『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・4

 翌日、春山は約束した時間に本社に現れた。昨日よりは顔色も良く、生気も戻ってきている。それを見た俺は一安心した。

 春山が勤務していた2年前とは、本社も変わった。事務処理をする為に女性社員が増えた。とは言え、他所の会社に比べれば圧倒的に男の方が多いのだが、それでも女性社員が増えた。将来的な事も考え、余裕を持って建てたはずの本社ビルも手狭になりつつある。


 信吾さんは「春山くんじゃないか!」と懐かしそうに春山と握手を交わし、彼を来客用のソファーに座らせた。

信吾さんはこれからパーティーに出席する。すでに着替えを終えて出発する予定だったが、春山とは久し振りだったので待っていたのだ。

「元気だったかい?怜二に君がうちに復帰してくれると話したら喜んでいたよ」

「こちらこそ、ありがとうございます。また雇って頂けて嬉しいです。怜二くんも元気ですか?」

「ああ、おかげさまでね。俺はこれから出るが、後は山下くんに色々聞いてくれ」

「はい。ありがとうございます」

バタバタと出て行く信吾さんと秀人を見送って、俺は準備していたマンションの資料を春山に渡した。

「3軒、探しておいたよ。気に入る所があればいいが」

「ありがとうございます」

「今のところ、良い部屋は埋まってるんだよね。簡易宿泊所に泊まっても料金は発生するからな。とりあえず住む所を確保した方がいいだろう?」

「いいえ!これで十分ですよ。ありがとうございます。泊まっている所は相部屋なんで気を遣うし、窮屈なんですよね」

準備した3部屋は、どこも似たり寄ったりだ。オートロック付き。バス、トイレが別で、浴室乾燥機付き。駅から徒歩3分から10分。防犯カメラ付き、コンビニが近い、ペット可。大まかな条件は互角。細かい条件は異なるが、家賃もほとんど同じだ。

同じような条件の所を選りすぐって準備したが、余計に迷わせてしまったようだった。

資料を見る春山も決め手がなく、「どこでも良い」という感じだ。一緒に内見して回り比べた結果、「一番便利そうだから」と言って本社ビルに近いマンションを選んだ。

「コンビニも近いし。商店街にも駅にも近いし」

「そうだね。ここは新しくはないが4年前に全面リフォームをしてある。キッチンの調理台の下に小さな冷蔵庫が置けるようになっているんだが、大家さんのご厚意で新しい物を設置して頂けるそうだよ。昔からのお付き合いがある大家さんだが、人柄が良いんだよ」

駅まで5分。本社まで5分。コンビニまで3分。1DKだがユニットバスは新品だ。エアコン付きで8畳のフローリングの部屋は、東向き。日当たりも悪くはないようだ。

「じゃあ、冷蔵庫は買わなくても済みますね」

研修中も給与は出るが、支払われるのは来月になる。手元の残金がいくらあるかわからないが、出費は少ない方が良いからな。

「ああ。他に荷物は?」

「スーツケースだけです。エアコン付きだし、後は寝具さえあれば当分の間は大丈夫ですから」

「マジで着の身着のまま出てきたんだな?」

「ええ。最初のうちは大学時代の友人の部屋に泊めてもらってたんですが、朝早くから出て行って終電で帰宅する友人を見ていたら自分がミジメになって・・・すぐに出たんですよね」

「そうか。今から荷物を取りに行くか?俺、これらから空いてるけど」

「お願いします」

簡易宿泊所にスーツケースを取りに行き、ついでに生活必需品と寝具のセットを買って春山のささやかな引越しが終わった。


「俺の勤務先は決まりましたか?」

「いや、まだだ」

候補はあるが、決定ではない。三木くんは『タチバナ』で引き受けても良いと言ったが・・・。

 半年ほど前に《シェーナ》の隣の店舗が閉店したのを、『S-five』が購入した。改修工事が始まり《BlauGarten》(ブラウガルテン)という隠れ家風のカフェ&レストランとしてオープンする事が決まっている。

《BlauGarten》の店長候補として、《ビストロ・325》の福原輝也と《花宴》の黒川嘉美の名が挙がっていたが、信吾さんは輝也くんに《BlauGarten》を任せたい意向だ。

『S-five』も社員が増え、店も増えたし資本金も増えた。以前のような信吾さんの個人資産が頼りの、吹けば飛ぶような会社ではなくなった。

《銀香》の裏にあった小さな事務所に5人で集まって、全てが決まっていたあの頃とはわけが違う。増殖を繰り返す細胞のように、成長を続ける『S-five』は創業メンバー5人だけの会社ではなくなっているのだ。

 《サラダボックス》は今年中にあと2軒を出店する予定。

《サラダボックス》はいずれ子会社化して黒川を社長に抜擢する、というのが信吾さんの考えだ。春山には《サラダボックス》で黒川の補佐をしてもらうか、《BlauGarten》のオープンスタッフか・・・。

