『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・4~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 ハンドルを握る綱本さんは何も言わない。俺がここに来た理由はわかっているはずだが、信吾さんとの話しがどう纏まったのか、とか彼は聞かない。

すでに午後8時前。フロントガラスの向こうには、ビル群に灯る明かりと街の明かりでほの暗くなった空が広がる。

 賢そうな額、理知的な彼にはメタルフレームの眼鏡が良く似合っている。

俺が店を放り出してここまで来てしまった事も、今となっては恥ずかしい話しだ。助手席に座った俺は居心地の悪さを感じながら、3月の夜空を見上げていた。


 信吾さんと山下くん、三木くんには秘書が付いているが、俺と高田くんは「要らない」と言ったので、秘書はいない。以前は「秘書」という立場の人もおらず、信吾さんが出掛ける時は主に三木くんが同行していたっけ。

少しずつ店が増え本社ビルを新築したのを境に、『S-five』は一つの転換期を迎えた。

 駅前通りにあった《銀香》は閉店し、本社は移転。『滝山不動産』と『滝山クリーン』も本社ビルへと移転した。

《トリスタン》の店長だった三木くんを買収したケータリング会社『タチバナ』の社長に据え、《シェーナ》を担当していた山下くんを本社勤務にした頃から、信吾さんには秘書の綱本さんが付くようになった。

山下くんと綱本さんが一緒に住むようになり、「5人」は「6人」になった。店が増える度に店長会議に参加する者が増え、前みたいに会議中にバカ話も出来なくなった。

「綱本さん」

「何でしょうか?」

「山下くんは意地悪だよね」

そう言うと、綱本さんはクスッと笑う。

「そうですね」

「俺が『休む』と言った時に、輝也の異動の事を言ってくれれば良かったのに」

綱本さんも先週の会議には出ていたはず。俺の発言を聞き、「何を今更」と思っているに違いない。

「言ってくれていたら、俺、這ってでも行ったんだけど」

「ははっ」

綱本さんの乾いた笑い声には耳が痛い。

「そうですね。ですが」

「・・・」

「あの場に橋本専務がおられたとしても、賛成多数で決定でしたよ」

だから、俺が問題にしているのはそこじゃない。多数決で俺が負けるのはわかっておりますよ。

「そうだね」

満場一致で可決、か。輝也の実力と実績が認められ、反対の声はなかった、という事。それはそれで嬉しいわけだ。

「そうか・・・。良かった」

「はい。どなたからも異議はなく、場の空気も良かったですしね。ご存知でしょうが、他所と違って我が社は、社長や役員の機嫌を取る為に手を上げるような方はおられませんからね。純粋に『福原輝也』という男を認めての決定だったと思いますよ」

「・・・」

輝也の努力の証だ。うん。

「社長は三木店長と山下店長の負担を軽減しようとお考えです」

「秘書がいるでしょう?」

とは言え、人手が足りないと山下くんを呼び、三木くんを呼ぶからな。それはうちの店だけじゃない。

「三木店長には『タチバナ』に集中して頂いて、黒川店長に役員昇格を打診するおつもりのようですよ」

「そして、俺は不動産」

「ええ」

「ふうっ」

『S-five』は飲食店の他に『滝山不動産』と清掃会社の『滝山クリーン』、『タチバナ』を経営している。『タチバナ』はすでに社員100名程を抱え、箱根の《天つ空》や高級スパも経営している。そのトップである三木くんを『S-five』の雑用から開放しようというわけか。

果たしてあの黒川が、三木くんのような軽いフットワークで店を回って"名奉行"ぶりを発揮出来るのか?

「ここからは私の独り言です」

「ああ、はい」

「3年後には《サラダボックス》を20軒、目標のようですよ」

隼人の高架下プロジェクトとの連動、というわけだな。

「それで黒川ですか?」

「ええ」

いよいよ俺たち"だけ"の『S-five』が飛び立つのか。

「そうか」

「ご存知ですか?《インカローズ》のオーナーが引退なさるのを」

「知らないよ」

《インカローズ》は以前、まあちゃんが勤務していた店だ。男性相手のホストクラブで、あの界隈では老舗中の老舗。オーナーはかなりの高齢だから無理はないな。

「オーナーからお声が掛かって、社長は《インカローズ》を買うおつもりのようですよ」

「へえ・・・」

《インカローズ》のオーナーとは昔から良い関係だ。店内は多少の手直しが必要だろうが、従業員ごとの居抜きならメリットがある。あの店に付いている"太い客"もそのままだしね。

「《白夜》の前だからね。高田くんがいるし、ちょうど良いじゃないか?」

「ええ」

「あっ」

「・・・」

「もしかして、そっちはそっちで子会社?」

「ええ、そのようですね」

「そうか・・・」

《サラダボックス》も《白夜》も、子会社化してしまうというわけか。

「綱本さん」

「はい」

「俺、綱本さんのファンになりそう」

「ありがとうございます」

《白夜》からは動かない高田くんに2店舗任せて新会社を設立してしまえば、俺らの間の不公平感もなくなる、か。


 《SUZAKU》に戻ると目の前にしーちゃんがいた。彼はお客さまには最高の笑顔で接していたが、店に戻った俺の顔を見た瞬間、目を吊り上げて俺に近付く。

「圭介さん」

「よう!しーちゃん!お疲れ」

しーちゃんは、最高に機嫌が悪い。俺を事務所に引っ張っていくと、黙って俺の腰にギャルソンエプロンを巻き始めた。前で芸術的な蝶結びが出来、しーちゃんは結び目をポンと叩く。

