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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・8~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 山下くんは開店前に《有明の月》に現れた。

今日は紺色のスーツに薄いブルーのチェックのシャツ。ネクタイはバーガンディだ。山下くんにしてはネクタイが派手だ。

「おはよ」

「おはよう」

車を降りた山下くんは、店先を掃く俺を見てクスッと笑った。

「精が出ますね、店長」

「精子はもう出ませーん。テルに搾り取られたから」

そう言いながら山下くんのアタッシュケースを受け取り、替わりに箒を持たせたが、彼は全く動じない。

「下ネタ?まだ午前中なんですけど?」

山下くんは持たせた箒で、俺が集めた木の葉を塵取りに掃いて入れる。

「そうだっけ?」

「ええ。まだ午前10時5分ですよ」

山下くんはジャケットの袖を捲って、自分の腕時計を見せた。

俺がエプロンのポケットからゴミ袋を出して渡すと、塵取りの中の木の葉を手早く入れる。俺はその手際の良さに思わずパチパチと拍手を贈った。

「俺、急ぐんだ。圭介くん、掃除道具はちゃんと片付けておいてよ」と言うと、俺にゴミを持たせさっさと中に入ってしまった山下くん。俺は裏口にある掃除道具入れに箒と塵取りを入れ、裏から事務所に入った。山下くんはコーヒーを準備してくれていた。

「俺、コーヒーよりもお茶が良かった」

「自分で淹れれば?」

「山下くんが淹れた方が美味いから」

「甘えない」

「甘えたい」

「知らないよ。コーヒーで我慢してよ」

彼は知らぬフリをしてコーヒーカップを2つ準備し始めた。

「俺、我慢は身体に悪いと思ってるんで」

「・・・」

山下くんの手が止まった。

「三木くんが買って来たほうじ茶があるんだ」

「・・・」

山下くんはチラリと俺を睨んで、キャビネットの中にいくつか入れてある茶筒を開けて中身を確認している。

「赤いやつだよ」

「ああ、これだね」

山下くんは急須を準備して、ほうじ茶の葉を入れた。


 事務所にコーヒーの香りが広がる。厨房の方からはスタッフの声や物音が聞こえる。ソファーに背を預けて、俺はほうじ茶が出来上がるのを待っていた。

春らしい陽気の日もあれば、冬に逆戻りする日もある。天気は一定せず、晴れたり曇ったり。だが、窓から見える空は青かった。

「空、青いね」

「今日は暖かいね」

「うん」

「今夜から、また春の嵐になるそうだよ」

「へえ・・・春の嵐ばっかだな?」

「そうだね。季節の変わり目は天気がめまぐるしく変わるからね。これからだって雪が降る可能性はある」

「そうだな」

山下くんが出来上がったコーヒーを自分のコーヒーカップに注ぎ、俺の前には熱いほうじ茶を置いた。

「ありがとう」

「どう致しまして」

テーブルの上には誰かが持って来た洋菓子の缶が置いてある。俺はそれの蓋を開けて、山下くんの方に差し出した。

「昨日は、ごめん。食べて」

山下くんはクスッと笑うと、フィナンシェを一つ取り袋を開けた。

「俺も意地悪してごめんね」

「うん。許す」

「あははっ」

昨日、山下くんが置いていった書類にはすでに俺の判を押してある。それをカバンから出して「はい」と渡す。山下くんはそれを受け取ると、確認してニコッとした。

「急に気が変わったんだね。信吾さんとは話したんだろう?」

「うん」

「そう。いつまでも判を押さないかと思った」

「俺、そこまでガキじゃないから」

「そうだね。ところで、後任の小鳥居くんはいつから寄越したらいい?」

小鳥居か・・・。どっちかと言うと、苦手なタイプだ。目立つヤツではない。笑うと目がなくなって素朴な雰囲気なのだが、表情に乏しくて冷たい感じがする。

引継ぎの間中、ずーっと「笑え」と言ってやろう。

「出来れば早い方が助かるんだけど」

まあ、俺が一緒に仕事をするわけではないから目を瞑る。引継ぎが終わるまでだ。

「・・・あっちの都合は?」

「そうだな・・・」

山下くんがスケジュール帳を取り出してパラパラと捲る。

「小鳥居ってさ、黒川が重宝してたんじゃないのか?」

黒川は、自分の「右腕」とも目している小鳥居が異動するのは困るんじゃないかな。

「そうなんだよね」

「彼の後任には誰をもってくるの?」

「うーん」

「教えてよ?」

「わからない」

「山下くん?」

「ふふっ」

「不気味」

「そうかな?」

「うん。最近の山下くんは秘密主義だからな」

「そうでもないよ」

あっ、マジで決まっていないようだな。

俺は熱々のほうじ茶をフーフーしながら飲んだ。香ばしい香りが好きだ。俺が香りを楽しんでいると、山下くんが「ほうじ茶にはリラックス効果があるらしいよ」と言った。

「そうなんだ」

湯飲みに鼻をあてて思いっきり香りを吸い込むと、山下くんが笑った。

「あははっ。何がストレスなの?」

「山下くん」

「酷いなぁ!」

「秘密主義だから」

山下くんは優雅な手付きでコーヒーカップを持ち、口元に運ぶ。

「小鳥居くんの後任はまだ決まっていないんだ。黒川の圧に耐えられる人、誰か知らない?」

やっぱりね。

「小鳥居がいいんじゃないの?」

「無理」

「俺は?」

「いいかもね」

「俺が黒川の下になるの?」

「そう」

「満足させてくれるかな?」

「朝から下ネタばかりだね」

「うん。昨日の余韻を引き摺ってる」

「ははっ。仲が良いね」

「うん」

「忙しい」と言っていた山下くんは、コーヒーを飲み干し、サーバーの中に残っていたコーヒーを自分のタンブラーに移して持ち帰ろうとしている。

「コーヒーカップは圭介くんが洗っておいてね」

「はーい」

小鳥居は「一応」、3月から《有明の月》に引き継ぎの為に顔を出す事になった。《有明の月》からはしーちゃんの姿が消え、俺はチビ軍曹の「店長!」と呼ぶ声を懐かしく思いながら、湯呑み茶碗とコーヒーカップを洗った。

「店長!」

「はい」

「ミーティング、お願いします」

「わかりました」

今日は、俺としーちゃんの異動を知らせなくてはならない。

*****

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