『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・2

 《サラダボックス・B》3号店を、『滝山産業』の本社ビル内にオープンする事が決定した。渡された資料には『滝山産業』側の決裁書のコピーと3号店の内装、外観の提案がいくつか。

「へえ・・・。《初花》の庭を挟んで斜め向かい側に建つんですね」

「《サラダボックス》は路面店だよ。《初花》はビルの中に一旦入らなければないからね。一般客には『敷居が高い』と言われていたんだ」

《初花》の外は芝生の庭になっている。いつでも花が楽しめるように梅、桜、山茶花、椿、紫陽花などが植えられているが、そこは避けてシラカシの生垣があった所を拝借し、《サラダボックス》が建てられる予定だ。社の敷地の角地。立地的には問題もない。

庭に向けてウッドテラスを造り、そこをイートインスペースとして利用する。ファイルの中には設計事務所から提案されたA、B、Cの3案が準備されていた。

「どう?」

「後程、ゆっくりと拝見させて頂きます」

俺はそれをファイルの中へと戻した。信吾さんはそれを見た意見を聞きたいのだ。

「その中に怜二がデザインしたのがあるんだよ。だが、どれだか教えてくれないんだよね」

あんたが怜二くんがデザインしたものを、「採用」と言うに決まっているからね。

「それは当然です。公平性に欠けますでしょう?」

「山下くんはどれだと思う?」

秀人は「どれがいいと思う?」とは聞かない信吾さんに目をやると、俺に肩を竦めてみせた。

「さあ?俺が『これだ』と言って違っていたら、俺に文句を言うでしょう?」

信吾さんは渋い顔をしてパンを頬張った。

「綱本さんはB案じゃないか、って言うんだよね」

「知りませんよ。綱本さんも余計な事は言わないでください」

「すみません」

秀人はペロリと舌を出して見せた。

「決定は今度の会議に諮りますから」

「山下くんの意見が聞きたかっただけだよ!なあ、もうそろそろ怜二を独立させてもいいんじゃないのかな?君はどう思う?山下くん」

「ご本人にお尋ねください」

「冷たいなあ・・・。怜二の為にスペースは空けてるんですけどね」

「俺に言わないで」

「すみません」

面白くなさそうにパンを食べる社長を見て、秀人は肩を震わせた。


 定時に仕事を終えた俺は、すぐに《銀香》に向かった。午後6時ちょっと前。

《銀香》のカウンターにはすでに春山が座り、店長をしている服部くんと2人で妙に盛り上がっていた。楽しそうな声が外まで響いてくる。

「春山くん、待たせたね」

「いいえ!服部さんと話してましたから!」

彼らは顔見知り程度だとは思うが、2人は「出戻り」という共通点で話しが広がったようだ。

「服部さんもここ、長いですよね?」

「居心地がいいからね」

「服部くんは細かい所まで気遣いが出来るから、俺たちも助かっているよ。この店も三木くんと信吾さんが気紛れに開けていた頃はお荷物だったが、今は売り上げも良くてね」

「へえ」

春山は羨ましそうに服部くんを見た。

 春山はスーツに着替えていた。星望学園大学に在学中の彼は、服装も持ち物も洒落ていて学生生活を謳歌している、という感じだったが、今日はスーツを着てもくたびれて見える。

強風に煽られながらのチラシ配りは大変だったのだろう。生気がなくて疲れた印象だ。確か、怜二くんより一つ年上だったはずだが、以前の溌剌とした所が欠けてしまっていた。

「じゃあ、行こうか?」

「はい」

急に緊張した面持ちに変わった春山に、服部くんがガッツポーズをしながら「頑張ってね!」と声を掛けた。


 春山を助手席に乗せて、「何か食いたい物、ある?」と聞いた。

「何か・・・か。最近、餃子かコンビニ弁当かカップ麺、ファストフードしか食ってませんから。何でも」

「肉はどうだい?」

たくさん食べて元気になってもらわないとね。

「あーっ、良いですね・・・」

遠慮がちではあるが、春山の声には"嬉しい"が溢れていた。

「輝也くんを覚えているかい?」

「ええ!薫ちゃんと仲が良かった福原輝也ですよね?元気ですか?」

年齢も近い輝也くんの名前を出すと、春山は嬉しそうだ。

「薫ちゃんは、今、どうしていますか?」

「薫くんが在学中に税理士の資格取れたの知っているよな?」

「ええ」

「彼は経済学部を首席で卒業したよ。今は、『S-five』が依頼している税理士事務所に勤務しているよ。来年辺りには独立するんじゃないのかな?」

「すごい」

春山の声がトーンダウンした。薫くんが星望を受験する時、章太郎と一緒に《花宴》の事務所で受験勉強のアドバイスをしたり、わからない所を教えたりしていたのは彼だったからだ。

「薫ちゃんも頑張ってるんですね」

春山の声は複雑そうだ。

「ああ。どうする?輝也くんが店長をしている店にでも行ってみるか?今ならまだ予約出来ると思うよ。章太郎は今、《イゾルデ》にいるんだ。《花宴》でも構わないし。それとも『S-five』とは違う所が良い?」

