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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・8

 本社へ戻ると稲村くんだけが残っていた。秀人の車はないから先に帰宅したようだ。

「遅くまで悪いね。飯は食ったの?」

「いいえ、まだです」

時計は8時を指していた。今日は稲村くんが遅番だ。

「そう。申し訳ないな。社長は上?」

「ええ、ご自宅にお戻りになりました」

「君に飯くらい食わせてから帰宅して欲しいよね、全く。愛しの怜二くんに晩飯を作るって張り切っていたからな」

「ああ、それで!大きな買い物袋を提げてお帰りになりましたよ」

疲れて帰宅する怜二くんを手料理で労おうというわけだが、自分の大切な社員も労って欲しいよ。信吾さんとしては、稲村くんは子どもじゃないんだから適当に食うだろう、というところだ。

「今から自宅に押し掛けて、社長の手料理を食わせてもらうか?」

「あははっ。即、『クビだ』とおっしゃるでしょう」

「ははっ。愛しの怜二くんの為に作ってるんだからな。どうする?これから一緒に飯でもどう?」

「ここは誰も残らなくてもいいんですか?」

「上には社長がいるからいいんじゃないか?車で怜二くんを駅まで迎えに行くから、あの人は飲まないし。急用があればここじゃなくて俺の携帯に連絡が入るよ」 

普段なら23時くらいまでは誰か残っているが、急用があれば本社にではなく俺か三木くんに連絡が入るのだ。ここを開けておく必要はない。

「急ぎの仕事がないのなら行こう」

「では、ご一緒させて頂きます」

彼と飲みながら、ゆっくり話しをする機会は多くはない。俺としては、稲村くんにいつも迷惑を掛けている圭介くんと高田くんの代わりに労う、という気持ちもあったのだ。


 稲村くんを連れて秀人とよく行く小料理屋に入った。

ここの女将はなかなかの美人で、客層もいい。カウンターの奥には個室が2つ。そこに席を取って、稲村くんと日本酒で乾杯した。

「綱本さんは良いんですか?」

「ああ、連絡したよ」

先に帰宅した秀人はすでに晩飯を準備していたが、連絡すると「ごゆっくり」と言った。

「稲村くんには迷惑掛けてばかりで申し訳ないね」

彼は実質的に3人の役員の秘書をこなしているわけだ。3人のスケジュール管理は勿論だが、信吾さんの予定に合わせて俺、圭介くん、高田くんの3人を上手い具合に会合や会議、パーティーへと振り分けていく。会社の規模が大きくなるにつれて付き合いの幅も広くなった。

信吾さんの持ちビルで開店する場合は、今までは簡単に「はい、決まり」で良かったが、今では『滝山不動産』との契約書作成から始まる。圭介くんが「メンドクサイ」と言うのもよくわかるが、それでも他所のテナントで開店する時よりは事務手続きは簡略化されている。

その点、『滝山産業』内に開店する予定の《サラダボックス・B》は『滝山産業』の不動産部門との契約を交わしたわけだ。賃貸になるので、契約内容も煩雑で細かい。

以前なら資金が足りない、となれば信吾さんの個人資産から繰り出していたが、今はそれもない。俺らの収入も増えたが、仕事も増えた。だが、今まで俺がやっていた仕事を稲村くんに任せていられるので、大変ありがたいのだ。

彼のおかげで帰宅時間も早くなり、早番だと19時には社を出られるようになった。

「いいえ。ここの仕事は楽ですよ」

「そうかい?もしかして物足りない?」

「いえ。ノンビリやらせてもらってます」

「そう?」

「はい」

彼は物腰も柔らかで、秘書としては満点だと思う。今のところ俺が勝手に動くから、稲村くんは本社にいてもらう事のほうが多いが、一緒に出掛ける事も少なくはない。

営業で同行してもらうと、彼の実力がよくわかる。相手への気配りは勿論だが、痒い所に手が届く。相手先の事前調査も念入りで、時には三木くんが乗り移ったかのように精巧で緻密な作戦を練っているのだ。

