FC2ブログ

『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・11

 大貴は信吾さんが車で送ると聞いていたので、月曜日は一人で登校した。

《煩悩の108階段》を上りながら、俺は自分が抱える煩悩を払う。払っても、払っても、煩悩は俺の所に戻ってくるのだ。

全く、ベストなネーミングだよ。


 朝のホームルームで、担任から渡部直正が転校した事を報告された。

それを聞いた俺は、一体どんなカラクリなんだと唖然としたが、渡部の転校は元々決まっていた事のようだった。外交官の父親の赴任先がアメリカに決まったので、向こうの大学に進学するという。

その準備の為に、渡部は週末に渡米したらしい。

「急な決定だったからみんなに挨拶が出来なくて残念だ、と言っていたぞ」

転校が決まった渡部は、思いを遂げるチャンスを狙っていたのだ。もし事件が発覚しても、自分は渡米してしまうのだから、何の被害もない。事件が表沙汰になったとしても、学校側から処分される事もない。

姑息な男だよ、渡部。反吐が出る。

 渡部の急な転校を聞きクラスメートたちは驚いていたが、渡部はとりわけ好かれていたヤツでもなかったから、昼には話題にも上らなくなった。

まるで最初から「渡部直正」などいなかったかのように、周囲の反応は冷ややかだった。

クラスの半分以上が幼稚園からの『持ち上がり組』で結束が固く、中学からの『入試組』とは一線を画すような所があるからだ。『持ち上がり組』の大貴にしつこくした事で、渡部が『持ち上がり組』から反感を買っていたのも事実だった。

大貴は渡部の転校を聞かされていたようで、担任の口から「渡部」の名前が出ても平気なようだった。


 休み時間に、今日の掃除当番の佐田の教室に行き部室の鍵を渡した。

「渡部のヤツ、転校したらしいな」

「ああ」

「どうして、寺田が鍵を持ってるんだ?」

それは当然の疑問だな。大貴と仲が良い俺は、同じテニス部でも渡部とは口もきかない間柄だ。

「大貴が風邪で休んでいただろう?土曜日に部室に荷物を取りに行ったら、渡部が掃除が終わって帰る所だったんだよ。あいつが帰る前に、お前に鍵を渡してくれと言うからさ」

前もって準備していた『嘘』を吐く。

「じゃあ、渡部は愛しの大貴に最後のお別れを出来たのか?」

「させるかよ」

「だな!寺田が傍にいたんじゃ声も掛けられないからな」

「当たり前だろ?大貴は渡部を毛虫より嫌ってるんだから」

「あははっ。可哀相に、渡部のヤツ!」

これでいい。


 大貴を一人にしてしまった。急いで教室に戻ると、大貴の前の席におしゃべり畑中が陣取り、身振り手振りで話しをしていた。大貴の手首に巻かれた包帯の理由を聞こうとしているのだ。

全く、油断も隙もないヤツ。

「だから!階段を踏み外したの!」

「大貴~俺の可愛い大貴に、怪我をさせたのはどこの階段だよ?」

俺は二人の間に割って入った。

「はいはい、うちのです!悪かったな!」

「寺田んちか!あのバカデカイ螺旋階段の所為だな!」

「うるさいよ」

これでいい。畑中の軽い口から、大貴の包帯の理由は広まるだろう。

我が家の玄関にあるタカラヅカに出てきそうな螺旋階段は来訪者の目を引くが、住んでいる者にとっては不便極まりない、無駄な代物だった。

二階に上がる事が目的の階段が、わざわざ曲がりくねってる必要があるのか?母さん。

チラリと大貴を見ると、ホッとした様子で俺を見上げて「ありがと」と、口を動かした。しかし、すぐに目は逸らされてしまう。

昼休みには、「有川も誘いたい」と言うので三人で学食に行き、食欲のない大貴になんとかランチを食べさせて午後の授業に臨んだ。

 俺は出来るだけいつものように振舞ったが、大貴はいつもの大貴じゃない。

沈み込んだ表情で、時々辛そうに手首を見ている事もある。そこには縛られた痕が残っているのだ。

すでにいなくなった渡部への怒りが増していく。向こうは会う事もないと想っているだろうが、俺は会うつもりでいた。夏休みにはアメリカに行って、渡部を気が済むまで殴ろうと思っているのだ、俺は。

