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菜虫化蝶・5~『Love me do』番外編

 『蘭雅』の若、こと福富廉慈さんは、朝いつものように家を出たっきり行方がわからなくなってしまった。いつもの時間に家を出たのは間違いない。 

『ひいらぎ』の前を通り、『蘭雅』の前を通り過ぎた若は駅に向かったらしい。僕たちは清掃ボランティアの「ひいらぎ会」というグループに所属しているが、今日の担当の一人が若とすれ違って挨拶をした。

その人が駅の構内に入っていく若を見たのが、最後の目撃情報だった。若はスマートフォンを家に置き、財布だけ持っていなくなったのだ。


 家永さんがキャバ嬢の『綺羅ちゃん』に電話をしたが、若は綺羅ちゃんの店には行っていなかった。

「昨夜は若は綺羅ちゃんの店には行ってないようですね」

「そう。じゃ、次」

「次、って?」

電話するのは綺羅ちゃんだけだ、と思っていた家永さんは驚いたように敦子さんを見た。

「他にも心当たりがあるでしょう?『蘭雅』は大騒ぎになってるのよ。みんな、心配してるわ」

怖い顔をして腕を組んだ敦子さんは最強だった。

「一分でも一秒でも早く廉ちゃんを捜し出さないと。協力してください」

家永さんはキッパリと言い切った敦子さんに、若が行きそうな店に片っ端から電話を掛けさせられたのだ。キャバ嬢が3人。行き付けのバーの従業員と小料理屋の女将さん、居酒屋と若がいつも服を買うセレクトショップの店長さん。

だが、どの店でも若の情報は得られなかった。

「敦子さん、心当たりはもうありませんからね?俺も四六時中、若と一緒にいるわけじゃないんですから。若の学生時代の友人とかを当たった方が良いんじゃないですか?」

家永さんの言うとおりだ。家永さんと若の付き合いはここ1、2年だ。学生時代の友人たちの方が付き合いは長いわけで、家永さんが知らない若の『顔』を知っているに違いない。

「そうですよ、敦子さん。あとはおうちの方が捜されますよ」

「そう?『東沖屋』は何か知らないかしら?」

青年部のメンバーの中で、特に若と仲が良い『東沖屋』という和菓子屋の若旦那の名前が出てきて、さすがに家永さんも強く反対した。

「もうやめましょうよ、敦子さん。若も子どもじゃない。何か考えがあっての事ですから」

そう言われるとさすがにバツが悪かったのか、敦子さんの矛先は家永さんに向かった。

「家永さんがどれだけ遊び回って航くんに寂しい思いをさせているか、よーーく、わかったわ」

「えっ?」

敦子さん、完全に焦点がズレてますが・・・。

「違いますよ!」

「じゃあ、このケバケバしいお姉さんたちの名刺は何なの?」

家永さんの名刺ホルダーには、キャバ嬢の名刺が30枚くらい保管されていた。

彼女たちの中には小さなお子さんを持つママさんもいて、『ひいらぎ』の絵本や知育玩具を買いに来てくれた人や、バースデーイベントの時に特大のキャンドルを注文してくれた人もいる。

家永さんとしてはただの「ケバケバしいお姉さん」ではないのだ。

「名刺は頂いたから保管してるだけですよ。もう勘弁してくださいよ」

ここぞとばかりに追及する敦子さんに圧されている家永さんを気に毒に思いながら、僕はある事に気が付いた。いつもなら2階にお客さまがいない時には1階に下りて来て、僕らとワイワイ話しをする吉塚さんが完全に気配を消していたのだ。


「若、どこに行っちゃったんでしょうね?」

敦子さんは『蘭雅』へ報告に行った。大した収穫もなく手ぶらで行ったわりには、30分以上戻ってこない。『蘭雅』の社長はすでに70歳を越えているから慰めているのだろう。

上から見下ろすと、商店街の人の流れが変わってきた。電車を降りた人が買い物をしながら家路に付く時間だ。

「心配だね。航くん、今度の定休日は映画に行くって言ってたよね?何を観るんだ?」

カウンターの中にいる吉塚さんは正直者だ。はっきり言って嘘が下手だと思う。出来るだけ若の話題には触れないようにしているようだけど、それがとても不自然だ。

若は毎日ここへ来て、吉塚さんの顔を見ながら昼食を食べる。吉塚さんが何も知らないとしても、普通なら僕たちの話題は「若の行方」になると思うのだ。それなのに、休みの日の予定を聞くのは不自然過ぎる。

