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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・1

 嵐のような強風。例年よりも遅く咲いた紅梅が枝にしがみ付いている。暦ではすでに春だが、明日からは真冬並みの寒さが予想されている。

 春一番が吹き荒れたその日。俺は駐車場に車を停めて、周辺のパン屋を巡っていた。

肩に掛けた大型のトートバッグの中には、すでに4店で買い求めたパンが入っている。スマートフォンで次に行く店の位置を確認しながら信号が変わるのを待っているのだが、時々踏ん張っていないと身体が持っていかれそうなくらいの突風が吹く。

「・・・山下店長?」

背後から名前を呼ばれた。それは聞き覚えのある声だった。振り返った俺は、久し振りに見る顔に驚きを隠せなかった。

「久し振りだね。元気だったかい?」

彼は俺の顔を見て、喜びと戸惑いとが一緒くたになったような表情を浮かべた。

「最後に会ったのはいつだったかな?」

「俺が退社した時ですよ」

「そうだったね。今も信用金庫に勤めているのかい?」

信号待ちで声を掛けてきた彼の名は、春山伸樹。

《花宴》のオープニングスタッフの1人だった。あの頃は木下章太郎が《花宴》の店長を務めていて、大学の後輩でもある春山の事は章太郎も可愛がっていたな。

「それが・・・」

春山は言い難そうに目を逸らした。


 春山伸樹は星望学園大学経済学部に在籍中に、《花宴》でアルバイトをしていた。卒業後は『タチバナ』に就職したが、確か2年で退社した。

退社したのは、ご両親が心配なさったからだ。『S-five』は給与はいいが、社長以下幹部は全員同性をパートナーに持つ。そんな環境では、「うちの息子も、いつか感化されてしまうのではないか?」と常に心配しておられたのだ。

春山自身にはその気はなく、女性客から誘われて食事に行ったり、飲みに行ったりしていたのは知っている。

三木くんが何度かご両親とお会いして話しをし、ご納得頂けたものと俺たちは思っていた。ご両親の意向もあり、春山は『S-five』ではなく、既婚者の三木くんが社長を務めている『タチバナ』に就職した。

だが春山のご両親は、親戚の縁を頼って地元に転就職先を準備してしまった。父母の懇願に負けた春山は2年後、已む無く『タチバナ』を退社し地元に戻ったはずだった。

 だが目の前の春山の手には、『リニューアルオープン』と書かれた餃子店の派手なチラシが握られている。黒いズボンに赤いエプロンとスニーカー。ベンチコートを着てチラシ配りをしているのだ。

どこからどう見ても、信用金庫じゃないな。

「それが・・・」

春山は言い難そうに唇を噛んだ。

「ああ、ごめん。言い難いのなら大丈夫だからね」

こんな所で話す内容ではないのだろう。彼はどう見ても仕事中だしね。何か深い事情がありそうだと感じて、俺は春山に「またね」と言おうとした。

春山は思い切ったように顔を上げた。

「実は・・・。相談、したかったんですよ。山下店長か三木店長に電話したかったんですが、あんな形で退社したんで・・・電話し辛くて・・・」

「そう?遠慮せずに電話してくれよ。きちんとした手順を踏んで退社したんだ。気を遣う事はないさ」

社にとって2年で辞められるのは少々痛いが、家の事情だから仕方がない。連絡もなく仕事に来なくなったりする者もいるしね。退職届を出してくれるだけでも御の字だ。

「・・・ありがとうございます」

春山は今にでも泣き出してしまうのではないか、と思うくらいに顔を歪めた。彼の表情には安堵が浮かんだ。

「今夜どこかで会えませんか?いえ、今夜じゃなくてもいいですから。一時間で良いんです。話しだけでも」

「今夜か。そうだな・・・」

「あっ、お忙しいですよね?いつもで構いませんから!山下店長のご都合の良い日で構いませんから!お願いします!」

春山は頭を下げた。かなり必死だ。

今夜は俺は早番。午後6時には退社出来る。以前と比べれば、三木くんも時間の融通が利くようになった。今夜は特に用はないし、春山の様子も気になる。

彼には元気がない。以前は纏っていた「星望ボーイ」という洒落た雰囲気もないし、疲れた印象を受ける。

「いいよ」

「ああ、良かった!」

春山は手に持っていたチラシで顔を覆った。心底困っていたのか、春山はチラシを持ったままで太腿に手を付き、アスファルトの歩道に向かって大きく息を吐いた。

「はああ・・・っ」

「君は何時に終わるんだい?」

春山は嬉しそうに頬を紅潮させ、手元のチラシを見せながら言った。

「これ、5時には終わりますから!」

「そうか。本社ビルは知っているよな?」

「はい、勿論です」

「1階の《銀香》で待っていてくれる?俺、6時までなんだ。飯でも食いながら話そうか」

「はい!よろしくお願いします!」

春山は両手をピシッと揃えて頭を下げた。余程、困っているのだろう。彼からはなりふり構ってはいられない、というような雰囲気を感じた。


 本社に戻ると、信吾さんと綱本秀人が戻っていた。

「山下くん、お疲れさま」

「お疲れさまです」

秀人がチラリと俺を見て、僅かに口元を緩めた。俺はトートバッグを自分の机の上に置き、買い集めたパンを出して並べる。俺の机の上は、パンで溢れてしまう。自分の机の上だけでは足りずに、隣の秀人の机の上まではみ出してしまっている。

