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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

あまりてなどか人の恋しき・34

 ドアを開けると、このフロア専任のコンシェルジュの後藤さんという初老の男性が、ワゴンを押して立っていた。

「寺田さまの坊ちゃま、いらっしゃいませ」

幼い頃から俺を知っている後藤さんは、今でも俺を「坊ちゃま」と呼ぶ。会うたびに気恥ずかしいから止めてくれと言うが、彼は止めようとはない。

「もう『坊ちゃま』は止めて下さいよ、後藤さん」

後藤さんはにこやかな表情で「いらっしゃいませ」と改めて挨拶すると、優雅で丁寧な仕草でサービスを始めた。

「彰彦さま、お久しぶりでございますね。ご注文のバニラアイスとブレンドコーヒーお二つでございます」

ずっとこのフロアの担当をしている後藤さんは、俺に「大きくお成りですね」と声を掛けた。長年コンシェルジュを務めている後藤さんは、俺たちの微妙な雰囲気に気付かない人ではない。

手早く給仕を終えると「ごゆっくりお過ごしください」と、言って立ち去った。


「バニラアイスくらい食べて行けよ」

大貴は頷いて、バニラアイスが入ったガラスの器を手に取りスプーンで掬って食べ始めた。大貴が、何を考えているのか俺にはわからなかった。

「美味しい」とか「おかわり!」とか、いつもの反応もない。美味いバニラアイスなら、軽く2,3個食うクセに。

 青い空に大貴の黒いスーツがやたらと映えて眩しい。明るい日差しが目に痛いくらいだ。黙ってバニラアイスを口に運ぶ大貴が、無性に愛しかった。

こんなに好きなのに・・・。誰よりも大貴の事を好きな俺を、大貴は遠ざけようとしているのだ。

ヒョイと現れた門脇なんかに、こんなにあっさりと持っていかれるなんて、悔しいやら、情けないやら。他のヤツが手を出せないように警戒していたのに、ちょっとした行き違いから渡部には襲われるし。危うく大貴の身体を奪われてしまうところだった。

だが今は、心までもが俺の手からすり抜けようとしている。この現実を、どう受け止めればいいんだよ。

 バニラアイスを食べている大貴は、いつもなら幸せそうに頬を緩ませて、それは素敵な笑顔を見せてくれるのに、今はどうだ。泣きながら、まるで最後の晩餐を目の前にしたかのような顔してアイスを口に運んでいる。

俺には大貴が泣いている意味がわからない。

「どうして泣くんだよ」

心の狭い俺は、イライラを隠せずに尖った言い方をしてしまった。

「・・・」

「なんでだよ!」

大貴は左手で拳を握る。

「バニラアイスとは、一生さよならだからだ!」

はあ?ますます、大貴の考えている事がわからない。

「バニラアイスだけか?」

「違う、お前もだ」

バニラアイスと俺。どちらもさよならか?俺はバニラアイスと同列なのか?

その程度なんだな、俺は。でも、その程度の俺に「さよなら」するのに泣いてくれるんだな、大貴。

「どうして泣くんだ?」

「お前と、さよならだからだ」

「ふうん」

泣いてくれているのは、長い時間を『親友』として過ごした俺に対する餞別か。俺はポケットからハンカチを出して大貴に握らせた。

「・・・ありがと」

大貴は涙を拭き、バニラアイスを最後の一口まできっちりと食べた。俺は大貴の為に、コーヒーに砂糖とミルクを入れてグルグルかき混ぜる。

最後のグルグルだな・・・。今度から、これは門脇にやらせるのか?

大貴はバニラアイスを食べた後には必ず「身体が冷えたから温かいコーヒー」と言ってオーダーするのだ。そして、砂糖とミルクをたっぷりと入れる。

そんな大貴のコーヒーを信吾さんは「コーヒー牛乳」と命名し、《銀香》では大貴の前でなく俺の前に置かれる。その一連の作業を黙ってやってる俺を、「グルグル係」と命名したのも信吾さんだった。

それも、もう退任だ。全て門脇に譲ろう。引継ぎ書でも書くかな。大貴の好みの砂糖の量とミルクの量を教えてやるか。

 深い溜息と共にコーヒーをかき混ぜる俺の手元を見ていた大貴が、徐に口を開いた。

「俺は・・・」

再び大貴の頬に涙が伝う。

「俺は・・・澤村のものになったお前は要らないんだ。俺のものだったのに!」

大貴はじっとハンカチ見て握り締めた。

「俺のもの」だと?そうだよ。お前のものだったよ!お前「が」俺を捨てるんだろう!?そんなことを言うんだったらお前こそ!

「お前こそ!門脇なんかに抱き上げられて。ふざけるなよ。俺の役目だったんだ、倒れたお前を保健室に運ぶなんてのは!」

「そんなの、決まってないじゃないか!ついでに、自分を誰が運んでるかなんて知るわけがないだろ!それに、澤村とご飯食べてる、お前が悪いんだろ!?」

はあ!?

俺が誘おうと思っていたのに、お前は先に門脇と有川と三人で楽しそうに「特Aランチ」食べていたじゃないか?俺が澤村と食べたのは「仕方なく」だ!

「決まってるんだよ!ついでにお前は怜と門脇とご飯を食べていたじゃないか!澤村は・・・お前が門脇とベタベタするから、わざと誘いに乗って・・・」

「ベタベタなんてしてないし!美術室に二人で行ったんだろ!五時間目の授業サボったくせに!美術室でエッチなことしてたくせに!」

また、美術室だ!畑中め!「エッチなこと」って、キスしかしてないぞ!俺は!

大貴は思い詰めたように握り締めていたハンカチを、千切れるんじゃないかと思うくらいの勢いで両手で引っ張ったかと思うと、振り回し始めた。

「俺は、ずっと、ずっと、あ、彰彦のこと、好きだったのに!澤村よりも、ずっと前から、彰彦のこと、好きだったのに、なのに・・・。なのに、なんだよ!澤村とは、美術室に行くのに俺とは、行かないくせに!」


えっ!?今、大貴は何と言った!?

俺のことを「ずっと、ずっと好きだった」って、言ったよな!?俺は身を乗り出して、大貴にもう一度、ゆっくりと確認した。


「大貴・・・今、なんて言った?」

「耳まで悪くなったのか?澤村とは、び」

そこじゃない!

「違う!その前!」

大貴がイライラしたように「もうっ!」と、ハンカチを膝に叩きつけた。俺は、大貴が落ち着くように出来るだけ穏やかに、ゆっくりと聞いた。

「その前、なんて言った?」

大貴は少し落ち着いたらしい。自分が言ったことを思い出し、ハッとしたように目を泳がせる。

「知らない!」

「嘘を言うな、もう一度聞きたい」

「何も、言ってない」


言ってくれ。聞きたい、大貴。


「俺が聞きたいのは・・・ずっと、ずっと」

その先は言わせてもらえなかった。俺の言葉に被せるように大貴は耳を押さえて、「あああああああ!!!」と、叫び出した。


可愛い!可愛すぎる!その反応。

大貴は俺のことが好きなのだ、と思ってもいいんだよな?下を向いて耳を塞ぎ、大声で叫ぶ大貴が可愛すぎる・・・!


 ソファーから立ち上がり、大貴の後ろに回って耳を塞ぐ手を握った。その手を優しく耳から手を外すと、大貴は観念したように叫ぶのを止めて手をダランと下ろした。

俺は大貴の両肩に手を置いた。まずは大貴を落ち着かせて、俺の話しを聞いてもらいたい。その為にはまずは、自分自身が落ち着こうと目を瞑った。


*****

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