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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・10~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 いつもなら休憩時間に一眠りして、テンちゃんたちが出社してから俺が《SUZAKU》に行くのだが、今日は一眠りが出来ない。小鳥居佑との引継ぎがあるからだ。

まあ、ヤツの存在など気にせずに寝てもいいんだが、何となくソファーにゴロンとは出来ない雰囲気なのだ。

 小鳥居は客には100点満点の笑顔を見せるが、俺らスタッフにはニコリともしない。俺は"一文にもならない笑顔は見せない主義"と解釈する事にした。

 目の前に座っている小鳥居は相変わらず表情に乏しく、楽しいのか、つまらないのか、俺には判断が付かない。

休憩時間を削って引継ぎをしているわけだ。当然、面白いわけがない。小鳥居につられて俺まで仏頂面になってしまうじゃないか。

だが、嫌われているわけではなさそうだ。『話しているうちに好きになった』らしいから。大した話しはしていないと思うんだが・・・。俺はその言葉を気にも留めなかったし、小鳥居もサラッと流したわけだ。

 だが居心地が悪い。イライラしてタバコが恋しくなる。コーヒーの代わりに淹れたほうじ茶を一気に飲み干して、俺は立ち上がった。

「・・・俺、駐車場を掃いてくる」

「じゃあ、俺も一緒に」

なぜか小鳥居も立ち上がった。

「付いてくんなよ」

俺は小鳥居と距離をおきたくて、したくもない掃除をしに行くのに。

「これまで橋本店長がなさっていた仕事なら、今度からは俺がやるべきでしょう?」

「・・・まあ。そうだけどさ。掃除くらい教えなくても出来るだろう?」

「一緒にやります」

「そう?」

「はい」

三木くん。精神を落ち着かせるお茶、配達願います。


 こうして小鳥居と2人で、店の前の歩道から駐車場まで掃除する破目になってしまった俺は、いつもなら「適当で!」と逃げていた草むしりまで頑張る事になってしまった。

《有明の月》の入り口にある小さな庭には、石灯籠や大きな甕、粉を挽く道具だった石臼を置いてある。その隙間や飛び石の間に小さな雑草が生えるのだ。いつもなら、「これも趣があっていいじゃないか」と言って絶対に見て見ぬフリをするのだが、それにも手を伸ばして小さな雑草を丁寧に抜いていく。

多分、10年分くらい草を抜いた。しかも日陰は寒いし。

「橋本店長がこんな事までなさっているなんて、知りませんでした」

「そう?」

「俺のイメージと全く違いますね」

「意外性を狙ってるんで」

「へえ」

いや、普段ならしないって。だが、これを小鳥居の「仕事」として置き土産にしてやろう・・・と、俺はちょっと意地の悪い事を考えていたりする。


「あれ?圭介さん?」

「えっ?」

「珍しいね!草むしりするなんて」

顔を上げると、輝也と伊織くんが立っていた。2人ともスーツを着ている。俺は間の悪い所にやって来た輝也を睨んだ。『珍しいね』は余計だよ、輝也。

「そうか?いつもやってるし」

俺は輝也を睨みながら目で合図を送る。それで輝也は余計な事を言ってしまった事に気が付き、慌てた。

「そう・・・そうだった、ね!」

「ああ。『滝山クリーン』のおばちゃんたちも真っ青なくらい上手いだろ?で?2人揃って何の用なの?」

《BlauGarten》の会員勧誘かな。

「圭介くーん!」

この爽やかな声、三木くんだ。

「三木くん!精神が安定するお茶、希望なんですけど!」

「はあ?いきなり何だよ?」

三木くんは、軍手をはめて草をむしる俺を見てクスッと笑った。

「頑張ってるね、圭介くん」

「まあね!お茶。喉が渇いた」

「俺が来るなりお茶かよ?」

「うん。おやつにしよう。甘い物食べたい。持ってきてるんだろ?」

「ああ」

三木くんは俺から「甘い物を食いたい」と聞き、目を丸くする。

「伊織くん、はい」

俺は持っていた草取り鎌と軍手を伊織くんに渡した。

「えっ?俺?」

「片付けは小鳥居、やっといて」

「はい」

「テールー!」

両手が空いた俺は、輝也の背中にペタリと張り付いた。


 三木くんは「精神が落ち着くお茶だよ」と言って、カモミールティーを準備してくれた。おやつの羊羹は俺が好きなやつ。午前中には売切れてしまう、という人気の和菓子屋で買って来てくれたもの。

