『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・13

 玄関を開けてくれた大貴は、不機嫌そうな顔で大好きなチョコバーを銜えていた。

その低いテンションは、俺が知る限り過去最低レベルだ。会えて嬉しいのは俺だけのようだな。考えてみれば、さっきまで学校で一緒だったっけ。

「デートじゃなかったのかよ」

大貴はブスッとして言った。やはり、清香の事を誤解してるようだ。

「清香のこと?」

俺はリビングのソファーのいつもの場所に座った。大貴は冷蔵庫の前に行き、グラスを氷で一杯にした。それにアイスコーヒーを注ぎ、「はいっ!」と渡してくれる。

夏になるとおばさんは、信吾さんの店で作っているアイスコーヒーをもらって来て冷蔵庫に常備しているのだ。夏に《銀香》行くと、俺がアイスコーヒーを注文するから出してくれたんだ、と思うと嬉しかったりする。

「ありがとう。デートってなんだよ。清香が参考書を探したいって言うから、一緒に行っただけだよ」

「ふうん」

絶対、信用してないな・・・。目が疑っている。

「可愛いじゃん、髪の毛クルクル巻き髪でさ」

大貴はあんなのが好みだったのか?ちょっとばかりがっかり・・・いや、軽くショックだ。やはり、清香を紹介するべきではないな。

「大貴はあんなのが好みなのか?」

「はあ?」

しらばくれやがって!好みのタイプならそう言えよ。俺は思わず睨みつけてしまった。

「俺は・・・どちらかといえば・・・美弥子さんみたいなタイプがいい」

はあ?

まったく!こっちの方が「はあ?」だよ。

美弥子さんだと!?美弥子さんって、あの美弥子さんか?信吾さんの元カノで、ゴージャスな美弥子さんか?

やはり、血は争えないな。顔が似ると女の好みも似るのか・・・。

「大人の女がいいのか?」

「ああ、包容力があって、いいじゃん!いい女だぜ、美弥子さんは」

大人の女の包容力か・・・そんなもんは持ち合わせていませんよ、俺は!

確かに美弥子さんは、ハッタリの効く美人だ。信吾さんと並んで負けてないもんな。自分でも気持ちが顔に出ているとわかっているけれど、俺の不機嫌さを隠そうにも無理だった。

大貴といるとつい、自分で貼り付けた仮面が剥がれ落ちていく。


「なんとか島清香、いいじゃん。可愛いよ、貴志川だろ?頭もいいし、医者の娘なら花嫁候補か?」

「林島だよ。それに花嫁候補じゃないし」

大貴も清香を可愛いと思っているんだな。

清香の女の子らしい柔らかな頬や、輪郭や、口角の上がった紅い唇が凱歌を上げる。ついでに、まだ俺と清香の事を誤解してるし。

 学校では長袖シャツを着ていたから気にならなかったが、Tシャツを着た大貴の手首に運動用の幅広いリストバンドがはめられているのが目に付いた。あの下に、信吾さんが言っていたキズか痣があるんだな。

ちくしょう・・・渡部のヤツ!再び、渡部に怒りの矛先が向いた。

ますます顔付きが厳しくなるのが自分でもわかってるんだが、どうしようもない。感情がコントロール出来なくなる。このままじゃいけない、と思った時だった。

「そうだ!これさ、よかったら着て!」

「なに?」

大貴が紙袋を差し出した。この袋は確か駅ビルの中にある店のじゃなかったか?小さなリボンが袋の左隅に付いていた。もしかして、これを買いに駅ビルに行ったのか?

「いろいろ、その、渡部の事とか、迷惑掛けたし・・・それからメールとか電話とかありがとう。ちょっと、返信する気力がなくてさ、ごめん!」

そうか。やはりショックだったんだな。俺は、大貴の気持ちを汲んで笑った。

「ありがとう!開けていい?」

袋を開いて中を覗くとTシャツが入っていた。いかにも大貴らしいセレクトだ。

俺の好きなコバルトブルーのTシャツ。大貴の心遣い一つでメールを無視された事や、電話に出なかった事は吹き飛んでしまった。

嬉しくて頬が緩む。

「気に入った?」

少し不安そうに大貴が聞いた。

「ありがとう」

「俺のはオレンジで、怜はピンク。似合うと思わない?」

大貴は自分用のオレンジのTシャツを、身体に当てて見せた。

オレンジのTシャツはいかにも大貴らしい色とデザインで、溌剌とした大貴に似合ってる。「似合うよ」と、言うと嬉しそうだった。

大貴は明るい色が好きで原色を好んで着る。俺は向日葵のようなヤツだ、といつも思っていた。夏のギラギラした日差しの中、しょんぼりする花が多いのに向日葵だけは太陽を追いかける。決して、下を見ないのだ。

そんな大貴をキズ付けやがって、渡部め。


 今度は俺が「どう?」と、大貴がくれたTシャツを当てて見せた。大貴には二度と触れられない渡部には、優越感を感じながら。

「似合うよ」

「ありがとう、大貴」

精神的に辛い状態なのにわざわざTシャツを選んでくれた大貴が、やっぱり好きだ。大好きを込めて笑うと、大貴も満足そうに笑ってくれた。

久しぶりに、大貴の笑顔を堪能した気がする。

だが、一つ気になる事があった。有川だ。Tシャツは有川の分もあったんだよな。

なんとなく俺のだけじゃないのが引っ掛かったが、渡部の事で世話になったお礼だから仕方がない・・・だけど。

「大貴・・・最近さ、怜と仲良いよな・・・」

ああ、こんなこと、言うつもりはなかったのに!俺のバカッ!

「あ?うん・・・」

「怜って、綺麗だよな」

ここまできたら、しょうがない。なんて、ちっちゃい男なんだ、俺は・・・。

「ああ、そうだな」

大貴が怪訝そうな顔で俺を見ている。「変な事を言ってごめん」と、言えばいいのか?

「彰彦。怜は信ちゃんのことが好きなんだよ」

「知ってる。そんな事、誰だってわかってるさ。わかってないのは信吾さんくらいだし」

そうさ、わかってるよ。それくらい。今更、言われなくたってわかってるんだよ。

 有川の解り易い反応。店で信吾さんを見つめる視線は熱くて、恋する乙女並みに輝いてるのだ。

カウンターの中にいる二人は接触が多くなる。狭いカウンターの中ですれ違う時に、信吾さんが有川の腰に手をやったり、肩に手を置いたりするけれど、その度に解り易く有川は頬を染めて口元を緩ませるのだ。

それなのに、なぜか有川の気持ちに気が付かない信吾さん。鈍過ぎないか?


そんな事はどうでもいい。二人の問題だ。

それよりも、俺にとっては清香との関係をきちんと話して、誤解を解く事の方が大切なんだ。

「大貴、清香のことだけど・・・」

「あん?」

清香の名前が出た途端に、多少は持ち直していた大貴のご機嫌が、急降下したのがわかった。


*****

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