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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・12

「へえ!便利そうだな」

「会議の為にわざわざ現場から集まってもらう必要もないでしょう?これだと顔は見えるんで」

「うちも導入したいな。急に集まるのが難しい時もあるからね」

幹部全員に電話するのも面倒だしね。

「『S-five』の会議室も広いでしょ?設置も簡単ですよ」

「まあな。検討の余地はあるかな」

トントンとドアをノックする音が聞こえて、女性秘書が「蔵野部長がお見えになりました」と案内してきた。大型スクリーンを使って、ここと蔵野部長とを繋いで打ち合わせをするのかと思っていた俺は、少々ガッカリだ。

「何だよ。これを使って実演してくれるのかと思っていたのに」

ただの自慢かよ。隼人はこの部屋を見せたかっただけか。

「あっ、それもそうですね。すみません」

隼人を睨むと、手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げた。すでにドアの外にいる蔵野部長と女性秘書の手前、厳しい事は言えない。

「蔵野さん、どうぞ」

「失礼します」

案内されてきた男は、パッと目を引く美男子だった。「部長」というから絶対に自分よりも年上だと想像していたが、意外と若くて年齢は俺よりも少し下ではないかと思う。

グレーのグレンチェックのスリーピーススーツに薄いブルーのシャツ、それにどこか色気を感じさせるエンジ色のネクタイ。ポテッとした分厚い唇が印象的な蔵野部長は、晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「山下常務。こちらは飲食部門の責任者の蔵野です」

「蔵野美次(よしつぐ)と申します。よろしくお願い致します」

俺を真っ直ぐに見て自己紹介した蔵野部長は、長身の隼人とも引けをとらない。185は優に超える。《スイートハニー》の華恵ちゃんと変わらないくらいか。

「初めまして。『S-five』の山下明利と申します」

スッと差し出された手を握ると、蔵野は俺を射抜くような目で見つめてくる。挑戦的で、気が強いタイプだ。肉感的な唇、しっかりとした鼻。奥二重の瞳は力強くて、踏ん張っていないと圧される。

このタイプには圧しが強い三木くんの方が適任だな。

「初めまして、ではありませんよ」

初対面の握手は終わった、と思い手を離そうとしたが蔵野は握手した手を離さなかった。

「そうですか?失礼致しました。どこかでお会いした事がございましたか?」

少し力を入れて手を引いたが、それでも蔵野は放さない。余計に力が籠もったのがわかって不快だったので、俺は彼の手にわざと左手を重ねた。

それに満足したのか、蔵野はニヤリと笑いやっと手を緩めてくれた。他人の手の感触が刻まれた右手でそっと拳を握って、俺は蔵野の感触を消す。

「ええ。3年程前でしたか、商工会議所の新年会で」

毎年1月の終わり頃に、商工会議所の若手ばかりが集まる新年会がある。それには毎年、信吾さん、俺、三木くんの3人で参加するが、蔵野部長のような美丈夫と挨拶をしたなら覚えているはずだが・・・。

「申し訳ありません。覚えておりません。その折にお名刺の交換をしましたでしょうか?」

何百人という人間が集まっている新年会で出会った人を、全て記憶しているわけではない。だが、名刺交換した人物の特徴や印象は覚えている限り書き留めるから、彼とは初対面に間違いない。

真面目くさって答えると、蔵野は白い歯を見せて笑った。

「はははっ。嘘です。私は遠目であなたを見ていました。綺麗な方だったから声を掛けたかったんですが、一緒にいた者たちに止められましてね」

「そうですか」

『止められた』わけは何だ?蔵野は名刺を取り出して差し出した。

「改めまして、蔵野美次です。今後ともよろしくお願いいたします」

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願い致します」

互いに名刺を交換したところで、秘書が「社長室の方でコーヒーを準備しております」と声を掛けた。

「向こうに移動しましょう」

「はい」

俺は背後にいた稲村くんが気になって振り返った。

「稲村くん、大丈夫かい?」

稲村くんは幽霊でも見たかのような顔で、蔵野を見ていた。やはり、知り合いだったか。

「は、はい」

青白くなった稲村くんの頬。ここまで彼を動揺させる程の出来事が、稲村くんと蔵野の間にはあった、という事か。



「彼は『K・Uカンパニー』の社長のお嬢さんのご主人です。業績の悪い店は閉店して今は5軒に絞って営業してるんですが、蔵野さんは人員整理や店の引き払いとか嫌な部分を引き受けて下さったんですよ」

