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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・3~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 20歳の頃、30歳は大人だった。いや、大人だと思っていた。

実際に自分が30歳になってみると、意外とガキだったりして。それにはちょっと安心した。当時の俺は、それを「若さだ」と勘違いしていた。

そこから更に7年も経てば、見た目も変化し、それまでは何ともなかった酒が異常なくらいに身体に負担になったりする。俺の場合は身体の変化と心の変化は比例しないようで、精神年齢は30歳くらいのままだ。


 "たまたま"俺が休んだ会議で提案されるはずだった議題が自分の意に反していたからと言って、難癖を付けるのは大人気ない。それはわかっている。

だが、電話で欠席を伝えた時に「今日は輝也の事で大事な話しがあるよ」と言ってくれなかったのはどうしてなのか?あの時、会議の内容を教えてくれれば俺は這ってでも行ったのに・・・!

「俺だけ、除け者じゃないか?」

信吾さんと2人になると、俺は20歳の頃の俺に戻ってしまう。

あーあ。思い返してみれば、あの頃は無茶苦茶な生活をしていたな。気が乗れば、好みのタイプのオトコは《SUZAKU》の事務所に置いてあるベッドに引きずり込んでいたし・・・。

今の俺なんて、「テル、テル」言ってるだけで可愛いもんだよ。

「イジケてるのか?」

「違う」

はい、イジケておりますとも。

「山下くんが、先に言ってくれれば」

「そうか」

信吾さんは「ハアッ」と溜息を吐きながら、ソファーに背を預けた。

「まず、お前が気に入らないのは輝也の異動だな?」

「もちろん」

「輝也に《BlauGarten》の話しをしたら、二つ返事でOKしたよ?」

「だろうね」

それもわかっている。

輝也は《BlauGarten》に興味を持っていた。三木くんから「店の模型を見せてもらった」と、瞳を輝かせていたのも知っている。

だが俺も輝也も「店長は黒川で決まりだ」、と思っていたわけだ。それを「輝也に任せる」と言われたのなら、輝也は「はい!」と即答するだろう。「どうしよう」と、俺に相談するはずがない。

輝也は《ビストロ・325》の店長として実力を示し、一番の成長株として皆が期待している。《BlauGarten》は輝也にとって更なるステップアップとなる。《325》のオープニングスタッフとして学んだ事を十分に生かし、それを次の者へと繋ぐだろう。

「わかっているんだろう?」

「うん」

わかっていますとも。俺が何年輝也と一緒にいると思ってんの?

好奇心の塊みたいなヤツ。最近は、休みだからとジッとしてはいないのだ。新規オープンの店、評判の店があると聞けば「1時間でも2時間でも並んで食う」と言う。

まるで7、8年前の三木くん、山下くんを見るようだ。外からの新しい風を受け止め吸収していく彼らの役目を、今では輝也も担っているのだ。

「じゃあ、文句はないだろう?」

「先に言ってくれれば」

「先に圭介に相談したとして、だ。お前が納得するまで話しをしていたら、5月にオープン出来なくなるだろう?《325》の引継ぎもあるし、新店舗のオープンには手続きもいるし申請してOKもらうまでに時間も必要だ」

「だからって」

信吾さんは笑いながら言った。

「ガキみたい」

いや、違う。相談してくれなかった事に俺は憤りを感じているのだ。だから「除け者」にされたと言っているのだ。

「ガキでいいよ」

俺は怒っていいのか、イジケていいのかわからなくなっていた。勢いでここまで来たが、自分でも気持ちの収拾が付かない。電話で済む話しだったのかも・・・。年下の小鳥居には「見っとも無い」と思われただろうか。

俺は足をモソモソと動かして靴を脱いだ。両足を揃えてソファーに上げて膝を抱えて、膝の間に顔を入れて丸くなる。

「圭介」

信吾さんの声が更に優しくなる。ああ、これって、オトコとごちゃごちゃする度に泣き付いていた俺が聞きたかった声だ。懐かしくて、悲しくなる。


 あの頃の『S-five』は良かった。

決裁書も委任状もなかった。電話一本でパッと集まって、意見を出し合って、解散。最初の1年は会議なんてやった事もなくて、重要な決断も全て信吾さんの一言で決まっていたのだ。水曜日の定休日もなかったし、5人ともギラギラしていた。

