『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・2~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

「待て!ベニ!」

ベニちゃんは俺の財布とキーを奪うと、ダッシュで逃げ出した。

「おい!」

《SUZAKU》から飛び出して行ったベニちゃん。どこに行く気だろう?

「カンタ」

「はい」

磨いたグラスを並べているカンタが、面倒臭そうにこちらを向いた。

「俺は追い掛けるべきか?」

「さあ?ベニちゃんも何を考えてるんでしょうね?」

「さあな」

財布がなかろうが、車のキーがなかろうが、俺は行くと決めたら行くのだ。契約しているタクシー会社を使えばツケでOKだし。何なら、現地で社長に払わせる。

「ベニはさ、もう少し頭を使った方が良いんじゃないのか?」

「そうですよね。圭介さんを甘く見過ぎていますよね。財布とキーがなければ移動が出来ない、とでも思ってるんでしょうね」

「単純過ぎるな。じゃあ、俺は行ってくるから。後は頼んだよ」

料理の仕込をしていた鶴ちゃんが、「えっ?」と声を上げた。

「マジで行くんですか?」

「当然。予約はないし、どうせ8時くらいまでは暇だろ?回らなくなったら《325》からしーちゃんを連れて来て。今日から《325》にいるから」

カンタは顔を顰めて言った。

「それ、山下店長が一番嫌がるヤツですよ?」

「山下くんは、今日はもうここには来ないから大丈夫」

「俺は知りませんよ。山下店長は千里眼ですからね」

「スパイがいるからな」

カンタは大きく頷いた。

「はい」

「お前か?」

「違いますよ」

どっちにしろ、俺の動きは察知されているからな。俺はフロアに転がっていた箒を拾って、カウンターに立て掛けた。

「じゃ、よろしく」

「頼まれませんよ」

「カンタ、お願い」

「俺が睨まれるじゃないですか?」

「大丈夫。後先考えずに、俺を放置したベニちゃんが悪いだろ?違うか?」

渋るカンタに店を任せて、俺は駅前広場からタクシーに乗った。


 見上げた『S-five』本社には、まだ明かりが点いている。1階の《銀香》のカウンターには男性客が1人。午後6時を過ぎ、服部くんは少しずつ後片付けを始めているようだ。

 ドアを開けると懐かしいカウベルの音が頭上で響いた。《銀香》が駅前通りで営業していた時も、このカウベルはあった。

カランカランという音が、俺の不満を倍増させていく。

 あの頃は店の数も今の半分で、俺たちは『S-five』の本社を置いていた《銀香》を拠点に、目まぐるしい日々を送っていた。「あの頃は良かった」、なんて事を言い出したら年寄りの仲間入りだと思っていたが、今の俺はそう思っている。この際、年寄りでもいいや。

あの頃は良かった。人事の中心は信吾さんと三木くんで、少々の我が儘ならOKが出ていた。山下くんが悪いわけではないとわかっちゃいるが、今回は納得いかない。

「服部くん、お疲れさま」

「圭介さん!珍しいですね」

「うん。信吾さんは上?」

「いいえ。まだお帰りではないですよ。ちょっと待ってくださいね」

服部くんは手元のタブレットを操作して、「社長は今、《シェーナ》ですね」と教えてくれた。

本社には23時くらいまでは社員がいるが、上まで上がるのが面倒だから《銀香》が開いていれば服部くんに声を掛けていく者が多い。服部くんは山下くんからタブレットをもらって、役員の予定や各店の予約、空席情報を聞かれた時に答えられるようにしているのだ。

「ありがとう!」

《シェーナ》ならば近い。もし信吾さんが出た後でも、次の場所で追い付ける。俺は待たせておいたタクシーに乗り、《シェーナ》へと移動した。


 《シェーナ》の駐車場の奥の方に信吾さんの車が見えた。まだ移動していなかったのはラッキーだ。事務所のインターフォンを鳴らすと、綱本さんが鍵を開けてくれた。

「こんばんは」

「こんばんは。店はいいんですか?」

綱本さんはすでに、画面で俺だと確認しているわけだ。俺がどうしてここに来たのか、理由も悟っているはず。綱本さんに罪はないとわかってはいるが、綱本さんの顔が山下くんに見えてくる。

