『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

菜虫化蝶・10~『Love me do』番外編

 終電が到着する時間を見計らって、僕は家永さんにメッセージを送った。家永さんが改札で終電を待ち構えているかもしれない。

『ごめんね!終電には乗ってません。若と一緒です、心配しないで』

家永さんからは5秒も経たずに『なんだって!?』と返事が来たけれど、面倒なので僕は電源を切った。

「過保護な彼氏か?」

廉慈さんがニヤニヤしている。

「そうです」

「今、電源切っただろう?大丈夫か?」

「はい。ところで廉慈さん、体力残ってますか?」

「体力?」

「ええ。10階まで階段で上れますか?」

「・・・航くん。大人をからかうな。エレベーターだろ?エレベーター」

「階段です」

そう言い切った僕に、廉慈さんは信じられないといった表情をして見せてから僕を指した。

「・・・君は上れるの?」

「多分」

「多分、かよ?・・・じゃあ、付き合うよ」

「行きましょう」

廉慈さんはテーブルの上の伝票を手に取り立ち上がった。僕が「割り勘で」、と言うと「ふん」と鼻で笑う。

「バーカ」

廉慈さんはさっさとレジに行くと会計を済ませている。

「いいんですか?ご馳走になっても」

「ああ。年下に出させられっかよ」

「でも家出中でしょう?」

廉慈さんは自分が「家出中」だったのを急に思い出させられて、肩を竦めてみせた。

「あっ、忘れてた」

「大丈夫ですか?」

「冗談だよ。金だけは持って出たんだから」

廉慈さんはポケットの中にお釣りを捻じ込んだ。 

「そうですか。じゃあ、水は僕が買いますね」

「水?」

「はい」

僕は「ご馳走さまでした」と言って先に店を出ると、向かい側にあった自販機で水のペットボトルを買った。廉慈さんはガシャンと大きな音を立てて落ちてくるペットボトルを2本取り出した僕を、呆れた顔をして見てる。

「なあ、マジで10階まで階段で上るのか?」

「ええ。休憩しながら上りましょうよ。2人とも飲んでるし」

廉慈さんはエレベーターを諦めたのか、ハリウッド映画の俳優のように両手を上げて首を捻った。

「残念ながら非常階段なんで」

「はーい」

「こっちです」

後ろから付いてくる廉慈さんは、3杯ビールを飲んでいる。その前にもバーで飲んでいるはずだ。『第12家永ビルディング』の非常階段を上りきれるか心配だ。


 『第12家永ビルディング』の看板を見た廉慈さんは、まず上を見上げた。そしてビルの中に見えているエレベーターを指差した。僕が首を横に振って非常階段を指差すと、「マジか?」ともう一度聞いた。

「中にエレベーターがあるじゃないか?」

「あるけど」

「ダメなのか?」

「はい。ここは家永さんが住んでいたビルなんですよ。ビルの住人しかエレベーターを動かせないんです」

「非常階段しか使えないのか?」

「ええ。僕たちはここの住人ではないので非常階段だけです」

僕は非常階段の鍵を見せた。

「家永さんに借りてきました。屋上まで上りましょう」

「マジか」

廉慈さんは絶望的な表情でビルを見上げた。

「マジか」

「マジです」

「はあぁぁぁっ。プチ家出したバツゲームかよ?」

「あははっ。そうかもしれませんね。行きますよ」

僕は両膝に手を付いて脱力している廉慈さんを置いて、非常階段を上り始めた。


 久し振りに上る階段は思ったよりもきつかった。

カンカンカンと小気味良い靴音を響かせて金属製の階段を上りながら、僕は家永さんと出会う前の明るい茶髪だった自分を思い出している。

自分ではそんな気はなかったけれど、いつ飛び降りてもおかしくないような暗い顔でここを訪れていた僕。僕はここで時間を潰しながら、見えない未来を嘆いていたのだ。

廉慈さんをここに連れて来たからといって、彼に家に帰るように説得出来るとは思えなかったけれど、行き違ってしまった家族への感情を見つめ直すにはちょうど良いんじゃないかと思ったのだ。

深夜の屋上は、地上とは違うから。


 以前は休憩する事もなく屋上まで上っていたのに、4階辺りから思ったように足が上がらなくなった。僕はまだしもビールを3杯飲んでいる廉慈さんの体力の消耗は激しくて、5階の踊り場で座り込んだ。

「ちょっと、ストップ!」

「大丈夫ですか?」

「運動不足だな」

「僕もですよ」

「休憩」

「はい」

水のペットボトルを受け取った廉慈さんは、忌々しそうにキャップをねじ切った。

「航くん、先に行っててよ」

「僕も休憩しますよ」

「はあっ」

廉慈さんは階段に座ると、喉を反らしてグビグビと水を流し込んだ。口の端から漏れた水が喉に伝っても、冷たさは感じないようだ。

「はあっ・・・ビール!って言いたい気分」

「ここで飲んだら上まで上がれませんよ」

「ここで勘弁してよ」

「ダメ」

「どうして屋上?」

「何でだろ?」

「・・・勘弁してよ」

「ごめんなさい」

廉慈さんは額に浮かんだ汗を手で拭い、「あと半分か」と呟いた。

「ここまで上ったんだから、意地でも屋上まで行くぞ」

「頑張りましょう」

「おう」

廉慈さんは前髪をかき上げて、ペットボトルを頬にあてた。

「風、気持ちいいな」

隣のビルとの間は約2メートル。敷地いっぱいに建てられたビル同士の間にある非常階段は風が吹き抜ける。シンと冷えた真冬の風の冷たさに出口が見えない事への不安を怯えていた僕は、僅かな温もりに手を伸ばしたのだ。

「そうですね。上はもっと寒いと思いますよ」

「風がね」

「ええ」

「風邪引くかもな」

「《エクート》で温まってから帰りましょう」

「お一人でどうぞ」

廉慈さんは膝をポンと叩き、「行くぞ」と先に立って階段を上り始めた。

「俺、家出を止める気はないんで」

「そうか」

「来いよ」

「はい」

2人分のカンカンカンが響く。

酔客の騒ぐ声が聞こえる。どこかのキャバ嬢の楽しそうな声が聞こえる。

地上の光とざわめきと風を感じながら、僕たちは屋上を目指した。

*****

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2018/05/02(水) 23:15 | | #[ 編集]
Re: 鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪
鍵コメ・Aさま~いらっしゃいませ♪

Aさま、お忙しい中ご訪問ありがとうございます!!

《ピタゴラス》時代の航くんは、結構な不良少年(笑)ですよね!朝帰り常習犯www

家永も居場所はわかっているでしょうからね!ふふふっ家永にママが乗り移ったかな(笑)電源切られて今頃パニクってる模様ですwww

> 束縛彼氏、航君には私は良いと思います!

そうですね(笑)束縛されなくても航くんは真面目っ子なので心配はいらないような気がするんですが、家永的には「美し過ぎる書店員・航が心配すぎる~~~!」ヽ(≧Д≦)ノ こんな感じでしょうかね?

Aさまもご自愛くださいませね。暑かったり寒かったり、日高には対応ができませんですwwwコメントありがとうございました!
2018/05/03(木) 07:18 | URL | 日高千湖 #-[ 編集]
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