます」と言うと、奥さまが「頂き物よ」と言って図書カードを下さった。ポケットの中に手を入れてそれを確認し、僕は少しだけ安堵する。

 本棚は「高校1年」とか、「数学」とか学年や科目ごとに丁寧に分けて陳列されている。ここには何度か来た事があるからすぐに英語の棚を探し当て、そこからネットで調べておいた本を探す。

「ええっと・・・」

一番上の棚の左から右へと順に視線を動かして目的の本を見つけた。

「あった!」

思わず声が出て恥ずかしくなった。周囲に人がいないか見回し、手を伸ばしたが一番上の棚の本にはあと少しという所で手が届かない。

店員さんを呼ぶか、それとも思いっきり手を伸ばすか。

平置きしてある本を崩さないように気にしながらピョンピョンしていると、背後から声を掛けられた。

「お客さま」

「・・・は、はいっ」

「お取りしましょうか?」

気が付けば、僕の後ろで『春香堂書店』のロゴが入った紺色のエプロンをした男性店員が微笑んでいた。優しそうな人だ。

「あ、ありがとうございます。あの・・・一番上の棚にある『早覚え英単語1900』が欲しいんですけど、取って頂けますか?」

「ああ、あれですね!」

男性は僕よりも背が高い。時々僕の様子を見に来る、滝山家の次男・信吾さんよりは低いと思う。彼はヒョイと腕を伸ばして、僕が欲しかった本を取ってくれた。

「これですね?」

「はい、ありがとうございました!」

「踏み台を使ってもらっていいですからね」と、彼が指差した先には20センチくらいの高さの踏み台があった。

「あっ。すみません、気が付かなくて」

「大丈夫ですよ!会社には以前から、一番上の棚は外して欲しいと要望書を出してるんですよ。女性や子どもでも楽に手が届く高さだとお客さまも助かりますよね」

彼はそう言いながら、棚からはみ出した本の背を押して整えている。

「年配の方に踏み台は危ないですから」

「そうですよね。僕は背が低いから、棚が低いと助かります」

「俺みたいなアルバイトの意見は、なかなか通らないんですよね。ご迷惑をお掛けしました。お買い上げありがとうございます!」

「どうも」

感じの良い人だ。

彼の世界から僕はすでに消えてしまったかのように、彼は作業を続けている。本を補充したり、斜めになっている平置きの本を整えたり。

「アルバイト」の彼の名札には『有馬』と書かれていた。

仕事をしている彼を見ていると何となくその場に居づらくなって、僕は渡された本をレジに持って行った。


 図書カードで支払いを済ませた僕は、本屋さんの隣の和菓子屋で最中を買い、そのまた隣のお花屋さんの店先に並んでいた可愛らしい千円の花束を2つ買った。

 今でも財布からお金を出して払うのはドキドキする。計算が出来ないとかではなく、「お金」は何となく現実味がないのだ。

《SWAN》を逃げ出して7年が経った。滝山家で働くようになって3年。

漸く、「一人で外に出ても良い」と信吾さんから伝えられたのは一週間前だった。これまでは外に出る時は必ず滝山家の人と一緒だったから、一人で外に出られるのは嬉しい。

本一冊を買うのにわざわざ車を出してもらう必要もないから。これからは運転手さんにも、洋子さんにも迷惑を掛けなくて済むのだ。

 マレーシアに出国していた飯坂さんと敬治くんが帰国して、河野組を取り巻く状況が変化したのだと思う。「滝山家の人が一緒でないとお屋敷から出てはいけない」、というのは河野組の若頭・川野大成からの命令だったのだ。

 
 滝山家で『スーパー家政婦』と呼ばれている洋子さんは、芙美子奥さまが滝山家に嫁いできた時から勤めているのだそうだ。彼女は滝山家の全ての物の在り場所を管理し把握しているそうだ。

芙美子奥さまはおっとりとした優しい方だ。奥さまが「爪切りはどこだったかしら、洋子さん」とお尋ねになると、洋子さんはすぐに「ここでございます」と渡す事が出来る。

「どこだったかしら?」とかいう迷いは、洋子さんには一切ない。加々見家にいた塚原さんみたいな感じだけど、塚原さんのように恭しい言葉を使うわけではない。奥さまと洋子さんは遠い親戚だと言っていたし、「使用人」というよりも「家族」でしかない。もちろん、洋子さんの旦那さまや奥さまに対する言葉遣いは丁寧だけどね。

