『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・19

 放課後、これから《銀香》に行く有川に、大貴が受けられなかった授業のノートと手紙を預けた。

「気分が悪くなかったら電話して欲しい、と大貴に伝えてくれないか?」

有川はコクンと頷いた。

「いいよ。伝えるね」

有川はノートと手紙をカバンに仕舞いながら、寂しそうに言った。

「大ちゃんが羨ましい。僕には、学校を休んでもノートを貸してくれる人、いないんだ」

「・・・」

何と返せばいいかわからなかった。

有川は家の事情が複雑で、同級生の中には辛辣な言葉を投げかける者もいる。有川自身も引っ込み思案で、自分から「ノートを貸して欲しい」と言えるようなタイプではない。

「あっ、ごめん・・・。友だちって、大切だよね。大ちゃんが話しかけてくれるようになって、その・・・そう思うようになったんだ」

「有川は・・・大貴の事をただの友だちと思っているのか?それとも・・・」

大貴に恋愛感情があるのか?

「『友だち』、だよ。『ただの』じゃなくて、僕にとっては大切な友だち。あの・・・彰彦くんの事も、そう思ってる。あっ、これは彰彦くんがどう思ってるかは、別として、だよ?じゃあね!」

無口で頼りなさそうで、守ってあげたい、と思ってしまう。色白で、どちらかと言えばなよなよした印象の有川が大人に見えてくるから不思議だ。

学校では嫌な思いをしているに違いない有川が気の毒だったが、案外、彼は頼りになるヤツなのかもしれない。土曜日の有川の対応と判断力に舌を巻いたのを思い出し、自分の不甲斐無さをも思い出した。

有川を見送りながら、これから大貴に会う彼に少々の嫉妬を覚えた。大貴は有川に「悩み」を打ち明けていたに違いない。俺はそれを羨ましく思うのだった。

 その夜遅くに、五月にアドレス交換して以来、初めて有川からメールが届いた。

『大ちゃんのお母さんが海外に行っているので、大ちゃんはこれから一週間、滝山さんのマンションから通います。学校へは滝山さんが車で送迎するそうです。ノートと手紙渡しました。それから、大ちゃんは心因性の胃炎なので保健室登校です。』

用件だけが書かれた簡単なメールだった。見事なくらいに《お知らせメール》に徹しているなあ。簡潔なメールは文字だけだ。大貴の絵文字と顔文字でいっぱいの、元気で派手なメールとは正反対だ。

「心因性」の原因は門脇遼平に違いない。

有川の言っていた『大貴の悩み』とはなんだろう。「親友」の俺には言えなくて、「友だち」の有川には言える「悩み」。

考えてもわかりはしないが、それが俺の「悩み」となってしまった。


「親友」って、何だろう?「親友」という単語ほど、不必要で邪魔な言葉を俺は知らない。

「親友でいような」だと?小学生じゃあるまいし、お友だちごっこももう限界だ。

大貴の「悩み」を聞き、大貴の傍にいて、大貴を癒してあげられるのなら、有川のようにただの「友だち」になりたかった。

大貴に対して事あるごとに欲情している俺は、「親友」から「恋人」への格上げを願いたいところだが、渡部事件の後では言い出す事も出来ない。

やはり夏休みにはアメリカ行きだ、と俺は堅く決心した。

 翌日から、大貴の保健室登校が始まった。

「保健室登校」と言っても、その日の授業に使うプリントや課題が保健室に届けられて、その日のうちに提出しなければならないと、有川に聞いた。教科書とプリントだけで理解出来なければ、教職員室で質問し、翌日には提出しなければならない。

星望学園は校風も自由でエスカレーター式に進学出来る学校だが、大学進学後に外部進学者との学力の差を生まないように、勉強には厳しいのだ。


 信吾さんの車で大貴と一緒に登校した有川を捉まえて、今朝の大貴の様子を聞いた。

「具合はまだ悪いのか?」

「・・・あの、食欲はないけど吐き気は治まったみたい」

「そうか」

大貴から手紙の返事を預かっていないのか、有川。

「休み時間とか昼休みに保健室に会いに来て欲しい、って言われたよ」

それは「俺も」なのか?それとも、有川だけ?

