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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・13

 綱本寿氏を形容するには、「ダンディ」という言葉が一番ピッタリはまると思う。

身のこなしもスマートで、常に微笑を絶やさない、銀幕の大スターのような堂々とした美丈夫だ。

秀人の持つ特有のピリッとした冷たい空気は寿氏から受け継いだもののようだが、歳を重ねているだけあって寿氏はそれをふわりと隠してしまう。だが圧しは強く、今でも隼人は寿氏のご機嫌を窺うような所もある。

隼人の父・滝山義道氏の願いで、現在も秘書室長として勤務しておられるがご本人は後進に道を譲りたいご意向だ。

秀人とは親子である事は疑いようもないくらいよく似た横顔は、理知的で柔らかい空気を纏っておられる。その空気感が好きだ。まあ、そういう所は秀人にもあるんだけどね。寿氏が纏う老成した空気は、秀人にはまだない。

同年代の男性と比べても若々しいし、粋だ。いずれは秀人も父親のようにいい歳の取り方をするのだろうか、と将来を想像したりしながら話すのは楽しい。

父親をよく覚えていない俺にとって、寿氏は父親同然の存在だった。まだ『お父さん』とは呼べないが、いずれはそう呼ばせてもらえるかもしれない、と思っている。


「山下常務、申し訳ございませんでした」

打ち合わせが終わり寿氏の部屋に行くと、稲村くんは申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。

「大丈夫だよ。稲村くん」

「私は職務を全う出来ませんでした。お恥ずかしい次第です」

「気にしないで」

寿氏は微笑みながら「体調が悪いのだから仕方がないさ」と慰めたが、体調は万全の稲村くんは恐縮してしまってランチどころの騒ぎではない。結局、寿氏の提案で、弁当を取り寄せて頂く事になった。

昼食中も稲村くんはボーッとしたり、心ここにあらずだった。いつもなら気を利かせてお茶だ、コーヒーだと手配してくれるが、今日は全くだった。すぐに箸を持つ手が止まり、その度に寿氏を苦笑させた。


「常務、申し訳ございませんでした。綱本さまにも申し訳ない事を致しまして」

「綱本さんはお優しい方だからね。気にしないで」

「しかし」

「稲村くん」

「はい」

「君がおかしくなった理由は何となくわかったよ。だが、今は仕事中だからね。それは一旦忘れてくれないか?」

「申し訳ございません」

「俺が運転しよう。キーを」

「それは!」

「ボーッとして事故でも起こされたら大変だからね」

「しかし!」

「ごめん。俺、死ぬ時は秀人に手を繋いでてもらうつもりなんだ。君と心中する気はないからね。キーを」

手を差し出すと、稲村くんは渋々車のキーを俺に渡した。

「・・・申し訳ございません」

「車の運転は好きなんだよ。さあ、乗って」

渋る稲村くんを助手席に乗せ、星望学園大学へと移動した。


 稲村くんは、真っ直ぐ前を見てはいるが心はどこかへ飛んでしまっている。俺は黙ってハンドルを握り、時々重い溜息と共に空を見上げる稲村くんに同情していた。

蔵野美次との間に何か因縁めいたものがある事は明白だった。それが良い思い出ではない事も、稲村くんの様子を見ればわかる。

「山下常務」

「何ですか?」

「本当に申し訳ございませんでした」

「構わないよ」

「気持ちを入れ替えますから」

「よろしく頼むよ」

「はい」

とても気持ちを入れ替えられるような状況ではないようだな。

「実は」

「・・・」

「蔵野部長と私は」

「大学の先輩、後輩、だろう?」

「ええ・・・そうですが」

言い難そうに何度も言葉を止める。稲村くんは消化し切れていない過去を抱えているようだな。

「蔵野さんは、大学時代は『石場』さん、でした」

「へえ・・・『K・U』の社長の婿という事は、婿養子か?」

「そうだと思います」

そうか、稲村くんは『蔵野部長』には全く反応を見せなかったが『K・Uカンパニー』には反応した。という事は、「石場美次」が『K・Uカンパニー』に入社した事は知っていたのだな。

「私は学生時代に、蔵野さんと・・・その」

稲村くんの口がまた重くなる。蔵野には嫌な思いをさせられたか、バッサリと切り捨てられたか。どちらにせよ、蔵野とはあまり良い別れ方をしなかったようだ。

だが、蔵野は稲村くんをキズ付けてしまった事には気が付いてはいない。

隼人と3人の打ち合わせ中もその後も、蔵野が『稲村』の名を口にする事は無かったからだ。彼らの関係がどれだけのものかわかりはしないが、学生時代の後輩の体調を案ずる言葉もない事に対して、俺は蔵野への反感を覚えている。

「蔵野さんは、バイなのか?」

「・・・はい」

「へえ。まあ、珍しくもない。うちにはゴロゴロいるからね」

「ええ・・・。久し振りにお会いして、動揺してしまいました」

「そう」

「動揺」、か。俺には蔵野との再会は予想外で、「衝撃」に近かったのではないかと思えた。稲村くんは真面目で仕事熱心だ。大人しいが我が儘者の集団のような幹部たち相手でも、決して引かないような強さもある。

「見っとも無い所をお見せしました」

その動揺は蔵野に見せたくなかったんじゃないのか。

「無理に話す必要はないからね」

「・・・はい」

「いつもの君でいられないようなら、車の中にいたまえ」

「いいえ。お供致します」

「では、よろしくお願いしますよ。頼りにしてるんだから」

「はい」

誰にだって、口にしたくない過去はある。

稲村くんが心に負ったキズは、大学卒業後も癒える事無くジクジクと膿んでいたのだ。

2人の間で何があったか知らないが、稲村くんの受けたキズに気が付かなかった蔵野に罪があるわけではない。

だが稲村くんのキズの欠片さえも「無かった事」のように振舞った蔵野の態度、そして部屋に入ってからも稲村くんの存在に気付く事がなかった所を見ると、蔵野にとって「稲村典孝」はただの通りすがりだったという事。それが稲村くんを余計にキズ付け、キズを抉ったのは確かだった。


 星望学園大から中・高等部へと回り、時間が経つに連れて稲村くんの気持ちも落ち着いたと思う。車を本社に向ける頃には、蔵野と再会する前の稲村くんにすっかり戻っていた。

今後、稲村くんを『滝山産業』へ同行しなければ、蔵野と会う事もない。俺はそう考えていたわけだ。

 本社に戻ったのは、太陽が西に傾き景色がセピア色を帯びてきた頃。

稲村くんに運転を任せて、俺は信吾さんと電話で話しをしていた。本社の前に到着し、稲村くんがウィンカーを上げた。カチカチと規則正しい音が聞こえ、ゆっくりと本社前の駐車場に車を進めた稲村くんは定位置に停めようとしている。

「今、本社に着きましたので。信吾さんがお戻りになるまで待ちますよ」

ピーピーピーという音を聞きながら電話をポケットに放り込み、後部座席に出していた書類をアタッシュケースに入れた。

「稲村くん、お疲れさまでした」

「いいえ」

稲村くんの声が堅い。

「どうかした?」

俺は顔を上げて目を疑った。

「蔵野部長?」

「・・・はい」

「どうしてここへ?」

「・・・わかりません」

《銀香》のドアを開け、ドアから半分だけ身体を出した蔵野美次が手を振っていた。
 
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