『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・10

 いつもの時間に秀人と揃って出社した。

「おはようございます」

「おはようございます。山下常務、昨夜はご馳走さまでした」

稲村くんはすでに机に着きデスクワークを始めていたが、キチッと立ち上がって挨拶した。

「楽しかったよ。次は桜でも見ながら、どう?」

「ありがとうございます」

「庭が見事な店があってね。毎年、古いエドヒガンが4月の半ばに咲くんだ」

「楽しみにしております」

その会話を聞いていた秀人が背後から、「私も」と言ったが俺は無視した。

 しばらくすると、上から外階段を駆け下りて来る靴音が聞こえてきた。信吾さんが出勤して来たのだ。エレベーターを使えばいいのに、運動の為と称して階段を使うのが最近の彼のマイブームだ。

「おはようございます!」

元気良くドアを開けた彼は、社員たちに朝の挨拶をしながら自分の席に着いた。

「おはようございます」

「山下くん!昨日は早かったんだね?」

「気が付いていましたか?たまにはいいでしょう?何かあれば私か三木くんに連絡が入りますから」

「構わないよ。問題はなかったんだろう?」

「ございませんよ」

秀人は今日の予定表を信吾さんの机の上に置き、稲村くんは準備していたコーヒーを運んできた。

「ミーティングを始めてもよろしいでしょうか?」

「お願いします」

昨日から始まった新人研修の件、これは報告だけ。現地に居た信吾さんは内容もわかっているから、ただ聞き流している。《サラダボックス・B》3号店の出店に関する『滝山産業』との打ち合わせの件。

「3号店ですが、A、B、C案のいずれを採択するか明日の会議で決定したいと思います」

信吾さんは資料を見ながら腕組みした。

「怜二がさ、どれが自分の作品か言わないんだよね」

「社長」

「はい」

「私語は禁止です」

「えーっ?これは私語なのか?」

「私語です」

「はあっ・・・。山下くんは厳しいね」

特に厳しいわけではない。

「わかりました。私語禁止ね。それから・・・ああ、これ!《インカローズ》の店長候補は誰になったんだ?三木くんとも話し合ったんだろう?」

信吾さんは片肘を付き、親指で顎を触りながらiPadを弄る。《インカローズ》は従業員込みで居抜きで買い取る事が決まり、改修に向けての業者との話し合いも明後日から始まる。

「店長には、《白夜》の花岡くんが適任かと思われますが」

「まあちゃん?」

信吾さんが素っ頓狂な声を上げた。まさしくその顔は、鳩に豆鉄砲、だ。

「驚き過ぎでしょう。何ですか?今の声。どこから出してるんですか?」

ポカンと開きっ放しの口を閉じ、唇を噛んで首を傾げる信吾さん。花岡真樹くんを推す意味がわからない、という顔だ。

「どこって・・・俺の声はどうだっていいんだけどさ!まあちゃん?"あの"花岡真樹くん?」

「ええ。彼は《インカローズ》のスタッフとも親しいですし、何しろ彼は《インカローズ》の太客も掴んでいますからね。上手くやりますよ」

信吾さんは不安そうに秀人を見た。秀人が無反応だから、その目を稲村くんに向ける。稲村くんはまあちゃんとの接点は無いに等しい。同意を求められても、反応出来ない稲村くんも目を伏せる。

「彼で大丈夫かな?」

「大丈夫でしょう。高田くんが傍にいますから」

「そうかな?知ってると思うけどさ、彼はアルファベットの歌もろくに歌えないんだけど?」

「歌は関係ないでしょう?」

「いや、九九も怪しいぞ?」

「そんなもん、パソコンと電卓がやります」

彼は知らないのか。お金の計算をする時のまあちゃんの暗算の速さと正確さを。

「山下くん?」

「高田くんがフォローしますから。それに適材適所、じゃないですか?」

「だが」

「彼は《白夜》でも指名は極めて少なく、ヘルプに付く事の方が多いです。容姿や仕草が可愛らしいですから、女性の前でも笑っていればそれなりにウケますが、そこまでなんです。ですが、《インカローズ》勤務時の彼は指名数も多く、オーナーにお聞きしました所、相当数の太客を持っていたそうです。《白夜》では売り上げに貢献出来なくても、《インカローズ》なら期待出来ますから」

彼は元々、《インカローズ》では常に2位、3位の売り上げ実績があったのだ。それを高田くんが強引に辞めさせて、《白夜》に移した経緯がある。

まあちゃんが女性相手の《白夜》にいても、「あら、可愛いわね」で終わってしまうが、《インカローズ》なら本領発揮出来るはずだ。資料として彼の《インカローズ》時代の売り上げ成績表を示すと、信吾さんは「うーん」と首を捻る。

「《インカローズ》は従業員も居抜きですから。高田くんが補佐すれば、店は回ります。まずは様子を見てみませんか?ダメなら替えればいいでしょう?」

信吾さんは渋々だが首を縦に振った。

「会議に諮ってからね。高田くんが『うん』、とは言わないかもしれないだろう?」

「社長」

「はい?」

「そういうのはナシでお願いします」

『S-five』はすでに個人事業主のレベルではないのだ。高田くんがどうの、とか圭介くんがどうのとか、個人の意見を重視してばかりはいられない。それがわかっているから、福原輝也の《Blau Garten》異動に関しては圭介くんに口を挟ませなかったはずだ。高田くんにも同じように対応しなければならないのは当然だ。

