『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

青い朝・17~『待つ夜ながらの有明の月』番外編

 小鳥居佑に懐かれた、と聞いた黒川は目を丸くした。

うわっ・・・黒川がこんな顔をするのは珍しいな。滅多な事では驚いた表情など見せない黒川が、これ程驚くとは思っていなかった。

「お前、メチャ驚いてるな」

「あの小鳥居が懐く?」

「小鳥居なりに気を遣ってるんだと思うんだけど」

するとカンタが横から会話に加わる。

「《有明の月》で圭介さんが羊羹を食べたからって、わざわざ水羊羹を買って持って来たんですよ」

黒川は水羊羹の話しを聞き、再び無表情になった。そしてゆっくりとブランデーグラスを口元に運ぶ。カランと氷の音がして、琥珀色の液体が黒川の口に流れ込んだ。

黒川は喉を潤してからタバコを灰皿に置いた。ゆるりと煙が立ち上り換気扇に向かって伸びていく。

「《花宴》にいた時は、俺の好物を持って来る事はなかったな。あいつは特に媚びようとも思っちゃいませんからね。『懐いた』っていうのは俺は違うと思いますよ。小鳥居はそう簡単に懐きませんね」

「じゃ、何だよ?」

「圭介さんは懐かれたんじゃなくて、好かれてるんですよ。小鳥居に」

カンタが何でもない事のように言った。

「小鳥居が?」

「そうですよ」

カンタの言い方は断定的だ。確信を持って言っている。

「綺麗だ、と褒められたんでしょう?」

「ああ。確か、2回くらい」

「じゃあ、確定ですよ」

「俺もそう思う」

黒川は何度も頷きながら、カンタ説を否定しない。まあ、その手のオトコにはよく惚れられてしまうのは認める。《SUZAKU》の男性客の大半は、最初は俺を目当てに通っていたわけだ。その点は慣れっこなのだが、小鳥居が俺に好意を持っているとは到底思えなかった。

「マジか?まさか!」

「いえ、絶対にラブです」

「お前ら、俺をからかってんな?」

「そう思いたければ、どうぞ」

黒川は楽しそうにグラスを空けカンタに「おかわり」と、空のグラスを見せた。黒川のタバコから上る煙は人の動きや呼気によってルートを変える。でも最後は換気扇に吸い寄せられるんだけどね。


「聞きたい事はそれだけですか?」

「まあ・・・そうなんだけど。小鳥居は最初から《花宴》だったじゃないか。お前が《イゾルデ》にいる時は新人は必ず研修と称して《イゾルデ》勤務だったよな。すると、自然とどんなヤツだか俺の耳にも入って来てたんだよ。お前がいなくなってそれが全くなかっただろ?『S-five』に入って一年経つのに情報なし、って今までなかったんだよな」

《イゾルデ》、《トリスタン》や《325》の新人は必ず、店長が《SUZAKU》に連れて来て紹介してくれる。《花宴》、《シェーナ》も例外ではなく、歓迎会の二次会で《SUZAKU》に寄ってくれるのだ。

「小鳥居の場合、誘っても乗ってこなかったんですよね。花火も『来い』と声は掛けるんですが、来ませんしね。新年会は申し訳程度に顔を出しましたが、乾杯の後には消えましたから」

「飲めないわけではないんですよね。ここで飲んでましたし」

「1人でここに来たんですか?」

「水羊羹だよ。お前、なにを聞いてんだよ?」

「仕事終わりにわざわざ水羊羹を買ってここへ持って来たんですか?そりゃ、ラブだな」

「ラブですね」

カンタと黒川は顔を見合わせて吹き出した。

「あははっ」

「あははっ、そりゃいいや」

いや、良くないって。

「人見知りだって言ったな?」

「ええ。《花宴》でも、無愛想だからスタッフは誰も話し掛けないんですよ。ですが、黙々と仕事はしますからね。捗ります」

「そりゃ捗るな」

「輝也みたいにいちいち驚いてわーわー言って余計な事に気を遣るより、小鳥居の方が使い勝手は良いですよ」

「何をしれ~っとテルをディスってんだよ、お前」

「あっ、バレました?」

「バレバレだろうが!」

「本当の事ですから」

「・・・全く」

黒川は2杯目のブランデーを口元に運び、ニヤニヤしながらグラスを置いた。

「小鳥居は仕事は出来ます。《有明の月》のスタッフも、小鳥居の無愛想にはそのうち慣れるでしょうから。心配はいりませんよ」

「一応、フォローしてくれるような部下を持て、とはアドバイスしたが」

「へえ~!店長にしてはまともなアドバイス」

「カンタ、今のはないだろ?俺、これでも専務さんだよ?」

「何も専務」

「黒川」

「はい」

「それ、小鳥居からも言われた。言うな」

「あははっ」

黒川とカンタは、カウンターにいる客が驚くほど笑った。「どうした?」と聞かれても2人は目を合わせて笑うだけ。

「変人同士は思考回路が同じだな」

「あははっ。まっ、そういう事にしておきますよ」

黒川は小鳥居の周辺の事は何も知らなかった。黒川は単に「人見知り」と断じたし、小鳥居自身も「客への笑顔は仕事だから出来る」と言っていた。

わざわざ小鳥居の個人ファイルを見るまでもない。俺は無事に引継ぎも終え《有明の月》から手を引いたわけだ。今後、小鳥居と関るとしたら、店長会議か『S-five』の年中行事だけ。「よう、元気にしてる?」と軽く言ってやればいいわけだ。

黒川に「個人的な付き合いがあるわけじゃなし、気にしなけりゃいいんですよ」と言われて、俺も開き直った。そのとおりだ。店長会議で「お疲れさま」の一言を交わすだけで小鳥居問題は終わる。

「だよな!黒川、土産に水羊羹を持っていけ」

「いりませんよ。俺、甘い物は食いませんから」

「翔太にだよ」

「荷物になるから結構です」

面白がったベニちゃんが、「いらない」と言う黒川のポケットに無理矢理水羊羹を捻じ込んだ。

 
 輝也は《SUZAKU》には顔を出さなかった。

玄関の照明は点いたままだが、鍵を開けドアを開けても輝也は顔を出さない。小声で「ただいま」を言うが、明るいリビングから輝也が現れる事はなかった。

ソファーで寝ているのかと思いそっとリビングのドアを開けたが、輝也の姿はない。

「ただいま」

ベッドルームを覗くと輝也は、風呂から上がってそのままベッドに倒れ込んで寝てしまっていた。グレーのスウェットの上下を着て、髪を乾かそうと思ったのか頭にはタオル。輝也はそのタオルを掴んだまま寝ている。

静かな寝息。大人の仲間入りを果たし「店長」と呼ばれる立場になったとは言え、その寝顔には幼さも残る。

「テル」

「・・・」

呼びかけたが返事はない。起こさないように近付き毛布を掛けてやるが、輝也はビクともしなかった。泥のように眠る、っていうのはこんな感じだな。

「髪、爆発しても知らないからな」

輝也が握ったタオルをそっと引っ張り外すが、僅かな動きに気付く事もなく輝也は息をしていないのではないのだろうか、と心配になるくらい熟睡していた。

「おやすみ」

髪にキスをして、俺はそっとドアを閉めた。ドアの向こうで眠る輝也の存在が、今の俺を作っている。

*****

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