『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・11

 本社ビルに入り受付の前に立つと、「山下さま、いらっしゃいませ」と挨拶された。美人の受付嬢はここに座ってもう5、6年になるだろう。

「おはようございます、澤部さん。いつもお綺麗ですね」

いつもの褒め言葉だが、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「滝山社長は社長室でお待ちしております。どうぞ」

「ありがとうございます。これは休憩時間に皆さまでどうぞ」

準備していた桜餅と苺大福を渡すと、笑顔も10倍増しだ。

「いつもありがとうございます」

軽く会釈をしてエレベーターに向かう。右手にあるカフェの窓にはまっているステンドグラスが陽光を受けて輝き、床に美しい模様を描き出していた。

「稲村くん、そこのカフェに行った事はあるかい?」

「いいえ。残念ながら、カフェに立ち寄る機会はございませんでした」

「そう。今日、時間があればあんみつでも食べたいな」

「わかりました。調整致します」

「隼人との打ち合わせは時間も掛からないでしょうから。ゆっくりしていきましょうか」

「はい。楽しみに致しております」

秀人と一緒だとあわよくば手を握ろうとしたり、エレベーターで誰も同乗しなかったらハグしようとしたりと面倒だが、稲村くんだと気を張らなくてもいいから楽だ。

寿さんが秘書室にいれば、一緒にお茶でも楽しもうか。

「そうだ。上に着いたら会長付きの綱本秘書が在社しておられるか、確認してください」

「はい。畏まりました」

チンと音がして、エレベーターのドアが開いた。


 社長室に入るのは久し振りだ。

稲村くんとは秘書室の前で別れ、高級そうな赤い絨毯が敷かれた廊下を歩きながら、俺は《イゾルデ》に勤務していた頃のチャラ度100%の滝山隼人を思い出していた。

滝山家特有の大きな瞳。当然イケメンで、その甘いマスクで隼人は女性にモテていた。

『S-five』には「修行」という名目で入社したが、本人は「大学卒業後すぐに『滝山産業』に入るのは堅苦しいから」と堂々と言ってたっけ。頻繁に女性客をお持ち帰りして、それが信吾さんにバレる度に怒鳴られていたな。

そんな隼人が『滝山産業』の社長に就任した当初は、秀人の父親・寿氏の後ろを付いて歩くカルガモの雛のようだった。

それが見た目には立派な「代表取締役社長」となった。『滝山産業』社中の各課からエース級を投入して隼人のサポートに当たらせているわけだから、ボンボンでも失敗はない。

 『滝山産業』は不動産業を中心に幅広く事業展開している。信吾さんが飲食を中心に事業展開しているのを考慮されていたのか、以前は『滝山産業』は飲食系には進出してはいなかった。

だが隼人は、社長に就任してから本社ビルの1階を改装してカフェをオープンした。それを足掛かりにして、最近は飲食業にも力を入れている。

都内で10軒ほどのカフェ&レストランやバーを経営していた『K・Uカンパニー』の買収を相談をされたのは、確か一昨年だったな。一年程前に話しが整ったはずだ。

 『K・Uカンパニー』は洒落たカフェをオープンさせてはテレビやマスコミで紹介され、一時期は破竹の勢いだった。

店の立地条件も悪くなかったし、客の入りも悪くはなかったはずだが、常に経営不振が噂されていた会社だ。三木くんは、開業コストが掛かり過ぎている事と、開業資金が十分に準備されていない事が業績悪化の原因、と分析していたな。自転車操業が常態化し、経営が行き詰まって『滝山産業』に身売りしたのだった。

「そうか」

俺に追い付いた稲村くんが、急に独り言を言った俺に不思議そうに聞いた。

「何かございましたか?」

「思い出したんだ。ほら、蔵野部長だよ」

「お心当たりでもございましたか?」

「去年『滝山産業』が買収した『K・Uカンパニー』という会社があるんだが、そこの関係者じゃないかと思ったんだよ」

『滝山産業』の人事の情報は、俺と三木くんで常に把握している。それなのに2人とも『蔵野』という名前には心当たりがなかったのはおかしな話しだった。『K・Uカンパニー』の社員だったから、俺らの耳に入らなかったのではないか。

