『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・27

 井上と一緒に駅前のコーヒーショップに入り、入り口からは死角になる位置に席を決めて座った。

「今、注文を取ってくれた女の子が千晶ちゃん。畑中がご執心でさ、毎日のようにここに通って来るそうだ。今日も来るんじゃないのか?」

「へえ・・・」

畑中の好きな女には全く興味がない。千晶ちゃんは髪の毛をツインテールに結び、売れないアイドル歌手のような安っぽい笑顔を振りまいていた。

「しかも、お前のファンらしいぜ。お前さ、ここで女の子と待ち合わせしていたんだろう?」

「ああ」

噂の「千晶ちゃん」に目を向けると目が合った。千晶ちゃんは仕事をそっちのけで俺を見ていたのだ。見事に千晶ちゃんと目が合い、千晶ちゃんは「キャッ」と、両手で口元を覆って頬を赤らめた。

畑中には少々イラついていたから、畑中の恋を邪魔してやろうと微笑んで軽く頭を下げる。すると千晶ちゃんのボルテージは上がった。「キャーーーッ」と、小さく叫んで上司に注意されている。

「おい!千晶ちゃんをからかうなよ。可哀相だろう?」

井上は笑いながら注意したが、本気ではない。

「ああ、そうだな。だが、畑中に仕返しだ」

「畑中のヤツ、可哀相に・・・。大好きな千晶ちゃんのお目目は寺田くんにハートマークじゃないか」

「放っておけよ。あっちを見るなよ」

「それで、その女は誰なんだ?畑中はその女子が寺田の彼女なのか、と千晶ちゃんにしつこく聞かれたそうだ。俺にリサーチしてきたよ」

俺は、畑中退治にこれは使える、とほくそ笑んだ。

「貴志川女学院の子か?制服を着ていたからわかったと思うけど」

「あっ、あの子か!試合の時綺麗な子がいるって評判だった・・・林島?」

「そう。清香の一家とは昔から、家族ぐるみのお付き合いなんだ。お互いに恋愛感情は全くないぞ。清香が絡んでくるようになってから、どうも上手くいかないんだよ。大貴は勘違いするしさ。運気が下がってる、っていうか。疫病神だよ、清香は」

「酷いなぁ・・・。可愛い女の子を相手に疫病神なんて!自分の私生活が上手くいってないのを、美少女の所為にするなよ」

「本当の事だから仕方がないだろう?清香が正門の前で俺を待っていた日から、全部がおかしくなったんだ」

そうだ。あの日門脇と大貴が接近遭遇しなければ、こんなにこんがらがったりはしなかったはずだった。全てはあの日からだ。俺が空回りしているのも、全部、清香の所為だ。

「それで?澤村とのアバンチュールはどうだった?」

「お前まで言うのか?シてません!授業をサボりたかっただけだよ」

「今、全力で拒否したな?」

井上は可笑しそうに笑った。

「あははっ。真面目な寺田くんが、珍しい事もあるもんだ。先生には俺が、『腹痛でトイレから出てきません』と言っておいたから」

「ありがとう」

もう少しスマートな理由はなかったのか、井上。

「ところで、大貴の具合はどうなんだ?」

「有川に、まだ聞いてない」

「そっか・・・。それで、だ。門脇」

俺は身を乗り出して井上の話を聞いた。

「門脇の婚約者は、地元の後援会会長の姪だそうだ。門脇の選挙区の有名なお菓子メーカーの社長令嬢だってさ。彼女は門脇との事に乗り気らしい。未来のファーストレディを目指して、お茶にお花に日本舞踊、ピアノにバレエ、お料理教室に英会話と、一週間丸々お習い事らしいぞ。気合が入りすぎてて、気持ちが悪いな」

今時、そんな子もいるんだな、と俺は妙に感心した。

妹の麻奈美もお茶とお花とピアノには通っている。英会話は兄妹3人で習っているし、俺と達彦も小学校まではピアノを習っていた。目の前の井上だって、英会話はもちろんだがフランス語と中国語のレッスンを受けているし、ピアノも弾ける。