「希望はあるのか?ご両親の手前『S-five』では困ると言うのなら、『タチバナ』でも不動産でも構わないからね」

「お任せします。希望を言える立場ではないですから」

「それは言っても構わないさ。明日が店長会議なんだ。その前に信吾さんや三木くんとも話してみるから、希望があるなら言ってみろよ」

「そうですね。『タチバナ』にはちょっと行きづらいというか・・・。むしろ『S-five』でお願いしたいです」

2年で辞めてしまったのは彼が悪いわけではないが、やはり戻りづらい、か。

「ああ、そう。君は即戦力だからね、どこでも大丈夫だろう。期待しているからね」

「頑張ります」

「よろしくね」

春山にはまだ餃子店との約束が残っている。「当面の生活費は持っている」、というので彼の新居で荷物を下ろしてそこで別れた。


 本社に戻ると、三木くんが俺を待っていた。俺が駐車場に車を停めている間に準備を始めたのだろう。役員室のドアを開けると、コーヒーの香りが充満していた。

「お帰り、山下くん」

「ただいま」

「春山くんはどうだい?」

サーバーにコーヒーの濃い茶色の液体が落ちていく。三木くんが持つ銀色のドリップポットの優雅な曲線が、彼の持つ雰囲気にピッタリだ。

「研修から来るように伝えてあるよ。当面の生活は何とかなりそうだったから、部屋だけ準備したよ」

「そうか。切羽詰ってるのかと思ったが、そういうわけでもないんだね」

「切羽詰っているんじゃないのか?簡易宿泊所は安いが1ケ月も居ればそれなりの金額になるし。食費や生活費、交通費を合わせれば最低でも月12、3万は必要だろう?手許の金が彼の2年分の貯金、と言っても高が知れてる。三木くん、何か差し入れてやってよ」

「うん、わかった。差し入れなら俺に任せて。ところで、春山の事情は信吾さんから聞いたが気の毒だね。で、どこに配属するか決まったの?」

「信吾さんは俺らに任せる、と言ってくれたが・・・。《BlauGarten》か、小鳥居くんの後任かな?これは信吾さんも同じ意見だった。『タチバナ』には戻りづらいようだったしね」

「そうか、残念だな。それで彼と黒川との相性は?」

「どうかな?」

黒川はああ見えて、誰にでも合わせられるから不思議だ。相手の能力に合わせて仕事を振り分け、上手い具合にやらせるのは得意だ。相手の能力の限界まで要求するから厳しいようだが、相手に達成感を味わわせるのが上手いのだ。

小鳥居くんとは馬が合うようで、黒川にしては珍しく《花宴》を任せっきりにする事もある。

「黒川のサポートにはしばらく俺が入るかな?研修中に決めてもいいんじゃないのかな?」

「そうだね。それよりも、圭介くんだよ。彼に輝也くんの異動の件を、先に相談しなくても良いのかい?」

圭介くんに順序は関係ない。

彼は輝也くんの事に関しては、全て彼を通してからでないと納得はしない。輝也くんにとって有益であるとわかっていても、「反対」と言うのは目に見えている。最初に彼に相談したとしても、結果は同じだ。

彼は「最初に自分を通してくれればいいのに」と言うだろうが、そうじゃない。彼は福原輝也の恋人であり、「保護者」でもあるのだ。だがそれは間違っている。圭介くんが、すでに自立した輝也くんの妨げになってはいけないのだ。

「相談したとしても彼は、納得しなければ判は押さないよ」

「それはそうだけど。知らないよ?」

「大丈夫だよ。圭介くんも子どもじゃない」

「それはそうだが、ヘソを曲げそうだ」

「ははっ。その時はその時だ。三木くん、後はよろしくね」

「ええっ?俺か?圭介くんの扱いは山下くんの方が上手いだろ?はい、どうぞ」

三木くんがコーヒーカップをテーブルに置いた。ふわりと湯気が上り、香ばしい香りを運ぶ。

「ありがとう。春山くんは黒川に任せた方が良いんじゃないのかな?」

「そうだな。輝也くんとは歳も近いしね。ワチャワチャしてしまいそうだな」

「《BlauGarten》は会員制だし、落ち着いた雰囲気でやりたいんだよね。彼が地元を出てきた経緯にも、彼の甘えが見えるんだよね」

「そうだな。後で俺が春山くんのマンションに行ってみよう」

「行ってやって。彼、喜ぶよ」

「山下くんは優しいね」

「そうかな?」

「相当」

「ははっ」

福原輝也の《BlauGarten》への異動は決定だ。店長会議で提案する事になっているが、まだ圭介くんには伝えていなかった。伝えても「反対」の一点張りなのは、目に見えているからね。
 
*****

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すみません、胃の調子が悪くて更新をお休みしましたwww

ですが、昨日は朝からキスマイのセブンイレブン限定CDゲット~♪と、張り切って争奪戦に参戦しておりました(笑)サーバーダウンするしwww予約だけで40分掛かってしまった。おかげで病院に行き損ねたし!!

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