「君ならもっと大手でバリバリと働けるんじゃないのか?」

「いいえ。私はこちらにお世話になって、本当にホッとしております」

稲村くんはこの店の名物の鯛めしに手を付けた。ここの鯛めしは、鯛の出汁で炊いたご飯の上に鯛の身をそぼろにした物が敷き詰められている。

「うん、美味しい。初めてですよ、そぼろタイプは」

「そう?秀人が好きなんだよね、ここの鯛めし。稲村くんにうちを気に入ってもらえて、本当にありがたいよ」

稲村くんは辛口の大吟醸が気に入ったようで、何度も口に運んでいた。

「以前勤務しておりました会社は、出張が多くて大変でした。日本だけではなく海外まででしたから、日本にいても部屋に戻れるのは週に1、2度でした。自分の生活道具一式がロッカーに置いてあるような状態でしたね。クリーニングに出したスーツやシャツをそのままロッカーに放り込んでいましたから。同僚が体調を崩してしまい、彼が休んでいる分を埋めようと頑張っていたんですが、私まで体調がおかしくなりまして」

「へえ」

精神的に追い詰められていたのか。これまで彼と同じ車に乗っていても、個人的な事情を聞きだす事はなかったからな。

「転職を考えておりましたところ、友人から綱本さんを紹介されました」

「そうだったんだ。元々、秀人とは知り合いだと思っていたよ」

「綱本さんが『赤羽急便』に勤務されていた時に、顔見知り程度ですが」

「そうだったんだね。だが、うちも大変だろう?面倒なヤツが多くて」

稲村くんはクスッと笑った。

「面倒、というか皆さん、個性的ですね」

「個性が強過ぎる、かな?」

「あははっ」

「秀人がうちに移ってくるまでは、三木くんが秘書代わりでね。三木くんの仕事はかなりハードだったよ。秀人が入社してからは、事業も広がって業績も上がった」

「そのようですね」

「まだまだ発展途上だからね、うちは」

「ええ。ところで、《インカローズ》の件は話しが進んでいるようですね」

「ああ。《インカローズ》のオーナーとは、《白夜》がまだ《八番館》と呼ばれていた頃からのお付き合いなんだ」

「社長にもそうお聞きしました」

「価格的にもお互いに納得がいく線で決まりそうだよ」

「良かったですね」

「ああ。そういえば、君と2人でこうして飲むのは初めてじゃないかな?」

「はい。初めてです。いつも綱本さんと一緒にお帰りになられますから」

「そうだったね」

稲村くんは微笑みながら「羨ましい」とボソリと言った。

「稲村くんは一人暮らし?」

「はい」

稲村くんは確か都内の一軒家に住んでいたな。

「一軒家だったよね?一人では大変じゃないか?管理とか」

「ええ。元は祖父母の家だったんですよ。空き家にしておくと家は荒れますからね。大学時代に父に頼んで一人暮らしを始めました。今は家賃も払っていますよ。『S-five』に移ってからは休日には草むしりをして庭木を切ったり、自分で出来るようになりました。以前は庭師さんに依頼していましたから、助かります」

「へえ」

「古い家なんですが」

「思い出が詰まってるの?」

「・・・ええ」

良い想い出なのか、悪い想い出なのか判断が付かなかったが、稲村くんはそれ以上家の事を語る事はなかった。

*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

タイトルのわりには「恋」とはかけ離れた展開(笑)そんなのいつもの事だろう?と笑ってくださる方が読んで下されば、それでいいですwww

昨日の更新をお休みしたので、オマケです♪お暇な方だけどうぞ~♪

【業務日誌】

「まあちゃん、何してるの?」

「ヒッ」

「どうしたの?俺だよ。お化けじゃないよ?」

どこからどう見ても山下店長だ。今日も綺麗だ。お肌には何を付けてるんだろう?いつもモチモチ素肌だ。

「えっと・・・その」

「立ち聞きかい?」

「ち、違いますよっ!」

ほんの10分前。《インカローズ》のオーナーが《白夜》にやって来た。

僕は貯金をはたいて、《インカローズ》を買い取ろうと画策していたのだ。オーナーをお見舞いに行った時には、渾身の千羽鶴(450くらいだったけど、わざわざ数えないから大丈夫)を持っていき、三木店長お勧めの美味しいゼリーセットも持って行った。

それなのに!

オーナーは「後の事は信吾ちゃんに託そうと思っているんだ」と言ったのだ。僕はどうなるの?僕は《インカローズ》のオーナーになって老後に備えようと思っていたのに!

僕はヒロオミさんとオーナーの話を聞こうと、ドアに耳を押し当てて会話を聞いていたのだ。山下店長に見つかるなんて、最悪。

「中に入ればいいじゃないか?」

「えっ?」

「気になるんだろう?」

山下店長はニコニコ笑いながら言った。彼は、中でどんな話をしているかわかっているのだ。

「あの・・・違います」

「ドアに耳を当てていただろう?ヒロが入るなって言ったの?」

「その・・・はい」

「気になるなら一緒においでよ」

「・・・はいっ!」

山下店長、今日は女神さまみたいに輝いて見えるよ。


「花ちゃん、今日も可愛いね」

「オーナーッ!ありがとう。でもね、ボケるの早いと思うよ?僕は『まあちゃん』だからね?忘れないでよ」

「ごめん!つい、ね」

オーナーの隣に座るとヒロオミさんが僕を睨んで、山下店長を睨んだ。オーナーは僕の手を握って「スベスベのお手手、変わらないなあ~」と感激している。僕に《インカローズ》売ってくれるなら、手くらい好きなだけ触ってくださいっ!