大貴が俺をじっと見ているから、なにか用でもあるのかと近寄ると、あからさまに視線は逸らされた。

大貴には電話に出ない理由も、メールに返信しない理由も聞いていなかった。聞いても答えてはくれないだろう。こうなったら、頑固なんだ。

それにメールを無視した側からすれば、多少は良心の呵責ってものがあるものだ。それを咎めない事が、大貴に対する優しさだと俺は思っていた。大貴が自然に俺に接してくれるまで、俺は普段と変わらずいつものように接していればいいんだ。いつものように・・・。

 おしゃべり畑中のおかげで、大貴の怪我の理由は寺田家の螺旋階段からの転落、と広まった。うちに遊びに来た事のあるヤツは「ああ、あれ」と納得してくれたから、少女趣味で無駄な螺旋階段もたまには役に立つものだと、ホッと胸を撫で下ろした。

ついでに、「大貴は腕や胸、足を打って痛いから、機嫌が悪いんだ」と尾鰭が付いていたから、さすがはおしゃべり畑中だった。


 授業も無事に終わり帰り支度をしている大貴に「大貴、帰りは」と聞くと、大貴は目を合わせずに答えた。

「俺、怜と信ちゃんの所に行く。今日からかあさん、旅行なんだ。信ちゃんに顔見せないと」

おばさんが旅行の時はいつも、うちで夕飯を食べたり泊まったりするのにな。

「・・・ごめん。約束があるから、信吾さんの所まで送れないけど」

「大丈夫。怜の自転車で一緒に行くから」

また、有川だ。しかも、二人乗り。お前たち、噂になってるんだぞ?知らないのか?

「最近、怜と仲良いんだな」

「帰る」

質問に答えてないぞ、大貴。思わず、眉間に皺を寄せてしまう。

結局、土日は有川と一緒にいたんだろう?それなのに、また有川かよ・・・。


綺麗に弧を描く有川の紅い唇が目に浮かぶ。

煽情的な唇の紅さは罪作りなんだよ、有川。

大貴を占有する、有川に嫉妬する。


*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

怜ちゃんに嫉妬してどうすんのよ、彰彦くん(笑)

   日高千湖

ランキングに参加しております、良かったらポチッと押してやってください♪
   ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村  
携帯電話の方はこちらを押して頂けると嬉しいです♪
   ↓
ブログ村 BL・GL・TLブログ
ありがとうございました!  
関連記事
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日高千湖

Author:日高千湖
日高千湖のBL小説ブログへようこそ♪

こちらはオリジナルBL小説ブログです。BLという言葉なんて知らない、嫌悪感を抱くとおっしゃる方は回避願います。

旧ブログ『薄き袂に宿る月影』をご愛顧頂きました皆さまには、ご迷惑をお掛けしております。

旧ブログ内で公開しておりました作品につきましては順次こちらでも公開して参ります。また、旧ブログで公開中の作品は今のところそのまま残しておりますが、こちらへは改稿した上でUP致します。こちらへ移転後は旧ブログでの公開は見合わせたいと思いますのでご了承下さいませ。

左上の【Sitemap】をクリックして頂きますと過去3ヶ月の更新記事がお読みになれます。お久しぶりの方、読み逃がした方はこちらが便利です♪

サイトマップ代わりに【目次と登場人物紹介】というカテゴリを作成しましたので、そちらをご利用下さい。

★拙作ではございますが、著作権は放棄しておりません。お持ち帰りはご遠慮願います。

★大変お手数ではございますが、リンクをご希望の方はコメント欄にてお知らせ頂けると嬉しいです♪よろしくお願い致します。


ランキングに参加しております。良かったら押してやって下さい!
  ↓

にほんブログ村


ありがとうございました!

★尚、拍手コメントくださいました方へのお返事は、コメントを頂いた記事のコメント欄にて書かせて頂いております。ご確認下さいませ★

では、ごゆっくりどうぞ♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
リンク
QRコード
QR
フリーエリア