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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・3~『Love me do』番外編

「こんばんは!」

『ひいらぎ』が閉店する10分前に、若がドアを開けた。

 若は着物から洋服に着替えていた。明るいブルーの薄手のニットに細身のオフホワイトのボトムスと革靴。紺色のステンカラーコートが若らしくて上品だ。合コンに参加した女性たちは、みんな若を好きになるに違いない。サラサラの髪で清潔感があって、本当に「若旦那」という感じ。

「こんばんは、若。家永さんはまだギャラリーの方ですよ」

「家永さんじゃなくて、航くんに用があって来たんだよ」

えっ?もしかして本当に合コンのお誘いなのかな?

「何でしょうか?」

「合コンだよ」

若はニタッと笑った。本気の本気で僕を誘いに来たのかな?

違う。おそらく、そうではなくて本当は家永さんを誘いたいんだ。僕が参加するよりも家永さんの方が女性たちは喜ぶに決まっているのだから。

「冗談でしょう?」

「本気だって!航くん、今夜だけでいいから付き合ってよ?」

若の表情は真剣だった。ああ、僕は引き立て役なのか。

「本気だったんですか?」

「当然だろう?」

「・・・僕はご遠慮させて頂きます。苦手なんです」

「いいじゃないか!1回だけ!お願いっ!」

若は手を合わせて「お願いです!」と頭を下げた。もうすぐ19時だ。

「すみません、僕は合コンとか苦手なんです」

「女性が?」

「いえ、そうじゃなくて・・・合コンが」

違うな。男女共学だったけれど、女子が僕に話し掛けてくる事はなかった。成績は最悪、友だちもいない。暗い性格で学校ではいつも下を向いていた僕は、女子には興味は持てなくて、女子も僕には興味を示さなかった。

それに合コンは男女が出会いを求めて集まるわけだから、どう考えても僕には参加する意味がないんだよね。「お付き合い」だとわかっていても行く気にはなれないのだ。ずっと下を見てるのも楽しくないしね。

「行った事があるのか?」

「ないです」

「ないけど苦手とか、おかしいぞ?」

「若には悪いけど、ごめんなさい」

「はあっ」

若は大きな溜息を吐いた。そして店の入り口に置いてある大きな睡蓮鉢に手を付いた。

「メダカはいいよな」

「えっ?」

「神さまは不公平だよね?」

メダカと神さまは関係あるのかな?

「メダカは跡継ぎがどうのと言われないだろう?」

「若、メダカもそれなりに子孫を残す為に頑張ってますから」

「弟は呉服屋は嫌だ、と言ってさっさと出て行ったしさ。妹は兄さんに子どもが出来なかったから私が継ぐわ、とか言うし」

若の愚痴は睡蓮鉢に吸い込まれていく。メダカたちは迷惑だろうけど、これで若の気が済むなら聞いてもらおう。

「それ、家に帰って親に言いなよ」

階段の途中から、吉塚さんが呆れたように若に言った。2階のお客さんはもういなかったから、後片付けを終えた吉塚さんは電気を消して降りてきたのだ。

「カンナちゃん、ダメか?」

「無理です」

「はあっ・・・俺も親には言ったさ。でも無視された。だってさ、弟は出ていったけど親が死んだら『相続権がある』とか言って遺産は欲しがるんだぜ?妹は虎視眈々と社長の座を狙ってるし・・・」

「若、それは家で言ってくださいって!」

若の声はますます大きくなって、睡蓮鉢に顔を突っ込むようにして言った。

「ああっ!俺の癒しは航くんだけなのに!」

僕が癒やしになるとは思えないけれど、若にも事情があるようでなんだか可哀相になってきた。

「・・・わかりました」

若は嬉しそうに振り返った。

「OK?」

「家永さんに行ってもらいましょう」

一番の適任者だしね。

でも若はガッカリした顔をした。

「・・・航くん希望」

「無理です」

「頼む!今日の相手はアパレル系なんだよ。美人揃いなんだ」

「若、残念ながらうちの航くんに敵う美人はそう簡単にはいませんって」

「吉塚さん、それはないですよ」

「カンナちゃん、それを言うなよ。俺だってわかってるさ」

ガックリと肩を落とした若は、また睡蓮鉢の縁に手を当ててメダカたちに向かって言った。

「お前たち、いいなあ。泳いでるだけで航くんから餌をもらえて。俺なんか一日中営業に回って、店では顔の筋肉が痛くなるくらい笑ってるんだぞ。それなのに、妹には売り上げが減ったと文句を言われ、弟には親が死ぬ前に生前贈与を考えて欲しいと言われ・・・。俺はマジで頭がどうにかなってしまいそうだよ!」

「若!メダカにストレスが溜まりますから、止めてくださいよ!そのメダカたちは家永さんと航くんの愛の証みたいなもんなんですからね!」

えっ?いつ「愛の証」になったの?

