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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・12~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

「テールー!」

「ごめーん!ちょっと待ってて!すぐに終わるから!」

「待ーてーなーいーっ!早く帰ろう!」

「店長!掃除しろっ!」

「ベニ!口が悪いぞ!掃除は朝から『滝山クリーン』が入るから適当で!」

ベニちゃんが「それ、早く言ってよ!」と言いながら、輝也の手から箒を取り上げた。鶴ちゃんは纏めていたゴミを外に出している。

「ベニちゃんも早くしろ!帰るぞ」

「はーい」

カンタは火の元を確認し、帰り支度を始めていた。ベニちゃんが掃除道具をロッカーに放り込み、空調を止める。後は電気を消すだけだ。

「早くしろ、ベニ!」

「もうっ!待ってくださいよ。俺、まだロッカーの荷物を出してないんだから」

「早くしろ、経費節減だ」

山下くんのお得意の「経費節減」を振りかざすと、ベニちゃんが不満そうに俺を見た。

「山下店長に言いつけてやるからな!」

「ご勝手に!」

「ふんっ。輝也くんがいるからって張り切るな」

バンッと派手な音を立てて、ベニちゃんがロッカーの扉を閉める。

「ベニちゃん、備品は丁寧に使いましょう」

「すみませんでしたーっ」

口を尖らせたベニちゃんが、俺の前を通り過ぎる時に「サボリ店長」と可愛い悪態を吐く。

「ベニちゃん、口が悪いぞ」

「生まれつきです」

カンタがベニちゃんの頭をポンと叩いた。

「そんなんだから後輩に先を越されるんだよ」

「そうそう!カンタの言うとおりだ」

「酷い・・・。俺、頑張って圭介さんのお目付け役してるのに・・・」

ションボリしたベニちゃんは、俺とカンタを睨み付けた。

「お前がお目付け役なんかやるからだよ」とカンタが言うと、ベニちゃんは目を吊り上げて事務所から出て行く。

「もう絶対に山下店長に言ってやる!」

プンプンしながらベニちゃんは自転車に跨った。

 「怒られても知らないからな~っ!」と、捨て台詞を残してベニちゃんは帰っていく。地下駐車場の中を猛スピードで自転車を漕ぎ、駐車場の出口の所が上り坂になっている所も物ともせずに、立ち漕ぎであっという間に上って行ってしまった。

すでにベニちゃんの自転車は見えなくなってしまった。

「すっげえ体力残してるな、ベニちゃん」

「ホント」

輝也とカンタがベニちゃんの体力に感心しているが、俺はカンタの「後輩に先を越される」という言葉が引っ掛かっていた。信吾さんは、「カンタに《SUZAKU》を任せて」と言ったよな。

俺が《SUZAKU》に拘るから、カンタを動かせないのか。カンタなしでは《SUZAKU》は成り立たない。俺が不動産の方に回ったとしても、《SUZAKU》だけは関っていたい。

「ねえ、圭介さん」

「ああ、うん。拓海くんと一戦交えるのに体力が必要なんだよ、きっと」

「圭介さん、サラッと下ネタ?」

カンタが可笑しそうに「テルといいベニちゃんといい、若いなあ!」と輝也の背中を叩く。

「ベニちゃん、今夜はご機嫌が悪かったね」

「そうだな。拓海くんとケンカでもしたのかな?」

「一体、何を山下くんに言いつけるって言うんだよ?俺、今夜はサボったか?カンタ」

身に覚えがない。どちらかと言えば、今夜は輝也が来たからと言って事務所でゴロゴロもしていないし、タバコも我慢した。俺的には100点の店長だったはず。

「いいえ。特には。まあ、時間外のテルを働かせたとか?」

「それはいつもの事じゃないか?それにさ、うちで働いた分は後で清算してるだろ?なあ、テル」

「はい、ボーナスの時に」

「ほら!」

「ですよね。ベニちゃんはいつも的外れなんですよね。放っておきましょう。明日になったら忘れてますから」

「それもそうだな。それから、カンタ」

「はい」

《SUZAKU》開店当時からバーテンダーとして働いていたカンタ。もう何年目だろう。

「あのさ、もし俺が《SUZAKU》を離れる事になったら、ここお前がやってくれる?」

いきなりだったからか、カンタは目を丸くした。

フレアバーテンディングでは日本でも5本の指に入る程の実力者・テンちゃんの影で、カンタは地味に仕事をこなしてくれていた。テンちゃんが華やかなスポットライトを浴びる裏側で、地道にカクテルを作って提供してくれていたのがカンタだ。

