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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・33

 大貴を引き摺るようにしてカフェを出た。カフェは女性客でいっぱいで男二人は目立つ。大男が可愛い男の子を拉致同然に引き摺ってるんだから、注視の的となってしまった。

「待って!彰彦!やだ!」

大貴の口から零れる拒否の言葉が、「心因性」の体調不良に悩まされている大貴には良くない事だとわかってやっている俺の胸に突き刺さる。

俺はそれでも手を離さなかった。強引に大貴を引っ張って、スイートルーム専用のエレベーターを目指した。次第に大貴の抵抗も弱くなり、声の調子が抵抗から懇願に変わった。

「彰彦、離して」

その声にハッとして振り返ると、大貴の顔色が悪くなっていた。その瞳には困惑と僅かな恐れが見えた。

俺が怖いのか?

怖がられていると思うと、怒りが先に立ってしまう。門脇とのデートにスーツを着ている大貴。俺に「離して」という大貴。些細な事が許せなくなる。

 一瞬怯んだ俺に気が付いたのか、急に大貴の表情が険しくなった。

「お前は澤村とイチャイチャしてりゃいいんだよ!俺なんか放っといてくれ!」

大貴の口から澤村の名前が飛び出した。やはり、大貴は畑中の言葉を真に受けているのだ。

おしゃべり畑中の間抜け面が目に浮かぶ。大貴が玄関前にいると知って、澤村とのサボタージュを報告しに行った畑中に怒りが向かった。

畑中のヤツめ。覚えてろよ!

畑中への報復は、後期のクラス委員だけじゃ済まされない。


 人目に立つ場所で話すような話しではない。行き交う人の視線を感じた。俺は大貴の腕を引き、エレベーターの呼び出しボタンを押した。

「どこに行くんだよ!」

大貴が必要以上に大声で言うから、周囲の人々が振り返る。

「チッ」と舌打ちしたところでエレベーターのドアが開いた。その場に踏ん張ろうとする大貴を中に押し込んでドアを閉める。ロビーのど真ん中にある展望エレベーターは静かに上昇し始めた。

大貴は黙ったまま離れていく下階を見ていた。俺もロビーを下に見ながら、抵抗を止めた大貴の二の腕から手を離し肩に手を回した。

久しぶりに感じる大貴の温もりが嬉しい。だが浮き立つ俺の心とは逆に、大貴は俯いたまま涙を溢した。

 エレベーターが止まり大貴の肩を抱いたまま廊下を歩く。大貴は素直に従った。ポケットからルームキーを出して鍵を開け、大貴の背中を押して部屋に入った。

ガラス窓の向こうには真っ青な空が広がり、大貴がそのまま大空に吸い込まれそうだ。大貴には明るい色が似合う。オレンジやグリーン、ブルーを好んで着るし、今だって抜けるような青空と大貴は同化してしまいそうだ。

このまま俺の天使は、大空に飛び立ってしまうのだろうか。


「大貴・・・俺」

声を掛けた俺に、大貴は一気に怒りをぶつけた。

「なんだよ!俺がケーキ食べちゃいけないのかよ!俺がケーキを食べるのが気に入らないのか?どうしてお前が来るんだよ!いきなり湧いてきやがって!」

大貴の怒りはケーキを食べるのを中断された事に向かっているのか?ケーキなんか、いくらでも食べていいさ!そんな事はどうでもいいんだよ!大切な話しをしようと思ってここまで来たのに、いきなりケーキかよ?

お前が門脇とデートするから悪いんじゃないか?それに、何だよ?どうしてスーツなんだよ?

「なんだよ!スーツなんか着て。そんなに門脇に見せたかったのか?!人をボウフラみたいに言うな!」

大貴は、悔しそうに唇を噛み締め、手の甲で涙を拭いた。そして俺を睨みつける。

「怜がシャーベット持って来るって言ったから!溶ける前に戻って食べなきゃ!」

シャーベットだと?そんなものにも俺は劣るのか?

