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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・11~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 俺は《SUZAKU》に移動してからも頑張って働いた。輝也が《SUZAKU》に来たのはちょうど店が忙しくなる時間帯で、事務所から店を覗いた輝也はすぐにギャルソンエプロンを腰に巻き手伝い始めた。

今日は一日スーツで活動していた輝也は、ジャケットを脱ぎネクタイはそのまま。それにギャルソンエプロンだから、いつもよりもキリッとして見える。

輝也が横を通り過ぎると女性客が「キャッ、カッコいい」と声を上げた。「テルくん、ネクタイ似合うね」と声を掛けられて、輝也は嬉しそうだ。

「ありがとうございます」

「今日は《325》の方はいいの?」

下から見上げる女性の目がキラキラしている。

「ええ。俺、異動になったんで」

「へえ!今度はどこなの?」

「まだ開店準備中ですから」

「あら!じゃあ、開店したら教えてね?必ず食べに行くから!」

「よろしくお願いします」

そういう会話を耳にしながら、俺は一抹の寂しさを覚えた。《BlauGarten》の営業時間など詳しい事はまだ決まっていないが、少なくとも暇な時間に輝也の顔を見に行くという俺の楽しみが一つ減ったわけだ。


 平日だが、うちと同じように転勤や退職で送別会が多いのか、客の中には花束を抱えた人もいる。

別れの季節、か。出会いの季節でもあるな。カウンターから客席を見回しながら、感慨に耽っていたらドアが開いた。

「いらっしゃいませ・・・あっ」

「いらっしゃいませ!あっ!店長、あの人、ほら!《花宴》の黒川のお気に入り!」

ベニちゃんが大きな声で言いながら、ドアの方を指差す。

「ベニちゃん、客だ。指を差すな。ついでに黒川を呼び捨てにするな。一応上司だろう?」

「あっ、すみません」

店に入ってきた小鳥居は俺を見つけると、真っ直ぐにカウンターに向かってくる。無表情の代名詞・小鳥居が珍しく口元に笑みを浮かべているじゃないか。

目がなくなるところまでは笑ってはいないが、いつもの冷たい雰囲気ではない。営業用ではないまでも、笑顔に近い感じでこちらへ向かってくる。

「こんばんは」

「おう、お疲れ」

キッチリとスーツを着た長身の小鳥居が、ピカピカに磨かれた革靴を履いて颯爽と歩いてくる様はなかなか絵になる。カウンターに辿り着くまでに通り過ぎた席の女性客の視線も引き連れて来たわけだが、カウンターの客たちからも注視されている。

ベニちゃんは口をポカンと開けて小鳥居を見ていた。

「カウンターに座ってもよろしいですか?」

「ああ。一人?」

「はい」

「どうぞ」

小鳥居は客に軽く頭を下げて、カウンターの空いてる席に座った。その間にカンタがベニちゃんの脇腹を突き、ベニちゃんは慌てておしぼりを小鳥居の前に置いた。

「ど、どうぞ!」

「ありがとうございます。三瀬さんでしたね」

「はいっ!三瀬李紅です、よろしくお願いします!」

「小鳥居です。よろしく」

「今、帰りなの?」

《有明の月》は19時までの勤務のはず。真っ直ぐここに来たにしては遅いな。

「ええ。ちょっと寄る所がありまして」

「そう」

「何を飲む?」

そういえば、こいつの酒の好みは知らないな。

店によって違うが、新人が配属されると親睦会が催されるわけだ。一次会は他所の店に行ったとしても、二次会、三次会で《SUZAKU》に寄ってくれる事が多い。その時に、俺は新人の顔と名前が一致し酒の好みも大体覚えるのだ。

だが、黒川が小鳥居を《SUZAKU》に連れてくる事はなかった。黒川は後輩と飲みに行くと、必ず《SUZAKU》にも連れて来て俺に紹介するのだ。

黒川はそういう気遣いは出来るヤツなんだが。小鳥居は飲めないとか、かな?

「そうですね・・・。ブランデーをロックでお願いします」

飲めるじゃないか?

「カンタ!」

「はい」

「ブランデー、お勧めだってさ」

「お高いのは困りますが」

「カンタ!一番高いの!」

「はい」

カンタが真面目な顔をしてブランデーの準備を始めたのを見て、小鳥居が笑った。客に見せるお手本のような笑顔ではない。

「困りますよ。ははっ」

小鳥居は可笑しそうだ。笑うと目がなくなって、急に良い人の顔になる。何て言うのかな。こういう顔の人には悪い人はいない、と勘違いしそうになる顔。

「お前さ」

「はい?」

「笑うと可愛いな」

小鳥居は「可愛い」と言われて驚いた。

「そうですか?」

「ああ。笑わない小鳥居くんは嫌いだけど、笑ってる小鳥居くんは好きだな」

「ありがとうございます」

「ずっと笑ってろよ。営業中も、休憩中も」

「難しい事をおっしゃるんですね。これを」

小鳥居は持っていた紙袋から箱を出し俺に渡した。長方形の箱は、それ程大きくはないが重い。

「何だ?これ」

「水羊羹です」

「あっ・・・もしかして昼間言ってたヤツ?買って来てくれたのか?」

「皆さんで召し上がってください」

「ありがとう」

ベニちゃんがポカンと口を開けて小鳥居を見ていた。

「ベニちゃん、口を閉じろ。涎が出てるぞ」

「は、はい」

ベニちゃんは慌てて口を押さえた。

「嘘だよ」

「へっ?」

「涎」

「もう!店長ったら!」

地団太踏んで悔しがるベニちゃんを見て、カウンターの客がドッと笑った。だが、小鳥居は俺を見ている。目が合うとニコリとして目がなくなる。

「何だよ?」

「えっ?」

「俺の顔に何か付いてる?」

「いえ、何も」

飲んでるからご機嫌なのかな?

「ふうん。お前、どこかで飲んできたのか?」

「いいえ」

小鳥居の表情はいつもの感じに戻った。

「そう」

「俺、変ですか?」

「ああ、変だ」

「そうかな?」

小鳥居はふっと笑った。笑った、と言うのは正しくないかもな。口元を緩めただけだ。

「お前さ、どうして普段笑わないの?」

そう言うと、小鳥居は困ったような顔になる。

「・・・今一つ、笑い方がわからないんです」

「わからない?」

「ええ」

「テレビでバラエティとか観て大笑いしたりしないのか?」

「しませんね」

「じゃ、どうして今は笑ってるの?」

「楽しいからです」

「そうか。まあ・・・楽しいなら、いいか」

「すみません。俺、変ですよね」

「・・・ごめん。俺、苦手だわ」

「そうですか。よく言われます」

少しだけ寂しそうな顔をした小鳥居は、目の前に置かれたグラスを手に取った。

*****

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