『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・9~『Love me do』番外編

 廉慈さんは僕が『ひいらぎ』でアルバイトしていた頃から、秀藤学院出身だと知っていたそうだ。

通学の為に商店街を通る秀藤の生徒もいるわけで、僕が「秀藤学院を卒業しているらしい」、という漠然とした「噂」として広まっていたそうだ。

ただ「秀藤を出て大学にも行かずに本屋でアルバイトしているのはどうしてだろう?」、という疑問は皆が抱いていたそうだ。

「秀藤出の秀才が大学にも行かずに潰れる寸前の『ひいらぎ書店』でアルバイトしているのはなぜか、商店街のみんなも不思議に思っていたんだよね」

そして、誰もがその理由を聞けずにいたのだそうだ。

「『ひいらぎ書店』で働き始めた頃の航くんってさ、誰も近付けさせないような"構わないでくださいオーラ"が出ていたからな」

そう、あの頃は地味な色の服を着て、俯いて歩くので精一杯だった。平木さんや敦子さんの努力があって、僕は居場所を見つけられたと感じていたのだ。

気軽に声を掛けてくれる商店街の人たちの目を避けるように、挨拶だけしてそそくさと通り過ぎる無愛想なアルバイトくん。それが僕だった。商店街の人々の気さくな雰囲気には、なかなか馴染めなかったのだ。

「ですよね・・・。僕は自分が秀藤に通いたくて受験したわけじゃないんです。秀藤に入って大学に行って、そこからのビジョンは全くなかったんです。小学生の時に、母が学校見学会に行こうと言うので秀藤に行って。『ここに通ってみたいでしょう?』と、母がしつこく聞くんです。『うん』と言わなくてはならない感じでした。父も母も秀藤以外は眼中になくて、僕は何となく『うん』と頷いたと思います。後は、ひたすら塾に通って勉強しました。勿論、塾も強引に連れて行かれて『ここに通って勉強したいと思わない?』と何度も聞かれましたね。人に聞かれると母は、『航が自分から通いたいと言うから』と言うんですよね。僕が自主的に中学受験して秀藤を目指した、みたいな・・・」

「それでも"あの"秀藤に合格するなんて素晴らしいじゃないか?俺も中高一貫だけど、秀藤学院ははるか彼方遠い世界だったぞ?航くんはご両親が好きだったから頑張ったんだね」

「好き」か・・・。確かにあの頃はそうだった。両親の敷いたレールの上を走らないと嫌われる、と思ったんだ。自分の存在意義が『秀藤』だったと思う。

「はい、多分。あの頃は好きだったと思いますよ。両親が僕に期待しているからそれに応えないといけない、そう思っていたんですよね。僕自身も両親の雰囲気に呑まれたというか、秀藤に入りさえすれば父母を満足させられる、そう思っていたんですよね。でも、そうじゃなかった」

合格出来さえすれば両親は満足して僕は開放される、そう思っていた。

「ふうん」

でも違ったんだよね。両親の思い描く「僕の将来」は、そこで終わりではなかったのだ。両親の思い描くエリートコースはどこまでも果てしなく続いていたのだ。

膨らみ続ける両親の期待を受け止めながらも、それを叶えてやれそうにない自分に失望した僕は考える事を止めた。

「合格したのはいいけど、やる気のない僕が熱心に勉強するわけがなくて・・・。だって秀藤に入学出来たら全ての夢が叶うんだ、みたいな事を言われてたんです。第一の目標をクリアしたから次の目標は東大だ、って言われて『よし、次』とは思えなかった」

苦しかった中学・高校時代を思い出しながら、僕は自分を遠い所から眺めながら話しをした。廉慈さんには関わりのない暗い話しなのに、廉慈さんは黙って聞いてくれる。こういう所も彼の良いところだ。

「ビクビクしながらテストを受けて、結果を見たくなくて。当然、親には結果を見せられないから毎日どうしよう、勉強しないと、と焦ってばかりでしたよ。でも、勉強はしてなかったな」

「そりゃ、航くんが悪いね」

「・・・」

そうなんだよね。電池が切れた玩具のように、僕は動かなかったのだ。電池は自分で入れ替えなければならなかったのだ。僕はそれに気が付けなかった。

「ごめん!気に触った?」

「いいえ!違うんです。そのとおりなんですよ」

廉慈さんは、ビールの残りをちびちび飲みながら話しを続けた。

「親はさ、我が子を完全に理解しているわけじゃないだろ?わかったような顔をしているだけだ。わかっていなくてもわかっているようなフリをしないと子どもに見透かされるからね」

「そうですね」

「それで?」

廉慈さんは僕の話しを最後まで聞こうとしてくれている。

「面談で成績表を見た母に、その場で怒鳴られました」

「怒鳴らなくてもいいのにね」

「まあ・・・。大学も父たちが希望するような所は受からないと言われて・・・。うちは特に裕福な家庭でもないから、受験の費用とか学費とか塾の月謝とか、お金が掛かってますからね」