あまりにも唐突な話題だよ、吉塚さん。

「吉塚さん、何か聞いてませんか?」

「いや、聞いてないよ」

「そうですか」

話しを振られた吉塚さんは、明らかに動揺した。さっきも拭いた所をダスターで拭き、洗う。

「吉塚さんはいつもここで話しをしてるから」

吉塚さんは急に後ろ向きにしゃがんで、キャビネットの収納庫を開けてガサガサし始めた。

「俺が知るわけないじゃん?」

背中を向けているのは、吉塚さんが顔を見られたくないからだ。

「吉塚さん」

「なんだ?」

「知ってますよね?」

「何を?」

すっ呆けているけれど、吉塚さんは知っているのだ。

「若の居場所」

「知らないよ!」

それでもこちらを向かない吉塚さん。絶対に何か知っているな。

「ハッ、ハ、ハック、ション」

吉塚さんはタイミング良くクシャミをした。

「ハッ、ハッション。ああ、ごめん」

立ち上がった吉塚さんは、さっき洗ってシンクに掛けてあったダスターを再び洗い始めた。

「若は戻って来るんですよね?」

「俺が知るかよ」

ダスターを絞って干すと、今度は収納庫の中からパスタやトマトソースの大缶を引っ張り出して整理し始める。年末の大掃除の時に、収納は全て空にして使い残しがないか確認して整理した。ゴチャゴチャしているわけじゃないのに。

「吉塚さん」

「俺は知らないからな」

「知ってるんでしょう?」と、小声で聞くと吉塚さんは漸く顔を上げた。

「航くん」

情けなさそうな目、声。マスクから出ている目が困っている。やはり、若から何か聞いているのだ。

「今、店には誰もいませんよ。敦子さんは『蘭雅』から戻ってないし、家永さんはギャラリーに行きましたから」

吉塚さんは周囲をキョロキョロ見回しながら立ち上がった。

「それが・・・俺も知らないんだよ。一週間くらい前だったかな?航くんがいない時にネットカフェはいくら掛かるのかとか、24時間営業している店を知ってるかとか、色々聞かれたんだよ」

「若が?どうしてネットカフェ?」

「俺もネットなら家でやれば、と言ったんだよ。どこか綺麗なカプセルホテルを知らないか、とも聞かれた。それから、温泉はどこが良いと思うかとか・・・何となく、遠くへ行きたい、ぽいだろ?」

確かに。でも旅に出たい、という感じじゃない。

「あっ・・・!もしかして」

「そうなんだ。俺さ、温泉は詳しくないから《エクート》を教えたんだよ。店の写真とかも見せたんだ。あそこって雑多な感じで雰囲気あるだろ?若も気に入ってたんだよね」

「ふうん・・・。じゃあ、僕が《エクート》に行ってみます」

「航くんが?」

「うん」

「でも・・・」

吉塚さんは困ったような顔になった。

「僕が一番警戒されないと思うんですよね。家永さんだと説得されてしまうから逃げるでしょう?吉塚さんだと若も、巻き込んだと思うんじゃないですか?だから、僕が」

「・・・あのさ」

吉塚さんはカウンターから手招きした。僕は内緒の話しだと思って、カウンターに手を付いて吉塚さんの方に身を乗り出した。

「近い」

「だって、吉塚さんが」

「まあ、いいか。あのさ・・・航くん、気が付いてないんだね」

「何を、ですか?」

「若」

「若?何か悩んでるんでしょう?」

「ああ、悩んでいると思う」

「そうか!相談事を聞くのに、僕では頼りないですもんね。じゃあ、家永さんも連れて行きます」

吉塚さんは「はあっ」と溜息を吐いた。僕は見当外れな事を言ってるのだろうか。

「・・・違うんだよな」

「何が違うんですか?」

「まあ・・・仕方がない。純粋培養されてしまってるからな」

「若が?」

「いや、もういいや」

「変な吉塚さん」

「もう変でいいですよ。みんな心配してるから、航くんが《エクート》に行ってみてくれる?」

「はい」

『ひいらぎ』を早退して、僕は《エクート》へと向かった。

*****

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2018/04/08(日) 22:11 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪

お返事が遅くなりまして申し訳ございませんでした!!

家永は遊んでいるというよりも、仕事上のお付き合いですよ(笑)敦子さんは久々の大事件に少々興奮気味なんですよ。商店街は平和ですから!
若はどこでしょう~何があったんでしょう~という所で、続く、です。すみません。

ちょっと色々書けませんで、申し訳ないのですが続きをお待ちくださいませね!

忙しくなられるんですね!Aさまこそ、ご自愛くださいませね!通勤時間に是非「Love me do」を読み返してくださいませ~♪あっ、周囲の視線が気になる?

頑張ってくださいね!航くんと一緒に応援しております!コメントありがとうございました!

2018/04/09(月) 22:41 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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