勿論、そういう人情的な部分は残してもいいと思う。そういう所がうちらしい、とも思うので。春山のような場合は、型にはまって処理する必要はないと思うし、縁故入社も当然有りだ。

だが、線引きは必要なのだ。幹部が好き勝手にして良いのとは違う。

「そうだったな。つい」

先週の圭介くんの一件を知っている稲村くんが苦笑した。


 今日は午前中は外回りだ。稲村くんを同行して、『滝山産業』と星望学園大、中・高等部に行く。星望学園には毎年4月に保護者会の歓送迎会で利用して頂くので、その打ち合わせ。

信吾さんと秀人を見送った後、俺は稲村くんと共に本社を出た。

運転を稲村くんに任せて、後部座席でシートに背中を預けても何となく落ち着かない。分不相応な気がして、今でも稲村くんと交代してハンドルを握りたいような気分だ。

以前から契約しているタクシー会社から信用できる運転手さんを2人引き抜いたが、うち1人は辞めてしまって、今は運転手は信吾さんに付いているだけだ。

 《サラダボックス・B》の出店に関する『滝山産業』側の担当者は蔵野部長。

「稲村くん、蔵野部長は最近飲食部門に異動になった方かい?」

「そのように伺っております。隼人社長が抜擢なさったそうです」

「そうか。蔵野さんか・・・知らないな」

資料には『蔵野部長』としか書かれていなかったが、以前渡された高架下プロジェクトのメンバーの中には、「蔵野」という名前はなかったはずだ。

「私も蔵野さまは存じません。三木社長にも確認しましたが、ご存じないそうです。隼人社長が他所から引き抜いてこられたようですが、それだけしかわかりませんでした。情報不足で申し訳ございません」

「隼人が引き抜いてきた?それでいきなり部長ですか?」

「ええ」

「異例の大抜擢、って事か?」

「はい」

「ふうん・・・。あの会社は同族会社で、頭の硬い爺さんがゴロゴロいるんだよね。他所からきた者は信用出来ないとか、代わりにうちの息子を昇格させろとか、そういう世界」

「ははっ」

「俺らも本社ビルを建てる前に、『滝山産業』の会議室を借りて会議をしていた時期があるんだよ。だから滝山家の株を持っているだけの、頭カチカチの爺さんの面倒臭さはよく知っているんだ」

あの頃は信吾さんと義道会長の仲が悪くて、顔を合わせれば口論になったり、信吾さんが義道会長を無視するから俺らがトバッチリを食らっていたんだよな。

「山下常務は、意外と口がお悪いようですね」

「ははっ。あちらさんには聞こえないから。耳は遠いしね」

稲村くんは、クククッと笑いながらウィンカーを上げた。

「都合の悪い事は聞こえないようですが、悪口だけはよく聞こえるようですから。お気を付けて」

「稲村くんこそ、人の事は言えないじゃないか?」

「それはお褒めの言葉と受け取ってもよろしいでしょうか?」

「はい」

信号を左折した先には、巨大な『滝山産業』の本社ビルが見えてきた。

*****

ご訪問ありがとうございます!4月1日から更新をお休みしてまして、もしかしてエイプリルフール?と思われたかしら?

何とか気分も浮上してきましたので、ひっそりと再開したいと思います。すみませんでした。まあ色々あるんですが、少しだけ別宅にて毒を吐き出しております。

心配してコメントを下さった方、ありがとうございました。拍手鍵コメ・Rさま、お返事は青い朝・14話のコメント欄にて書かせて頂いております、ご確認くださいませ!

ここからまあちゃん店長への道のオマケコーナーへと続くわけですwwwオマケ先行型(笑)

まあちゃん関係の【業務日誌】を未読の方はこちらからどうぞ♪オマケはいつものように後書きの所にございますのでズズズーーッとスクロールしてくださいね。
青い朝・4~『待つ夜ながらの有明の月』番外編
恋とは戦さのようなもの・8
恋とは戦さのようなもの・9
若き、花岡真樹の悩み←こちらは三木店長目線ですが、まあちゃんの《インカローズ》入手計画はここからすでに始まっております。

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コメント
拍手鍵コメ・発起人さま~いらっしゃいませ♪
発起人さま、こんにちは~♪

いつもご訪問ありがとうございます!励ましのお言葉ありがとうございます!

日高も長ーい事生きておりますが、姑の事で今回のようにキレたのは初めてでした。まあ、今までも色々「このクソババア!」と思うような出来事は多々ありましたが、それで終わってたんですよね。
今回は内部では処理できないです(笑)

すみません、妄想とは懸け離れたリアルな出来事でご心配をお掛けしてしまいました。

イケメンなしの銀香ですか?もしかしたら奥に隠れてるかもですよ?

日高もいつフラッと消えるかわかりませんしね!気力が続く限りは、ここに居りますよ。

皆様の夢をぶち壊すような記事にもかかわらず、愚痴を聞いてくださる方々に感謝です!!お優しいお言葉、ありがとうございました!

また遊びに来てくださいませね!拍手&コメントありがとうございました!
2018/04/05(木) 16:12 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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