『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・15~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 「俺も橋本店長とお話ししたいので」と言って、小鳥居は俺のダンボール箱を運んで行く。

「いや、いいから!」

『俺も』って何だ?『も』って。俺がいつお前と「話がしたい」と言った?

「小鳥居!」

追い付いて小鳥居の腕を掴んだのは、すでに車の前だった。

「どうぞ」

後部座席にダンボール箱を積んだ小鳥居は、メチャ笑顔だ。今のところ、ヤツのプライベート中一番の笑顔だ。これ程の笑顔は店でも見た事はない。

「どうかしましたか?」

これは、彼が嬉しいと思っているという事だよな?

「・・・」

「俺の顔に何か付いています?」

「いや。事務所にまだコートとスーツがあるから、取ってくる」

「俺も行きましょうか?」

「いい。エンジン掛けてろ」

「はい」

わからないヤツは、一生「わからないヤツ」で終わるのだ。


 小鳥居の車の助手席に乗せられて、俺は自宅マンションまで約30分のドライブ中だ。信号待ちで車が停まる度に「早く信号変われ」と念じ続けている。「話がしたい」、と小鳥居は言ったが、彼から話題が振られるわけでもない。ここからタクシーでも良いんだけど・・・。

「先程、フォローしてくれる部下を持て、とおっしゃいましたが」

「ああ」

思い付きと成り行きで言いました。すみません。

「誰が適任だと思われますか?」

「適任、か」

《有明の月》に副店長はいない。しーちゃんがホールチーフから昇格して副店長だったが、異動して空席になった。小鳥居は勤務中に逃げないし、真面目に働くからお目付け役は必要ない。山下くんがそう思ったのか、スタッフの中から副店長に昇格した者はいなかった。

小鳥居には補佐は必要ない、と考えたという事だ。

「考えてなかったな」

思い付きだからな。小鳥居と誰が相性がいいかなんて、付き合いが浅い俺にわかるわけがない。

「山下くんに相談しておくよ」

「ありがとうございます」

運転中の小鳥居の横顔。見れば見るほど、わけがわからない。

「お前さ、笑い方がわからないとか言ってたけど。さっきは結構素敵な笑顔だったぞ」

「えっ?そうですか?」

「うん」

小鳥居は右手で自分の顔を撫でた。

「髭は大丈夫」

「そうですか」

「今のはつまんないけど冗談だし」

「・・・橋本店長はいつもツンとしてて冷たい印象でしたが、冗談もおっしゃるんですね」

「面白くないけど言う」

「まあ、確かに」

それ、真顔で言うか?

「おい。そこは『そんな事はありません、面白いです』って、俺をヨイショするべきじゃないか?俺、一応専務ですけど」

「何も専務」

「・・・それ、マジなんで笑えないから」

「すみません」

「もう、いーよ」

「すみません。面白くなくて」

「・・・いや、俺ら以外の人間がここに居て、この会話を聞いていたら笑うかも」

「そうですか?」

「嘘」

「ははっ」

全く笑えない俺と、可笑しそうにハンドルを叩く小鳥居。三木くんたちは、彼のどこを気に入って誘ったのだろうか?


 マンションのエントランス横の『滝山不動産』用の駐車スペースに車を停めて、荷物を運び出す。

俺に気が付いて管理人さんが出て来てくれたのを見て、俺はホッとしている。

「小鳥居、ありがとう」

「いいえ、どう致しまして」

小鳥居はさっさとシートベルトを外して車から降り、後部座席からダンボール箱を下ろしている。

「部屋までお持ちします」

「管理人さんから台車を借りるから、ここでいいよ」

「そうですか?では、私はここで」

「おう!サンキュー」

「失礼します」

手を振るのもなんだし、振らないのもなんだし。どうしたらいいのだろうか・・・。しょうもない事を悩みながら、俺は小鳥居の車を見送った。

手は振らない。

管理人さんから台車を借りて部屋に運び、俺は《325》へと移動した。


 開店前の《ビストロ・325》はキッチンの方で人の気配がする。店内の照明は落としているが、キッチンの中は明るい。

「しーちゃん!」と呼び掛けながら、俺はドアのガラスの部分を叩いた。

「はーい!」

俺と気付いてしーちゃんが駆けてくる。ガラス越しにしーちゃんの笑顔を見て、涙が出そうになった。ニコニコしながら鍵を開けてくれたしーちゃんが可愛くて堪らない。俺にはやっぱりしーちゃんが一番合うよね、テル以外で。