高田くんと俺はいつも酒臭くて、タバコの煙がもうもうと立ち込めた《銀香》の裏の事務所に集まって話しをしたな。

だが、今では喫煙者は俺だけ。一応、禁煙する気はある。今だって我慢している。

次はどんな店を出すか、何時間も話し合って、他所の店の写真やメニューを広げて誰が偵察に行くかジャンケンで決めたり。《白夜》のホストが足りない日は、ヘルプに入って朝まで働くのは日常だった。

あの頃のギラギラした感じを失いたくない半面、皆がそれぞれに良いパートナーを得て、無難な人生もいいんじゃないか、とか・・・。

だが、皆にあの頃の輝きを忘れないで欲しい俺は、《SUZAKU》を離れられないのだ。

「圭介」

「何だよ?」

「『S-five』も大きくなってさ、俺も少々窮屈さを感じてる」

「えっ?」

会社を大きくしようと一番躍起になっている人が「窮屈」だって?

「前は本当に自由でさ、『会社』としては原始的だったよな?だが、今は違う。社員も増えたし、経営しているのは飲食店だけじゃない。俺はさ、お前には『不動産』に力を入れて欲しいんだ。《SUZAKU》は今までどおりで構わないからさ」

「それ、山下くんの意向?」

「違うよ」

信吾さんの手が頭に乗った。

「どうせ俺は戦力外だろ?我が儘だし、会議サボるし」

「山下くんの意向じゃない。俺だよ」

「信吾さんの?」

「ああ。本当は《SUZAKU》はカンタに任せて、お前には『滝山不動産』の社長に就任して欲しいと思っている」

「・・・それは、嫌だ」

信吾さんは俺の頭をグシャグシャとかき回した。俺は今、変な顔をしている。泣いているわけではないが、変な顔だ。それを彼に見られたくなくて、俺は膝に顔を埋めたままだ。

「ほらね。そう言うと思った」

「でも・・・嬉しい」

「そう?」

「うん。でも、除け者にはしないでよ」

「してないよ」

「山下くんが」

「それはお前が悪い」

そう言われて、ムッとした。

「どうして俺が悪いんだよ?」

「休むから」

「俺、ちゃんと出席していたじゃないか?たまたまあの日休んだだけだ。それなのにさ、山下くんは議題の内容も教えてくれなかったんだからね?それに、輝也に口止めした」

一番腹が立つのは、そこだ。

「それをしたのは俺だ。俺が輝也に、圭介が気が付くまで言うな、と言っておいたからな」

「資料にすぐに目を通せ」、と伝えてくれれば良かったじゃないか?

「テルのやつ・・・俺よりも信吾さんを取ったのかよ?」

「そういう事だな。輝也もどうしようもなかったんじゃないの?お前に言えば皆に迷惑を掛けるし」

「言っても言わなくても迷惑は掛けるし」

「ははっ。輝也にはもっと頑張ってもらわないと」

「鬼」

「鬼でもいいけどさ」

「あーあ」

胸の中のモヤッとしたものは晴れないが、気分的には落ち着いてきた。

「鬼も色々大変なんだよ」

以前の『S-five』は、採用条件に「容姿端麗」と書かれていた。今はそういうのは通用しない。だからと言って、採用基準が下がったわけではない。

会社が大きくなり、転換期が来たって事か。《サラダボックス・B》は女性を多く採用しているし、2号店は佐井ちゃんの他は女性だけだ。

コンクリート打ちっぱなしの落書きが目立っていた高架下を真っ白に塗り、清潔感溢れる一角が出来上がっている。

サラダボックス以外にも、ホットドッグの店、ガパオライスの店にパン屋、花屋、北欧雑貨の専門店が入居しているが、真ん中に作られたイートインスペースはまるで海外のビーチを思わせるような設えだ。

開発したのは『滝山産業』。そのプロジェクトは信吾さんの甥の隼人が中心になって進み、信吾さん自身もアドバイザーとして関与していた。あの駅が選ばれたのは、滝山家所有の土地だったからだ。試験的に開発されたわけだが、若い隼人の『社長』としての顔もあるから失敗は許されない雰囲気だ。他の駅や地方からも高架下利用のモデルケースとして視察に訪れるようになり、知名度も上がっている。

