『夢見月夜曲』は日高千湖のオリジナルBL小説ブログです。

恋とは戦さのようなもの・16

 蔵野は『K・Uカンパニー』の社長だった義父に気に入られ婿養子となったわけだが、『滝山産業』による買収を主導し親族からは嫌われているらしい。

妻や義母からは「毛虫のような扱い」をされていると言うが、それは彼にとっては痛くも痒くもないようだ。

 濃い目だが顔貌は整っていて、長身の蔵野。懐具合も悪くはなく、妻帯者とわかっていても声を掛けてくる女性は多そうだ。自慢話が続き俺は辟易していたが、蔵野はそれには気付かずに話しを続けた。

「適当」と思われない程度に笑顔で相槌を打ち、蔵野を持ち上げてやると口はますます軽くなる。

「《サラダボックス・B》は山下さんの管轄ですか?」

「ええ。『滝山産業』に出店させて頂く店は私の管轄となります。将来的には黒川と申す者が責任者となります」

「黒川さん?」

「今は《花宴》の店長をしております」

「《花宴》か。行ってみたいと思っていましたよ。確か、有川健次郎画伯の作品が飾られていると伺いましたが」

ふと疑問に思った。蔵野は本当に"知らない"のだろうか。

「お好きですか?」

「ええ。有川画伯の美人画には品もあるし、何と言っても色気がある」

「《花宴》には滝山家所蔵の作品を季節ごとに入れ替えて展示しておりますから、是非ご来店ください」

「私は王朝シリーズが特に好きでしてね。楽しみだな。必ず伺います」

有川健次郎の美人画は特に評価が高く、王朝シリーズは人気があり教科書にも載っている。かつて滝山家所有が所蔵していた有川画伯の作品は、今では全て怜二くんの所有となっている。

そして《花宴》に展示される絵を選ぶのは、今でも怜二くんの役目だ。彼のコレクションの中に王朝シリーズが多数ある、と隼人に聞いたのだろうか。もしかして蔵野はすでにリサーチ済みだったのではないか。

「有川先生の絵がお好きとは、意外と好みが渋いですね」

「そうですか?」

「ええ、意外でした。近代美術の方がお好みかと思いました」

「まあ、あまり詳しくはありませんが・・・」

蔵野は言葉を濁した。俺に話しを合わせる為に有川先生の絵の話しを持ち出しただけか?

「是非、ご連絡ください。席を準備させますから」

「ありがとうございます。必ず伺いますから。それはそうと信吾社長のパートナーの怜二さんとおっしゃる方は有川画伯のお孫さんだとお聞きしましたが」

「ええ。そのとおりです。今は滝山家の養子となっておられます」

「隼人社長のお部屋で家族写真を見せて頂いたが、大変お綺麗な方ですね」

「ええ」

「あなたとはまた雰囲気が違うが、何と言うか浮世離れした美しさですね」

「見慣れた我々でも、久し振りに会うとハッとしますね。直接お会いになったら、度肝を抜かれますよ」

「ほう・・・」

怜二くんに興味があるのかないのか、蔵野はグラスを空にした。

 蔵野美次と再会した稲村くんの動揺は激しかった。彼らの間に何があったのか気はなるが、蔵野から聞き出すのは気が引けた。稲村くんも詳しい事は話してくれなかったのだから、俺が詮索するのは良くない。

「『K・Uカンパニー』の現社長は、滝山家の方でしたよね?」

「ええ。ありがたい事に私と義父は、取締役として留任させて頂いてます」

「新社長との間に摩擦はないのですか?滝山側からも何人か出向してきているはずですよね?あなたのお嫌いな頭の固い方々が」

そう言うと、蔵野はニヤリとした。よくぞ聞いてくださった、って感じ。

「そこを上手く取り持つのが私の役目ですよ」

蔵野は自慢げに胸を張った。隼人に気に入られ『滝山産業』の役職も手に入れた以上は、『K・Uカンパニー』内での彼の立ち位置は格段に上がったに違いない。だが、義父とのパワーバランスは崩れてしまっているだろう。

新社長は滝山家の人間だ。経営陣に『K・Uカンパニー』側の人間が何人残っているのかはわからないが、そう多くはないはずだ。彼らと新社長の橋渡しのとしての役目を担い、蔵野の存在感は格段に増しているのだろうが、どちらからも煙たがられている可能性もあるな。

「なかなか大変な立ち位置でいらっしゃる」

「はははっ。『K・Uカンパニー』にはパートやアルバイト合わせて80人近い従業員がいましてね。これまで共に苦労してきた彼らを切り捨てなければならなかったのが辛かったですね」