「さすがは三木くんだね。要望には120%で応えてくれる」

「君は我が儘なんだよ」

そう言いながら、三木くんは羊羹を切り分けた。ここの羊羹は、弾力があって甘過ぎない。後味が良くて甘い物は食べない俺でも食べてしまう。

「お茶くらいでゴチャゴチャ言わないで。俺、精神的に参ってるんだから」

「また、また!君の一番の特効薬を連れて来たじゃないか?」

「ありがと」

もうこの場で輝也を押し倒して熱烈チューしたいくらいだ。

 輝也は隣に座らせた。輝也は「三木店長、俺がやりますから!」と言ったが、俺は「三木くんが淹れたお茶の方が美味い」と言って強引に座らせた。

「大体さ、山下くんと2人で俺を騙まし討ちにしたんだからな。これくらい、いいの」

「騙まし討ちなんて、酷い言われようだな」

三木くんはクスクス笑いながら伊織くんの隣に座った。長い足をスッと組む。さり気ない仕草が洗練されていて、押しも押されもせぬ立派な社長さんだ。

「本当の事じゃないか?」

「人聞きが悪いじゃないか?」

何気なく、自分の机に着いた小鳥居に目をやると、無表情で羊羹を食っている。そこは今までしーちゃんの席だった。

「小鳥居」

「はい」

「羊羹、美味い?」

「はい。美味しいです」

「そう」

「三木店長、ありがとうございます」

「圭介くんは他の菓子は食べないんだけど、ここの羊羹だけは食べるんだよね」

「うん」

「それって」

小鳥居が初めて自分から会話に加わった。次に何を言うのか、期待して小鳥居を見ると彼は目を伏せた。

「・・・」

「おい」

「はい」

「続きは?」

小鳥居ははにかんだような笑顔を一瞬見せ、すぐに平常に戻る。

「特にありません」

「はあ?」

「すみません」

やっぱり、苦手だ。

「・・・三木くん、小鳥居はいつもこうなのか?」

「ああ、そうだよ」

「そうか」

もう、輝也の膝枕で不貞寝したい気分だ。

 輝也たちは休憩する為に《有明の月》に寄っただけだった。三木くんと一緒に『タチバナ』の得意先を回り、《BlauGarten》の会員を募っているのだ。

「もう行くのか?」

助手席に座った輝也にドアを閉めさせまいと、俺はドアを押さえた。

「圭介くん、離れてくれよ」

「俺も乗って行きたい」

「まだテンちゃんに引継ぎが残ってるだろう?」

「三木くんは冷たいね」

「冷たくないですよ」

「圭介さん、まだ行く所があるんだ。ごめんね!」

俺は渋々ドアから手を放した。輝也は窓を開けて、「帰ってきたら《SUZAKU》に寄るからね」と言って手を振った。遠くなる三木くんの車が恨めしい。

「あーあ」

俺は輝也を思い起こさせるような青い空に向かって、大きく伸びをしながら溜息を吐いた。

「橋本店長」

「うわっ!ビックリさせんなよ!」

誰もいないと思っていたのに、急に後ろから声を掛けられた。小鳥居だ。

「すみません」

「何だよ?」

「橋本店長は水羊羹もお好きですか?」

「・・・はあ?」

「美味い水羊羹の店を知っていますから。今度買ってきます」

「ああ・・・ありがと」

「いえ」

小鳥居はクルッと踵を返して店へと戻って行く。俺、食い物で惹かれるタイプじゃないんですけどね。

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