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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・8

 部室のドアを開けた俺の目に飛び込んできたのは、ここへ来るまでに考えた最悪の光景だった。

それを見て、後悔と怒りに身体が震えるのがわかる。

大貴が声を出せないように口には制服のネクタイが押し込まれ、抵抗出来ないように手首を拘束されていた。涙を溢しながら恐怖を湛えていた大貴の目。可愛らしい瞳にはいつものような溌剌とした光はなく、恐れと怒りに震えている。

その縋るような目を見た俺は、卑劣な渡部に対する怒りを抑えられなかった。

部室の中に飛び込んで渡部の胸倉を掴み、その身体を揺さぶりながら押す。怒りを込めて渡部の身体をロッカーに叩き付けて固定した。

「渡部!どういうことだっ!」

自分を抑えられなくなった俺は、渡部の首をギリギリと締めた。こんなヤツ、死んでも構わないと思った。

「ぐうっ」

渡部の喉からおかしな音がしたが、構わずにヤツの身体をガンガンとロッカーに叩き付ける。グズグズと大貴がすすり泣くのが聞こえた。

「大ちゃん、大丈夫?」

有川が床に散らばった荷物の中からバスタオルを手に取って大貴の身体を覆った。

本当は俺が大貴の身体を抱き締めて、「もう大丈夫だよ」と慰めたかったのに、有川が大貴の震える身体を抱き締めて背を撫でている。

「怜、れ・・・い」

か細い声で、有川にしがみ付いて泣きじゃくる大貴を見て、俺は余計にカッとなった。

「大貴にちょっかい出すんじゃねえって、前にも言ったよな!」

怒りは爆発し、俺は大声で渡部に詰め寄った。

「・・・いいよ、殴れよ。来週には大学の無試験推薦者が決まるんだろ?ははっ」

「そんなもんは、いらねえんだよ!」

言葉よりも早く、握り締めた右手を振り上げた。

渾身の拳は渡部の左頬にヒットし、渡部は床に転がった。ヤツは痛みでその場から動けない。腹を蹴り上げた俺は、腹を押さえて丸くなった渡部に馬乗りになり、更に殴りつけようと右手を振り上げた。

ここにいるのは大貴を縛り、身体を汚そうとした卑怯な男だ。

同級生なんかじゃない。殴り殺したって構わない。それで俺が罪を犯した、と後ろ指差されようが、そんな事は構いやしないんだ!


 渡部は、俺の気持ちを見透かしていた。口元から血を流しながらも、微かに笑みを浮かべている。

(お前も、平井にこうしたかったんだろう?)

そう、嘲笑う渡部の声が聞こえたような気がした。


「やめろって!」

俺の拳を止めたのは、他ならぬ大貴本人だった。涙で擦れた弱々しい大貴の声。

なんで、止めるんだよ!俺はこいつを、気の済むまで殴るんだから。

「なんで、止めるんだよ!!」

そう言い放った俺の声は、部室に響き渡った。

「彰彦くん、大きな声で騒がない方がいいよ。ここまで車で入れるよね。滝山さんに車で来てもらおうよ」

カッとなった俺を冷静な声で止めたのは有川だった。彼の咎めるような瞳が、俺に冷静さを取り戻させた。

そうだった。これを誰かに知られれば、何もなかったとしても『何かあった』として噂は一人歩きする。そうなれば、キズ付くのは大貴一人。渡部が何か言えばそれが『真実』になる。

俺は振り上げた拳を下ろすしかなかったのだ。

 俺も大貴も、有川の提案に頷くしかなかった。

有川は高1の時に、美術室で上級生に襲われた事があった。「事を荒立てない」というのは、その時に得た教訓なのだろう。有川が下した判断は、被害者の大貴が不利にならないようにする最善の策。

俺は有川の意外な一面に舌を巻いた。

俺の方が我を忘れ、大声で怒鳴ったりして・・・。俺の声を聞きつけた生徒が集まりでもしたら大事だったし、部室のドアのガラスを割ろうと考えていた自分が恥ずかしく、幼稚に思えてきた。

俺は、大貴と目が合っても目を逸らす事しか出来なかった。駆け寄って「大丈夫か?」と抱き締めたいのに、その乱れた姿を正視出来ずに目を逸らすしかなかったのだ。

ただ一つ言えるのは、玄関で有川と合流して良かったと、いう事。


 有川が携帯で信吾さんを呼び出している間に渡部を立たせ、逃げられないようにロッカーに身体を押し付けて後ろ手に拘束した。

渡部を無抵抗にしないと、俺はヤツを殴り続けてしまうだろう。

 大切な大貴の心をキズ付けてしまった事が悔しかった。有川のように、冷静な判断が下せなかった自分が不甲斐なかった。

そして渡部に部室の鍵を渡してしまった事、教職員室に大貴と共に行かなかった事、いろいろな事を後悔し続けていた。

 有川との通話後、ほんの二、三分で信吾さんの車のエンジン音が響き、有川がドアの鍵を開けて信吾さんを招き入れた。

有川は、部室に入ってすぐに鍵を掛けていたのだ。俺は、そんな簡単な気遣いも出来なかったというのに・・・。

 部室に入ってきた信吾さんはすぐに鍵を掛けた。そして、大貴によく似た瞳で部室を見回した。

散らばった荷物。拘束された渡部。乱れた制服のままで泣いている大貴。それらを見て驚きを隠さなかったが、ここで何が起きたのかを瞬時に理解した。

「彰彦くん、ヤったのはそいつ?」

信吾さんは冷ややかな眼差しで渡部を見ながら俺に聞いた。いつもの穏やかな信吾さんじゃない。一番可愛がっている甥を辱めようとした男に対する怒りが、こちらにも伝わって来る。

「はい」

悔しさで搾り出すような声しか出なかった。信吾さんは渡部に近付き、聞いた。

「君、名前は?」

「渡部直正です」

渡部は逃れようがないと諦めたのか、素直に名乗った。信吾さんは侮蔑を込めた目で渡部を見ている。

「ふん・・・親の職業は?それと、携帯出して」

「外交官です」

渡部は黙って携帯電話を取り出して、信吾さんに渡した。信吾さんは渡部の携帯から渡部の父親に電話を掛け、今日ヤツの家で会って話しをしたいと、約束を取り付けたのだった。


渡部は大貴に深々と頭を下げた。

「さっさと、出て行け!」

同じ空気を吸いたくもなかった俺は、渡部を睨みつけながら出て行くように言った。渡部は服のチリを払い制服の襟や裾を整えると、大貴に視線を移した。大貴は、渡部に見られる事さえ嫌悪した様子で顔を背ける。

「平井くん、本気だったんだよ、好きだったんだ。ごめん」

渡部は大貴にそう言って、足早に部室を後にした。


 渡部の気持ちは、誰だって知ってる。ヤツが中学に入学以来、大貴を一途に想っていた事も。気に入られようと擦り寄っていた事も。それがクラスメートやテニス部部員たちから嘲笑の的になっていた事も。

それでも渡部は大貴の姿を追っていた。そんな事、みんなが知っていたんだ。渡部が真正面から大貴にぶつかり、拒否され続けていた事も皆が知っている。

だが、卑劣な行為は許されることではない。

*****

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彰彦くん、一人反省会でした(涙)一人迷走中です、哀れな子羊に愛の手を!!

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