蔵野は首を横に振り、心痛な表情を浮かべてみせた。

「そうでしょうね。お気持ちはわかります」

このまま隼人に取り入って、失敗さえしなければいずれは『K・Uカンパニー』の社長の座も夢ではない、か。

「愚痴を聞いてくれる人もいませんし」

どちらからも毛嫌いされているだろうからな。

「奥さまがいらっしゃるじゃありませんか」

「妻からは毛虫のように嫌われています、と先程も申しましたでしょう。家庭内別居ですよ」

蔵野はオーバーに両手を広げて首を振った。

「離婚寸前ですよ」

「まさか。蔵野家の方が経営陣に残れたのはあなたのお力でしょう?」

自尊心を擽りながら、俺を食事に誘った意味を考えた。

蔵野の本音は、「社長の婿」という窮屈な存在から開放されたかった、という所だろうか。彼の言うように、すでに離婚へのカウントダウンが始まっているのかもしれない。

蔵野が『滝山産業』に潜り込んでしまった今となっては、義父と妻にとって離婚は『K・Uカンパニー』との別離を意味する。一代で築き上げた会社を丸ごと婿養子に持っていかれるのは本意ではないはずだ。そうなると離婚はないな。

「いえいえ!買い被っておられる」

「隼人社長もあなたがおられたから話しがスムーズに進んだとおっしゃっておられましたし。『滝山産業』としても優秀な人材を得て、羨ましい限りですよ」

満更でもない顔で微笑む蔵野は、ねっとりとした視線を俺に向けた。

「ところで、あなたには恋人がいらっしゃると、隼人社長にお聞きしましたが」

「ええ。おりますよ」

ギャンギャン吠える番犬みたいなのがね。

「秘書室長の綱本さんの息子さんだそうですね」

「ええ」

「羨ましいな」

「私こそ、あなたが羨ましいですよ。奥さまがいて、社会的に認められる地位を得て、順風満帆ではありませんか」

「家では小さくなってます」

「そんなに大きな身体で?」

「ええ。子犬みたいにね。飼っている犬よりも、私の立場は下ですよ」

「あははっ。世のお父さん方と同じような事をおっしゃる」

サラリーマン川柳にでもあるような台詞で卑下して見せたが、彼からはそういう生活感は感じられない。家庭内別居ではなく、完全に別居状態なのかもしれないな。別宅を持つくらいの事は朝飯前だ。

「毛虫ですよ、毛虫。帰っても飯はない」

「それで美味しい店をご存知なんですか?」

「ええ。ところで稲村は、大学卒業後すぐに『S-five』さんでお世話になっているのですか?」

「彼は中途採用です」

「彼、真面目でしょう?」

「ええ。助かってますよ。彼には私以外に2人の専務の面倒も見てもらっていますが、実に優秀です」

「そうか。大学時代は大人しくて目立たなかったんですが。その頃から綺麗な顔立ちをしていましたよ。まさか『S-five』で採用されているとは思わなかったな」

「サークルの後輩ですか?」

「いいえ。彼の友人が私の友人の後輩だったんですよ。飲み会で知り合いましてね」

蔵野の表情、口調からは稲村くんへの気持ちは推し量れない。だが、稲村くんが蔵野に抱いているそれとは全く違うような気がする。

「そうですか。稲村くんがうちに来てくれて、本当に助かってるんですよ」

「まあ、真面目なだけが取り得のような男でしたがね。重宝されているんですね。私も先輩として安心しましたよ」

蔵野はデザートに出されたグレープフルーツのシャーベットを口に入れて、「ああ、サッパリした」と口元を拭った。


「この後、上で飲みなおしませんか?」

店を出た瞬間、蔵野は俺の腕を掴んだ。

「明日は朝が早いものですから」

「一杯だけ!」

眉を下げて「付き合ってくださいよ」と懇願に近い。掴んだ腕は放そうとしない。邪険に振り払うわけにもいかず、俺はやんわりと蔵野の手に触れた。

「申し訳ありません。実は迎えが来ておりまして」

20分くらい前に、秀人からホテルの駐車場にいるとメッセージが届いていた。

「綱本さんですか?」

「ええ。近くで社長を降ろしたようで、先程から駐車場で待っておりまして」

認めると、蔵野はキュッと眉を上げて手を放した。

「残念です」

「またの機会に」

「仕方がない。私は飲み足りないから上に行きます」

「では、ここで」

「付き合ってくださってありがとうございます」

「おやすみなさい」

蔵野は軽く手を上げてエレベーターに消えた。


「ごめん、待たせたね」

「いや」

「何かわかった?」

「父にも尋ねたが、蔵野の事はよくわからないそうだ」

「俺も直接伺いたかったんだけど、稲村くんのいる前では聞き難くてね」

「父ではないが、大学時代の友人からの情報が一つある」

「なんだ?」

「彼の女癖の悪さは有名だってさ」

「それ、女だけか?」

「わかるかい?」

「だから心配で迎えに来たんだろう?」

「そのとおりだ」

シフトレバーを握っていた秀人の手が俺の太腿に伸びてきた。

*****

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