「はあっ・・・俺はメダカにも遠慮しないといけないのか?」

「だから!家でお願いします。ハ、ハッ、ハッション!」

「俺が家出したらカンナちゃんの所為だからな?」

「どうして俺?」

「仕方がない。家永さんでお願いします」

やっと若が睡蓮鉢から離れてくれた。ガッカリしているようで、嬉しそうだし。おかしな人だ。

「じゃあ、一緒にギャラリーに行きましょう」

「・・・仕方がない」

どうして僕を誘うのか理由がわからない。若は知ってるはず。僕は女性には興味がないって事を。


 若は嫌がる家永さんを連れ出した。

ギャラリーの模様替えはほとんど終わっていて、僕が残りの作業を引き継いだ。戸締りと火元の確認だけだから簡単だ。最後まで残っていた作家さんを見送って、裏口から出ると外は真っ暗だった。

商店は19時で閉店の所が多く、明るい所はレストランや定食屋とか居酒屋だけだ。

 駅の構内を抜けて北側のエリアに出ると、南側と同じような商店街があるが南側とは少しだけ雰囲気が違う。『ひいらぎ』のある南側に広がる住宅街の方が、少しだけ地価が高いらしい。

北側の商店街の中を真っ直ぐに進み、家永さんと一緒に住んでいるマンションまで徒歩で約7、8分。「一緒に住んでいる」とは言え、実は僕が住んでいたマンションはそのままにしてある。家賃が勿体無いけれど、家財道具はそのまま。

 理由は湊が合鍵を返さないからだ。

湊は僕が家永さんと付き合っている事も知っているし、僕が自分の部屋にはほとんど戻っていないという事もわかっている。

合鍵は、初めて一人暮らしを始めた時に湊に渡した。受験に失敗した湊が家を窮屈に感じた時に「一人になりたい時に使わせて欲しい」と言うので、合鍵は返してもらわなかった。

一年後、湊は見事に東大に合格した。もう合鍵は要らないと思うんだけど、湊は返してくれない。一度「返してくれ」と言ったが、湊は「今度ね」と言って返してくれないのだ。

周囲からは「同棲ではなくルームシェアだ、と言えばいいじゃないか」とアドバイスされたけれど、それでも母からの食料品はなくならないと思うのだ。それなら母に余計な事を考えさせたくないのだ。


「ただいま」

誰もいないとわかっているけれど、つい口にしてしまう。今日の晩ご飯は八百屋の奥さんからブロッコリーを頂いたから、シチューの予定だった。

でも家永さんがいないから、予定は変更。ご飯はあるから、冷凍庫の中から作り置きのカレーを出して解凍した。ブロッコリーと卵を茹でて、少しだけ残っていたレタスとハムでサラダを作る。吉塚さんからもらったお手製のドレッシングを掛けて、簡単なご飯。

手の込んだ物ではないけど、家永さんと2人で食べると美味しいから不思議だ。今夜は一人だけど、家永さんがここへ戻ってくると思うと気持ちは落ち着くし、ご飯も美味しい。

「テレビ、点けよう」

特に観たい番組はないけど、何となく音だけでも寂しさは紛らわせる事が出来る。

家永さんは商工会や青年部の活動や商店街の会議があって、夜も忙しい。一緒に住んでいるからといっていつも一緒に帰宅して一緒にご飯を食べるわけではない。

でも、彼がここに戻ってきてくれると思えるだけで嬉しいのだ。


「合コン、何時までかな?」

23時。家永さんはまだ帰って来ない。こういう事も少なくない。

きっと若に「もうちょっと!」と、引き止められてるんだろうな。僕は風呂に入って、ベッドに入った。明日も8時半には出勤しなければならないのだ。

 ウトウトしていた。物音に気が付いて目を開けると、リビングから明かりが漏れていた。

「お帰りなさい」

ドアを開けると、家永さんがジャケットを脱ぎソファーに座ってネクタイを引き抜いていた。

「ただいま。ごめん!起こしちゃったね」

「物音がしたから」

「若が帰してくれなくてさ」

「そうなんだ。家でのストレスが溜まってみたいだったよ」

「もう一軒行くって、キャバクラに行ったよ」

「楽しかった?合コン」

家永さんが立ち上がってきて、僕をギュッと抱き締める。タバコと酒の匂いがする。

「航が一番だ」

「アパレル系の美人だったんでしょ?」

「まあまあ、かな?」

「まあまあ?」

「合コンはさ、どんなメンバーが来るか聞くと、必ず『綺麗どころを連れてくる』とか『みんな可愛い』と言うんだよ。でも行ってみたら残念、ってパターン。でも、今回はまあまあだ」

「そう」

「若も言ってたぞ。航の方が綺麗だって」

「・・・そう?」

「うん」

若がどう言おうが気にはならないけれど、家永さんが「今回はまあまあ」と言ったのは気になる。「美人揃い」だったのだ。

「俺、シャワーだけ浴びてくる。タバコ臭いだろ?」

「うん」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

ポンポンと背中を叩かれて、それだけで僕は安堵していた。家永さんの大きな手の温もりが背中から沁み込んでいくような気がした。

*****

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ふふふっ、今年もキスマイ行っちゃうもんね~.+゚ゎくゎく.+゚(o(。・д・。)o).+゚ぅきぅき.+゚

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2018/03/29(木) 23:40 | | #[ 編集]
Re:鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪
Aさま、いらっしゃいませ♪

初合コンとはなりませんでしたね!残念でした。行っても彼は面白くないでしょうから、食べるだけで(笑)

貞淑な妻、というよりも本人はひたすら大人しくしてる人ですから。合コンは家永が適任ですよ(笑)

>家永さん、ちゃんと航君を大事にしてますか?

さあ?どうでしょうね?家永は「心外だ」、と申しておりますよ(笑)

航は輝也のように誘われたら断りきれずに、「ごめん!合コン行ってくるね」という事もなく、行かないと決めたら梃子でも動かないようなところがありますからね。ある意味、空気は読みませんwww

すみません、色々UPしているのでお待たせしますが読んでくださって嬉しいです~♪コメントありがとうございました!
2018/03/30(金) 07:05 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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