「綱本さん、山下くんに似てきたね」

「そうですか?」

メタルフレームの眼鏡の奥の瞳を細めた綱本さんは、スッと後ろに下がって俺を中に招き入れた。

「うん。言う事が同じだよ」

「へえ・・・。嬉しいな」

「鬼軍曹だよ?」

「それでも私にとっては最愛の人ですから」

「それ、嫌味?」

いや、ノロケか。

「どうして私が嫌味を言うのですか?」

「・・・何となく」

「ははっ」

だが俺には、嫌味にしか聞こえない。彼は、俺がなぜここに来たのか理由を知っているのだから。

綱本さんの相手をしている暇はない。俺は彼を押し退けるようにして、ソファーに座っている信吾さんに声を掛けた。

「信吾さん!」

信吾さんは仕事を放り出してここまでやって来た俺を見て、呆れたような顔をした。

「圭介、お前」

「どうして俺に輝也の異動を相談してくれなかったんだよ!」

信吾さんの視線は俺を通り越し、綱本さんを見た。俺が来たのがわかり、バツの悪そうな顔をした信吾さん。振り返ると、綱本さんが目を合わせまいと横を向く。2人が示し合わせているような気がして、ムカつく。

俺は信吾さんの隣の席に置いてあった彼のバッグを乱暴に床に置き、空いた所に座った。

「お前さ、挨拶くらいしろよ」

「こんばんは、良いお天気ですね」

声をワントーン高くして、お天気お姉さんのような気取った言い方。信吾さんは首を捻りながら、呆れたように言った。

「全く」

信吾さんの前に座っていたのは、小鳥居佑(たすく)だった。

テーブルの上には《有明の月》関連の書類がいくつも置かれ、小鳥居佑(たすく)の手には去年の《有明の月》の売り上げ実績表が握られていた。

それが信吾さんの「答え」なのか。三木くんと山下くん主導で人事は決められ、今の彼は決済印を押すだけのマシーンのようなものなのか。

「こんばんは。橋本店長」

「・・・おう」

小鳥居佑(たすく)が真面目に挨拶するのもムカつく。

 思い起こせば2週間前。小鳥居は山下くんに連れられて、《有明の月》にランチを食べに来たのだ。あれは偵察だったのか?俺はそうとも知らずに、2人をカウンターに案内し「有明ご膳」を振舞った。

小鳥居は去年の4月に『S-five』に入社した。以前勤めていた大手居酒屋チェーン店を辞め、アルバイトで食い繋いでいたのを三木くんがスカウトしてきたのだ。

 小鳥居は《花宴》に勤務している。三木くんが気に入って声を掛けただけあって、開店したばかりの《サラダボックス・B》と《花宴》の両方を担当している黒川が、「右腕」として重宝していると聞いた。

確か今年30歳。長身のイケメン。

笑うと目がなくなって愛嬌があるが、普段は表情に乏しい。笑わないわけではないが、周囲が馬鹿騒ぎしていても一人だけ淡々としている感じ。ワイワイやっているのを見る冷ややかな目には感情がなくて、氷水を浴びせられたような気分にさせられてしまうのが嫌だ。要するに、ノリが悪い。あっ、そういう所は黒川もあるな。

「小鳥居くんは知ってるよな?」

「知ってる。《花宴》はいいのか?忙しいんじゃないの?」

俺は小鳥居を見ずに言った。決定した人事を覆そうと仕事を放り出してここまで来たバカ、と思われているだろう。

「圭介。お前こそ、店はどうした?」

綱本さんが紅茶を淹れ、俺の前に置いた。

「どうぞ」

「どうも。信吾さんに話しがあって来た」

信吾さんは、手元にあった資料を手早く纏め始めた。

「答えになってないがな。それで?用件は何だ?さっさと言って《SUZAKU》に戻れ」

「俺に相談もなくテルの異動を決めたね」

信吾さんが手を止めて、いつになく厳しい声を出した。

「お前に相談する必要があるのか?」

「ある」

「お前の担当は人事じゃないだろう?」

そんな冷たい言い方をしなくてもいいじゃないか?