「どうしたんですか?店長。ここに愛しのテルはいませんよ?」

「それくらい知ってるよ。俺はしーちゃんに会いに来たの!」

「わっ」

俺はしーちゃんをギューーッと抱き締めた。石鹸の香りがする爽やかしーちゃんがジタバタしているが、俺はしーちゃんごと店内に入った。

ハグしたままでグルグルとしーちゃんを振り回したい気分だ。

「店長、どうしたんですか?」

「俺、我慢してたの」

「何を?テル?」

「違う」

「そんなに僕に会いたかったんですか?」

「うん」

しーちゃん、最高。

「店長もたまには可愛い事を言うんですね?」

「おう」

勘の良いしーちゃんはニヤリと笑った。

「わかった!小鳥居さんでしょう?」

「しーちゃんにも俺のエスパーの才能が移ったな?」

「はい!」

しーちゃんは俺の手を引いて、スタッフルームに連れて行く。万年シングル猪俣が、「お疲れさまでーす」と迎えてくれたが、いままでそこにいた輝也はいない。

「店長は僕に会いに来てくれたんですって!」

「へえ!珍しいですね。テル以外は見えないかと思っていましたよ」

「猪俣、煩い。あのさ、俺があの得体の知れない小鳥居と合わせるのにメチャ苦労してるの、知らないだろ?」

睨むと猪俣は気の毒そうに頷いた。

「圭介さん、合わせる気があったんですか?」

「ある。多分」

隣にいたしーちゃんが、俺の脇腹を指で突いた。

「店長、本音出し過ぎ」

「いいの。営業中じゃないから」

猪俣は「うーん」と言いながら腕組みした。

「小鳥居、か」

「猪俣、知ってる?」

「知るわけないじゃないですか!新年会の時に『初めまして』で『さようなら』ですよ。二次会も来なかったし、確か一次会も途中で消えたんじゃないですか?」

聞いたか、小鳥居くん。

君の認知度はこのレベルだよ。猪俣は社交的なヤツだ。初対面でも軽く「よろしくな」と挨拶して、いつの間にか仲良くなっている感じ。そんな猪俣が「知らない」と言うのだ、こうなったら社内で小鳥居の事を理解しているのは黒川だけだという事だ。

「しーちゃんは引継ぎしただろう?どうだったの?」

「うーん。静か」

猪俣は小鳥居を「静か」と表現したしーちゃんに笑い掛ける。

「しーちゃん、それは50%増しだよな?」

「はい。僕、気配りは出来るんで」

「そのとおりだな。俺さ、ロッカーの中に入っていた私物を持って帰ろうとしていたんだ。小鳥居が車で送ると言い出して、今まで2人でドライブしてきたんだ」

「圭介さん」

「はい」

「ご愁傷さまです」

「猪俣」

「はい」

「お前と枝野ちゃん、応援してやる」

「ありがとうございます」

「フラれたら慰めるからな」

「圭介さん、それは応援じゃないですよ」

「そうか」

「口だけかよ」

「まあね」

「店長に色々言ったって無駄ですから!この人の頭の中はテルが100%ですから!」

「しーちゃん、それはいくらなんでも言い過ぎだろ?」

「そんな事ないですよ。120%かもしれません」

「・・・もういい。俺、仕事します」

「頑張ってくださいね!」

「はーい」

可愛いしーちゃんに癒やされようと思ったのに、癒やされるどころかズタズタにされてしまった。やはりしーちゃんはチビ軍曹だ。

*****

すみません、帰宅が遅くて更新の準備が全く出来ません。時々、見に来てやってくださいね・・・。

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