有川に俺を煽るような電話を掛けさせ、俺が動き出したか確認の電話をした信吾さん。大貴との仲を認めてもいい、ということだと思う。
大貴は、信吾さんが一番可愛がっている甥っ子だ。大貴のお母さんが旅行中の今、大貴を預かっている信吾さんの一番の懸念は大貴の体調だったに違いない。
信吾さんが、大貴を復活させるキーパーソンが「俺」だ、と考えての行動だと思う。
ルーデンスGホテルのエントランスにはドアマンが控え、恭しく迎えてくれた。
タクシーの料金メーターを見ると所持金では確実に足りない。とりあえず帰りの電車代と食事代くらいは確保したかったから、ここはツケで払う。
「すみません、後で家の方に請求してもらってもいいですか?」
そうと聞くと運転手さんは最初からそのつもりだったようで、既に伝票を記入していた。控えを受け取り、家に戻ってから母に清算すればいい。
「ご乗車ありがとうございました」と運転手さんに声に送られてタクシーを降り、真っ直ぐにフロントに向かう。
「寺田病院の寺田です。2008号室のキーをお願いします」
「いらっしゃいませ。彰彦さまが部屋をお使いになると、奥さまからお電話がございました」
俺が行き先を言ったから、母が先回りしてホテルに電話を入れてくれたらしい。
「ルーデンスの部屋は誰も使ってないわよ」と言う母の言葉は、俺が年間契約している部屋にチェックインするかもしれないと思ったからだ。少し気恥ずかしいが、母が俺の気持ちを理解してくれているのだと、嬉しくなった。
ホテルオーナーと父が知り合いで、スイートルームを一部屋年間契約している。夫婦で病院職員の結婚式やお祝い事に呼ばれる事も多く、両親はここのスイートルームを着替えの為に使うのだ。母は部屋で着物を着たり髪をセットしたりするから、着物や父のタキシードはホテルに置いてある。
遠方から来る親戚や知り合いが宿泊する事もあるから、連休や土・日は誰かが使っている事が多いのだが、空いていたのはラッキーだ。
「お部屋にご案内致します」と言われたがそれは断り、俺はキーだけ受け取ってカフェに向かった。
カフェは女性客で溢れていた。
ケーキの甘い香りと、女性たちの化粧とフレグランスの香りが漂う店内は、ほぼ満席だ。入り口に立って店内を見回したが、大貴がどこに座っているのかわからなかった。
受付の女性が「お一人さまでしょうか?」と、声を掛けてくれた。
「人を探しているんです。すぐに出ます」
キョロキョロしていると、ふいに横から腕を引かれた。
「有川!」
有川は極上の笑顔を見せた。口には出さないが「やっぱり、来たんだね」と、言わんばかりの笑顔だ。グレーの細身のスーツがシンプルで、有川の美貌を引き立てている。
「どうしてスーツなんだ?」
「大ちゃんもスーツだよ。右手の窓側の席だよ。僕は帰るね。さよなら」
あっさりと「さよなら」という有川の察しの良さが、全て信吾さんの筋書き通りに進んでいるのだと物語る。
「怜、ありがとう!」
有川はニコニコしながら手を振り去って行く。周囲の視線は有川の美貌に集中した。あれでは目立たないようにひっそりと生きていくのは無理だな、と少し気の毒になった。彼は出来る事なら目立たずに、穏やかに過ごしたいのだ。
有川は、おそらく信吾さんが連れて帰るんだろう。
有川に教えられたとおりに右手に進み、窓側を目指す。華やかな服装の女性ばかりの店内に、一際目立つ黒いスーツ姿の大貴が見えた。
明るい陽光が差し込む席に座っていた大貴は、俯き加減にコーヒーカップを握り、コーヒーをスプーンでクルクルかき混ぜている。そのクルクル係は俺なんだよ、大貴。
ついでに、胃が悪いクセにコーヒーはダメだろ?
大貴の隣のテーブルの女性二人組が、一人でつまらなそうにしている大貴に声を掛けた。
大貴が何か答えると二人は「わあっ」と盛り上がり、更に話し掛けている。大貴は俯いたままで受け答えしているが、俺は女性の馴れ馴れしい態度にも、はっきりと断らない大貴にもムカムカしてしまう。
話し掛けても捗々しい返事をしない大貴の気を引こうと、女が「ねえ!」と言いながら大貴の手首を掴んだ。大貴がビクッとしたのが、俺にもわかった。
俺は大股で近付いて、大貴の手首にテーブル越しに重ねられた女の手を払い除けた。女は、急に現れた俺に手を払い除けられて怒るどころか「きゃっ、イケメン!」と喜ぶ。バカか。
「大貴!ちょっと話があるから、来い!」
俺は大貴の肩を掴んだ。大貴は驚いたように目を丸くして目を泳がせたが、俺の気合に呑まれたのか黙って立ち上がった。俺は大貴の二の腕を掴み、引き摺るようにしてカフェを後にした。
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大ちゃん~彰彦くんのお迎えですよ~♪
ちなみにカフェのお支払いは既に信ちゃんが致しました(笑)って、笑ってるけれど、この回の文章は最悪に支離滅裂だったwww
日高千湖
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