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『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・15

 蔵野美次という男は、思ったよりもおしゃべりだ。

落ち着いて飲みたい時に隣にいるのだけは勘弁して欲しいものだ。


「肉はお好きですか?」

「ええ」

蔵野の行きつけだという店は、有名なホテルの3階にある常陸牛の専門店だ。いかにも風格のある店のスタッフは、常連の蔵野を恭しく迎えた。

俺と稲村くんが食事をOKすると確信していたのか、案内された席には蔵野のお気に入りだというイタリアンワインが準備されていた。しかも準備されていた席は店の奥まった場所にあり、3階とはいえ見晴らしの良い良席だった。

隣のオフィスビルの1階エントランスの屋上部分がテラスになっていて、そこは緑が溢れていた。ライトアップされたテラスは洒落たカフェになっていて、白いパラソルが見える。

白いデッキチェアと白いパラソルが白い砂浜を連想させるテラスで栽培されている木々が作り出す影が幻影的で、その景色はまるで空中庭園のようだ。

「ここ3階ですが、景色が良いでしょう?」

「そうですね」

周囲をビルに囲まれてはいるが、街路樹の緑と開放感のある窓のおかげで趣のある景色が楽しめる。デートにはピッタリな席を準備していた蔵野は、ここがまるで自分の店であるかのように自慢した。

「なかなか良い店でしょう?」

「そうですね。ここは『K・Uカンパニー』が経営する店ですか?」

「違います。個人的に贔屓にしているんですよ。肉が美味いんです」

「そうですか」

蔵野はメニューを指差して俺に料理を勧めた。

「これ!お勧めなんですよ。ハラミをローストしてワインソースで食うんですが、美味いんですよ。是非、食べて頂きたいと思ってコースで予約してありますが、よろしいですか?」

「ええ。お願いします」


 同乗したタクシーの中から、蔵野のおしゃべりはずっと続いていた。『滝山産業』に入って間もない彼は、「余所者扱いされているんですよ」と顔を顰めて見せ、頭の固い重役たちへの不満をこぼした。

「同族会社ですから仕方がない事でしょうね」

「だが、同族会社だから、等と言ってるご時勢ではないでしょう?優秀な人材にはチャンスを与えるべきです」

「それはそうですね」

「仕事も出来ないクセに創業者一族だからというだけで、踏ん反り返っている重役がうようよいるんですよ?」

隼人の代になってからかなり改善されたとは聞いたが、蔵野のように外部からやって来た者から見れば「まだまだ」、という事だな。

「うちの社長もその中の一人ですから」

「とんでもない!信吾社長は違いますよ」

大袈裟に手を振って否定したが、今のは『滝山産業』の取締役として名を連ねてはいるが名ばかりの信吾さんを揶揄していると思われても仕方がない発言だった。

「彼、名ばかりの取締役ですからね。役立たずでしょう?」

自分のボスの事を厳しく言ってのけた俺に、蔵野は相好を崩した。

「山下さんはズバズバとおっしゃるんですね?」

「そうでもないですよ。一応、遠慮してます」

「あははっ。気が合いそうだ」

そうかな?

「『K・Uカンパニー』も同族会社ではなかったのですか?」

話しが『K・Uカンパニー』に飛んでも蔵野の口は軽快だ。

「私は婿養子なんですよ。肩身が狭くて」

蔵野は眉をひそめ、肩を竦めた。

「ご冗談でしょう。あなたが主導して買収の話しを進めたのではなかったんですか?」

彼は『K・Uカンパニー』には何の思い入れもないのだ。「経営状態を改善する為の英断」と言えば聞こえが良いが、彼からは会社に対する愛情は感じられない。『滝山産業』の潤沢な資金を手に入れ、『K・Uカンパニー』を大きくする為の足掛かりなのではないか、とうがった見かたをしてみたくもなる。

「実はそうなんです。その点を隼人社長は高く評価してくださって、今回破格の人事を決断して下さったんですよ」

「成程」

「謙遜」という言葉は、彼の辞書にはないようだ。買収に伴って解雇された社員もいたわけで、隼人の話によれば蔵野は嫌われ役を買って出たという。

「大変でしたよ。義父や重役連中は頭が堅くてね!『K・Uカンパニー』は元々義父が経営していた小さな弁当屋から始まってましてね。私が入社しました頃はすでに飲食店経営に手を伸ばしていました。中華に蕎麦屋、定食屋、居酒屋、と次々に店を出しては失敗してましてね。家内とは義父が、『是非に』と言いますので結婚したんです。傾きかけた『K・Uカンパニー』を建て直すのは容易ではありませんでしたよ」

結局、自慢話か。

「カフェ経営に切り替えて一時は持ち直したんですが、それ以前の負債が大きくて」

蔵野は鼻に皺を寄せてみせた。買収されるまでに経営状態が悪化したのは、自分の所為ではない、とでも言いたいのだろう。彼の言い分と三木くんの分析とは違うようだ。

「やり手でいらっしゃる」

「とんでもないですよ!私などまだまだですよ。ただ『滝山産業』に話しを持ち掛けたのは一か八かでしたが、バッチリとはまりましたね」

「へえ・・・買収の話しはあなたから持ち込まれたのですか?」

「ええ」

蔵野は胸を張った。

「では経営はあなたが主導でなさっておられたのですか?」

「いいえ。もちろん、義父ですよ」

「婿養子と謙遜なさるわりには大胆な事をなさったんですね」

「おかげで親戚中に嫌われてしまいましたよ。義父は経営状態がわかっておりましたから納得しておりますが、妻と義母には嫌われてしまいましたよ。家ではまるで毛虫のような扱いです」

