大貴を少し高い所から見下ろしながら、『親友』の有りようを模索した。大貴は涙で濡れた瞳で俺を見上げる。
『親友』はこの瞳で欲情しないのだ。『親友』はこのまま押し倒そうか、とか考えない。
何年も前から、大貴はこの位置から『大好きなあきちゃん』として俺を見上げていたのだ。それは生涯、変わらないのかもしれない。俺は大貴にとって『自慢の親友・彰彦』で、在り続けなければならないのかもしれない。
それでもいい、と思ったんだが・・・。
泣き出した大貴を前に、俺はどうする事も出来ずにいた。
「大貴・・・なんで泣くんだよ・・・。泣かせてごめん!なにか、悩みでもあるのか?俺で良かったら、聞くよ?」
俺は『親友』っぽい事を言ってみるが、大貴は「大丈夫!」と涙を拭いて立ち上がった。
「授業が始まるぞ!戻れよ、俺もプリントしなきゃ」
大貴は俺をソファーから立ち上がらせた。そして背中を押し、保健室から追い出した。ガシャンと派手な音を立てて閉められたドアの向こうにいる大貴は、無理をしていると思った。
ちょうど予鈴が鳴った。大貴と俺の間を、「保健室」と書かれたプレートが大河のように阻むのだ。
席に戻ると、恋愛指南・井上が振り返った。俺が戻るのを待っていたようだ。
「今日の放課後、付き合えよ」と、意味ありげに笑う。門脇情報を掴んだようだ。
昼休みになり、大貴を誘おうと思いながら保健室に行った。すると保健室から門脇、有川、大貴の三人が現れた。三人はどうやら、学食に向かっているようだ。
前を歩く大貴と有川の後ろから、二人の肩に手を乗せ押すようにして歩く門脇を、今なら呪い殺せる。いや、その前にぶん殴ってやるか?
「こんにちは!」
険しい顔付きの俺に話しかけてくる勇気のあるヤツは、澤村亮太だ。
「寺田さん。学食、ご一緒しませんか?」
澤村のふわふわした唇の感触を思い出しながら、俺は拳をしまった。
「ああ、いいぞ」
澤村には釘を刺しておくべきだ。大貴に余計な事を言ってもらっては困るしね。
「寺田さん、この前の・・・」
「忘れろ」
「冷たいなあ~!平井さんと門脇さんって、やっぱり付き合ってるんですか?」
澤村は、大貴たちが座っているテーブルの方を見ながら言った。大貴たちは特Aランチを注文したようだ。
大貴は胃が悪いのに、量の多い特Aランチが食べられるのかよ?門脇め、気遣いが出来ないのか。政治家ジュニアのクセに。
もっと軽めのを注文してやれよ。
「付き合ってない」
「へえぇ・・・でも、仲良さそうですよ?ほら、楽しそうだし」
大貴は俺が座っているテーブルから、3テーブル先の斜め45度の位置に陣取っていた。大貴の話を聞き門脇は可笑しそうに笑い、周囲の注目を浴びている。
何が、可笑しいんだよ。俺にも聞かせて欲しいよ。
イライラしたまま食べる本日のランチがどうでも良くなった。澤村が一生懸命に話し掛けているが俺は上の空。内容なんて一つも入ってこない。それでも澤村は話し掛けてくる。修学旅行がどうの、とか、合唱コンクールがどうの、とか。どうでもいいんですけど。
「あのさ。俺、こんなだし、一緒に居ても、お前は楽しくないだろう?」
澤村は「う~ん」と、小首を傾げた。
「僕のことは見てないなあ、って思いました。今、僕って置物みたいな感じですか?」
「言い得て妙だな。チワワの置物」
「はははっ、寺田さんって面白い!僕、置物でもいいです。だって、寺田さんは置物とはキスするんでしょ?」
澤村の話し方、甘たるくて気持ちが悪い。
「置物とキスする趣味はないけどな。『親友』とはキスもセックスもしないんだって事は最近わかったよ」
澤村は、再び「ふ~ん」と、小首を傾げた。
「じゃ、置物とはセックス、するんですか?」
「時と場合による」
「じゃ、してみませんか」
時と場合による、か。親父の『なにが大貴くんの幸せなのか、考えてごらん』という言葉に、縛られてやしないか俺は。
「・・・」
俯いて考えあぐねていた。ランチのメインディッシュのカツレツが、門脇に見えてきたから思わずフォークでグサグサと刺す。
「ねっ?」
お安い娼婦のような顔で誘う澤村には嫌悪感で一杯だ。
俺は返事もせずに、突き刺したカツレツを口に放り込み、澤村を睨み付けた。ちょっと、触れるといつもこうだ。「お前なんかに、俺の気持ちは一ミリたりともないんだよ」と言おうと、頬張ったカツレツを飲み込んでいた時だった。
門脇の笑い声が一際大きく響き、周囲の視線が門脇たちのテーブルに集中した。
俺も、もちろん大貴を見た。大貴と目が合い、俺がここに居るのを確認したと思う。
すると急に大貴が立ち上がり、テーブルから離れる。有川がそれに続いた。ボリュームのある特Aランチを食べ終わるにはもっと時間が掛かるはずなのに、食べ終わるのが早くないか?
また気分でも悪くなったに違いない、と思った俺は立ち上った。大貴を支えなくては。
その時、大貴の身体は前のめりに大きく傾いで、慌てて有川が支える。すると、横からスッと門脇の腕が伸びてきて倒れそうになった大貴の身体を捉まえた。
気を失ったのか、門脇に支えられた大貴はグッタリとしていた。それをお姫さま抱っこで抱えた門脇は、学食中の注目を浴びながら悠々と歩いて行く。有川はおろおろしながら、その後ろを付いて行った。
俺はその一連の場面を、スローモーションのように感じながら見送った。学食は騒然となり、噂の二人のロマンチックなシーンにブーイングが起き、ピィーーーッと指笛が響く。
おしゃべり畑中が俺を見つけて駆け寄った。
「寺田!!何してんだよ!お前、行って大貴を取り返せ!あ~俺の大貴が~!」
大騒ぎしながら俺の腕を掴み、引っ張る畑中。
「お前が行って来い!」
畑中に当たってもしょうがないが、畑中の腕を振り解いた俺はヤツの後頭部をバシッと叩いた。そして「酷いよ~!」と、大騒ぎする畑中を足蹴りする。
「何だよ!大貴にふられたからって俺にあたるなよ!」
間の悪いお前が悪いんだよ、畑中。
気を失った大貴を抱き抱えるなんて、それは今まで俺の役目だったんだよ!
畑中に言われるまでもない。俺は必ず大貴を取り返す。
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彰彦くん、遅いけど決意表明(笑)この頃、おしゃべり畑中がお気に入りだった日高です。
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