『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・3

 とろけるような肉質のシャトーブリアンが運ばれてきて、春山は「はあっ」と溜息を吐いた。

「本日のシャトーブリアンは、毎月10頭程しか出荷されない島根のA5ランク雌牛です」

芸術的なサシが入った肉には、トリュフ塩が準備されている。

「どうぞ」

「いただきます」

春山は「こんなに良い肉は久し振りです」と感激しながら口に運んだ。シャトーブリアンはあっという間に春山の腹に収まり、皿には付け合せの菜の花と新ジャガしか残っていない。

「美味かった!」

「そう?まだ食べられそうならサーロインも焼いてもらえよ」

「えーっ」

「食べられるだろう?」

「多分」

「余裕だろ?食えよ」

「はい」

美味い、美味い、と言いながらサーロインステーキをペロリと平らげた春山は、神妙な顔でナイフとフォークを置いた。

「君が言った『欲しいもの』は、俺たちには準備する事が出来る。今は『タチバナ』もケータリングだけじゃないし、『S-five』は今も新店舗を準備中だ。君が違う業種を希望すると言うのなら探してあげよう」

春山は安堵したのか胸を押さえた。

「ありがとうございます」

「満腹になったし気持ちも落ち着いただろう?少し事情を説明してくれる?」

「はい」

 実家を出て来た事情を「思い出すと腹が立つんですけど」、と語り始めた春山は、時折眉を寄せ、口元を歪める。

春山はご両親の意向に沿った形で地元に戻り、信用金庫に勤務していた。

「給料はそれ程高くはなかったんですが、実家暮らしですから金も掛かりませんでした。両親は煩わしかったですけどね」

ああ、俺もそういう言葉を言ってみたかったな。親には憎しみに近いような感情を抱いて成長した俺にとっては、春山の不満さえも羨ましいと思える。

「成人していようが、いるまいが、干渉されれば反抗したくなるものだからね。君の場合は『S-five』を辞めた時の経緯もあるしな」

「そうなんですよね。無理矢理『S-five』を辞めさせて、勝手に準備した職場なのに『感謝しろ』と言うし。本当に勝手なんですよ、うちの親は」

春山は学生のような幼い表情を見せた。希望していたわけでもないのに準備されていた就職先が気に入らなかったのか。

「それだけか?」

それだけなら子どもっぽい理由だな。

「いいえ。俺は信用金庫で得意先係をしていたんです。普通の外回りですよ。個人宅とか会社とか回っていました。得意先の中に地元でも有名な県会議員さんが経営している会社があったんです。建設とか飲食とか、まあ手広くやってる会社でした。社長にはゴルフだの飲み会だの連れて行ってもらって、そこそこ可愛がられていたんですよ。お願いすれば定期預金や積立をしてくれる人を紹介してくれたり。良い人だなあ~なんて、俺は感謝していました」

「へえ」

大切な「一票」だからね、君は。君から繋がって生まれる票の重みを、彼らは知っているのだ。

「その議員さんのお嬢さんが信用金庫で働いていまして・・・他店との合同の飲み会で知り合って・・・その・・・」

「手を出した?」

「その・・・まあ・・・」

春山は頭をポリポリと掻いた。

「あらら」

「山下店長、『あらら』では済みませんよ」

春山は情けなさそうに眉を下げた。

「いや、それは身から出た錆びだろ?」

「まあ、そうなんですけど」

「それで?」

「ヤったのは1回だけなのに、彼女が『妊娠した』と言い出しまして・・・」

春山はますます小さくなって言った。しょげ返った様が気の毒だったが、全て聞かせてもらわないとね。

「パパだな。おめでとう」

「山下店長!圭介さんみたいなことは言わないでくださいよ!冗談はそれくらいでお願いします!」

「ああ、ごめん。つい・・・圭介くんとは付き合いが長いもので」

ここまでの内容には同情出来なかったのだが。

「父親は本当に俺ですか?とも言えないんで。既成事実はあるわけですから・・・認めるしかないでしょう?」

相手が「相手」だしね。春山としては、真っ向から「違うんじゃないか」とは言えなかったわけだな。

「同僚とは言え、取引先のお嬢さんなんかに手を出すからだよ」

「まあ、そうなんですけど・・・。まさか、こういう展開になるとは夢にも思いませんよ、普通は。それに・・・タイプだったんで」

そこは反省しているらしい。酔った勢いで、って事か。

「将来的には県議会議員も夢じゃない、的な?」

逆玉狙いか?春山。

「まあ、一瞬でも結婚まで考えたのならいいんじゃないのか?それで?まさか、彼女を放り出してこっちに出てきたのか?」

俺は少々呆れた口調で、春山を咎めた。

「いくらなんでも、それはないだろう?」

春山は必死で手を振って否定した。

「違いますよ!病院に行ったら計算が合わなくて・・・。おかしいと思ったんです。それで彼女を問い詰めたら、元カレとどっちの子かわからなかったと・・・」

「・・・成程。自分でもわからなかった、というのはないな。女はそういうのわかるって言うから」

「そうなんです。でも、女って怖いですよね。俺、章太郎さんと薫ちゃんの純粋なラブラブっぷりを思い出して、マジでオトコに走ろうかと思いましたよ。で、俺の無実が証明されました。他の男の子どもだと、彼女が認めたんです。まんまと騙されるところでしたよ」