後ろから付いてきていた稲村くんの足が止まった。振り返ると稲村くんはその場で棒立ちになっている。俺は立ち止まって、その場で彼を待った。

「勿論、俺の憶測だけどね」

稲村くんはコクッと喉を動かして「そうですか」と言うと、小走りで追い付いてきた。

「どうかしたのか?まだ『K・U』関係者と決まったわけじゃないよ?」

「ええ、わかっております」

稲村くんはあくまでも俺の「憶測」に動揺したが、それを内に隠した。表情を殺して深く息を吸った。

「・・・『K・Uカンパニー』、でしたか」

「あくまでも俺の憶測だよ?あそこに知り合いでもいるのか?」

稲村くんは俺の目を真っ直ぐに見たままで、「いいえ」と答えた。まるで幽霊でも見たかのような、信じられないといった表情だった。

「どうかしたの?」

「いえ、何でもありません」

先程までの、いたって普通だった稲村くんの態度が明らかにおかしくなった。顔付きが変わり、明らかに動揺しているがそれを隠そうと必死だ。

「そう?」

「ええ。それより綱本さまから、『お帰りの際は是非、お立ち寄りください』と伝言を承っております」

「ああ、そう」

「1階のカフェに寄る予定だとお伝えしましたら、綱本さまも降りてこられるそうです」

「ありがとう」

微笑んではいるが、稲村くんの頬が痙攣を起こしたように引き攣っていたのを俺は見逃さなかった。



 社長室をノックすると、すぐに「どうぞ」と返事があった。隼人の声だ。

「失礼します」

「山下店長!」

社長室の真ん中に置いてある黒い革張りのソファーに座っていた隼人は、すぐに立ち上がって我々を出迎えた。

「お久し振りです!お元気でしたか?」

「おかげさまで」

すっかり「社長」が板に付いたが、相変わらず浮ついた感じは消えていない。まだまだチャラさが70%は残っている辺り、血は争えない。

「高架下再生プロジェクトの進捗状況はいかがですか?」

「山下店長」

「はい?」

「どうして他人行儀な話し方なんですか?」

「私とあなたは、元々他人ですが」

「俺ですよ?俺!」

隼人は俺の腕を掴んで揺さぶった。

「存じておりますよ。隼人社長」


 俺たちは、彼が高校生の頃から知っている。

信吾さんがやっていた《銀香》に顔を出していた頃の、制服の彼を知っているわけだ。オーダーメイドのスーツに身を包んで「社長」と呼ばれて踏ん反り返っているのを見ると、からかいたくなるのが人情というものだ。

大学卒業後、《イゾルデ》に配属された彼は俺の下で働いていた事がある。木下章太郎を「師匠」と崇めて、2人は遊び回っていたのだ。

その隼人が立派に「社長」をやってるとなれば、気分は久し振りに会った親戚のおじさん状態だよ。


「敬語は止めましょうよ」

隼人は笑いながら俺を睨んだ。

「そういうわけには参りませんよ。『社長』」

「・・・誰もいないのに」

隼人は渋い顔をしてみせたが、諦めたのかガックリと肩を落とした。おそらく、時々ここに顔を出す三木くんや圭介くんも同じような事をやっているに違いない。

「それより打ち合わせはここで、ですか?」

「そうだった。わざわざ足をお運びくだり、ありがとうございます」

「いいえ。『社長』がお呼びとあらば、どこまででも参りますよ」

「・・・山下店長。マジで止めて下さいよ」

「ははっ。いつ誰が聞いてるかわからないだろう?お前の為だよ」

「酷いな・・・三木店長もそう言うんですよ。ここには俺たちだけですから」

「お前もさ、ここだからいいが俺たちに『店長』呼びは止めておけよ」

「はーい!」

「語尾は延ばさない」

隼人には、稲村くんの前で注意しても何とも思わないような大らかさがある。面子がどうの、と騒ぎ立てるタイプではないのは信吾さんと同じだ。

「はい。じゃあ、隣の会議室に移動しましょう」

「会議室?社長室の隣にそんなものあったっけ?」

社長室の両隣は会長と信吾さんの役員室だったはず。

「信ちゃんが『役員室は要らない』と言うからさ、造り替えたんだ」

「義道会長がよくOK出したな?」

「信ちゃんが言ってくれたんだよ。どうぞ」

まず目に入ったのは、開放感抜群の広い窓と大型スクリーン。中央には大きな円形テーブルを置き、椅子の数だけのデスクトップ。web会議が出来るように音響システムも整えられていた。

こういう所に拘りを見せるのは、やはりボンボンだな。

*****

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   日高千湖

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コメント
おやぁ・・・?
日高様~~~きゅうきゅううっ!

なんだか色々と大変そうですが、また更新してくださりありがとうございます。
とても嬉しいですが、無理はなさらないでくださいね。

それにしても・・・稲村さん。
なにかありそうですが、大丈夫かな。
突然動揺してしまった原因はやはり、男関係?(←決めつけw)
なにか古傷があるのかしら。
気になる、気になる~

2018/04/06(金) 00:51 | URL | にゃあ #-[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~きゅうきゅきゅっ♪

> なんだか色々と大変そうですが、また更新してくださりありがとうございます。
> とても嬉しいですが、無理はなさらないでくださいね。

ありがとうございます。やっと気持ちも落ち着いてきましたが、解決はしてませんwww長年こうやって流して流してきた部分が、一気にドバッと出てしまった感じなんですwwwスミマセン、お騒がせでした。

> それにしても・・・稲村さん。
> なにかありそうですが、大丈夫かな。
> 突然動揺してしまった原因はやはり、男関係?(←決めつけw)
> なにか古傷があるのかしら。
> 気になる、気になる~

ですよね~(笑)何かある~♪でしょう、という事でここはお口チャックでーす←古っ

にゃあさまもお忙しいのに、コメントありがとうございました!
2018/04/06(金) 09:31 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2018/04/06(金) 15:57 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Nさま~いらっしゃいませ♪
Nさま、ただいま~~♪

励ましのコメントありがとうございます!

日高の愛と優しさはどこかへ出張中ですわwwwですが、何とか浮上中ですのでボチボチ頑張ろうと思ってます。
来月のキスマイちゃんライブを心の支えに頑張りたいと思います♪

今月は仕事が忙しくて、更新が出来ない日が多いかと思いますがお待ちくださいませね!いつも応援ありがとうございます!

コメントありがとうございました!
2018/04/06(金) 23:36 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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