『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・9~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 3月1日付けで、志村朝陽は《有明の月》から《ビストロ・325》に異動した。3月1日の朝、スタッフの前に立ったしーちゃんは緊張した面持ちで挨拶をした。

花束を受け取ったしーちゃんの大きな瞳から、ポロリと涙がこぼれた。

「泣くなよ。会社を辞めるわけじゃないんだから」

「でも・・・お花」

こういう機会でもなければ花なんか貰わないからな。オレンジと黄色を基調にした明るいビタミンカラーの花束は、しーちゃんの門出を祝うのに相応しい。

「しーちゃんがみんなから愛されてる証拠だろ?俺には花束ないもん」

「店長が脱走するからです」

「あははっ。いつも脱走直前に、しーちゃんに確保されてただろう?」

しーちゃんは花束を置くと、真面目な顔になった。

「《325》を任せて頂けるようになったのも、圭介さんのおかげです。ありがとうございました」

「何だよ?改まって。俺なんかしーちゃんに怒鳴られてばっかりのダメ店長だろ?」

「そんな事ないです」

「反面教師か?」

「違いますよ!時々サボってたけど、僕が代わりを出来るようにちゃんと手配してからサボってたじゃないですか?」

「そうだっけ?」

あれ?気が付いていたのか。

「何もかも放り出して消える事はなかったでしょ?店長がいなくても僕が困らないようにちゃんと準備してから消えてたの、わかってましたよ。『テル、テル』言ってしょげてるのは、ウザかったけど」

元々しーちゃんは輝也の事が好きだったからな。

「・・・悪かったね。まっ、いいか。他ならぬしーちゃんだから、悪口は聞かなかったことにしておく」

「悪口ではないですよ?本当の事ですから。でも、勉強になりました。ありがとうございます」

「俺がしーちゃんの為に勉強させてやってたんだよ?」

そう言うと、しーちゃんの目はキュッと吊りあがる。

「嘘だよ、嘘!怒るなよ。可愛い顔が台無しじゃないか?なっ?機嫌を直せって」

「店長、マジで働いてくださいよ?」

「わかってるさ!《325》とは近いし、これからもよろしくな」

「僕、《SUZAKU》と2軒の面倒は見られませんからね?」

「あれ?俺の魂胆が読めるようになったんだ?」

「もう!わかり易いんだから!」

しーちゃんは、プリプリしながら花束を抱えて《325》に戻っていった。そして入れ替わるように、《花宴》での挨拶を終えた小鳥居佑が《有明の月》に赴任したのだった。


 小鳥居佑は、楽しいのか、悲しいのか、よくわからない。彼は感情の変化を面に露わさないのだ。勿論、客には素晴らしい笑顔を向ける。まあ、それは基本中の基本という事で。

事務所にいる彼は、ほぼ無表情なのだ。まかないを食っている時も、表情は変わらない。美味いのか、口に合わないのかもわからない。「いただきます」と「ご馳走さま」を言う間には言葉もない。ただ黙々とまかないを食う。

黒川にはちょうど良いのかもしれない。あいつ、人に気を遣うのは好きじゃないからな。置物、程度に思っていたのだろう。

スタッフがワーワー騒いでも、大笑いしても、小鳥居は無表情だ。煩い、とか、迷惑だ、とかそういう否定的な顔もしない。涼しい顔をしてただ座っているのだ。

まだ慣れない所為かとも思ったが、愛想笑いすらない。自分から馴染もう、とも思っていないようだ。

 レジカウンターから彼をジッと見ていると、視線を感じたのか小鳥居が俺を見た。

そして、インカムで聞くのだ。

『店長、私の顔に何か付いていますか?』

「付いてない」

『何かご用でしょうか?』

ああ、今の言い方。黒川のヤツにそっくりだ。こちらを見ている小鳥居はなかなかイイ男なんだが・・・うん、横顔は好きだったりする。

「何も」

『そうですか』

小鳥居はニコリともせずに俺から視線を外して、客席の間を移動する。

そういえば、小鳥居は『S-five』社員の交流の場になっている花火大会や、クリスマスにも《SUZAKU》に顔を出す事はない。さすがに新年会には来るが、黒川が《SUZAKU》に連れて来た事もなかったな。誘われても断るのか、誰からも誘われなかったのか。

人付き合いが苦手なのかな。

いや、人付き合いが苦手なヤツがインカムで話し掛けるか?黒川が重宝している、という話しが聞こえてくるだろうか?

違うな。

「小鳥居」

『はい』

「ビュッフェの料理が足りてるか、確認してくれないか?」

『はい』

小鳥居がテーブルの間を通り抜けて、料理が並んでいる所まで移動するが、その足運びは優雅で品がある。女性客の目が"新入り"の小鳥居を追う。そういう視線にも慣れているのだろう、にこやかに礼をしながら歩く小鳥居は堂々としていた。

高級ホテルのレストランのスタッフにも引けを取らないし、動作も洗練されている。

黒川に徹底的に叩き込まれたのか、それが天性のものなのかはわからないが1、2年で身に付くものではない身のこなし。

ちょうど料理を取っていた客に説明しながら、フードウォーマーを一つ一つ確認している小鳥居の動きには無駄がない。

小鳥居が残り少なくなっている皿を持って厨房に下がっていくのを見ていると、俺の視線に気が付いた彼と目が合う。小鳥居は俺の視線にも慣れたのか、口元を僅かに緩めたかと思うと軽く頭を下げて戸を開けバックヤードへと下がっていく。

『何かご用でしょうか?』

小鳥居の姿が見えなくなった瞬間、インカムから小鳥居の声が響いた。

「いえ、何も」

インカム、廃止しようかな?