廉慈さんは頷きながら「金は大問題だ」、と笑った。あっさりと言われて、つられて笑ってしまう。

「あははっ」

「塾とか予備校とかそういうの一切なしで東大に合格しちゃう人、いるだろ?どこがどう違うんだろうね?」

「さあ?本人のやる気ですか?やる気スイッチは僕にはなかったんですよね。浪人して、どこでもいいからと言われて大学に入ったけど続かなくて退学して・・・」

ああ、嫌だ。下ばかりを見て生きていたあの頃。暗い顔をしてこちらを見ている僕に叫びたい。「早く前を向け」と。

俯いた僕の頭に廉慈さんの指がポンポンと触れた。顔を上げると、廉慈さんがニコリと笑い掛ける。

「でもさ、今は航くんのやる気スイッチ、入ってるじゃないか?」

「えっ?」

「スイッチはいつ入るかわからないんだよ。人それぞれだから。それに見つからない人もいるだろう?航くんは今、スイッチ入ってるからさ。それでいいんじゃないの?」

「はい」

僕は今の自分に満足している。まあ「満足」というのは違うかもしれない。まだまだいろんな事に挑戦したいし、勉強したい。『ひいらぎ』では、僕も必要とされていると思えるから。

「それで?」

「えっ?」

「俺に家に帰るように説得したいんじゃなかったのか?」

「そうだった」

「あははっ。いつの間にか航くんの人生相談だったぞ?」

「ははっ・・・慣れない事をするからだ」

ポリポリと頭を掻くとそれを見た廉慈さんは笑っていた。いつも朗らかな人だけど、お酒が入ると余計に陽気になるようだ。

「ははっ。航くんはミステリアスだからな。ちょっとだけ秘密がわかって良かったよ」

「秘密、って・・・」

「ああ。秀藤学院を卒業して大学にも行かずにフリーターしてる美少年は、商店街でも有名だったからね」

「廉慈さんこそ、『商店街一の美少年』だったそうじゃないですか」

「あははっ。そうなんです!実は」

廉慈さんは胸を張った。

「商店街一の座は航くんにお譲りします!」

「また!」

「あははっ。そういう経緯で航くんは『ひいらぎ書店』の看板息子になったわけだ」

「まあ・・・」

「俺さ、小さな頃から店を継ぐのが当たり前だと思ってたんだよな。でもさ、家永さんの話しを聞いてるとこう、ムズムズしてさ」

追加した枝豆を食べながら、廉慈さんはポツリポツリと話しだす。

「ムズムズ?」

「そう。どうして俺だけがレールを外れられないんだろう?」

「・・・」

伯父さんの跡を継ぐという選択をしなかった家永さんが羨ましくなったのかな。

『蘭雅』という老舗を守るのが彼に与えられた運命で、それを変える事は出来なかった事が悔しいのか?

「弟が継がないと言うから余計にね。俺が一生懸命やってるのに、時々店に顔を出して客を紹介するだけで妹は『さすがだ』、『商売に向いてるんじゃないか』と言われて好い気になってるんだぜ。俺がお得意さんのお嬢さんを押し付けられようとしたり、大変な思いをしてるのに」

「大変ですね」

「着物、大嫌いだ」

着物はいわば『蘭雅』のユニフォームのようなものだ。社長も女将さんも、従業員さんも素敵に着物を着こなして店に出る。それが嫌なだけで、「大嫌い」なのは着物が自分を縛っているからだ。

「僕は廉慈さんは着物が好きだと思っていました」

「・・・好きかどうかわからないよ。着なければならないから着てるだけだ」

「そうか」

「家永さんが羨ましいよ」

「会社の事ですか?」

「ああ。相続したビルを売却して平木さんの所を買ったんだろう?好きな仕事をして、好きな人と暮らして、最高じゃないか?」

「・・・まあ」

それでも、全てのしがらみを断ち切った、というわけではない。家永さんも大きな犠牲を払って今を得たのだ。人の事を羨んでばかりではいけないのに・・・。

 廉慈さんは僕の手元のカシスオレンジが減っていないのを見て、「飲まないのか?」と聞いた。

「新しいの頼めよ」

「いえ。これでいいです」

氷で薄くなったカシスオレンジの残りを半分飲み、枝豆に手を伸ばすと同じように枝豆に手を伸ばした廉慈の手とぶつかった。

「あっ、すみません」

「こちらこそ。どうぞ」

「廉慈さん、お先にどうぞ」

「うわっ・・・『廉慈さん』だって!新鮮だな」

廉慈さんが嬉しそうに笑い、右手の親指をグッと立たせた。

「そうですか?」

自分が呼ばせているクセに。

「じゃあさ、今度はそのお堅い敬語を止めようか?」

「えーっ」

「可愛い!そういうところ、ホントにすれてないな」

「僕の事をどう思ってるのかわかりませんが」

「昨今では珍しい可愛らしい純情青年」

「純情は違うかと・・・」

「いやいや、君のような初心な人はなかなかいませんよ」

「そうですか?」

「守ってあげたい、って思っちゃう!」

「守って、か」

廉慈さんがふざけた顔をして自分の腕で自分の身体を抱き締める。

寂しいのかな?家出するほどの事があったわけでもないようだ。僕が首を傾げると「ここは笑えよ」と笑う廉慈さんを見て、彼の本音を覗いてみたくなった。

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