 旦那さまも奥さまも、お優しい方だ。3人の、「その話しは3度目です」と言いたくなるような取り留めのない会話も嫌いじゃない。柔らかな綿にクルクルと包まれて大切にされているお人形さんのような僕は、滝山家では『文ちゃん』と呼ばれている。

旦那さまたちは、僕が『どこから来て、誰の子どもで、今までどんな生活をしていたか』を聞こうとはしない。滝山家には、僕には内緒で僕の経歴を知らされているのか、と思っていたけれど、そうではないらしい。

以前、僕の過去を全く詮索されない事を不思議に思って、奥さまに聞いた事がある。奥さまは、「信ちゃんと大成くんが『何も聞かずに預かってくれ。頼む』と言うのに聞かないわよ」と一笑された。

そういうものなのかと僕は納得し、それ以来、僕が自分の「過去」を話す事はない。

 河野組から出る時に、飯坂さんに言われた事がある。

「いいか?社会に出たら、どこの生まれかと聞かれる事がある。下手に北海道とか関西とか答えると、今度は『何県?』と聞かれる。どの地域の出身か聞かれると、困るだろう?だから、そういう話題になった時はな、その場にいる者たち全員が話し終えるまで黙って聞くんだよ。全員の話した事を全て覚えろ。そして自分の番になったら、電話だとか、メールだと言って席を立て。とにかく、口を開かない事が一番だ」、とね。

「余計な事をしゃべらないのが一番だ」、という事だ。

「幼い頃に両親を亡くし、遠縁の滝山家に引き取られた」と言えば、相手の方が気を遣ってくれてそれ以上の事は聞いてこない、とも言っていた。

『過去』がない僕には、話す事などない。話せるはずがないのだ。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

すみません、今夜は諸事情で「恋文」をUPさせて頂きました!文ちゃんの淡~い恋心を描ければなあ・・・。と思っています。飯坂と敬治が帰国した後のお話となります。

   日高千湖

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コメント
待ってましたっ(≧∇≦)
日高様~~~きゅうきゅう~~~!!!

やったぁ~~~♪♪♪
待ちに待った文ちゃんのターン♪
わくわく(≧∇≦)

文ちゃんのカレシ候補、本屋の有馬君かな?
それとも他にまだ誰か出てくるのかしら。
真綿でくるまれたような優しい日々の中で、文ちゃんにはそろそろ外の世界へと一歩踏み出す時なのかな。

3年の月日というので、そうだった、マレーシアに2年行ってた(飯坂&敬ちゃんが)時期があったんだったと思い出した次第です(^ ^;)
河野は相変わらず敬ちゃんにぞっこんなのかな。
飯坂さんもお医者さんのカレシとラブラブ?
そのうちまたチラッと出てくるのかしら(●´艸`)
2018/07/09(月) 00:34 | URL | にゃあ #-[ 編集]
Re:にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~きゅうきゅきゅっ♪

お忙しい中、読んでくださってありがとうございます~♪

> やったぁ~~~♪♪♪
> 待ちに待った文ちゃんのターン♪
> わくわく(≧∇≦)

ありがとうございます。お喜び頂けて嬉しいでーす!

> 文ちゃんのカレシ候補、本屋の有馬君かな?
> それとも他にまだ誰か出てくるのかしら。
> 真綿でくるまれたような優しい日々の中で、文ちゃんにはそろそろ外の世界へと一歩踏み出す時なのかな。

やっと社会へ。でも、まだまだ不安が一杯の文ちゃんに応援をよろしくです!

> 3年の月日というので、そうだった、マレーシアに2年行ってた(飯坂&敬ちゃんが)時期があったんだったと思い出した次第です(^ ^;)

そうなんですよ!敬ちゃん帰って来てすぐ、かな?みたいな時期でーす(笑)

> 河野は相変わらず敬ちゃんにぞっこんなのかな。
> 飯坂さんもお医者さんのカレシとラブラブ?
> そのうちまたチラッと出てくるのかしら(●´艸`)

飯坂は毎度並木のお医者さんごっこに付き合ってやってるし、牧野はボヤき続けています。敬ちゃんは若とラブラブ~♪(もう、若ではなくなってるのかしら?)
彼らのその後は、また後々と思ってまーす!

コメントありがとうございました!
2018/07/09(月) 07:05 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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