「ありがと」

「どう致しまして」

「《325》に戻るのか?」

「当たり前です!僕は引継ぎ中なんですよ?」

怒ってる。

「ごめん。助かったよ」

俺を睨んだしーちゃんはプリプリしながら裏口のドアを開けた。

「しーちゃん」

「はい」

「引継ぎ、大変なのに悪かったね」

「・・・いいえ」

ちょっと変な顔でしーちゃんはドアを閉めた。さてと・・・頑張りますか。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

今日は本文が短めなのでオマケ付きです♪

【業務日誌】

「ねえねえ!キリヤさん!」

「何だ?まあちゃん」

今日は公園の清掃ボランティアの日だ。週に1回、周辺にあるホストクラブのホストたちが集まって、駅の周辺や道路、公園をお掃除するのだ。

いつもより1時間早く出勤して、軍手をはめてゴミを拾ったり掃いたりする。結構、楽しい。今日の担当は公園だ。僕の軍手は可愛いショッキングピンクなのだ。

キリヤさんは植え込みの奥の方に引っ掛かっているペットボトルを取ろうと、一生懸命に腕を伸ばしていた。

「あのね!」

「四葉のクローバーでも見つかったか?」

僕は足元に植わっているクローバーの葉を見た。

「うーんと・・・見つからない・・・じゃなくて!」

「じゃあ、子猫でも見つけた?」

「うーん。僕はどちらかというと犬派なんだよね。犬って主に忠実なんでしょう?僕は気紛れな猫よりも僕のいう事を何でも聞く賢い犬がいいな!」

「チワワか?よっと・・・取れねえな」

「チワワ?まさか!僕が乗っても大丈夫なほら、なんだっけ・・・ええっと、パトラッシュじゃなくて・・・ええっと・・・」

「ハイジのヨーゼフ?・・・っと!取れた!」

「そうそう!それ!ヨーゼフにする!」

「あれって散歩が大変だぞ?」

「大丈夫だよ。ヒロオミさんは運動不足だから犬の散歩はピッタリでしょ?」

「高田店長が散歩係かよ?」

「うん!」

キリヤさんは呆れたように目を丸くし、拾ったペットボトルを僕が持っていたビニール袋に入れた。

「世話をしないと懐かないぞ?」

「そうなの?」

「当たり前じゃないか」

そう言ってキリヤさんは場所を移動する。

「・・・まあ、いいか」

僕はゴミ袋を持って後に続いた。

あれ?僕の話しはどこまで進んだんだっけ?ええっと・・・ああ、そうだった!

「ねえねえ、知ってる?《インカローズ》のオーナー、転んで骨折しちゃったんだって!」

「へえ・・・大変だな。あの人、見た目は派手だけど実は爺さんだしね」

「うん。入院してるんだって。僕、ヒロオミさんと一緒にお見舞いに行くんだ」

「そうか。よろしくお伝えください」

「でね!」

「何だよ?」

キリヤさんが面倒臭そうに聞いた。

「鶴、折れる?」

「千羽鶴か?」

「そう!僕、得意なんだ!」

「そうだっけ?」

失礼な!ちゃんと折れるし。

「ヒロオミさんのお母さんが入院した時も頑張って折っていたじゃないか!」

「うん、知ってる。半分以上は他力本願」

「ひどーーーーい!」

「こらっ!そこ!しゃべってないで掃除しろ!」

ヒロオミさんが怖い顔をしてこちらを見ていた。みんな真面目にお掃除してるから、僕らも頑張らないと。

「はーい!もう、キリヤさんの所為で怒られちゃったじゃないか!?」

「・・・ああ、ごめん」

「もう!」

キリヤさんは「すみませんでしたね、掃除の邪魔をして」と言って僕のお尻をパンッと叩き、また植え込みの中をチェックし始めた。

「それでね!」

「何だよ?掃除しないとヒロオミさんに怒鳴られるぞ?」

大丈夫。怒鳴られるのはキリヤさんだし。

「《インカローズ》は閉店するらしいよ」

「へえ」

「僕、貯金があるんだけど!」

「はあ?」

植え込みに頭を突っ込んでいたキリヤさんが、空き缶を手に出てきた。

「僕、買っちゃおうかな?」

「・・・まあちゃん」

「なあに?」

「マジでおめでたいな、お前」

「・・・もしかして僕の事をバカにしてる?」

キリヤさんは僕の預金通帳を見た事がないからな。

「いや、尊敬してる」

「そう?」

あれ?見せた事あったっけ?

「うん。はい、空き缶」

「うん」

キリヤさんから空き缶を受け取り、何となくモヤモヤしながらボランティア活動を終えました。今日も頑張りました。来週も頑張ります。

花岡真樹

信ちゃんとまあちゃんで《インカローズ》を巡ってバトル勃発か?

   日高千湖

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ありがとうございました!
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コメント
拍手鍵コメ・発起人さま~いらっしゃいませ♪
発起人さま~こんばんは!!

今年の推しは山下と黒川でしたか(笑)票も結構集まっていましたよね。

インフルエンザは大変でしたね。日高はありがたい事に大丈夫です。(今のところは。)

ボチボチ頑張りますね!休まずに更新できればいいんですが。応援してやってください!

拍手&コメントありがとうございました!
2018/03/04(日) 22:29 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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