星望ではそれくらい当たり前の事だ。


 母は、父の病院に勤める看護師だった。祖父母は結婚に猛反対し、父が押し切って結婚に至ったわけだ。だから祖父母の手前、俺たち三兄妹は「いい子」でいなくてはならない。

母は昔、祖父母に「素養がない」と言われたのがショックだった、と聞いた事がある。祖父母は俺たち兄妹には優しくて甘やかしてくれるが、それは俺たちが「いい子」だからだ。

成績が良くて、器量も良い。自慢が出来る孫たちだからだ。「さすがは自慢の息子の子どもたち」、といった所かな。だから、星望の生徒が一通り習うものは、俺たち三人も習う。

『優等生の彰彦』は母が自分自身の立場をキープする為には、必須アイテムなのだ。

「まあ・・・。何でも、出来ないよりは出来た方が良いだろう?」

「だな・・・。その子は『金森』って言うんだ。お菓子の『カナモリ』」

「ああ」

スナック菓子の大手メーカーじゃないか。大貴の大好きなチョコバーも『カナモリ製菓』の傘下にある『カナモリ氷菓』だ。大会社のお嬢さんとの結婚が票に反映されるのであれば、好きではなくても結婚せざるを得ないよな。

門脇もお気の毒に。せめて「金森」が美人である事を祈るってやる。

「ところで、門脇が好きなヤツがいるって、言っていただろう?相手は誰だかわかったのか?」

「門脇ってさ、タイプ的には寺田に似てて、ソツのない優等生だ」

「それはお前も同じだからな」

「ははっ。俺はおいといて。門脇は感情を顔に出さないから、英次にははっきりとはわからないそうだ。だが、去年、高等部に10年ぶりに転入生が来たって話題になったのを覚えているか?」

「そういえば、いたな・・・二年の柏木春都?美人じゃん?」

「それ!」と、井上が二カッと笑う。

中高一貫教育がウリの星望学園は、基本的に転入学は受け付けない。しかし同窓会からの要望もあり、三月の終わりと八月に各学年、若干名の公募をしていたはずだ。それには、同窓会からの推薦がないと受験も出来ないと聞いている。

この試験が超難関で、高等部への転入は更に難しく、これまでに数える程しか受け入れていないと聞いた。そんな、超難関の高等部への転入生がいると、去年の春に大騒ぎになったな。

しかも転入生が楚々とした美人だった。同じ美人でも、有川は切れ長の大きな瞳に紅い唇が艶やかで華やかな顔立ちだが、柏木は「静」だ。

「着物を着てお花でも活けてそうだ」と、大貴が言っていた。

「どうやら、その柏木春都のようだ」

「ようだ・・・か?」

「そうだ」

「そうか」

井上の目は確信している目だ。

 二人で額を寄せ合い密談中に、割って入ったのは例の騒がしいおしゃべり男だった。

「寺田!お前も来ていたのか?」

いかにも親しげに話し掛けてきた畑中は、千晶ちゃんに『寺田の親しい友人』をアピール中だ。

井上と二人で畑中を無視した。俺たちは馴れ馴れしく話しかけてくる畑中には、返事もせずに立ち上がった。

「出よう」

トレーの上のコーヒーカップを千晶ちゃんに返却する時に、井上が大きな声で言った。

「寺田。畑中のヤツ、お前と仲が良いって女の子に言いふらしてるらしいぞ」

「へえ!畑中と俺って、仲が良かったっけ?」

「初めて聞いた」

「なあ?」

俺たちがわざと千晶ちゃんに視線を送りながら言うから、畑中は慌てた。

「ま、待てよ!寺田、井上!」

「コーヒー美味かったです。ご馳走さまでした」と井上が千晶ちゃんに礼を言い、俺も千晶ちゃんに微笑んでやる。

千晶ちゃんの「キャーーーッ、カッコいい!」という声と、畑中の「寺田~~~っ!井上~~~っ!俺たち、友だちだろ?」という、情けない声に見送られながら店を出た。

*****

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畑中くんはここに来る前に、大ちゃんを『腐った魚』にしちゃいました(笑)←「さしもしらじな燃ゆる思いを・25

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