『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・13~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

「ねっ、小鳥居さんは何歳?」

隣を歩く輝也が、俺の顔を覗き込むようにして聞いた。街灯に照らされた俺たちの影が前に伸びている。顔を寄せ合ったそのシルエットが、まるでキスしているように見える。

「30、だったと思う」

だったよな・・・覚えてないな。

「落ち着いてるから、もう少し上に見えるけど」

「今まで小鳥居とは接点がなかったんだよな。黒川も小鳥居を《SUZAKU》に連れて来た事がなかったし、確か小鳥居は花火大会もクリスマスも来なかったよな?」

「ああ、うん・・・そういえばそうだね。強制参加ではないけど従業員はみんな来るし、アルバイトでも顔だけは出すよね。タダだし」

輝也は再び歩き始めた。吹き抜けていく風が冷たい。俺は首に巻いていたマフラーの中に顔を埋めた。

「そうなんだよな。黒川が自分のお気に入りを《SUZAKU》に連れて来ないのも珍しいけどさ、小鳥居は確か大晦日も来なかった。この前の新年会がほぼ『初めまして』だったんだよ。小鳥居の事、どう思う?暗いだろ?」

「暗い」と聞いて輝也は苦笑いした。

「暗いというか・・・。でも《SUZAKU》で笑っていたから驚いたよ。しーちゃんがね、小鳥居さんと引継ぎした時も『無表情だから異動に不満があるのかと思った』って、言ってたよ」

「へえ」

『笑い方がわからない』、と言った時の小鳥居の表情を思い出す。

「笑い方がわからない」のは面白くないからなのか、それとも「笑うな」とでも言われて育ったのか?家庭環境が「笑えない」状態だったのかもしれない。

だが、かなりハードな生い立ちのまあちゃんは一日中笑っているから、小鳥居の素地がそうなんだ。

「小鳥居さんに、今夜ここに来るように言ったのは圭介さん?」

「言ってない。勝手に来たの」

「・・・へえ」

「お茶しながら三木くんが買って来てくれた羊羹を食っただろ?テルたちが帰った後、いきなり『水羊羹を買ってきます』と言い出してさ。持って来たんだよ」

何でもいきなり行動するやつだ。掃除も水羊羹も。彼の行動は突然で、こっちが戸惑ってしまう。

あれ?もしかして小鳥居は奇をてらってるんじゃなくて、あれが平常なのか?

「ああ、あれね」

俺の机の上に置いてあった箱を思い出したのか、輝也は何度か頷いた。

プラスティック製の竹の容器に入った水羊羹は、3月から半年間販売されると箱書きされていた。こし餡と小豆入り小倉の2種類の水羊羹は、スタッフで平等に分けた。

ベニちゃんは休憩時間に「ストレスには甘い物だな」と言いながら美味そうに食っていたが、俺たちの分は輝也のカバンに中に入っている。

「小鳥居さんは圭介さんの事が好きなのかな?」

「はあ?」

「話しているうちに好きになった」の「好き」は、そっちだったのか?だが俺には、好かれる理由が思い当たらない。

「でも、接点ないしな。俺には好かれる理由がない」

どっちかというと嫌われてる可能性大だぞ。

「一目惚れだったりして」

「じゃ、すでに失恋だ。俺、あいつに『苦手だ』って言ったから」

「ショックを受けてるかもよ?」

「それ以前にテルの存在を知ってるだろ?あり得ない」

「そうかな?」

マンションに着き、ポケットから鍵を取り出した輝也がオートロックを開錠した。

ここはマンションが建ったに購入した。輝也も異動するし俺も本社での業務が多くなるしな。思い切って引っ越すかな?適当な賃貸マンションを探して、ここを賃貸にしても良い。

輝也が通勤に車を使うのは心配だな。引っ越すのが一番な気がする。


いつまでも、どこまでも、何も変わらないと思っていたけれど、少しずつ変化している。

信吾さんも、三木くんも、山下くんも、高田くんもだ。5人だけで支えていた『S-five』は、すでに5人だけのものではなくなってるんだよな。


 翌日から、伊織くんが車で輝也を迎えに来るようになった。

輝也としては「俺が車を出しましょうか?」なんだが、しーちゃんや猪俣から輝也の車の運転の下手さを散々聞かされた伊織くんが、『S-five』の社用車をしばらく借りる事にしたらしい。

