『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・5

 圭介くんは会議に出て来なかった。「飲み過ぎで、今日は無理」と言う圭介くんに俺は福原輝也の異動を伝えなかった。

福原輝也と星野伊織の《BlauGarten》への異動は、満場一致で「決定」となった。圭介くんが出席していたとして、一人で「反対」を叫んでも多数決で「決定」だったわけだ。

最初は喜びに輝いた輝也くんの顔は、少しずつ曇っていく。

「どうした?輝也」

それに気付いた信吾さんが声を掛けた。聞かなくても理由ならわかっているでしょうに。

「これって・・・圭介さんにどう説明したら良いんですかね?」

「黙ってろ」

「黙ってろ?」

「そうだ。このファイルを持って帰れば読むだろう?それでいい」

「後で俺が決裁印をもらいに行くから、その時に説明しよう。君は何も心配するな」

「大丈夫だ」

信吾さんと俺が太鼓判を押しても、輝也くんは困った顔をしている。

「でも!」

「輝也、お前からは言うな」

「でも!」

「言うな。圭介はお前が一緒に会議に参加するから欠席が少なくなったが、たまに休むと会議資料にも目を通さずに終わるだろう?後で知らなかった、とか言うしさ。お前は黙って資料を渡せば良いんだよ」

「・・・はい」

周囲から「おめでとう」を言われて嬉しそうな反面、圭介くんには秘密を抱える事になった輝也くんには気の毒だ。圭介くんが渡された書類に目を通したなら、すぐにでも彼は俺か信吾さんに会いに来るはずだ。


 圭介くんは渡した資料には目を通さなかったようだ。決裁印を押していないのは圭介くんだけだ。俺は開店前の《SUZAKU》のドアを開けた。

「お疲れさま」

「山下くん!お疲れさま。今日は早番なの?仕事終わり?」

「遅番だよ。ところで君の印鑑が必要な書類があるんだけど」

「印鑑?何の書類?」

「この前の会議で決まった異動の件の決裁印だよ」

「ああ、いいよ。この前はごめんね。久し振りに飲み過ぎた」

圭介くんは輝也くんに持たせた会議のファイルの事を、すっかり忘れてしまっているようだ。

「そう。程ほどにね」

「はーい」

気軽に机の引き出しから印鑑を取り出した圭介くんだったが、俺が渡した書類に一通り目を通して顔を強張らせた。

「はあ?どうして輝也なんだよ?」

「輝也くんをここに置いておくと、圭介くんがサボるから」

冗談ぽく言ったが、圭介くんには通じない。

「その上、しーちゃんまで俺から取り上げるの?《有明の月》はどうすんだよ!?」

「ここをよーく読んでご覧」

決裁書を指で示したが、彼の目は書類を見てはいない。俺を睨んでいる。

 圭介くんは、輝也くんに預けた書類には一切目を通さずに放置したままだった。読んでいれば、《有明の月》の店長が誰に決定したかわかるはずだし、今頃ここで俺を睨んではいない。

「押さないからな!」

「押してください」

「絶対に反対!」

反対も何も、すでに決定したんだよ。

「今、《325》を任せられるのはしーちゃんくらいでしょ?それとも圭介くんが、《SUZAKU》と《325》を2軒纏めて見てくれるの?それなら俺にも不服はないけど?」

