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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・6

 圭介くんは《SUZAKU》を放り出して、信吾さんに会いに行った。想定内の行動だから、特に問題はない。

『山下店長、すみません!圭介さんが出て行こうとしたから、財布と車のキーを取り上げて逃げたんですけど。圭介さん、タクシーで行っちゃいました』

《SUZAKU》の三瀬李紅くんは、圭介くんを止められなかった事を悔しそうに電話で報告してきた。

「大丈夫だよ、ベニちゃん。どうせ信吾さんの所に行くだけだからね。そのうち戻ってくるよ。それよりも店は手が足りてるの?」

『はい。それが・・・圭介さんが《325》からしーちゃんを連れて来いと言いました』

「そうか。それでしーちゃんは来てくれたの?」

『はい。輝也くんが「お願いします」と言ってくれたんで。すみませんっ!』

店を放り出した圭介くんよりも、それを止めようとしたベニちゃんの方が申し訳なさそうだ。輝也くんにまで気を遣わせて、困った店長さんだ。

「わかった。頑張ってくれてありがとう」

信吾さんは今、《シェーナ》にいる。

 小鳥居佑はすでに黒川から内示を受けている。今夜は《シェーナ》に小鳥居くんを呼んで、信吾さんから意思確認と、今後の日程等の打ち合わせ中だ。

圭介くんのスマートフォンは《SUZAKU》にある。この時間だ。帰宅した信吾さんを捉まえようと、まずは本社に来るかな。

「どうしたの?山下くん。ニヤニヤしてるよ」

三木くんが笑っている。

「今の電話」

「ああ、ベニちゃん?」

「うん。もうすぐ圭介くんがここに来るよ」

「あははっ。思ったとおりだったね」

「タクシー代、請求してやる」

「君が送ってやれば?」

「俺が?店を放り出してるのに?知らないよ。三木くんが行けば?」

「俺はまだ仕事が残ってるんで」

「俺も」

こうして俺たちは、圭介くんがタクシーで来てすぐに出て行くのを、本社の窓から見ていたのだ。電気が点いているから、本社に誰かいるのはわかったはず。ここまで上がって来る間も惜しかった、ってわけだ。

「行っちゃったね。信吾さんには知らせないの?」

三木くんはブラインドの隙間から、圭介くんが乗ったタクシーを見送った。

「良いんじゃないの?俺らよりも信吾さんが言う方が聞くからね」

「そうだね。信吾さんに、直接不満をぶつけた方がスッキリするしね」

 《シェーナ》に向かった圭介くんは、信吾さんと話しをして1時間程で《SUZAKU》に戻ったらしい。圭介くんを《SUZAKU》に送った秀人からも、電話で報告があった。

「圭介くんの様子はどうだった?」

『ああ、落ち着いていたよ』

「そうか。納得したのならそれでいい」

『小鳥居くんを睨んでいたよ』

「そうだろうね」

『社長の指示で《インカローズ》の件を話したら、色々と納得出来たようだ』

「ふうん。《インカローズ》の方は話しが進んでるんだろう?」

『進んでいますよ』

「そう。ありがとう」

電話を終えると、帰り支度をしてた三木くんが手を止めた。

「どうだったの?」

「うん、信吾さんが上手く言ってくれたようだよ」

「そう。じゃあ、春山くんは《花宴》で決定かな?」

「そうだね・・・。すぐに決めなくても、新人研修に参加させるんだから、後でもいいよ」

「そうしよう。じゃあ、俺は春山くんの部屋に寄ってから帰ります。お先に」

「お疲れさまでした」


 三木くんが帰宅し、本社には俺と秘書の稲村典孝(イナムラノリタカ)だけになった。稲村くんは今年32歳。一流大学を卒業後、経営コンサルタント会社の秘書課に勤務していた。

秀人が声を掛け『S-five』に転職したのは2年前だ。それ以来、稲村くんが俺の秘書を務めてくれている。『秘書』と言っても、一日中俺に張り付いているわけではない。名目上『秘書』としてはいるが、本社にいてもらう事の方が多い。

