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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・5~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 《ビストロ・325》の閉店時間が過ぎたが、輝也は《SUZAKU》には来なかった。

午前0時を過ぎて来た華恵が、「《325》の奥の方が明るかったわよ」と教えてくれた。異動になる輝也と伊織くん、しーちゃんがまだいるんだ。

「華恵」

「なあに?」

俺から華恵に話し掛ける事は、おそらく100年に一度だ。それを知っている華恵の鼻息が荒くなる。

「鼻息、荒い」

「もう!わかってるわよ~っ!私に用なの?」

華恵の瞳が爛々と輝いている。人家に棲み付いているタヌキの映像をテレビで観たが、黄緑色の瞳がギラギラしていた。あれだ、あれ。

浮かれて「私に声を掛けてくれるなんて何年振りかしら~!」と、クネクネする華恵。だから100年ぶりだって。

「あのさ」

胸の所で組んだ手がキモイ。恋する乙女っぽいポーズ、やめろ。

「俺、用があるから帰ってくんない?」

華恵は付け睫毛をバサバサさせながら瞬きをした。

「えっ?私、今ここに来たばかりなのよ?」

「急ぎだし」

平日の《SUZAKU》は、日付けを超えると片手で十分なくらいまでに客は減っている。カウンターには華恵と秦先生だけ。

「座ったばかりなんだけど?」

「チャージ料3千円になります。本日もご来店ありがとうございました」

「・・・帰らないわよ」

「そうか」

俺が「はあっ」と大袈裟に溜息を吐くと、更に鼻息を荒くした華恵は「自棄酒よ!」と隣に座っていた秦先生の手からビールジョッキを奪って一気に飲み干した。

余計な事を言ってしまって、華恵の機嫌を損ねてしまったのは拙かった。まあ、俺が機嫌を取る必要もないわけだ。俺は華恵が注文する度に、「ラストオーダーになりまーす」と言ってグラスを置いた。バケモノを店に入れてやってるだけでもありがたく思って欲しいもんだ。

 午前1時になっても輝也は《SUZAKU》には現れず、酔っ払って超×10程度の面倒臭ささになった華恵を箒で掃いて追い帰した俺は、ソワソワしながら後片付けを終えた。

輝也からは「伊織さんとしーちゃんと猪俣さんの4人で飲みに行きます」とメールが届いていた。


 以前は落書きだらけで「暗い、汚い」と不評だった高架下は、『滝山産業』によって整備されて一日中監視カメラが設置されている。いつものようにそこを通り抜けて、俺は一人でマンションに戻った。

「ただいま・・・っと。まだ帰ってないか」

玄関で靴を脱ぎ、ジャケットとシャツを脱ぎリビングの床に放る。リビングのソファーに座ってすぐにエアコンを付けた。夜は「春」と名ばかりの気温になる。一人の部屋は寒かった。

「テル」と出会って7年、か。発展途上の『S-five』で、俺はただ迷っていた。昔のオトコを忘れられずに足掻いていた俺は、いつも4人に迷惑を掛けていたっけ。

傍に信吾さんがいたから、三木くんや山下くんや高田くんがいたから俺は崩壊しなかった。

だが崩壊寸前だったよな。あの頃の俺って。

メチャクチャな私生活だった。《SUZAKU》にとっかえひっかえオトコを呼んで朝まで過ごし、マンションには着替えに戻るだけだった。

深い水底にいた俺を、輝くような笑顔で導いたのは輝也だった。自分も辛い過去を背負ってるのに、あいつはいつも笑顔だったよな。

 『春日井ファイナンス』の上にあった、「茶屋」と呼ばれていた雑居部屋で集団生活を送っていた輝也たち。「男娼」だったという事実に後ろめたさはあったと思うが、不思議な事に「暗さ」はなく3人共明るかった。

3人の「絆」は頑丈で、輝也と薫とまあちゃんはいつも屈託なく笑っていた。3人で暮らすマンションに引っ越した時も、一体何がそんなに可笑しいのだろうかと、首を捻りたくなるような感じだった。箸が転がっても可笑しい年頃、だったのだ。

 あの頃のテルは、どうして笑っていられたんだろう。

借金を残して男と逃げた母親が見つかった時も、輝也は泣いたが赦した。

今でも母親との関係は微妙で、距離を置く事で均衡を保っている。ただ、輝也は母親面するような事だけは「許さない」という態度でいるから、輝也の母親は近くに住んでいるが月に1度顔を合わせれば良い方だ。