福原輝也の《BlauGarten》店長就任は、すでに決定しているのだ。変更はない。

「山下くんは俺の質問に答えていないだろ?《有明の月》はどうするんだよ?」

「あのさ、圭介くん。先週の会議には『飲み過ぎで出られない』、って君は電話で言ったよね?輝也くんには会議資料を持たせたじゃないか?読んでないの?」

「・・・あった、かな?」

読んでもないのに、一応誤魔化そうとしている圭介くん。俺から目を逸らして、気まずそうな顔をした。

「読んでいないんだね?」

「読んだけど!」

「読んだけど?」

「記憶にない」

ここまで来るとさすがに見っとも無いですよ、圭介くん。

自覚して欲しいなあ、『S-five』は発展途上なんだよ。これからも色々な変革があって、成長していくんだよ。ここまで来たら、誰にも止められないんだよ。

「はい、読んでない。決定ね」

「山下くん!」

「読んでないよね?」

「・・・ごめん」

こういう所、素直なんだけどね。彼は嘘を吐き通す事はない。

「もし、あれを君がすぐに読んでいたならば、今頃になって文句を言うわけがないからね」

「・・・すみませんでした」

圭介くんは、輝也くんの異動を自分に相談なく決定した事に腹を立てていた。可愛がっている志村朝陽の異動も重なって、少々混乱しているだけだ。

だが、彼は一番大事な事に気が付いていない。

「それはわかったけどさ・・・」

「輝也くんには俺たちが口止めしたんだよ。君が煩いから」

「電話で言ってくれればよかったじゃないか?俺だけ除け者かよ?」

ああ、そこはちょっと可哀相だったかな?あの時彼に伝えていれば、何があっても会議に参加しただろうからね。

「そうだよ」

「・・・はっきり言うじゃないか?」

圭介くんは拗ねたような顔をした。鼻の付け根に皺を寄せて俺を睨んでいる。

彼はいつもはクールであまり表情を変えないのだが、今は俺の表情を窺い、急にシュンと大人しくなる。

「・・・不当だ」

それが通用したのは2、3年前までだよ。

「どこが?」

「俺に相談もなく」

「君、休む前に俺に電話してきたよね?会議の決定事項に関しては俺に『一任します』、と言わなかったっけ?」

「・・・言ったっけ?」

「言った。輝也くんに委任状も持たせています」

「あ・・・ああ」

俺はね、知ってるんだよ。君がサインと印鑑を押した委任状を何枚も準備してるのを。

「だから君の一票は、俺が賛成票として投じた。何か、問題でもあるの?」

さすがにカチンときたのか、圭介くんは俺の目を見て言い返した。

「俺は《有明の月》の店長だよ。一言相談してくれたっていいじゃないか?しーちゃんに抜けられたら、あっちが困るんだけど?」

「困りはしないさ。新しい店長も決定したしね」

『新しい店長』と聞き、彼は一番重要な事に気が付いたようだ。そう、彼自身の異動だ。

「俺は、《有明の月》はしーちゃんに任せようかと・・・」

「まだ何か文句があるの?俺は印鑑を押して欲しいとお願いしてるんだけど?」

俺は圭介くんの印鑑の所だけが空白になっている決裁書を広げて見せた。

「・・・」

「他の者の人事には一切口を出さないのに、輝也くんの人事にだけは口を挟む。そんな君に、一々相談しなければならないのかい?会議に諮って皆の同意を得た結果だよ?君も賛成した。どこが不当なのかな?」

ムスッとして俺を睨む。隙さえあれば決裁書を奪い取って破ってやろう、なんて考えてるんじゃないの?「たった一枚の紙切れごときに決められてなるものか」って顔してる。

「・・・」

「今、紙切れ一枚ごとき、と思ったね?」

「・・・」

「あれはただの紙切れじゃない。委任状だよ?輝也くんには先週の会議で初めて知らせたんだ。彼も驚いていたけれど、すぐに快諾してくれたよ」

漸く、自分のミスに気が付き圭介くんは唇をキュッと引き締めた。

「《有明の月》の昼は、小鳥居くんに任せる事になったから」

「小鳥居」

「小鳥居佑」の名が意外だったのか、圭介くんは彼に関する情報を総動員している。

「空気を入れ替えないとね」

黒川は小鳥居くんを、「根暗」という。「ムッツリスケベ」とも言った。だが、黒川のお気に入りだ。ONとOFFが激しい小鳥居くんは、自由で快活な空気の《有明の月》を引き締めてくれるだろう。

綺麗な顔を歪めながら、圭介くんはボソッと吐き捨てるように言った。

「・・・俺だって、一生懸命やってるんですけど」

「とにかく決まった事だからね。文句は会議に出てきてから言え」

「・・・」

圭介くんはソッポを向いた。彼は印鑑をギュッと握り締めて、「絶対に押さない」と意思表示をした。



「売り上げ、下がってないのに」

「下がってないのは当然でしょ?常に右肩上がりでお願いします」

「山下くん、厳しいね」

「まあね」

「どうして俺を外すんだよ。俺は《有明の月》が好きなのに」

「好き嫌いで勤務されるのは困ります。君、《SUZAKU》もそういって離れないだろう?」

「会社の意向?」

「まあ、そうだね」

「・・・とにかく、押さないから」

「仕方がないね」

俺が落ちないとわかったら、彼は信吾さんに会いに行くはずだ。後は信吾さんが納得させてくれるだろう。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

すみません。青い朝・1話と内容が重複しておりますが、ここを入れないと『恋とは戦さのようなもの』だけを読まれた方に話が通じなくなってしまいますので!!

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