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恋とは戦さのようなもの・14

 《銀香》のドアを開けて手を振っているのは、確かに蔵野美次だ。

『滝山産業』での事があったので、稲村くんの様子が気になった。彼は今、どんな顔をして蔵野を見ているのだろう。蔵野の表情を窺う限り、蔵野が稲村くんを気に掛けている様子はない。


「稲村くん?」

「はい」

声が上擦っている。稲村くんの表情を見なくても、彼が緊張してるのがわかった。この状態の彼を蔵野とは会わせたくないな。

蔵野の人となりを知るわけではないが、周囲を会長の息の掛かった人物で固めた隼人を容易に操れるくらいの賢さはあるわけだ。

『K・Uカンパニー』には買収に反対する勢力もあったに違いない。娘婿の彼は反対勢力を抑え、それらへの対応を一手に引き受けて事業を縮小させ、人員整理をやってのけた。そんなやり手の蔵野に、俺は少々の怪しさを感じている。

結局、彼はそれを手柄にチャッカリと『滝山産業』の部長の座を手に入れたのだから。胡散臭さ100%。

「彼は君に会いに来たのか?」

「・・・私には、わかりかねます」

前を向いたままでそう答えた稲村くんはそっと顔を伏せた。

「それはそうだね。稲村くん、君はこのまま《シェーナ》に行きなさい」

「えっ?」

「後で社長が行くからこれを渡してくれる?」

俺はアタッシュケースに放り込んだ書類を全て、運転席にいる稲村くんに渡した。

「しかし」

「頼んだよ。後はここには戻らなくてもいいからね。直帰で」

「山下常務!」

「私の指示に従ってください。一応、常務ですから」

「・・・はい」

後ろから稲村くんの肩を叩き「運転には気を付けて」、と声を掛けた俺は車を降りた。

「山下さん!」

「こんばんは。こんな所までどうなさったんですか?」

「こんばんは!お待ちしていたんですよ」

蔵野は稲村くんには目をやらない。真っ直ぐに俺だけを見ている。俺が車から離れて《銀香》へと進むと、稲村くんは車を発進させた。

「稲村は降りないんですか?」

「ええ。別件で動いてもらっています。彼にご用でしたか?」

「ええ、まあ」

「呼び戻しましょうか?」

蔵野は車に目をやったが、すぐに視線をこちらへ戻す。その目には、特には残念がっている様子もない。

「彼とは久し振りだったんで、3人で食事でもどうかと思ったんですが」

蔵野の少々濃い顔が馴れ馴れしく近付いてくる。

「ああ、そうでしたか。彼には直帰して良いと言っておりましたが、用件が済み次第合流するように電話しましょう」

そういってポケットに手を突っ込むと、蔵野は「大丈夫です」と手を上げて制止した。

「山下さんが付き合ってくださるんでしたら、稲村はいなくても構いませんよ」

「後輩でしょう?良いんですか?」

「構いませんよ。どうせ彼とはこれから何度も会う事になるでしょうから。それよりもお近付きの印にどうですか?一杯」

蔵野はグラスを持った手を口元にやる仕草をした。肉感的な分厚い唇の口角が上がって、俺はそれに嫌悪感を感じた。

「そうですね・・・。いいでしょう。《銀香》で待っていてもらえますか?バッグを置いてきますから」

「わかりました!店は任せてもらえますか?」

「ええ。お願いします」

蔵野は微笑みながら、ポケットに手を突っ込み《銀香》に戻っていった。


 階段を駆け上がって役員室に入り、急いで秀人に電話をした。

『はい』

「悪い。信吾さんには本社で待つと言ったが、《シェーナ》に頼む」

『わかりました』

「稲村くんから説明を聞いてくれる?」

『君は来ないのか?』

秀人の声が小さくなった。近くには信吾さんがいるようだ。

「今から『滝山産業』の蔵野部長と飯を食うから」

『蔵野部長?』

「そう。今日、隼人に紹介されたんだ。飲食部門の総指揮を執っている人物だよ。知ってるか?」

『待て』

秀人は『滝山産業』の部課長クラスのデータを調べているようだ。秀人も「蔵野」の名前を聞くのは初めてのようだな。

『ああ、あった。最近、飲食部門の部長に抜擢されているが、元々は『K・Uカンパニー』の幹部社員じゃないか。どんな男だ?』

『蔵野美次』という人物のプロフィールを確認している秀人の声に、不信感が籠もっている。『K・Uカンパニー』の娘婿で、『滝山産業』が買収する上で大きく貢献したという「蔵野美次」に対する情報は多くはないようだ。

「なかなかのイケメンだよ。稲村くんとは大学の先輩後輩になるんだが、ちょっとね。稲村くんは《シェーナ》から直帰で頼む」

『わかった。何かあったら、すぐに連絡してくれるね?』

何だろう?秀人のアンテナに引っ掛かるものがあったのか、彼が見ている蔵野のプロフィールに何か気になる事が書かれているのか。

まあ、誰であろうと他の男と2人きりで食事すると言うと煩いんだが。

「はい、はい。悪いけど、俺の机の引き出しに入ってる黄色い封筒を持ち帰ってくれる?」

『わかった』

「それから蔵野の情報を出来るだけたくさん集めてくれ。隼人から聞いた内容と寿さんから聞いた内容はほぼ同じなんだ。詳しく頼む」

『任せろ。必ず連絡しろよ』

「はい、はい」 

『明利、「はい」は一回だ』

秀人の声が厳しくなる。

「はい、はい」

一方的に電話を切り、俺は大切な書類を机に放り込み鍵を掛けた。アタッシュケースは秀人の机の脇に置き、俺はネクタイを引きぬいた。


「お待たせしました」

《銀香》のドアを開けると、蔵野の身体の向こう側から服部くんが笑顔を見せた。服部くんはすでに閉店準備を始めていた。

「山下店長!お疲れさまです」

「お疲れさま、服部くん。今日はどうだった?」

「いつもと変わりません」

「そう」

振り返った蔵野の前にはコーヒーカップ。

「『S-five』にはイケメンしかいないと聞きましたが、本当なんですね」

蔵野は服部くんを指して言った。

「今時、時代錯誤だとお思いでしょう?」

そう言うと、蔵野は胸を張って聞いた。

「私はいかがですか?入社出来ますか?」

期待に満ちた瞳は、「勿論ですよ」という返答を待っている。

「私は人事担当ではございませんので。判断致しかねます」

思いどおりの返事が聞けなかった蔵野は不満げだったが、口元を緩めた。ムッとしたのがわかったが、俺は気が付かなかったフリをして「では、参りましょうか」と声を掛けた。

*****

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2018/04/30(月) 00:26 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Mさま~いらっしゃいませ♪

Mさまの白馬の王子さまですか?どこ~~???あれれ?そういえば日高の王子さまもいません(笑)

蔵野部長はなぜやって来たんでしょうねえ?ケンカをしにきたわけでもなさそうですしね~?

GWはボサーーーッとしていたいのですが、日高はこれからお掃除でーすwww←倉庫の掃除

頑張ってきますね!ノンビリお過ごしくださいませね!コメントありがとうございました!
2018/04/30(月) 06:54 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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