薫くんを思い出したところをみると、議員さんの娘は清楚系美人だったのだろう。そういえば春山と薫くんとは歳も同じで仲が良いから、章太郎にヤキモチを妬かれていたな。

「ふうん・・・良かったな」

「ええ、ギリギリセーフ。それは良かったんですが・・・それでは終わらなかったんです。相手は県議会でも1、2を争う実力者なんです。その娘ですからね。親子で『恥を掻かされた』と、俺に難癖を付けるようになったんです。彼女とは婚約の一歩手前という所まで話が進んでいたもんですから。彼女は妊娠を理由に退社しましたが、社内で嫌がらせが始まったんです。彼女が、ある事ない事、女の子たちにしゃべってたんですよ!俺、《花宴》でバイトしていた時の癖というか、可愛い系の男を見るとつい、ハグしてしまっていたんですよね。俺が星望出身で、『S-five』に勤務していたのを逆手に取られて、社内で『ゲイだ』『バイセクシャルだ』と噂が立ってしまって・・・」

「そうか・・・。あっという間だからね、そういう噂が広まるのは。それで辞めたのか?」

相当、脇が甘いな。

「はい。親には相談せずに辞めました。それを報告すると『S-five』なんかで働くからだ、と煩く言うし。こうなると再就職先も地元では厳しいですからね。そのうち家にも居辛くなって・・・とにかく家には居たくないじゃないですか・・・」

「それで勝手に出て来たわけ?」

「はい。でも、居場所は伝えてます」

親は「戻って来い」と言っても、就職先がなければ話しにならないからな。県会議員の力がどれ程及ぶのかわからないが、春山には戻る気は更々ないようだ。

「お気の毒さま。災難だったね、としか言いようがないね」

春山は居ずまいを正し、立ち上がって頭を下げた。

「お願いします!アルバイトで構いませんから、雇ってくださいませんか!」

「そうだな」

「ダメ、ですか?」

少しだけ顔を上げて、上目遣いで聞く春山の顔は期待に満ちている。

「事情を聞けば、しょうがない、としか言えないね」

「そうでしょう!?」

春山は『S-five』に採用されるくらいだ、確かに長身で目立つイケメンだ。

気働きも出来るし、《花宴》でも女性受けが良かった。仕事を覚えるのも早くて、賢い。しかも彼には「星望」というブランド名が付いている。本人がその気になれば、信用金庫ではなく地銀で採用されたのではないかと思う。

女性としては、上手い具合に利用しようとしていたのかもしれない。春山と結婚出来れば、四方八方丸く収まると思ったんだろうな。まさか彼に「計算が合わない」、と言われるとは思わなかったのだろう。

父親の権勢を笠に着て彼を職場に居辛くさせるとは呆れた女だが、コロリと騙された春山もアホだな。

「また『S-five』で働かせて頂けませんか?」

もう泣きそうな顔だ。

「わかった。もう社長のOKはもらってきているから。大丈夫だよ」

そう言うと春山はバンザイでもしそうな勢いで、「ありがとうございます!」と頭を下げた。

 
 春山は、一週間の約束で餃子店のオープンを手伝っていた。その店との約束があと3日残っている。「明日からでも勤務出来ますから!」と張り切っていた春山には、最後まで餃子店で働くように言い含めて、彼が宿泊している宿まで送った。

「明日、バイトが終わったらもう一度本社に来てくれる?君がすぐに住めそうな部屋をピックアップしておくから」

「はい!」

「勤務先はこれから決める事になるけど、3月中は研修という事で。正社員としての採用は4月からだよ。3月5日から新入社員研修が始まるからね。君にはそれに参加してもらう。一から出直せ」

「わかりました!よろしくお願いします!」
 
春山も元気が出てきたようだ。失っていた溌剌として明るい性格の、彼の持ち味が戻ってきたようだった。

 
 「おかえり」と秀人の声が聞こえた。玄関で俺を待っていたクロエが、足元で「にゃあ」と鳴いた。一人暮らしの時にはなかった光景だ。クロエは俺の足に頭や身体を擦り付けながらグルグルと回り、俺が歩くのを妨害する。

「クロエ、ただいま」

俺はクロエを抱き上げて、リビングのドアを開けた。茶虎のトラがソファーに寝そべったままで「にゃあ」と鳴く。

「ただいま」

「おかえり。春山くんはどうだった?」

「後で」

秀人も晩飯は済ませたようで、すでに風呂も入ってスウェットに着替えていた。俺はトラの横に座って、クロエの背中を撫でる。

「風呂は?」

「入る。飯は食ったの?」

後ろから俺を抱き締めた秀人からは、ボディソープの香りがした。

「ああ。社長と一緒に《花宴》でね。小鳥居くんに《BlauGarten》への異動を打診したよ」

「そう。黒川は、何か言っていた?」

「特には。小鳥居くんもお受けします、とだけ」

「ふうん。じゃ、後は圭介くんだけか」

「そういう事だね」

「にゃあ」

トラがクロエを押し退けて俺の膝に座ろうとしている。

「トラは秀人だろ?」

秀人が「トラより明利がいいな」とふざけた事を言うから、俺は2匹を秀人の腕に押し付けて立ち上がった。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

どうやら「青い朝」が始まる少し前のようですねwww

以前「花起こしの雨」の方に滝山産業本社ビルのカフェの話しは出て参ります。

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2018/03/09(金) 08:26 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Nさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Nさま~いらっしゃいませ♪

そうですね!個人では山下店長が1位でしたね!おめでとうございます!!

皆さまに愛されて、うちの子たちは幸せ者です♪ありがとうございます!

今回は「新人研修」メインの話ではないのですが・・・。まあ、黒川は出てきますけれども。あまり期待はなさらないでくださいませね。

Nさまも季節の変わり目ですから、ご自愛くださいませね!コメントありがとうございました!
2018/03/09(金) 09:36 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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