多分、三木くん辺りが手配したんだろう。その方が安心だからな。輝也の助手席に乗るのは、それなりに覚悟が必要なのだ。

《有明の月》には定時に小鳥居が来るようになったが、俺がしーちゃんに感じていた安定感を小鳥居には感じる事はない。だが彼はしーちゃんから引き継いだ内容は完璧にこなす。

彼には「うっかり」、とかない。その点、黒川が気に入っていただけあるんだが、何しろ事務所では無表情だ。

《有明の月》ではその日のまかない担当をジャンケンで決めるが、小鳥居は参加しないで見ているだけだ。このまま彼が「店長」になっても、他の連中はやり難いだろう。とっつき難いし、会話は弾まない。

休憩中に仏頂面で事務所にいられたら、他のスタッフは息が詰まる。

「小鳥居」

「はい」

「ちょっと」

まかないを食い終えて、俺は小鳥居を店の方へと誘い出した。

 2人分のコーヒーを持って小鳥居が付いて来る。俺は一番日当たりが良い席に座って、小鳥居が座るのを待った。

駐車場が見えるこの席には、太陽の光が燦々と降り注ぎ外の気温を感じさせないが、風は強くて木々の枝は激しく揺れている。

「風、強いな」

俺は陽に当たりたくなくて、テーブルの横のブラインドを閉めた。エアコンは止まっているがその席は陽光だけで十分暖まっていた。小鳥居は「どうぞ」とコーヒーを俺の前に置く。

「ありがと」

キイッと音を立てながら椅子を引いた小鳥居は、「明日も春の嵐だそうですよ」と言った。あれ・・・?結構話しをするようになったじゃないか。

「春の嵐ばっかだな」

時々、激しく木の枝が撓る。

「今日は草むしりはいいんですか?」

「ああ、大丈夫。風が強いから」

行儀良く俺の前に座った小鳥居は、相変わらず無表情だ。

「俺、明後日からここへは来ないから」

「ええ、お聞きました」

「大丈夫か?」

自分で聞いてアホらしくなるような質問だった。それを聞いた小鳥居はふっと、口元を緩めた。バカにしたような感じではなく、心が緩んだ感じだ。

「ええ、大丈夫ですよ」

「そう」

古民家を移築して造られた《有明の月》の黒光りする天井の梁や柱ともお別れだな。

テーブルも椅子も欅を使い工房に特注して製作してもらった品だ。カウンターに使われている欅の一枚板の長さで加藤美弥子とケンカになったのも、懐かしい想い出だ。

美弥子も元気かな?

最近は花火大会にも大晦日にも顔を出さなくなったしな。顔を合わせればケンカしていた美弥子だが、姿を見なくなると結構寂しいじゃないか。

「橋本店長」

「何だ?」

「何かご用でしょうか?」

「いや、何も」

お前がいると他のスタッフがソワソワするからだよ。

「そうですか」

「昨日は、わざわざ店に顔を出してくれて、ありがと。水羊羹もありがとう。ベニちゃんが気に入ってた」

「そうですか」

小鳥居は何か言いたそうにしたが、言葉は飲み込んだ。言えばいいのに。

「あのさ」

「はい」

「今まで花火とか、黒川に誘われなかったのか?」

「誘われましたよ」

「どうして来なかった?」

「俺が行ってもしらけるかな、と」

「お前、自意識過剰だろ?誰も気してない」

そのテンションであの場にいたら、誰も気が付かない。

「そうですよね。わかってるんですが・・・」

「クリスマスも大晦日も来なかったな?」

「黒川店長には誘われましたが、行きませんでした」

「どうして?」

「俺が行ってもいいのか、と・・・」

「引っ込み思案か?」

「・・・かもしれませんね」

「そうは見えない」

「そうですか?」

「うん。店ではちゃんとしてる」

「仕事ですから」

「仕事」と割り切れば何でも出来る、ってわけじゃない。それはストレスにはならないのだろうか。

「ふうん。この前さ、俺に『笑い方がわからない』と言ったじゃないか?何か理由があるのか?」

「・・・理由というか、まあ・・・色々」

小鳥居はそれから先の事は口を噤んだ。そうか、俺は明後日にはここからいなくなるんだった。言っても同じだね。
 
*****

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これだけ人に構う圭ちゃんは珍しいな。

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