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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・4~『Love me do』番外編

「おはよう」

若だ。彼が『ひいらぎ』の前を通るのは、9時40分から50分の間だ。

「おはようございます、若」

今朝は機嫌が良くないようだ。『ひいらぎ』のドアを開けて挨拶だけすると、僕と敦子さんにヒラヒラと手を振りドアを閉めた。

僕たちが「おはようございます」と言ったのが聞こえるか聞こえないかのタイミングでドアを閉めて行ってしまったから、商品を並べ替えていた敦子さんは、呆れたように「もう行っちゃった」と言った。

いつもなら「ランチの時間に、またね」とか、「今日は天気が良いね」とか、一言掛けていく彼が挨拶だけで終わる時は、考え事をしているか、機嫌が悪い時なのだ、と家永さんが言っていた。昨夜、飲み過ぎたのに違いない。


 若がご両親と一緒に住む家は、商店街の先の住宅街の中にある。

若は毎日、家から歩いて『蘭雅』まで通う。いつもは家から着物だが、今日はジーンズにコートだった。手には何も持っていない。敦子さんもそれをおかしいと思ったのか、わざわざドアを開け外に頭を出して若を見送った。

「いってらっしゃい!廉ちゃん」

ドアを閉めた敦子さんは呆れたように言った。

「振り向きもしない。無視して言ったわ」

「聞こえなかったんじゃないですか?」

そんなわけがない。それはわかっていたけれど、若の愚痴を聞いてしまったのでちょっとだけ彼の味方をした。

「聞こえないわけがないでしょう?大声コンテストに出ろって、父から勧められるこの私の声が聞こえないわけがないわ。お惣菜屋さんのご主人が私に頭を下げたもの」

3軒先のお惣菜屋さんが聞こえたなら、若にも聞こえたよね。

「そういえば、廉ちゃんが着物じゃないのは珍しいわね」

「そうですね。昨日、合コンに行ったんで飲み過ぎたのかも」

僕が『ひいらぎ書店』で働き始めた頃から、若は着物姿で出勤していた。その姿は目立つし、彼がいつも同じ時間に通るので、それが商店街の人々の時間の目安にもなっているのだ。

家永さんが『ひいらぎ』を開店し、商工会に所属するようになってからは個人的なお付き合いも増えた。以来、彼は『ひいらぎ』のドアを開けて「おはよう」と声を掛けて行くようになったのだ。