酔っ払ったら仕事を放棄する俺やテンちゃんを引っ叩きながら、閉店作業を終えてくれていたのもカンタ。

「えっ?冗談ですか?それとも熱でもありますか?」

カンタは変な顔をした。

「冗談でもないし、熱もないけどさ」

「この店を俺が?」

「そう」

カンタは「はあっ」と息を吐くと、呆れたような顔をした。

「俺、ここの売り上げを落とさないでやっていく自信はないですよ。俺には箱、デカ過ぎ」

いや、カンタがいるから《SUZAKU》はスタッフが少なくても回っているのだ。

「そうか。もっと小さい店がいい?」

「どうせなら」

「うん、わかった。山下くんに相談する」

カンタは俺の腕を掴んだ。

「それ、マジで言ってます?」

「うん。お前こそ、うちに勤務して長いのにさ。悪いな、と思って」

「今更、言わないでくださいよ。うーん。俺、どっちかというとナンバー2の方が気楽でいいんですけどね」

「そうか?このビルのテナントで手頃な物件が空いたら、検討するから」

カンタは真剣な顔になって、俺と輝也の顔を見比べた。

「圭介さんにそういう権限あるんですか?」

「あります。俺、一応専務だから」

「何も専務」

いや、まさにおっしゃるとおり。

「でも専務ですから」

「一応偉いんですね」

「そう」

「ありがとうございます。でも、俺は出世しようとは思ってないんで。店を任されたら色々大変でしょう?圭介さんのおかげで給料も良いし。独立してバーを経営してる友人もいますけど、俺より収入は低いですよ。それに気に入ってるんですよ、《SUZAKU》を」

「うん。ありがと。でも、考えておいて。いずれは、って話し」

「はい。じゃあ、お疲れさまでした」

カンタは軽く手を上げて、タクシー乗り場に向かった。


「圭介さん、帰ろうよ」

「おう」

スーツ姿の輝也は、後姿も様になる。それを見て、俺は昔の輝也を思い出す。

「初めてスーツを着た時はネクタイが上手く結べなかったのにな」

「そうだっけ?」

「うん。いつも俺がチェックしてた」

薫が結んでやってたな。

「へへっ。上手くなったでしょう?」

「ああ」

輝也の手が伸びてきて、俺の手を包み込む。

「ねえ、知ってる。去年、山下店長がカンタさんに異動の打診をしたの」

「えっ?知らない。誰に聞いた?」

ほら!俺が知らない所で人事は動くんだよ。全く・・・。

「今日、三木店長から聞いた」

「それで?カンタは何と言ったんだ?断ったのか?」

「そう。即答だったってさ」

「どうして?」

「圭介さんが《SUZAKU》を閉めると言うなら異動するけど、そうじゃないのなら嫌だ、って言ったんだってさ」

「そうか・・・俺は今、思い付きで聞いたんだけど」

「えっ?そうなの?俺はてっきり、山下店長たちに聞いたからだと思ってた」

「違う。《有明の月》が開店した時にテンちゃんとヒガシが抜けて、カンタまで抜けられたらどうしようもないだろ?だからカンタには『もう少し待ってくれ』と、山下くんが話したのは聞いていたけど」

輝也は立ち止まった。

「あのさ。カンタさんは《SUZAKU》から動く気はないと思うよ」

「そうか」

「うん。《SUZAKU》はこのままでいいんじゃないの?」

「まあ、ね。帰ろう」

手を繋いで歩き出す。

《SUZAKU》は『S-five』の故郷のような存在。月が沈み、太陽が昇る。そんな当たり前の事を繰り返すように、変わらないのが《SUZAKU》なのだ。

*****

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こ、小鳥居くんっ、どこ行った?

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コメント
No title
日高様~~~

きゅうきゅううっっ(寒いですねっ)
昨日は都内も雪が降りましたよ、春分の日だっていうのに(>_<)
でも花粉も舞ってて桜も咲いてて、なんか変な感じです。

S-fiveもどんどん様変わりしていきますね。
圭介さんも色々考えてるのかな。
彼は輝君とさえいられれば幸せなのかもしれないけど・・・
でもやっぱり、ビジネスのことも考えなきゃね。
逞しくなった輝君を見て、誇らしくもあるはずだもの。

流浪の民、華恵ちゃんはどうなるのかしら(笑)
彼(彼女?)にも素敵なパートナーが見つかる日は来るのでしょうか(●´艸`)

2018/03/22(木) 13:24 | URL | にゃあ #-[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~きゅうきゅきゅっ(炬燵で丸くなってます)

> きゅうきゅううっっ(寒いですねっ)
> 昨日は都内も雪が降りましたよ、春分の日だっていうのに(>_<)
> でも花粉も舞ってて桜も咲いてて、なんか変な感じです。

雪でしたね!テレビで観ました~♪名残の雪ですから、浸ってくださいよ~♪
日高は今年は花粉は大丈夫でしたよ~♪かなり前からアレルギーの薬を飲んでいたからかな?にゃあさま、お大事に!!

> S-fiveもどんどん様変わりしていきますね。

そうなんです。日高もよくわからんのですwww←おい

> 圭介さんも色々考えてるのかな。
> 彼は輝君とさえいられれば幸せなのかもしれないけど・・・
> でもやっぱり、ビジネスのことも考えなきゃね。
> 逞しくなった輝君を見て、誇らしくもあるはずだもの。

圭介も飲んだくれてばかりではいられないんですよね。基本的なところは変化ないんですが、自覚してね!という感じです。

> 流浪の民、華恵ちゃんはどうなるのかしら(笑)
> 彼(彼女?)にも素敵なパートナーが見つかる日は来るのでしょうか(●´艸`)

華恵ちゃん。スッピンを見られてアラ大変、とかいろいろコメントを頂いてましたが、どうも彼女のコーヒータイムが気になりまして。

これからどうするんでしょうねえ?頑張れ、華恵ちゃん!

にゃあさま、お忙しそうなのにコメントありがとうございました!
2018/03/22(木) 17:15 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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