「考えておけよ」

「何を?」

「さっきの件」

「不動産?」

「ああ」

「・・・うん」

俺が渋々、「うん」と言ったのがわかり、信吾さんは「もう」と言いながら俺の身体を押した。丸くなっていた俺は押された勢いのまま、ゴロンとソファーに横になる。

「圭介、起きろ」

「うん。ごめん。考えておく。でも俺を《SUZAKU》から外すなよ。全部失敗して、倒産してもあそこだけは絶対に守るから」

「あのなあ!倒産したら、ビルごと取られるんだぞ?《SUZAKU》だけ残せるわけがないだろう?」

「考えておくから。真面目に答えないでよ」

「ああ」

信吾さんはいつまでもソファーに転がっている俺に、店に戻るように促した。

「輝也を責めるなよ」

「ああ」

タクシーで追い掛けて来たと聞き、信吾さんは「呆れた」と言いながら書類でパシッと膝を叩いた。

「今度こそ経費節減の鬼が怒るぞ?」

「ベニちゃんに財布とキーを奪われた」

「綱本さんに送ってもらえ。俺はまだ小鳥居くんとの話しが終わっていないから」

「・・・はい」

綱本さんが運転する車に乗り、俺は《SUZAKU》に戻る事になった。

*****

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雛祭りですね♪ネタがあったのに・・・。

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コメント
拍手鍵コメ・発起人さま~いらっしゃいませ♪
お久し振りですね、発起人さま♪

お元気でしたか?春とは言え、まだまだ肌寒いですね。ご自愛くださいませね!

拍手コメントを頂きました記事のコメント欄を閉じておりますので、直近の記事にお返事を書かせて頂きますね!

「565656」とはまた珍しいですね!ご報告ありがとうございます♪良い事ありそうですか?ふふふっ。

時間が掛かってもOKでしたら、「555555」の方がおられませんでしたので、リクOKですよ♪思いつかれたら、どうぞ。

拍手&コメントありがとうございました!
2018/03/03(土) 14:33 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/03/03(土) 18:39 | | #[ 編集]
拍手鍵コメ・aさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・aさま~いらっしゃいませ♪

そうなんですよ。信ちゃんは圭介の扱いに関してはプロです。

テルはまだまだ(笑)振り回されております。『S-five』の伝書鳩的な役割の三木店長は、aさまの気持ちをよーーーくわかっておりますよ。

投票は楽しんで頂ければ、それで良いのです。

ただ折角押してくださっているのに、エラーとか本当に申し訳ないです。来年の投票があるか、ないか、わかりませんけれど。ありましたら、またご参加くださいね!

圭ちゃんとテルのちょっとしたお話ですが、しばらくお付き合いくださいませね!

拍手&コメントありがとうございました!
2018/03/03(土) 23:59 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
Re: 鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪

Mさま、お名前は覚えておりますよ。信ちゃんと怜二くんに熱いメッセージを送ってくださっていたのはMさまでしたか?

心の中で呟くお言葉をたまにはコメント欄でぶつけてくださいませよ~!お待ちしております♪毎年の投票を楽しみにしてくださって、嬉しいです。今回はエラーもあったようで申し訳なかったです。

下位だったというわけではないですよ。「信吾&怜二」は12位でした。(10位が2人でしたので、12位です)
今年は「キャラ」という設定でしたので、「信吾」と「怜二」の票を足したりしなかったんですよ。すみません。

世代交代、というよりも出てくる回数が減っているからではないでしょうか?
圭介と信吾の関係はご存知でしょうから、じゃれ合う2人には昔を思い出させてしまったみたいですね。キュンキュンして頂けて良かったです!

信ちゃんはもう怜ちゃんにベタ惚れ状態なので、デレデレです。

彼らもアラサーからアラフォーですよ。もうそろそろ彼らの時間を止めるべきかな?と思っております。サザエさん状態で書くべきかしら?とかね。その方が日高も都合がいいんですけどね!

今後もボチボチと、お休みを頂きながら更新を続けて生きたいと思っております。いつも応援してくださってありがとうございます。

またお気軽にお声掛けくださいませね!コメントありがとうございました!
2018/03/04(日) 00:31 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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