考えてみたら、仕事の日に洋服を着ている若を見るのは初めてかもしれない。それもスーツではなくジーンズ。若も持ってるんだ、的な事を考えるくらい珍しい。

飲み過ぎたにしても、ジーンズは『蘭雅』のイメージとは懸け離れていて違和感を覚えた。自分で、「俺は『蘭雅』の歩く広告塔だ」と言っているくらいだ。

二日酔いで着物が窮屈だったら、スーツを着るんじゃないかな?店にも出るし、営業にも出るはずなのに。


「あら!?そうなの?もしかして、また家永さんを誘ったの?」

「はい」

若が合コンの後に一人でキャバクラに行ったのは、敦子さんには内緒にしておこう。

「まあ・・・。廉ちゃんもイイ男なんだから、合コンしなくても彼女くらい出来そうなんだけど」

「ですよね。僕もそう思います」

「ご両親が心配なさるのも無理はないわ。今年28だったかしら?」

「吉塚さんと同じ歳ですよ」

「そうだったわね。彼、小学生の頃は可愛くてね。学校の帰りはいつもうちの前を通るんだけど、バレンタインデーはランドセルの中がチョコレートでパンパンだったのよ」

「へえ!その頃からモテてたんですね」

「そうよ。『商店街一の美少年』、と呼ばれていたんだから」

「今もイケメンですよ」

「早く結婚させないと」

なぜか腕捲りする敦子さん。ご両親同様、若の縁談には興味があるようだ。

「でも、現在の『商店街一の美少年』は航くんだからね」

「またまた!ご冗談でしょう!すでに少年じゃないですから!」

「本当の事ですから。うちの看板息子なんだから、自信を持ってちょうだい。『商店街一の美青年』!」

「・・・そういうのナシでお願いします」

「そういう所が良いのよね、航くんは。廉ちゃんみたいに好い気にならないし!あら、もう開店時間だわ。掃除道具を片付けるわね」

「はい。お願いします」

大きなドイツ製のホールクロックが、ボーンボーンと10時を告げた。


 その日の午後だった。気温は20度まで上がって、ポカポカ陽気。動くと冬用のカーディガンが暑苦しくて脱いでしまった。明日は春物を持ってこよう。

 公園の桜の開花状況が気になる家永さんは、気象庁並みのマメさで「ちょっと行ってくる」と言って出て行った。

公園のフェンスに沿って植えられている桜は、毎年見事に咲く。十数年前から、商工会では青年部を中心に桜の木をライトアップしているのだ。商店街には『桜祭り』のポスターが貼られているし、店先には造花の桜の枝が飾られている。

 ランチタイムが一段落し、そろそろ若が来る時間だ。そう思っていたら慌しくドアが開き、『蘭雅』の従業員さんがドアから顔だけ突っ込んで聞いた。

「すみません!廉慈さんは来てますか?」

いつもは着物を着て、しゃなりしゃなりと落ち着いた様子で歩いてくる彼女が血相変えている。

「はっ、はあっ・・・」

荒く息を継ぐ彼女に驚いた敦子さんが駆け寄った。

「どうしたの?廉ちゃんはまだ来てないわよ。いつもなら、そうね・・・もうすぐランチを食べに来る時間だわね。今朝はここ通って行ったけど」

「じゃ、廉慈さんは、来て、らっしゃらないん、ですね?」

「ええ」

「わ、かりました!ありがとうございますっ!」

彼女はドアを閉めると、一目散に『蘭雅』へ駆け戻って行く。

「あら、行っちゃった」

「どうしたんでしょうね?」

「廉ちゃんが店に来ていないって事?それとも営業から戻らないって事?何か大きな事故でも起きたかしら?」

「事故?いいえ、特には」

店の隅に置いてあるテレビから、事件や事故を知らせる速報が流れる事はなかった。心配そうにドアを開けて『蘭雅』の方を見ている敦子さんを安心させようと、僕はパソコンのニュースを開いてザッと目を通した。

「事件も事故も起きてないようですよ。家永さんに電話してみましょうか?」

敦子さんはちょっと考えるような感じだったが、「電話はいいわ」と言った。

「家永さんは桜を見に行っただけだから、すぐに戻るわよ」

「そうですね」

『蘭雅』の若旦那・福富廉慈さんはこの日、商店街から姿を消した。


 結局、心配した敦子さんが『蘭雅』まで走った。その間に家永さんが公園から戻ってきて、僕は『蘭雅』の従業員さんから若の消息を尋ねられた事を話したのだった。

話し終えた頃、敦子さんが息を切らして戻ってきた。

「大変よ!」

大きく肩で息をする敦子さんは、「若の行方がわからなくなっているのよ!」と僕たちに言った。

「えっ?若が朝から店に来ていない?」

「そうなの。朝、家を出てうちの前を通ったのは確かよ。『おはよう』だけ言って、駅の方に歩いて行ったんだけど、店には行ってないのよ。家永さん、廉ちゃんから何か聞いていないの?」