「テル、だよ?」

「輝也が未成年ならば、お前に一番に相談しただろうね。だが、残念ながら彼はもう立派な成人だ。異動の度に圭介の承諾が必要だとは思えないけど?」

正論を吐かれてムカつく。俺だってバカじゃない。それくらいはわかってんだよ。

「冷たくない?」

「俺が?」

「うん」

「こんなに懐の深い経営者がどこにいるんだ?」

信吾さんは自分の胸を叩きながら微笑んだ。

「懐、深かったっけ?」

「深いぞ?《SUZAKU》から動かないというお前や《白夜》以外は知らん、と言う高田くんを温かーい眼差しで見守っているじゃないか?」

「・・・」

まあ、それはそうだけど・・・。

「異動は仕方がないだろう?サラダボックスの2号店もオープンしたんだ。佐井ちゃんも《花信風》と掛け持ちで忙しいし」

だからと言って輝也を異動させるのは違うだろ?それに《有明の月》。俺は外されて、目の前にいる新参者が新店長ですよ?

「俺は戦力外ですか?」

「誰がそんな事を言った?」

「《有明の月》から外れるんで」

思わず信吾さんではなく、小鳥居を睨んでしまった。あーあ。どうもテルの事になると頭に血が上る。

「小鳥居くんは関係ないだろう?何?お前、イジケてるの?」

「違うよ」

信吾さんの手が伸びてきて、俺の頭に乗った。

バカにされたような気がして、俺はその手を払い除ける。バシッと音がして、信吾さんの腕の骨にぶつかった俺の手はジンと痺れた。信吾さんは「痛い」とも言わずに微笑んだ。

「何だよ?いきなりやって来たクセに、機嫌は悪いし」

「・・・」

「綱本さん、小鳥居くん。悪いけど席を外してくれないか?」

中断された打ち合わせをどう思ったか知らないが、小鳥居は渡された資料を持って無表情で立ち上がった。

*****

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   日高千湖

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コメント
No title
日高様~~~

私の耀ちゃんは健闘しましたね!
若い人たちに混じって、なかなかの戦いぶり。
人気があって嬉しい♪

でもでも、文ちゃんがここまで人気だったとは。
失礼ながら、トップ10にも入らないと思ってた。
飯坂さんより人気でしたね。
なんとなくわかる気はするけど・・・彼にも誰かいい人を、っていう(^ ^;)

圭介&輝也は不動の人気ですねぇ・・・
大人げない圭介さん、もうちょっと成長してもいい気がするんだけど。
まあ、そこが彼のキャラというのもあるけど。
輝也君に追い越されちゃうよ( ̄ー ̄)ニヤ...

東京はめっちゃ暖かくて、昼間は20度越えました。
もう春ですわ(でも花粉が・・・ううう)
2018/03/02(金) 00:22 | URL | にゃあ #-[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~いらっしゃいませ♪

> 私の耀ちゃんは健闘しましたね!
> 若い人たちに混じって、なかなかの戦いぶり。
> 人気があって嬉しい♪

そうですね!地道に票を伸ばしていましたね♪耀元さんは根強い人気者ですよ。

> でもでも、文ちゃんがここまで人気だったとは。
> 失礼ながら、トップ10にも入らないと思ってた。
> 飯坂さんより人気でしたね。
> なんとなくわかる気はするけど・・・彼にも誰かいい人を、っていう(^ ^;)

文ちゃんはまさに「ダークホース」でしたね(笑)日高もまさか!でしたよ。あのタイプは好まれるのかな?前向きな頑張る子。

> 圭介&輝也は不動の人気ですねぇ・・・
> 大人げない圭介さん、もうちょっと成長してもいい気がするんだけど。
> まあ、そこが彼のキャラというのもあるけど。
> 輝也君に追い越されちゃうよ( ̄ー ̄)ニヤ...

ふふふっ。大人気ないのが圭介。ちゃんと仕事はしてるんですよ。でもテルに関しては引けない彼www

> 東京はめっちゃ暖かくて、昼間は20度越えました。
> もう春ですわ(でも花粉が・・・ううう)

昨日、一昨日は風が強かったですwwwもう台風かと思った(´`)=3
今年はずっとアレルギーの薬を飲んでいたからか、花粉の影響は感じません。

やっと庭の梅が咲きました!もう春ですね♪にゃあさまもお忙しそうですね。ご自愛くださいませね!

コメントありがとうございました!
2018/03/02(金) 07:10 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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