隼人がそう紹介してくれて俺の「憶測」が正しかった事がわかったが、『K・Uカンパニー』の社名を聞いてから様子がおかしくなった稲村くんの方が気になり振り返った。

俺の視線で背後にいた稲村くんの存在に漸く気が付いたのか、蔵野が「あっ!」と驚きの声を上げた。 

「もしかして、稲村か?」

稲村くんも覚悟は出来ていたようだ。身を乗り出して親しげに声を掛けた蔵野に、動揺を押し隠しながら平静な声で挨拶をした。

「はい。お久し振りです、蔵野部長」

それを聞いた隼人が2人を見比べながら聞いた。

「あれ?蔵野さんと稲村さんは知り合いだったの?」

「大学の後輩ですよ。なあ?稲村くん」

「はい」

つっと頭を下げた稲村くんを、俺はこの場から出来るだけ早く解放してやりたいと思った。

「体調が悪いなら、綱本さんの部屋で休ませて頂きなさい」

「大丈夫です」

「すみません。彼は今朝から風邪気味でして。稲村くん、下がりなさい」

「本当だ、顔色が悪いね。綱本さんの部屋で休ませてもらったらいいよ」

隼人が勧め、稲村くんは静かに部屋を出て行った。



 蔵野美次は『K・Uカンパニー』社長の娘婿だ。現在、『K・Uカンパニー』は『滝山産業』から滝山家の親族の一人が新社長として就任している。

蔵野は『K・Uカンパニー』がスムーズに『滝山産業』へと委譲される為には不可欠な存在だったようだ。社長の娘婿の蔵野が主導した形で買収の話しが進んで行ったような、2人の口振り。

「とにかく仕事の出来る方なんだ、蔵野さんは」

「そうですか」

隼人は、彼を相当信用しているとみえる。隼人が中心になって進んでいる飲食部門の部長として抜擢するくらいだからな。

「では、今後は蔵野さんが高架下プロジェクトの責任者も主導なさるのですか?」

「いいえ。そこまでは」

蔵野は自信満々な笑顔で隼人を見た。

「いずれは、と思ってますよ」

それを聞き、自信家の彼は大きく頷いた。

「そうですか。今後もお話しする機会が増えそうですね」

蔵野はニヤッとした。目の奥に何か得体の知れない物が潜んでいる感じがして、俺は蔵野を好きになれない。絶対に食事に誘われるな、と予感があった。

「山下さん。今夜、お時間がございますか?飯でもご一緒にいかがですか?是非」

手で盃をクイッと傾けるような仕草。

隼人が若いとは言え代表取締役社長を前にして、それか?軽く見られてるな、隼人のヤツ。隼人を見るとなぜか頷いている。親交を深めておけ、って事かよ?

「折角のお誘いですが、申し訳ございません。夕飯は綱本秘書室長とご一緒させて頂く事になっておりまして」

「そうでしたか、残念だな。では、後日。ご連絡させて頂いてもよろしいですか?」

「ええ」

蔵野から今後の再開発予定地のファイルを受け取り、こちら側も《サラダボックス・B》3号店の資料を渡した。賃料や条件等、細かい部分の話し合いと打ち合わせは後日、と決まり俺がここまで来る意味がなかったような気がしたのは当然だ。

ただ単に、隼人が「有能な蔵野美次」という人物を『S-five』に自慢したかっただけ、って感じ。アホらしい。
 
*****

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コメント
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2018/04/10(火) 10:36 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪

美次さんが「みつぐ」さんですか?成程~~!!名前で推測ですね!さすがMさまっ!蔵はザックザクかもですよね~。ふふふっ

素敵な妄想ありがとうございます~♪何か関係がありそうな2人ですね。うん、言わない(笑)

日高さん地方は黄砂が凄いですよ~もう、車は薄っすらと黄色いですwww
Mさまも寒暖差に負けずに、お互い頑張りましょうね~!日高は毎年なんですが4月は仕事がバタバタでして、頑張ります!

コメントありがとうございました!
2018/04/10(火) 22:50 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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2018/04/10(火) 23:19 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・mさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・mさま~いらっしゃいませ♪いつもご訪問ありがとうございます!!応援してくださってありがとうございます♪

帰宅が遅くて、更新もままならない情況です。お待たせして申し訳ございません!!

何かが起こるでしょうかねえ?ふふふっ

稲村くんは蔵野と何かあるようですが・・・まあ、ここでは内緒でーす!

続きは少々お待ちくださいませね!コメントありがとうございました!
2018/04/11(水) 22:40 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
拍手鍵コメ・Sさま~いらっしゃいませ♪
拍手鍵コメ・Sさま~いらっしゃいませ♪

お久し振りです~お元気でしたか?今年はヒノキが酷いようですねwww日高は杉の時よりもヒノキが鼻ムズでした。お大事に~♪

今年の桜は、天候に恵まれてましたね!満開の頃が風が強くて、あっという間に散りましたね。潔かったですね。

また遊びに来てくださいませね~世間話でOKですよ~待ってます!

拍手&コメントありがとうございました!
2018/04/11(水) 22:46 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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