 小鳥居との引継ぎは、正直に言えばつまらない。

つまらないが、先日の経緯もあるし俺は年上と上司の威厳を忘れぬように、真面目な顔で引継ぎをしている。

「それから」

「橋本店長」

「あっ、ごめん。早かった?」

「いいえ」

「何だ?わかんなかったの?」

「いえ」

「言えよ」

「お綺麗ですね」

「・・・?」

面食らってしまって声が出ない。

「最初は苦手なタイプだと思っていましたが、お話ししているうちに好きになりました」

「・・・そう?ありがと」

なんだ?こいつ・・・いきなり。「お話し」と言ったって、引継ぎしかしていないぞ?

「小鳥居ってさ、冗談も通じないかと思ってたんだけど、意外と通じるな?」

「ああ、俺って表情に変化がないと言われるんですよね。黒川店長はそこが良いと言われますけど」

「それって似た者同士だからじゃないのか?」

「さあ?黒川店長はポーカーフェイスがお得意ですからね」

「お前もじゃないか?」

「そうですか?そんなつもりはないんですが」

「ふうん。まあ、俺がここに顔を出すのはあと2、3日だから。我慢しろ」

「我慢はしておりませんよ。むしろ、嬉しいくらいです」

「あっそ」

「はい」

やっぱり、苦手。
 
*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

ホワイトデー企画はないです。すみませんっ!

   日高千湖

ランキングに参加しております、良かったらポチッと押してやってください♪
   ↓
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村  
携帯電話の方はこちらを押して頂けると嬉しいです♪
   ↓
ブログ村 BL・GL・TLブログ
ありがとうございました!
関連記事
スポンサーサイト
コメント
テルの車
圭ちゃんとテルのお話が始まると、ついつい最初から読み直してしまうたにこでございます。
何回読んだんでしょうね~。

昨日の夜、車で走っていたら、前の車がベ○ツのAクラスでした。
「おお!テルの車だ」
と普通につぶやいておりました。

運転、上手くなりましたかね?未だに圭ちゃん以外助手席に乗ってくれないのかな?

どんどんテルと圭ちゃんの精神年齢が逆転してきているような(笑)
本当に、圭ちゃんは出会うべくしてテルに会ったんだな···と思います。

久しぶりのコメントですが、、日参しております。
好きキャラアンケートはやはり三木店長一択でした。
2018/03/15(木) 17:58 | URL | たにこ #-[ 編集]
Re: たにこさま~お久し振りです~♪
たにこさま~お久し振りです~♪お元気でしたか?まだ雪が降ってますか?

> 圭ちゃんとテルのお話が始まると、ついつい最初から読み直してしまうたにこでございます。
> 何回読んだんでしょうね~。

ありがとうございます!!色々と穴があったら入りたいようなミスとか誤字とかあるかと思いますが、目を瞑ってくださいねっ!

> 昨日の夜、車で走っていたら、前の車がベ○ツのAクラスでした。
> 「おお!テルの車だ」
> と普通につぶやいておりました。

おおっ!テルの車(笑)もう乗り換えたかしら?

> 運転、上手くなりましたかね?未だに圭ちゃん以外助手席に乗ってくれないのかな?

いいえ。全く上手にはなりませんの。誰もテルの車には乗りませんですwww
まあちゃんは絶対に拒否。薫は相手にしないしwwwイケメンも欠点はあるという事で(笑)

> どんどんテルと圭ちゃんの精神年齢が逆転してきているような(笑)
> 本当に、圭ちゃんは出会うべくしてテルに会ったんだな···と思います。

そうですね。圭ちゃんは甘えん坊ですね。ここからはチョイ、ネタバレになるので詳しくは言えません。すみません。

> 久しぶりのコメントですが、、日参しております。
> 好きキャラアンケートはやはり三木店長一択でした。

毎日遊びに来てくださってありがとうございます!

今年は三木店長一択でしたか?今年は全く彼の票は伸びなかったですね。エラーも多かったらしくて、申し訳ないです。

また遊びに来てくださいませね♪コメントありがとうございました!
2018/03/15(木) 22:21 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

日高千湖

Author:日高千湖
日高千湖のBL小説ブログへようこそ♪

こちらはオリジナルBL小説ブログです。BLという言葉なんて知らない、嫌悪感を抱くとおっしゃる方は回避願います。

旧ブログ『薄き袂に宿る月影』をご愛顧頂きました皆さまには、ご迷惑をお掛けしております。

旧ブログ内で公開しておりました作品につきましては順次こちらでも公開して参ります。また、旧ブログで公開中の作品は今のところそのまま残しておりますが、こちらへは改稿した上でUP致します。こちらへ移転後は旧ブログでの公開は見合わせたいと思いますのでご了承下さいませ。

左上の【Sitemap】をクリックして頂きますと過去3ヶ月の更新記事がお読みになれます。お久しぶりの方、読み逃がした方はこちらが便利です♪

サイトマップ代わりに【目次と登場人物紹介】というカテゴリを作成しましたので、そちらをご利用下さい。

★拙作ではございますが、著作権は放棄しておりません。お持ち帰りはご遠慮願います。

★大変お手数ではございますが、リンクをご希望の方はコメント欄にてお知らせ頂けると嬉しいです♪よろしくお願い致します。


ランキングに参加しております。良かったら押してやって下さい!
  ↓

にほんブログ村


ありがとうございました!

★尚、拍手コメントくださいました方へのお返事は、コメントを頂いた記事のコメント欄にて書かせて頂いております。ご確認下さいませ★

では、ごゆっくりどうぞ♪

最新記事
カテゴリ
最新コメント
FC2カウンター
リンク
QRコード
QR
フリーエリア