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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・28

 井上と別れ、有川にメールで大貴の容態を尋ねたが、有川はアルバイト中だから返信はない。

大貴が授業が終わるまで学校に残り、保健室で過ごした事は教職員室に出席簿を渡しに行った時に担任から聞いた。明日は土曜日だから、大貴は学校へは来ないかもしれない。

いつも一緒にいた大貴が、何日か離れているのが不思議だった。自分の心に穴が空いてしまったような気分になる。

ケンカしたって、どちらからともなく何事もなかったように話しかけて「あの時はごめん」と、言ってしまえば終っていたのだ。

このまま『親友』でもなくなるなんて、とんでもない。

女性の恋人が出来たのならまだしも、他の男に取られるなんて絶対にあってはならない。とにかく自分自身の身辺を整理して、大貴を取り返すのみだ。

 このまま家にいても何も解決しないとわかっていたから、俺は最重要事項を解決すべくひろ子の部屋に向かった。

ひろ子は、18時までマンションの近くの整形外科で働いている。可愛らしい容貌と明るい性格で、患者さんからの評判もいいと聞いている。

俺が機嫌が悪くても、年上のひろ子は優しく包み込んでくれるのだ。その包容力に甘えていた部分が多い。

 スペアキーを使って勝手に部屋に入り、よくよく考えてみればこれも失礼な行動だったと気が付く。ひろ子は俺が鍵を持っている限り、好きな男をここへは入れられない。

このマンションがひろ子の名義ではないにしろ、「先に部屋に入っています」と、連絡くらいするべきだった。今までひろ子はそれを咎める事もなく、「連絡してくれたら良かったのに」とも言わずに、「あら、来てたの?」と笑ってくれていた。

俺に見られたくない物もあったに違いないのに。そういえば、ひろ子の部屋のシンクには汚れた食器が残されていた事も、ゴミが散らばっていた事もなかったな。

俺がいつ来るかわからないから、忙しい朝もきちんと掃除して出掛けていたに違いない。完全に愛人状態だし。

ひろ子に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。反省と自己嫌悪がいっぱい詰まったこの部屋とも、今日でお別れだ。父に言って、この部屋はひろ子の名義に替えてもらおう。

「あら、来てたんだ」

「うん」

ひろ子は晩飯に食べるつもりだったのか、弁当を一つ買っていた。

「あきちゃん、これ食べる?」

「いや、いい」

「何がいい?好きなの買ってくるわよ」

帰って来たばかりなのに、ひろ子は財布を持って出掛けようとしていた。

「いいから、ちょっと座って」

「うん」

ひろ子を椅子に座らせて、これまでの事を謝った。そして「もう、会いません」と、伝えた。

「あきちゃんの事・・・好きだよ?私はこのまま愛人でもいいんだけどな・・・」

ひろ子は寂しそうに笑った。

「ごめんなさい。やっぱり大貴の事を諦められない。それにひろ子ちゃんにはもっといい男が現れると思うよ?このマンションは俺の名義なんだ。ひろ子ちゃんの名義に書き換えてもらうよ」

「もっと、いい男が現れるよ」なんて、ありきたりの常套句で、長いのか短いのかよくわからない四年間にピリオドを打とうとする俺に、ひろ子は黙って頷いた。

「ありがとう・・・。ここに引っ越して来た日にね、奥さまがいらしたの。ここは、あきちゃんの名義に書き換えました、って。だから、『ここに遠慮なく住んで欲しい』って。もし、あきちゃんと別れる時はマンションはくれるって言われた。手切れ金かな?」

「えっ?」

じゃあ、ひろ子は俺より先にこのマンションの名義が俺だと知っていたのか?

「あきちゃんはどう思ってたかわからないけど、私、院長先生からお金なんてもらってなかったんだよ。それから、奥さまからは毎月、私が妊娠していないかお電話お聞きになるの。奥さまが院長先生と結婚なさる時に、『看護師だから』という理由で院長先生のご両親から大反対されたんですってね。もし私が妊娠したら『自分が守るから』とおっしゃったの。『彰彦にきちんと責任を取らせます』って言われた。奥さまとは毎月お話しするんだけど、あきちゃんの事をすごく心配してらしたのよ。あきちゃんと上手くいかないのは、自分が母親として足りないところがあるからだ、って・・・。大貴くんだけじゃなくて、奥さまにも優しくしてあげてね」

「知らなかった・・・毎月、母さんと電話で話していたなんて」

ひろ子との事がわかった時、母は「中学生のあなたは、騙されているのよ」と、大騒ぎしたんだ。反対していたはず。なぜだ?

「奥さまは、私がすぐに捨てられると思ってたみたい。最初は電話も素っ気なくて、事務的な感じだったんだけどね。しばらくするとあきちゃんの様子とか、ご自分の事を何か言ってなかったか、とか、お尋ねになるようになったの」


そうだった・・・。母とケンカをして家を飛び出した俺が辿り着く先は、いつもひろ子の部屋だった。母はそれがわかっていて、ひろ子に聞いていたのか。


「すぐには無理だと思うけど、奥さまはあきちゃんの母親だわ。ちゃんとあきちゃんの話を聞いてくれるし、きっと助けてくれるわよ」


ひろ子に母の愚痴を言った事はなかったが、母子のギクシャクした関係をひろ子はわかっていたんだな。ひろ子は思っていたよりも大人で、思慮深い女だったのだ。

やはり、ひろ子は自分を大切にしてくれる人を探すべきだ。優しくて、一途にひろ子を思ってくれる男と付き合うべきだ。

 合鍵をテーブルに置き、泣き笑いするひろ子の部屋を後にした。

「さよなら、あきちゃん。大貴くんと上手くいくといいね!」

「うん・・・ありがとう」

「たまにはお遊びにおいでよ」

「来ないよ」

「そっか・・・寂しいな」

靴を履く俺の背中に、寂しそうなひろ子の声が突き刺さった。ひろ子は俺がいつか自分だけを見てくれるかもしれない、とでも思っていたのだろうか。

「ひろ子ちゃんもいい男、見付けるんだよ」

「ああ、うん」

振り返らずにドアを閉めたが、ドアの向こうからはひろ子の号泣が聞こえた。


四年間、苦しい恋をさせていたんだな。

堰を切ったように溢れ出したひろ子の泣き声が、ひろ子の全てだった。

耳に残るひろ子の号泣を忘れてはいけない。だが、俺は父の課題を一つ片付けた事に満足していたし、安堵していた。

最初から最後まで酷い男だった俺を、好きでいてくれてありがとう。ひろ子ちゃん。

いずれひろ子にも運命の人が現れて、笑って「あきちゃんと別れて良かったわ!」と、言ってくれるのを信じて。

俺は身勝手な自分にもさよならした。


父に課せられたもうひとつの問題を片付けるべく、家に戻った。母と話すのは今日しかない。


*****

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これを旧ブログでUPした時、彰彦に非難轟々だった事だけは記憶に残っていたりする・・・。

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