「シャーベットがなんだよ!お前はバニラアイス食ってりゃいいんだよ!ルームサービスで頼んでやるから、話しを聞けよ!」

頼むから落ち着いてくれよ、大貴。

「じゃあ、頼めよ!」

シャーベットがなんだ!いつもならバニラアイスを一番に食べたがって、俺に「取って来い」と言うくせに!

「チッ」と、本日二度目の舌打ちだ。


 スイートルーム専用コンシェルジュに電話をし、バニラアイスとコーヒー注文しているうちに大貴がこっそりと部屋から抜け出そうとしていた。

急いで電話を切り、逃亡寸前の大貴を抱き止めた。

「行かないでくれ」

大貴は急に大人しくなり「バニラアイス食べたい」と、小声で言った。

「頼んだよ、すぐに来るよ」

出来るだけ穏やかに言うと、大貴は頷いて僅かに身体を揺らした。


 手を離しソファーに座らせてから俺は大貴の正面に座った。俺は綺麗な青空に映える大貴の可愛らしい笑顔が見たいだけなのに・・・。

だがソファーに座るや否や、大貴はポケットから携帯を取り出した。

誰に電話するつもりなんだ?デートが中止になったから、門脇か?俺がメールしても電話しても、無視し続けたくせに!

俺は思わず大貴の携帯を睨んだ。

「なんだよ」

大貴が俺の視線に気が付き、機嫌悪そうに言う。俺は顎で携帯を差した。

「携帯、なにすんだよ」

「怜にここにいるって知らせなきゃ、心配するだろ」

ああ、そういう事か。

「怜は知ってる」

大貴は驚いたように目を瞠った。ポカンと口を開けて瞬きを繰り返す。

「どうして、怜が・・・?」

「門脇とデートだと?スーツなんか着やがって。俺が去年の大貴の誕生日にJPホテルのビュッフェディナーに誘った時は『軽めのジャケットでいいかな』とか、聞いたくせに!」

どうして、門脇とはスーツなんだよ!?

「いいって言ったじゃないか!ビュッフェだから、大丈夫ってさ!」

デートならスーツか?『親友』とは軽めのジャケットなのか?しかもケーキバイキングだろ?

大貴は呆れたような口調で言った。

「デートじゃない!」

「じゃあ、なんだよ!」

「お前が澤村と・・・澤村と美術室でなにしてたかわかってるんだぞ!」

今の論点は、スーツじゃなかったのか!?いきなり大貴の話が澤村に飛び、俺はドキッとした。

美術室で何をしていたか、だって?おしゃべり畑中の言った事を信じるのかよ?

「汚い、汚い、汚い!」

大貴は叫びながら俺を否定した。

「大貴!」

立ち上がって大貴に手を伸ばすが、大貴の興奮は治まらない。

「触るなよ!お前なんか、親友でもなんでもないからな!俺は違う大学に行く!お前とは卒業したら二度と会わないし、口もきかない。携帯の登録だって今すぐ消すし、着信拒否にするし、全部捨ててやる!お前が写った写真も全部、データも全部だ!」

俺は、全てを失ったのか・・・?嘘だろ?

『親友』という特別な存在でもなくなり、通りすがりのエキストラのように大貴の人生から退場させられようとしている。大貴に向かって伸ばした手は行き場を失くしてしまった。

大貴はその手を指差して叫ぶ。

「触るな!澤村を触った手で、俺に触るなよ!」


そうか・・・。清純なる天使に触れる事が出来るのは、純なる者のみ、なのか。

絶交宣言までされたというのに、未だに大貴を諦めきれない俺は、起死回生を模索する。

 黙りこんだ二人を助けるかのように、バニラアイスの到着を知らせるチャイムが鳴った。

このホテルのバニラアイスは濃厚で、大貴が好きな味だと思う。これで、少しはご機嫌が良くならないかなあ、と楽観的な事を考えながら立ち上がった。

大貴とまともに話が出来る最後のチャンスを逃してはならない。

*****

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彰彦、バニラアイスで大ちゃんを一本釣り!

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