有川はカバンから俺のノートを取り出した。

「はい、これ」

「ああ、ありがとう」

「・・・ごめんね。手紙の返事はもらってないんだ。ノート、ありがとうって。その・・・昨日は滝山さんが仕事で遅くなるから『泊まって欲しい』って言われて、僕マンションに泊まったんだけど。その・・・薬が効いたみたいで、大ちゃんはすぐに寝ちゃったんだ。それから・・・その、お昼は一緒に学食に行かない?一緒に保健室に迎えに行こうよ。ほら、ご飯一緒に食べないと、大ちゃん抜いちゃいそうだから。その・・・僕、滝山さんに叱られちゃう」

クスッと、笑う有川。信吾さんが大貴を叱る事があっても、お前を叱る事はないと思うぞ。

「それから・・・正面玄関に、その・・・門脇くんがいたよ」

有川は「門脇」の名前を出すのを遠慮したのか、小声で言った。

さすがだ。大物政治家の息子は行動力が違う。先を越されたような気がして、俺は思わず眉を寄せた。

「・・・彰彦くん。僕が手紙、預かろうか?」

見透かされしまった心を今更隠しても仕方がないな。俺は素直に頷いて、大貴に手紙を書いて渡した。

ノートの端切れに『昼休みには怜と三人で学食に行こう』とだけ書いたが、大貴は有川と二人で行動したいのではないかと、不安になる。


 俺が教室に入ると、すぐにおしゃべり畑中がやって来た。

「俺の大貴は、遅刻か?」

「『俺の』、じゃないだろう?畑中」

そう言って凄むと、畑中はすごすごと自分の席に戻った。だが、さすがはおしゃべリ畑中。畑中は自分の席に戻るたった10歩程の距離の間に、勝手にストーリーを作り上げる。

「大貴は寺田くんに飽きたのかな~?年下の彼に心を奪われちゃって。ああ、俺の大貴が~っ」

嘘を織り込んだ情報を大声で話す。これで俺は、「可愛い大貴に捨てられた哀れな元カレ」だ。畑中の想像力に呆れながら席に着き、授業の準備をしていると井上がやって来た。

「おはよう、寺田。大貴は休みか?」

「いいや、保健室だ。教室にいるとおしゃべり畑中みたいな嫌なヤツがいるから、胃が痛いそうだ」

わざと大きな声でみんなに聞こえるように言った。

井上は苦笑しながら俺の肩を叩き、俺の耳元で「ちょっと、話があるから」と、伝えてきた。「休み時間に」と言うと、井上はまた肩を叩き自分の席に座った。

 井上の一族は、代々星望学園に通っている。

今は中・高等部に弟と従兄妹合わせて5人が通っている。幼稚園から大学まで、親戚まで加えると何人の「井上」が星望に通っているかわからない。そういう事情もあって彼は情報通だ。

従兄妹たちから門脇の情報を聞いてきたに違いない。


 一時間目の休み時間に保健室に行きたかったが、休み時間は10分と短く井上の話を聞くだけで精一杯だった。

「話しって?」

「門脇、婚約者がいるんだってさ」

「はあ?」

この学園には「幼い時から決められてます」みたいな感じで婚約者がいたりする事がない事はない。俺の親父たちの時代には何人もそんなヤツがいた、と聞いた事がある。

「この時代に、高校生で婚約者?それで?」

「門脇の親父の後援会会長の血縁らしい。彼女は門脇と同じ学年で星望の女子部に通っているそうだ。親戚の子がその婚約者と仲が良いんだよ。ついでに門脇には好きなヤツがいるらしいんだけが・・・これが誰だかまだわからない。英次は門脇の好きなヤツというのは大貴だったのか、と言っていたが、俺は違うと思うぞ」

「そうか・・・。また何かわかったら頼むよ。井上」

「他ならぬ寺田くんの為ですからね。俺は、お前の事を大切な友だちだと思ってるからな。これくらい、任せておけよ」

また井上に肩を叩かれ、俺の「親友」は大貴ではなく井上じゃないか、と可笑しくなる。

*****

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ちなみに、「英次」は辰弥の従兄弟で門脇くんのクラスメートです(笑)井上英次の父ちゃんは比呂人おじちゃんの弟の健輔。健輔さんは「円井リゾート」の社長さんです。複雑www

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