家永さんは目を丸くしている。

「何も・・・。昨日は俺らは先に帰ったんですよ。だけど、若は『もう一軒行く』と言ってタクシーに乗ったんだよな」

若だけが別行動をしたと聞いて、敦子さんの目が厳しくなった。

「キャバクラ?」

「そうです。多分、いつもの店だと思うんだけど」

それを聞いて敦子さんの声が低くなる。

「馴染みの女の子がいるのかしら?」

「多分、綺羅ちゃんですね」

「キラちゃん?」

まるで毛虫の名前を呼ぶかのような反応だ。すでに目が怒っている。

「ええ」

「その子に連絡は付くの?」

「・・・敦子さん」

「はい?」

「最初に言っておきますけど、俺はあくまでもお付き合いでキャバクラに行っただけですからね?どこでどうビジネスに繋がるかわからないじゃないですか?」

「『最初に』なんて!そういうふうに言い訳するのが怪しいじゃない?ねえ?航くん」

「えっ?あっ・・・その」

「勘違いしないでくださいよ?俺だって行きたくてキャバクラに行くわけじゃないんですからね?」

家永さんは、敦子さんの怖い眼差しに圧されるように、渋々分厚い名刺ホルダーを捲り始めた。

敦子さんはホルダーを横から見て、「まあ!」とか「この子は絶対に化粧を落としたらブスだわ。航くんの方が綺麗」とか、名刺を見ていちいち感想を述べる。

家永さんは僕に向かって口だけ動かし、「助けてくれ」と言った。

僕には無理だし。

「この子です」

取り出した名刺の写真の女性は、茶髪をゴージャスに結い上げて、バサバサのつけ睫毛と黒目が大きくなるカラコンで更に目を大きくしている。際どく開いた胸元が強烈なピンクのドレスにピンヒールを履いた彼女は、しなを作ってソファーに寄り掛かっている。手には赤い薔薇の花が一輪。

「派手」

「まあ、キャバ嬢はこんなもんですよ」

うん。僕が見ていたキャバ嬢もこんな感じだった。そう思って頷くと、敦子さんは腰に手を当てて胸を反らした。

「航くんは天然物の美形なの。こんな人工物で綺麗になったのとはわけが違うわ」

いや、焦点がズレてるんですけど・・・。

「あの、敦子さん」

「ああ、そうだった。で?この子が廉ちゃんを唆したのかしら?」

「いや、違うでしょう?」

「電話してよ」

「えっ?俺が?」

「ええ、行方を知らないか聞いてくれない?ここに携帯の番号が書いてあるじゃないの?しかも手書き。嫌だわ・・・家永さんにまで手を出そうとしてる!」

「それは営業用ですから」とは言えなくて、僕は下を向いた。

「それは・・・余計なお世話なんじゃないかな?」

家永さんが遠慮がちに言った。

「えーっ?どうしてよ?」

「そうですよ!『蘭雅』さんに頼まれたのならわかりますが、そうじゃないでしょう?それにほら、人間はフラッと旅に出たくなる事もあるじゃないですか?若もそれかもしれませんよ?夕方には戻ってきますよ!」

僕がフォローしたが、敦子さんは聞いてない。

「フラッと旅に出て良いのは寅さんだけよ」

「寅さん?」

「そう、寅さん」

「フーテンの?」

「そう」

意外と頑固な敦子さんに手を焼いた家永さんは渋々、「綺羅ちゃん」というキャバ嬢に電話をした。
  
*****

ご訪問ありがとうございます!ごゆっくりお過ごしくださいませ!

敦子さんがますますオバサン化しているwwwいえ、パワーアップだった。失礼しましたwww

凹み中の日高に励ましのコメントをありがとうございました!徐々に浮上しておりますので!

   日高千湖

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2018/04/07(土) 16:37 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪

ご心配をお掛けしました!!すみません。

日高は書くのが好きなんです。最近は以前のような記憶力がなく細かい所を忘れている事が多いので、資料を引っ張り出したり、以前の記事を読み直してミスを見つけたり、余計な作業が多いんです。

公開し始めているお話についてはボチボチでも最終回まではUPしますから~♪

若はどこで何をしてるんでしょうねえ?

敦子さんは商店街の主のように、張り切って心配しておりますwww敦子さんも航くんが一番のようですね。結太には勝てますか(笑)

続きをお待ちくださいませね~コメントありがとうございました!
2018/04/07(土) 23:54 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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