「まあちゃんに会えて嬉しいよ」

「僕も!」

「お見舞いに来てくれてありがとう!今日はお礼に伺ったんだよ」

「そうなの?良かったね!オーナーが点滴してるからさ、僕の方がドキドキしちゃったよ!」

「大丈夫だよ。見舞い客には点滴はしないからさ」

2人で手を取り合って、病気が良くなった事を喜び合った。ヒロオミさんは怖い顔で、僕と山下店長を睨んでいる。

「真樹、出ていなさい」

うわっ・・・ご機嫌悪い。でも、出て行かない。山下店長が良いって言ったもん。

「いいじゃないか?大切な話しの途中だろう?ねえ、まあちゃん」

今日の山下店長は、神さまよりも偉いと思う。

「はいっ!」

「・・・アキがそう言うなら」

ヒロオミさんは渋々僕がいる事を認めた。「大切な話」はわかっている。《インカローズ》をどうするか、だ。僕とヒロオミさんの老後の為にも、あそこは僕が手に入れるんだ。僕はオーナーの手をグッと強く握った。

「それで決まったの?」

「ああ。一応キリヤに店長を任せようと思っている」

「ええっ!?」

どうしてキリヤさんなの?おかしいよ!キリヤさんはお見舞いには行ってないんだよ?

「真樹、静かに」

「・・・はい」

「キリヤくんか。彼は《白夜》のナンバーワンじゃないか。こっちの売り上げが下がるよ?」

「だが、他に適任者はいないぞ。黒服の中では土師だが」

「土師くんには他を頼みたいからダメだよ」

「じゃあ、どうするんだよ?」

「まあちゃんはどう?」

「真樹を?」

えっ?山下店長?頭、大丈夫なの?

「まあちゃんに《インカローズ》の店長を任せようよ」

「おい、アキ」

「いいじゃないか!まあちゃんがいるなら私は毎晩でも遊び行くよ」

「ほら?良いお客さまもいらっしゃるでしょう?」

「だが!」

「はいっ!僕、やります!」

僕は真っ直ぐに手を上げた。天井に穴が空くくらい高く高く。

続くのであった。

by花岡真樹

   日高千湖

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コメント
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2018/03/28(水) 02:57 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Nさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Nさま~いらっしゃいませ♪

いつもご訪問ありがとうございます!すみません、いつもながら読み難いですねwwwもうちょっと進むと、「誰」がわかると思います。

彼らの世界も少しずつ変化していて、圭介だけではなく山下くんも不自由を感じていますね。(それは他の3人もかな?)以前のような自営業の延長のような感じでは事業展開が難しいでしょうね。

このシリーズもそろそろおしまいかな?と感じている所なのですが、皆さまのお声も無視できないでいます。

それから「ひそひそ」をありがとうございます!!ドラマを観ながら最後の修正をしてましたら、やっぱり間違えてましたwwwダメですね、集中力がなくて。申し訳ないです!!

あと1、2話でこちらはNさまの???の答えが見えてくるかと思いますので、よろしくお付き合いくださいませね!コメントありがとうございました!
2018/03/28(水) 07:03 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
No title
まあちゃん、店長就任おめでとう!業務日誌と本文最後の日高様のつぶやきが大好きです!
2018/03/28(水) 16:05 | URL | ひばり #69qvYmT6[ 編集]
Re: ひばりさま~いらっしゃいませ♪
ひばりさま~いらっしゃいませ♪

> まあちゃん、店長就任おめでとう!

まあちゃんの昇進にお祝いのお言葉をありがとうございます!

業務日誌は思い付いた時に入れてるんですが、最近は皆さまの反応もなく(笑)もういっかな~と思っていたんですが。喜んでくださる方がおられるなら、書いちゃおうかな?

つぶやきはなんでしょうね?愚痴が多いような気がするんですが、大丈夫ですかね?まあちゃんのその後はまたオマケコーナーでUPしたいと思います。また読んで下さいませね!

コメントありがとうございました!
2018/03/28(水) 17:43 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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