姉夫婦との関係は良好だ。姉は姉で未成年の輝也を置いて家出した母親を許してはいない。輝也とは仲が良いが母親とは距離を置いているようだ。

彼の過去を知らない人は、輝也を「幸せな人」だと思うだろう。いつも明るく笑顔の彼を、「何の悩みもない明るい性格のイケメン」「羨ましい」、そう思っているに違いない。

そうではないのだ。そう見えるだけで彼にも悩みはあって、人知れず努力を重ねているのだ。だから今の「福原輝也」がある。

 まあちゃんはいつも明るくて、あの頃も今も変わらない。良くも悪くも、変わらないのは彼だ。

 薫はいつも物静かで、俺は薫には『取り扱い注意』と札を貼っておきたいくらいだった。薫はしっかり者で、俺が輝也を軽く扱うと鬼のような顔で睨んでいたよな。薫は日本人形のような凛とした静かさの中に、ハリネズミのような刺々しさを隠していた。

輝也を泣かせる度に俺に食って掛かってくる薫に、俺はいつも「ごめん」とか「悪かった」とか口先だけの誤魔化しをしていたが、薫はそれを見透かしたかのような目で俺を見ていた。

輝也はどうして笑っていられたのだろうか・・・。


 玄関の方で音がして、静かにドアが開いた。輝也だ。「ただいま・・・」と控え目な声とともにリビングのドアが開く。

「おかえり」

「どうして電気を点けてないの?」

薄暗い部屋に、輝也の声が響いた。声だけで部屋が明るくなった。

「うん」

「点ける?点けない?」

「うん、どっちでも」

「そう?点けるよ」

「はーい」

点けると思った。パアッとリビングが明るくなった。輝也が光を連れて来た。

「遅ーい」

「ごめんね!4人で飲んでたら遅くなった」

「うん」

さすがに輝也は顔を合わせ辛かったのだろう。いつもならすぐに俺の近くに寄ってきてハグするのに、俺が脱ぎ散らかしたシャツとジャケットを拾いクローゼットの方に持って行く。

「あのさ」

背を向けたままで輝也が言った。

「うん」

「《BlauGarten》の事、聞いたよね?」

遠慮がちな声。先週の会議から今日まで、俺に黙っていたから後ろめたいのだろう。

「ああ」

俺の財布とキーを持ったベニちゃんが、逃げ込んだのは《325》だからな。俺がタクシーで本社に行ったと聞き、内心ヒヤヒヤしながら帰宅したに違いない。

「怒ってる?」

「怒ってない」

「・・・怒ってた?」

輝也はソファーの背に手を付き俺を見た。遠慮しながら上から聞く輝也の瞳。俺はその瞳に向かって手を伸ばした。

「・・・うん、ちょっと」

輝也は俺の手を握り、「ごめん」と謝った。

「最初は騙まし討ちみたいで、腹が立った」

「言えなくて」

「うん。信吾さんが口止めしたんだろ?」

「うん。俺が自分で言うのが一番だと思ったんだけど・・・」

「会議を休む、って電話した時に言ってくれれば良かったんだよ。山下くん、意地悪だ」

「意地悪じゃないよ」

「じゃあ、どうして言ってくれなかったんだ?」

「『公平じゃないから』」

そこか?他の者よりも先に提案事項を俺に言うのが「不公平だから」か。

「それは・・・仕方がないな」

「ごめん。本当は言いたかったんだけど!」

「しーちゃんを貸してくれたから、許す」

「うん、ごめん」

しーちゃんを《SUZAKU》へ行かせたのが山下くんの耳に入れば、輝也が注意されるのだ。

「謝らなくてもいいじゃないか?俺は山下くんには迷惑を掛けたしね」

「そっか」

「印鑑、押さないとね」

「ありがとう」

輝也の腕が伸びてきて、俺は掬われるようにして輝也の腕の中に抱きすくめられた。

「ごめんね。でも、理解してくれると思っていたよ」

「うん」

あの頃は細くて折れそうだった輝也の腕が逞しくなった。俺よりも低かった身長も気が付けば追い抜かれたし、忙しいのにジムにも通うからムキムキではないが筋肉も付いて男らしい身体だ。

「《BlauGarten》、任せてもらえて良かったな」

「ありがと」

「章太郎もテルくらいの時に《花宴》を任されたしね。大丈夫」

「うん。頑張る」

酒臭い輝也に抱き締められ、俺は目を瞑った。

*****

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圭介、華恵ちゃんには容赦ない(笑)

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