「パンを買ってきたのかい?」

「ええ。美味しいと評判の店を5軒ほど回ってきました」

信吾さんは持っていた書類を机に置くと、俺の机まで来てパンを手に取る。秀人はそれを見て、すでにコーヒーを準備している。

「信吾さん、《花宴》にいた春山を覚えていますか?」

「ああ、春山伸樹ね。覚えているよ。星望だったよな?」

「ええ。経済学部です。章太郎の後輩ですよ」

「確か『タチバナ』を2年で辞めたよな?あっ、これ。美味そう。中に入っているのは何だ?」

信吾さんは見るからにふわふわした白いパンを手に取った。

「カマンベールチーズと明太子ですね。チーズを使ったパンを中心に買ってきたんですよ。黒川が集めて欲しいと言うので」

他には食パンとクロワッサン、フランスパンだ。

「食っていい?腹が減った」

「良いですよ。多めに買ってきましたから、どうぞ」

「ありがとう!」

信吾さんは気に入ったパンを2つ取り、自分の席に戻った。

「どうぞ」

秀人がコーヒーを俺の机に置いた。

「ありがとうございます。綱本さんもパンをいかがですか?」

「ありがとうございます」

秀人はチーズとトマト、ハムがはみ出したパニーニを選び自分の席に座る。女性たちには3時のおやつになりそうな甘いパンを渡し、俺は自分の席に戻った。

「山下くん」

「はい」

「春山がどうしたって?」

「偶然、会いました」

「へえ!こっちに遊びに来ているのか?時間があればここにも寄るように言ってくれた?」

信吾さんも、春山は地元の信用金庫に勤務している、と思っているようだ。

「信号待ちで声を掛けられたんですが、チラシ配りをしてたんですよね」

「チラシ配り・・・?信用金庫の?」

「違います。餃子」

「餃子?」

信吾さんは「餃子」と聞き、大きな瞳を更に大きくした。

「ええ。餃子です」

「辞めたのか?」

「そうでしょうね。確か、彼の実家は静岡でしたよね?」

「そうだったかな?覚えていないな」

「話しをしたいと言うので、今夜《銀香》に来るように言いました」

 こういうパターンは、今までにも何度か経験している。

うちから独立して、2、3年で廃業せざるを得なくなって泣き付いてきた者もいれば、アルバイトが他所に就職して数年後に「会社に性癖がバレて居辛くなった」とか。

「ああ、そう。彼が困っているのなら、君が助けてあげなよ」

「ええ、そのつもりです」

「任せたから」

「はい」

「それから、綱本さん!例の資料を山下くんに」

「はい」

秀人が俺に手渡したのは、『滝山産業』関連の資料を管理している緑色のファイルだった。

*****

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山下店長です~♪圭ちゃんは現在ベッドでお休み中です。今しばらくお待ちください。

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コメント
春山くん、何やら事情ありそうですね。
男に走ったら困ると無理やり実家に引き戻したのに、
それがかえって仇になるパターンかしら?
Sファイブに出戻り…かしら(๑˃̵ᴗ˂̵)

もうすぐ春だし、新たな恋の風が吹くのね〜
名前も春山だしね!
な〜んて、色々妄想しております。

腐腐腐♪( ´θ`)ノ
2018/03/07(水) 03:05 | URL | にゃあ #mig06/e.[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~いらっしゃいませ♪

> 春山くん、何やら事情ありそうですね。
> 男に走ったら困ると無理やり実家に引き戻したのに、
> それがかえって仇になるパターンかしら?
> Sファイブに出戻り…かしら(๑˃̵ᴗ˂̵)

春山くん、困っているようですね。チラシ配り頑張っておりましたがwww
山下くんに会えて、ラッキー♪

> もうすぐ春だし、新たな恋の風が吹くのね〜
> 名前も春山だしね!
> な〜んて、色々妄想しております。
>
> 腐腐腐♪( ´θ`)ノ

春山、ですからね(笑)かなり前にいなくなっていたキャラでした(笑)
新しい恋の風でしょうか、嵐でしょうか?妄想してくださってありがとうございます!!

庭の梅がやっと見ごろです~。今年は遅かったです。菜の花も咲いて、春らしくなりましたが寒いですwwwにゃあさまもお忙しいでしょうけれど、ご自愛くださいませね!コメントありがとうございました!
2018/03/07(水) 07:08 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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