「それは大変だ」

「あははっ」と笑った蔵野に合わせて俺も笑ったが、『滝山産業』でも毛虫扱いなのは間違いない。

「おかげであなたのような素敵な方と出会えましたから」

「口がお上手でいらっしゃる」

「褒め言葉と受け取っておきますよ」

「ははっ」

少々胡散臭いが、この口に義父は丸め込まれてしまったのだろうか。彼を娘婿に選び、自分の会社を身売りさせてしまった今も信頼しているのだろうか。

「ところで、『S-five』は自由な社風だと聞きましたよ」

「まあ・・・自由、と言えるのかはわかりませんが。他社に比べれば、という所でしょうか」

「羨ましいなあ!社員も若いし、山下さんのようなお綺麗な方もおられるし、《銀香》の服部くんも美形じゃないですか」

蔵野はローストビーフに手を伸ばし、豪快に口に放り込んだ。肉の脂でテラテラと光る分厚い唇。俺の目を見ながら、蔵野の舌が唇に残った脂を舐め取る。

「過分なお褒めの言葉をありがとうございます」

「堅いな」

「そうですか?」

「もっとリラックスしませんか?」

「すみません。面白味のない人間でして」

放っておけば蔵野は何でも話してしまいそうだ。

 現在、彼のチームが進めている高架下プロジェクトは鉄道会社との共同事業となっている。それには滝山家と鉄道会社を運営するグループ企業との長年築き上げられた信頼関係が礎になっているのは言うまでもない。

ヒョッコリと他所からやって来た彼の手柄ではない。戦後、鉄道を延伸する度に滝山家は土地を譲り渡してきたわけだ。今でも借地となっている土地もあるという。そういった手堅い歴史を築いてきたのは、彼の嫌う頭の固いジイサンたちなのだ。彼らなしでは進まない交渉もあるのだから、「頭が固い」「考えが古い」というだけで彼らを排除する事は出来ない。

「高架下を駐車場や駐輪場として利用している駅はまだまだありますからね。隼人社長には地方への進出も考えて頂きたいとお話ししているところです」

「そうですね」

「『S-five』にとってもビジネスチャンスでしょう?《サラダボックス・B》などは全国展開も夢ではありませんよ?」

確かにチャンスではあるが、蔵野に恩を着せられる程ではない。

元々『滝山産業』内で立ち上がっていたプロジェクトを、彼は引き継いだに過ぎないのだ。それをいかにも自分の手柄のように話し『S-five』に恩を着せようというのか。

「まあ・・・うちは資金調達が出来れば、としか申せませんね」

「大丈夫ですよ!私にお任せください」

『滝山産業』のメインバンクとも大きなパイプがあるのか、蔵野は胸を叩いた。自信に満ちた蔵野の様子を見ながら、学生の稲村くんが心を奪われたとしても不思議ではないと思った。

「ははっ。ところで、蔵野さん」

「はい?」

「どうすれば社長令嬢を射落とし、婿養子に収まる事が出来るのですか?」

「えっ?」

「私も見習いたいと思いましてね」

微笑んでみせると、蔵野は脂にまみれた唇を歪にした。

「それは簡単ですよ。一生懸命に仕事をすればいいんです。必ず認められますから」

「そうですか。是非、極意を伺いたかったのですが」

「極意などありませんよ」

「では一般論ですか?」

「ええ」

蔵野はワイングラスを上げた。蔵野の唇の脂がグラスを汚す。

*****

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コメント
No title
日高様~~~きゅうきゅううっっ

蔵野、どうも脂ギッシュでやな感じですねぇ。
なんか生理的に受け付けない感じ(`ε´)
何を企んでるのかわからないタイプですし。

これからひと波乱あるんでしょうか。
隼人はどうも頼りない感じだし、心配です。

ところで、連休は少しはゆっくり休めてますか?
お体ご自愛くださいね~
2018/05/04(金) 01:10 | URL | にゃあ #-[ 編集]
Re: にゃあさま~いらっしゃいませ♪
にゃあさま~きゅうきゅっきゅきゅぅ♪

> 蔵野、どうも脂ギッシュでやな感じですねぇ。
> なんか生理的に受け付けない感じ(`ε´)
> 何を企んでるのかわからないタイプですし。

ですね~わかり易く脂ギッシュです(笑)

> これからひと波乱あるんでしょうか。
> 隼人はどうも頼りない感じだし、心配です。

隼人くんは周囲をしっかりと固められているはずなんですがねえ。お年頃なんでしょうねwww

> ところで、連休は少しはゆっくり休めてますか?
> お体ご自愛くださいね~

連休は出勤もあり~の、午後休あり~の、で落ち着きませんのwww10日過ぎまでは忙しそうです。頑張ります。
にゃあさまもご自愛くださいませね♪コメントありがとうございました!
2018/05/04(金) 07:14 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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