勿論、会合や営業、パーティー等には一緒に行ってもらうが、今まで『秘書』と名の付く人が傍にいた経験がないから、こそばゆいというか、面倒というか。

 俺にしてみれば、スケジュール管理くらいは自分で出来るし、車の運転も好きだ。稲村くんと2人で出張、と言うと秀人が煩いしね。

元々は大手経営コンサルティング会社の社長秘書をしていた彼には、俺ごときには相応しくないのではないのではないかと、申し訳ない気持ちなのだ。

それで圭介くんと高田くんも纏めて面倒見てもらっている。3人分のスケジュール管理や、圭介くんと高田くんが適当に保管している領収書の整理、管理、確定申告のお世話。これまで俺が手伝っていた内容は全て、だ。それから、彼らが社長の代理として動く時は、稲村くんが付いていく。

稲村くんは秀人が見つけてきただけあって、仕事が出来る。それ故に、余計に心苦しかったりするのだ。

以前、「ここでは君のスキルが生かしきれていないんじゃないか?」と尋ねた事があったが、稲村くんは「『S-five』を気に入っています」と答えた。

「気に入っている」理由が、仕事内容が簡単だからか、それとも『S-five』自体を気に入っているのか。わからないが本人が苦痛でないのならそれで良し、と俺は思っている。


「稲村くん」

「はい」

「黒川の所に顔を出したら俺は直帰しますから。稲村くんも時間になったら退社してくださいね。今夜は社長が戻るまで待たなくてもいいですからね」

「はい、わかりました」

秀人とは違って、仕事中も彼の雰囲気は柔らかい。彼の恋愛の対象はオトコだ。そういう事情もあって、前の会社には居づらかったのかもしれない。今のところ「恋人」の存在は耳にしていないし、浮いた話もない。


 《花宴》は今日も予約客で満席だった。俺が事務所に顔を出した時には店も落ち着き、2組が残っているだけだ。黒川は机に座りパソコンを弄っていた。

「お疲れさま」

「お疲れさまです」

黒川はチラリと俺を見たが、すぐに視線をパソコンに戻した。俺はいつものようにソファーに座った。

「小鳥居くんは戻ってきたか?」

「ええ、店にいますよ」

「《有明の月》の感想を聞いたか?」

「いいえ」

素っ気ない返事だ。

「聞けよ」

黒川は画面から目を離す事なく「ふん」と鼻で笑った。

「俺、あいつがいなくなると不便なんで」

「反抗期か、黒川?」

「一応」

珍しいな。黒川が拗ねている。

「しばらくは俺がフォローに入るから」

そう言うと、黒川はやっとパソコンから目を離し俺を見た。そしてキイッと椅子の背に背中を預け、コーヒーに手を伸ばす。

「うちの働き方改革は、一体どうなってるんですかね?」

「あははっ。お前、俺の心配してくれてるの?それとも自分?」

「一応、どちらも」

こういう所、可愛いんだよな。

「ありがとう。お前、可愛いな」

口に出すと嫌な顔をするかと思ったが、黒川は意外と素直に「可愛い」を受け止めた。

「俺を『可愛い』と言うのは山下店長くらいなもんですからね。ある意味、貴重ですよ」

「そう?」

「ええ」

「コーヒーいかがですか?」、と言って黒川は立ち上がった。

「コーヒーよりもお茶がいいな。濃いの淹れて」

「はい」

黒川は給湯スペースでお茶の準備を始めた。

 黒川はポットの湯を湯ざましに取り、温度を計ってから急須に入れる。それだけで濃い緑色のお茶を想像して、俺の口の中は爽やかな甘味を感じてしまう。

「羊羹、ありますけど」

「少し」

「はい」

《花宴》も一時期は売り上げが落ちていたが、黒川が異動してからは徐々に回復した。今では章太郎が店長をしていた頃よりも多くなっている。

隣に開店した《サラダボックス・B》と両方を黒川に任せているが、彼には苦にならないようだ。かえって、前よりも生き生きしている。

「小鳥居ですが、《有明の月》の後はここで働くのはどうでしょう?」

「無理。彼には他も任せたいから」

「へえ」

「いいだろ?俺で我慢しろ」

「不服はございません」

「そう?」

「はい」

「それから新人研修に、『タチバナ』に勤務していた春山伸樹がくるから。よろしくね」

「春山?彼、2年で辞めて地元に戻ったはずでしょう?」

「ああ。色々あってね。復帰が決まったから。頼んだよ」
 
「お任せください」

「本社で一週間研修。その後はここにおく」

「はい」

「どうぞ」と俺の前に置かれた湯飲みから、ふわりと新緑の香りがした。

*****

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