「あの・・・出来れば、違う所でお願いしたいんですが」

「いいよ。美味いステーキでも食べよう」

「はい・・・すみません」

春山は真剣な顔をして前を向いた。


「いらっしゃいませ。山下さん」

「こんばんは。お久し振りですね」

「お久し振りです。お元気でしたか?」

「ええ、おかげさまで」

店は春山の気が張らない場所がいいと思い、秀人が行きつけのステーキハウスにした。

ここは外観も内装も豪華ではないが、個室があってのんびりと食事が出来る。住宅街の一角にあり、値段も手頃だ。元々は個人の邸宅だったのを改装して営業しているから、アットホームな雰囲気で落ち着ける。

「今夜は綱本さんはご一緒ではないんですね」

オーナーは春山の顔をチラリと見て微笑んだ。

「ええ。彼も以前は『S-five』に勤務していました」

「成程。美男子ですね」

顔を褒められて春山は嬉しそうに、「ありがとうございます」と礼を言った。

「春山くん、好きなものを注文してくれ」

「ええっと・・・」

「シャトーブリアンが良いのが入っておりますよ」

春山は渡されたメニューを見ていたが、「山下店長にお任せします」と言った。

「そう?じゃあ、お勧めのシャトーブリアンを。あとはお任せします。春山くん、ワインは?」

「いえ」

「俺は車だから飲まないが、君はどうぞ。折角の肉だ、美味しく食べなよ」

「では、一杯だけ」

オーナーが出て行くと、春山は真剣な顔付きになった。

「今日はありがとうございます。急だったのに、お時間を頂けて嬉しいです」

「どうしたんだい?餃子の店で働いているのか?」

「ええ・・・まあ。アルバイトですけど」

春山は言い難そうに言葉を濁した。

「そう。信用金庫は辞めたのか?」

春山は目を逸らして「はい」と短く返事をした。

「そう。親御さんが準備なさった職場だったよな?ご両親は反対なさらなかったのかい?」

「それが・・・その・・・家出じゃないんですけど・・・」

俺と目が合うと、春山は唇を噛んだ。

「それに近いのか?」

「まあ・・・そんな感じです」

「何があったかわからないが、困ったね」

「すみません」

ペコッと頭を下げて、春山はテーブルに出されていた水をゴクッと飲んだ。

「それならそうと、俺らに早く連絡しなよ」

「すみません・・・電話もしづらくて。ご迷惑をお掛けしたし・・・その」

それで元気がなかったのか。

「これからどうするの?今はどこにいるの?」

「簡易宿泊所ってわかりますか?」

「ああ。わかるよ」

俺も上京して来た時はそういう所を転々としていたな。簡易ベッドと共同の風呂とトイレ。懐かしいな。

「1泊2千円なんで」

「こっちに出てきてどれくらい経つの?」

「3週間です。貯金があるんですけど、底を尽く前に何とかしないと・・・。今は簡易宿泊所の同じ部屋の人が紹介してくれたので、1週間だけピンチヒッターで餃子店のオープンを手伝っています」

「そうか・・・。それで、君が欲しいものは?」

「住む所と仕事です。お願いします!また俺を雇ってもらえませんか!」

春山はガバッと頭を下げた。

彼を雇うのは簡単だ。学生の時の信用もある。こちらとしても願ったり適ったりだが。

「まずは親御さんに連絡をしてくれないかな?ご両親にOKもらってくれないかな?俺らが出て行くとごちゃごちゃするからね」

「・・・はい」

親に何と言って出て来たのかは知らないが、春山は気まずそうに目を伏せた。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

以前「花起こしの雨」の方に滝山産業本社ビルのカフェの話しは出て参ります。

   日高千湖

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2018/03/08(木) 09:47 | | #[ 編集]
Re: Nさま、コメントありがとうございます!!
Nさま、こんにちは~♪

いつも鍵コメでしたが、今日はオープンで良かったのでしょうか?間違って公開コメにしてあるのかなあ~?と思って、一応保留にしております。差し支えなければ、公開にしますので!

山下店長です~「青い朝」のチョイ前の設定です。

春山くん、いたでしょう!そうです。薫ちゃんが受験の時に経済学部の話を聞いたりしていた彼です。大した話しではないんですが、最終回までよろしくお付き合いくださいませね。

今年も投票にご参加くださいまして、ありがとうございました!

今年は投票ができない、といった不具合もあったようで申し訳けなかったです。年に一度のお祭りですから、皆さまに喜んで頂ければそれでいいんですが。投票出来なかった時のお気持ちを考えるとですね・・・。

気がつけば3月。雛祭りも終わり、卒業、入学、花見。ああ、もう付いていけないwww以前は行事ごとにSSを書いてUPしていたんですが、もう無理ですwww普通の更新だけで精一杯www
今後も地道に、じわじわと書かせて頂こうと思っております。

Nさまにはいつも応援して頂いて、ありがたく思っております。季節の変わり目ですから、Nさまもご自愛くださいませね。

コメントありがとうございました!
2018/03/08(木) 15:56 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/03/08(木) 23:53 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Nさま~♪
Nさま、お返事ありがとうございます!

非公開のままにしておきますね!
2018/03/09(金) 06:54 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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